心理面接の道具箱(8)優しい空気を生むゲーム――『カルカソンヌ』|大島崇徳

大島崇徳(神戸松蔭こころのケア・センター)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

カルカソンヌはフランス南部の城塞都市である。古くから交通の要地であり,都市の周りには要塞が築かれた。『カルカソンヌ』(Hans im Glück 邦訳版:メビウスゲームズ)というボードゲームは,この歴史深い都市がテーマとなっている。ボードゲームは実際の土地やそこであった歴史をテーマとして作られたものが多い。見知らぬ土地にふれ,歴史を追体験できる。ボードゲームの魅力の1つである。

1.『カルカソンヌ』というボードゲーム

『カルカソンヌ』にはあらかじめ用意されたボードはなく,タイルを配置していくことでボードが作られていく。プレイヤーは裏向きのタイルをめくって地図が繋がるように自由に配置し,所持している人型の駒(配下)を1つ置くことができる。タイルには未完成の「道」「修道院」「城」が描かれており,配下を置くことでそれらの支配権を得ることができる。支配権が決まった道や建物に配下を置くことはできないが,既に配下が置かれた2つの「道」や「城」が偶然つながった場合に限り,両者が支配権を得る。道や城の絵が繋がって建築物が完成すると,道の長さや城の大きさによって得点がもらえ,配下が手元に帰ってくる(再利用できる)。複数人で支配すると得点が下がることもあるが,より大きな建物になる上,完成が早くなるため,相乗り建築のような協力関係が生まれる。全てのタイルが引かれ,カルカソンヌの地図が完成したときに最も高い得点を獲得していたプレイヤーが勝ちとなる。

2.気づけば協力 不思議なゲーム

筆者は『カルカソンヌ』をボードゲームを使ったグループ活動に取り入れていた。ボードゲームは,対面でのコミュニケーションが特徴の1つであるが,それゆえにトラブルが生じることも少なくない。よく問題になるのが他人のプレイへの口出しである。たとえ勝つために有利な助言であっても,人から教えられると面白くなくなるし,考えが否定されたようで気分はよくない。わかってはいても,長考しがちな人につい口出ししてしまう人がいて空気が悪くなることがある。そこをどう体験するかにも意味があるのかもしれないが,メンバー同士の関係がある程度できてからでないとグループ活動やボードゲームから距離をとってしまうということもよくある話である。

そのような事情からグループ活動で使用するボードゲームの選別は慎重に行っていたが,『カルカソンヌ』は安全に遊べるボードゲームとして重宝した。他人の手番についつい参加してしまうゲームなのだが,口出しされても不思議と嫌な気分になりにくいのである。プレイしてるうちにいつの間にか手番プレイヤーの引いたタイルがどこに置けて,どうしたら得点が伸びるかをみんなで考えていて,まるで協力ゲームのようになったりする。当然,良い手をうたれると損をするプレイヤーはじっと黙っているが,他のプレイヤーの助言に,「言うなよー」と盛り上がることも多い。メンバー次第ではあるが,プレイしていて険悪な空気になりにくい不思議なゲームなのである。

3.偶然が生む優しさ

なぜ『カルカソンヌ』は不思議と和やかに遊ばれるのだろうか。その理由の1つに運の要素が大きいことが考えられる。運の要素がないゲームでは,そもそも最善手を自分で見つけることが楽しみであることが多いうえに,口出しをされると失敗を指摘されたようで気分が悪い。一方で『カルカソンヌ』は,タイルを引くという運の要素がうまく機能していて,得点が伸びなくてもすべてが自分の実力とはならず,いくらか気楽に遊べるのである。引かれたタイルにみんなが注目し,どこに配置できるかで一喜一憂する。運命を楽しむ空気が生まれ,参入は自然と受け入れられる。そんな場を『カルカソンヌ』は作ってくれる。

予期せぬ偶然がやわらかく場を動かしてゆく心地よさは,臨床に携わる私たちにとってもどこか馴染み深いものではないだろうか。押し寄せる予測と再現性の波に疲れてしまった時,ぜひ『カルカソンヌ』を手に取っていただきたい。

※「カルカソンヌ」は2人でプレイするとかなりのガチゲーに様変わりするのでご注意ください。
バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭女子学院大学・神戸松蔭こころのケア・センター
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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