心理面接の道具箱(5)2人用ボードゲーム――『ガイスター』|大島崇徳

大島崇徳(神戸松蔭こころのケア・センター)
シンリンラボ 第5号(2023年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.5 (2023, Aug.)

今回は『ガイスター』という2人用のボードゲームについてお話ししたい。普段1対1で会うことが多い臨床現場では2人用ゲームが重宝する。『ガイスター』は,短い時間でプレイでき,ルールも簡単で,2人用ボードゲームの定番として長く遊ばれているゲームである。

1.オバケとオバケの化かし合い――『ガイスター』

『ガイスター』とはドイツ語で「幽霊」を意味する言葉である。プレイヤーは「良いオバケ」と「悪いオバケ」を操って,将棋のように相手のオバケを取ったり取られたりしながら,勝利を目指す。使用する駒はシーツを被ったようなオバケを模したもので,背中に青い印か赤い印が付けられている。青い印が「良いオバケ」,赤い印が「悪いオバケ」を表しているのだが,印は相手から見えない背中に就いているため,オバケの正体は自分にしかわからないようになっている。

プレイヤーはそれぞれ「良いオバケ」を4体,「悪いオバケ」を4体持っていて,5×5のマス目になったゲーム盤の決められた位置(自陣の8マス)に好きなように配置してゲームがスタートする。将棋のように一手ずつ交代でオバケを縦か横に動かし,動いた先に相手のオバケがいれば取る。「悪いオバケ」は取ってはいけないオバケで,これを4体取ってしまうと負け。反対に「良いオバケ」を4体取れば勝ちである。また,ゲーム盤の4つの角マスにはゲーム盤の外に続く出口が作られていて,相手の陣の角にある出口から「良いオバケ」を1体でも脱出させれば勝ちとなる。つまり,相手に「悪いオバケ」を全て取らせるか,相手の「良いオバケ」を全て取るか,自分の「良いオバケ」を相手の陣地の出口から脱出させるかすれば勝ちである。将棋のように難しい戦術は必要なく,プレイ時間も10分ほどで,気楽に楽しめる遊びやすいゲームである。

2.取る取られるという関わり

『ガイスター』は戦略的な駆け引きも楽しめるが,全てを論理的に推理することは不可能で,どちらかというと相手のハッタリを見抜くといった心理戦がメインになる。出口に向かって突き進んでくるオバケを取ってみたら「悪いオバケ」だったり,取ってくださいとばかりに無防備に近づいてくるオバケが「良いオバケ」だったりする。取る取られたのたびに小さなドラマが生まれ,「やった!」「やられた!」と盛り上がる。不思議と「騙された……」という嫌な気持ちになりにくいのは,つるっとしたフォルムの可愛いオバケが,いい感じに場を和ませてくれているからだろうか。駆け引きに遊びの色が濃く加わると,相手を出し抜き勝つことよりも,やり取りそのものが楽しくなったりする。やり取りの中では,相手の意思に思いを馳せ,自分の意思に思いを馳せられる。そこに関わりが生まれ,お互いがお互いと出会う。相手が確かにそこにいることを知り,自分が確かにそこにいることを知る。それは心理臨床で行われていることに近いのかもしれない,とも思う。

3.『ガイスタ―』の思い出

かつて会っていた男児を思い出した。彼は言葉少なく,なんとなく遠慮がちで距離が遠く,繋がりが感じにくかった。私にとって彼はオバケのように姿が見えず,彼からも私の姿が見えているのかがわからなかった。そんなとき,面接室に置いていた『ガイスター』を手に取った。彼は思っていたよりも遠慮なく私に対してブラフをかけ,いたずらっぽく笑った。こんな顔ができるのだと思った。ゲームの中で私たちは姿を現し,お互いを確認し,共にいることができた。それをきっかけに彼が饒舌になる,などというわかりやすい展開にはならなかったが,一緒にゲームをしているその瞬間が何より意味深く重要なものであることは確かに感じられた。

趣味や遊び,好きなもの,私たちが「窓」として意味づけ,大切にしてきたものには,関わりを作るきっかけだけでなく,それ自体に意味があると感じている。自由な遊びと偶発性,そこに相手がいれば,言葉はいらず,自然な関わりが生まれる。その中でこそ人は姿を現せるのだろう。ボードゲームは時にそう感じさせてくれる「道具」である。

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大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭女子学院大学・神戸松蔭こころのケア・センター
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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