心理面接の道具箱(11)みんなで協力するボードゲームと落とし穴――『パンデミック』|大島崇徳

大島崇徳(神戸松蔭こころのケア・センター)
シンリンラボ 第11号(2024年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.11 (2024, Feb.)

ボードゲームは,プレイヤー同士が競い合って勝敗を決めるものだけではなく,プレイヤー全員が協力して勝利を目指すものも存在する。自動で動く悪者に全員で立ち向かったり,イベントによって次々と押し寄せる困難に協力して対処する。今回はそんな「協力ゲーム」についてお話ししようと思う。

1.感染症から世界を救うボードゲーム

『パンデミックー新たなる試練』(Z-Man Games 邦訳版:ホビージャパン)というボードゲームがある。感染症の拡大から世界を救うという今や馴染み深くなってしまった出来事をテーマとしたゲームである。『パンデミック』の世界では,同時発生した4種類の感染症に対策チームのスペシャリストたちが立ち向かう。

ボードには世界地図が描かれていて,世界の主要な都市がマス目となり,航路を表す線で網目状につながれている。世界を蝕む病原体は,赤・青・黄・黒に色分けされたキューブで表され,これらはゲームの進行に伴い,さまざまな都市に発生する。同じ都市に病原体が4つ置かれると集団感染(アウトブレイク)を起こし,隣の都市に病原体がばらまかれる。その結果,病原体が溢れた都市は集団感染を起こしてさらに病原体をばらまき・・・と連鎖が止まらず収集がつかなくなる。集団感染は発生のたびに記録され,7回を数えると敗北となる。

プレイヤーは感染症対策のスペシャリストになり,世界中を飛び回りながら病原体を減らしつつ,すべての感染症の治療薬をつくることができれば勝利となる。スペシャリストは,病原体駆除が得意な「衛生兵」,治療薬の開発に秀でた「科学者」,病原体の発生を防ぐ「検疫官」など,役職に応じたさまざまな能力を持っており,プレイヤーは1人1つの役職を担当する。アクションには手持ちのカードを使用するなどの制限があり,パズルを解くような計画性が求められる。一手間違えると途端に窮地に陥るような緊迫感があり,パニック映画の登場人物になったような体験ができるボードゲームである。

2.協力ゲームの魅力

協力ゲームは勝利も敗北も1人のものではなく,全員で分かち合えるのが魅力の1つである。ほとんどの協力ゲームではさまざまな困難が次々と押し寄せてきて,問題山積の状態が続くのだが,問題についてみんなで考え,一緒に乗り越えたときの達成感は他のタイプのゲームでは味わうことができない。たとえ敗北したとしても,「やられた~」とため息をつくのもまた楽しく,努力を称え合い「次はうまくやろう」と同じメンバーでの再戦を約束することも少なくない。

また,多くの協力ゲームは,プレイヤーごとに固有の役職や能力が割振られ,自分ができること,やるべきことがわかりやすくなるようなルールが設けられている。おのおのが自分の役割を得て,自分にしかできないことを遂行して勝利に貢献する。力を発揮し,自他に認められるという価値ある体験を得やすくなっていることも協力ゲームの魅力の1つである。

3.協力ゲームの落とし穴

このような魅力があるものの,協力ゲームを心理臨床の道具として用いる際には注意が必要である。プレイヤー同士が相談できるというのが協力ゲームの特徴であるが,相談できるということは他者の行動に口出しができるということでもある。プレイヤーの中にゲームに慣れていて,勝利へのこだわりが強く,発言に積極的過ぎる巧者が1人いると,そのプレイヤーが全員の行動を決めてしまい,他のプレイヤーはほとんど見ているだけという状況が起こりうる。

この問題は「奉行問題」と呼ばれ,古くから話題とされ,対策が考えられてきた。例えば,プレイヤーの中に正体を隠した裏切り者を潜ませたり,共通の勝利条件の他に秘密の個人目標を課すなど,秘匿情報をつくることで他者の行動に口を出しにくくするといった対策である(『パンデミック』では,自分のカードを見せてはいけないというルールで共有できる情報を限定している)。しかし,このようなルールによる対策では「奉行問題」を確実に防ぐことはできない。結局はプレイヤー同士がお互いを信頼し尊重することが必要で,このような,まさに協力的態度が勝敗だけではない「ゲームの成功」を決定づけるのである。

人が人を尊重し協力することは思いのほか難しいのだろう。介入や説得が時に相手の尊厳を奪い,傷を与えるということは案外と忘れられがちなのかもしれない。だからこそ他者の思いに耳を傾け,尊重しようとする私たちの仕事が求められるのだと思う。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭女子学院大学・神戸松蔭こころのケア・センター
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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