心理面接の道具箱(14)みんなで物語を創る。ストーリーテリングというゲームーー『ワンス・アポン・ア・タイム』|大島崇徳

大島崇徳(神戸松蔭こころのケア・センター)
シンリンラボ 第14号(2024年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.14 (2024, May)

今回は,ストーリーテリングと呼ばれる少し変わったジャンルのゲームをご紹介したい。物語の語り部となり物語を紡いでいくゲームである。『ワンス・アポン・ア・タイム』は,その名の通り「むかしむかしあるところに……」で始まり,「めでたしめでたし」で終わる1つの妖精物語(おとぎ話)を創るゲームである。関わりの中で物語を創造する。いかにも心理臨床の匂いがするテーマである。

1.全員が語り部?

『ワンス・アポン・ア・タイム』(Atlas Games 邦訳版:ホビーベース イエローサブマリン)は,全員で1つの物語を作るカードゲームである。「全員で」といっても協力ゲームではなく,勝敗を競うタイプのゲームで,勝利するための条件がある。ゲームの目的は,物語を作りながら手元のカードを場に出していき,あらかじめ1枚ずつ配られた物語の結末が書かれた「結末カード」を最後に出すことである。物語を終わらせてゲームの勝敗が決まると同時に,1つの物語が完成する。勝敗だけではなく,できた物語を振り返り,各々が語り部としての活躍を称え合うのもまた楽しい。

2.『ワンス・アポン・ア・タイム』のルール

まず初めにプレイヤーには「結末カード」1枚と,様々な言葉(物語にちなんだ人物や道具,建物,出来事など)が書かれた「物語カード」数枚が配られる。ランダムに決めた語り部から物語が語られ始めるが,このゲームに手番はなく,決められたタイミングで物語に割り込むことで自らが語り部となり,物語を引き継いでいく。

語り部となったプレイヤーは,「物語カード」に書かれた言葉を物語の重要な要素として登場させた場合に,そのカードを自分の前に出すことができる。この「物語カード」を全て手札から出しきることが「結末カード」を出す(勝利する)ための条件になるため,できるだけ語り部となり,自分の持つカードに書かれた言葉が登場するように物語を進めていく必要がある。

しかし前述のように語り部は途中で交代するため,1人のプレイヤーが望むとおりに物語が進むことはまずない。「物語カード」には,「じんぶつ」「ばしょ」などの「わりこみ」マークが書かれているものがあり,語り部が物語カードを出したタイミングで,プレイヤーは,同じジャンルの「わりこみ」カードを出すことで語り部になることができる。また,語り部が語った言葉と一致する言葉が書かれたカードを持っているプレイヤーは,そのカードを出すことでも語り部になることができる。語り部が語ることに詰まり,物語を進められなくなったと判断された場合も語り部は交代する。こうして途中で物語は別の語り部によって引き継がれ,思わぬ展開を経て結末に至るのである。

3.関わりが創る物語

『ワンス・アポン・ア・タイム』では,語り手の交代によって全員が物語に関わり,交わるところで物語が創られていく。語り手は聞き手であり,聞き手は語り手である。語り手の語る物語に聞き手は主体的に関わり,次第に語り手と聞き手の区別は曖昧になっていく。主客が入り混じって一緒に進んでいく感じはなんとなく臨床の場で時折感じる感覚に似ているような気もする。何かが生まれる時,それはクライエント1人の仕事ではなく,セラピストが少なからず関与しているというのはもはや多くの人が感じていることだろう。関与の程度や質については様々な考え方があるのだろうが,場が創造的になる時,お互いの心が動き,交じり合い,クライエントとセラピストの区別はほとんどないようにさえ感じる。そんな瞬間を体験されたことはないだろうか。

『ワンス・アポン・ア・タイム』は,あくまでゲームとしての疑似体験であり,インパクトの強さに大きな違いはあるが,臨床の場で何かが生まれるときと同質の感覚を感じる瞬間がある。はじめは自分の「結末カード」に繋げる1人だけの物語を想像し,「それにはこのカードを出して,こう持ってきて……」など考えている。しかし,物語に身をあずけていると,いつの間にかそんなことはどうでもよくなり,この物語を面白くするためにどうするかを考えることに夢中になってくる。たくさんの思いが混ざり合うところで思考は無力となり,1人では起こりえない思わぬ展開が生じる。やっぱりなんだか臨床の場と似ているような気がする。

最後に余談ではあるが,このゲーム,2人でやっても結構おもしろい。いや,2人でやる方が物語に深みが出るように思う。甥と2人で遊んだ時にルールをアレンジして,何枚かカードを出したら語り部が交代するというやり方でプレイしてみた。複数人で遊ぶよりも物語の展開が拡散せず,意外性を楽しむパーティー感のある盛り上がりは生じにくかったが,その分じっくりと物語に関わり,より深く体験を楽しむことができた。2人というのはやはり特別な単位で,物語が深まる重要な仕掛けの1つなのだろうと実感した。また,お互いの間にある世界に関わり,そこで何かができていく感覚はなんだかスクイグルみたいだなとも感じた。『ワンス・アポン・ア・タイム』は物語を用いたスクイグルのような使い方ができるかもしれない。機会があれば試してみようと思う。

やはり物語を創るというテーマは臨床と相性がよさそうだ。『ワンス・アポン・ア・タイム』は,心理臨床のアイテムとしてだけでなく,プライベートでもぜひ一度体験していただきたいゲームである。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像

大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭女子学院大学・神戸松蔭こころのケア・センター
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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