動機づけ面接入門(4)OARS|沢宮容子・佐藤洋輔

沢宮容子(東京成徳大学)・佐藤洋輔(埼玉学園大学)
シンリンラボ 第4号(2023年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.4 (2023, Jul.)

第3回の「動機づけ面接入門」では,動機づけ面接(MI)を用いた面接のターゲットとなるチェンジトークについて解説した。チェンジトークとは,「変化を肯定する本人自身の発言」のことである。チェンジトークを引き出すことによって,クライエントは「変化すること」と「現状のままでいること」の間でさまよう両価性(アンビバレンス)の状態から,変化の方向に向かって自ら一歩を踏み出すことができるようになる。第4回では,このチェンジトークを引き出し,クライエントの行動変容を促すためのMIの具体的なスキルについて説明する。

MIで用いられる,コアなカウンセリングスキルには「開かれた質問(Open questions)」,「是認(Affirming)」,「聞き返し(Reflection)」,「サマライズ(Summarizing)」,「許可を得ての情報提供と助言(Informing and advising)」の5つがある(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)。4つ目までのスキルは,それぞれの英語の頭文字をとって,OARS(オールス)と呼ばれる。まさにボートを漕ぐ「オール」のように,これらはMIにおける舵取りの重要なツールであり,また推進力でもある。これらのスキルは,第2回で紹介したMIが進む4つのプロセスの全てにおいて用いられる。

1.開かれた質問(Open Question)

クライエントが自由に答え方を選ぶことのできる質問である。この質問では,「はい」「いいえ」で答えられる質問のように,クライエントの回答が制限されることはない。開かれた質問を行うことによって,クライエントは臨床家側の先入観や一般常識に影響されることなく,自分の進みたい方向について理解を深め,自由に述べることが可能となる。ここにも,「クライエントのことを一番よくわかっているのはクライエント自身である」というパートナーシップのスピリットが表れているといえよう。開かれた質問の例としては,次のようなものが挙げられる。

今日はどんなことでいらっしゃいましたか?
この問題は日々のあなたの生活にどのように影響してきましたか?
今のままのやり方を続けていくと,どんなに風になっていくと思いますか?

一方で,開かれた質問の逆にあるのが閉じられた質問である。典型的には短い回答を求める質問であり,「はい」,「いいえ」で答えられるような質問や,特定の情報を収集するような質問がこれに該当する。例としては次のようなものが挙げられる。

煙草は吸いますか?
あなたはこれができると思いますか?
最後に飲酒したのはいつでしたか?

また,一見すると開かれた質問のように見えるが,実は閉じられた質問というものも存在する。この質問は,最初は開かれた質問のように始まるが,クライエントには複数の選択肢が提示されているため,実際には閉じられているのである。次のような質問が典型である。

あなたにとって一番いいやり方は何だと思いますか? 食事制限,運動,薬物療法?

この質問ではクライエントの答え方が制限され,臨床家の意図によって誘導されていく。このような質問を多用すると,形式的な情報収集が繰り返され,結果的に専門家と非専門家という関係が強調されてしまう。これでは協働的(パートナーシップ)であるとは言えない。一方,開かれた質問では,さまざまな情報とともに,チェックリストにはないような重要な情報を得ることもできる。時間がないときはつい閉じられた質問に走ってしまいがちだが,開かれた質問を使うほうがクライエントの変化を促す点では良い結果につながる。

また,MIでは開かれた質問を1回したら,クライエントの発言に対して2つほど聞き返しをするというリズムで会話を進めることが推奨されている。これは,たとえ開かれた質問であっても,質問の割合が高すぎると,クライエントは質問に答えることに躍起になってしまい,多様な情報が発信されなくなるためである。聞き返しが多くなればなるほどクライエント自身による考察や気づきは促されるのである。ただし1回質問をしたら必ず2回聞き返しをしなければいけないと厳密に考える必要はなく,質問よりも聞き返しを多くすることを意識しさえすればよい。

2.是認(Affirming)

クライエントが人として持っている固有の価値や強みを見つけ,言葉にしてクライエントに伝えることである。これは,単にクライエントを褒めることではない。褒めるという行為は,クライエントよりも上の立場から,クライエントが称賛に値するかどうかを判断することになり,クライエントの自己探究を妨げる障害物になり得ると考えられているからだ(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)。

それでは,クライエントを褒めることなく,どのように是認を行えばよいのだろうか。ミラーMillerら(2013/原井ら訳,2019)は,是認のフォーカスをクライエントにあてることを勧めている。例えば,「私はあなたを誇りに思う」というコメントでは,「私」すなわち臨床家にフォーカスがあたっている。これに対し,良い是認とは,基本的に「クライエント」にフォーカスをあてる。コメントは,次の例のようにクライエントの意図や行動など特定の事柄についてでも構わない。

この1週間の自分の記録を見事に取ってきましたね。
今週は仕事探しの電話を3回もしたんですね。良くやりましたね!

また,たとえクライエントの取り組みが上手く行っていなかったとしても,クライエントの置かれた状況をリフレーム(まったく別の視点から見直す)したり,クライエントの性質に着目して何か良い点を伝えたりすることも是認となる。たとえば,次のようなコメントである。

あなたにとっては今週は最悪の一週間でした。それでもまた戻ってきた。粘り強いですね!

是認は治療の継続を容易にするだろうし(Linehan et al., 2002),クライエントの防衛的態度もやわらげるだろう。ただし,クライエントが臨床家の是認をどのように受け取るかは,文化圏の違いや個人差によっても影響されるかもしれない。このようなとき,MI全体がそうであるように,クライエントがあなたのガイドとなる。クライエントはあなたの言葉にどのように反応するだろうか? 表情に現れた反応が見て取れれば,それに対して聞き返したり質問したりすることもできるだろう。

3.聞き返し(Reflection)

クライエントの言葉をそのまま,あるいは別の表現に言い換えて返すことである。聞き返しはMIの全てのプロセスにおける要であり,臨床家が最初に学ぶべきスキルである。聞き返しの真髄は,クライエントの言葉の意味を推測することである。基本的に,人は何らかの意図や意味を持って発言するが,発せられた言葉に必ずしもその意味が正確に表現されているとは限らない。そのため,聞き手は発せられた言葉を正確に聞き取り,そこから本来の意味を解読する必要がある。そこで,聞き返しを行うことによって臨床家はクライエントの語ろうとしていたことを正しく理解できているか確認することができるのである。ミラーら(2013/原井ら訳,2019)は,こうしたコミュニケーションの円環プロセスを次の図で表している(図1)。

図1 コミュニケーションのプロセス(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)

このとき,なぜ質問ではなく聞き返しを用いるのか。これについては,実際に次の2つの文章を声に出して読んでみていただきたい。

あなたは問題だとは思わないのですか?
あなたは問題だとは思わないのですね。

基本的に,質問文である前者の最後は語尾が上がり(トーンが上がり調子になり),質問文でない後者の最後は語尾が下がる(トーンが下がり調子になる)。聞き返しでは,2つ目の文のように語尾が下がり調子になることが推奨される。では,もしあなたがクライエントだったら,この2つの聞き方でどのように印象が違ってくるだろうか? 質問は相手に何かしらの答えを求めることであり,「答えろ」という要求である。そのため,質問された側は,自分の考えが本当に正しいのかどうかを一歩引いて考えるようになり,自分のことを疑いだしてしまうのである。一方で,聞き返しでは相手に防衛的な反応が生まれにくく,クライエントが自身の発言の意味や経験を顧みる助けとなりやすい。「開かれた質問」でも説明したように,MIでは質問よりも聞き返しを多く行おうと努めるのはこのためである。

聞き返しには大きく分けて①単純な聞き返し②複雑な聞き返しの2つがある。①単純な聞き返しとは,クライエントが言ったことに対して,ほとんど,あるいはまったく何も付け加えず,発言内容を単に繰り返すか,少しだけ言い換えたものである。対して②複雑な聞き返しとは,クライエントが言ったことに対して,何らかの意味を付け加えたり,一部を強調したり,まだ述べられてはいないが,このまま話が続けば次はこのような話になるだろうと推測して行うものである。それぞれの例を考えてみると,次のようになる。

クライエント:今日はひどく落ち込んでいる感じです。
単純な聞き返し:気分が沈んでいるような感じなのですね。
複雑な聞き返し:この2,3週間,気分が良くなったり,悪くなったり,波がある感じなのですね。

単純な聞き返しと複雑な聞き返しの関係は,氷山をイメージしてみるとわかりやすい(図2)。

図2 単純な聞き返し・複雑な聞き返しと氷山のイメージ

クライエントが発言したことは,クライエントの考えや,経験のほんの一部を表しているに過ぎない。単純な聞き返しで扱っているのは,この水面の上に表れている氷山の一角である。単純な聞き返しは,クライエントと出会ったばかりで内面を推測するための情報が不足しているときや,クライエントと関係を構築していくときに役立つこともあるが,会話の進行が遅くなりやすいという欠点もある。面接が行き詰まったり,堂々巡りだと感じたりしたときには,単純な聞き返しを使いすぎている可能性が高いだろう。一方で,複雑な聞き返しは会話の中にまだ表れていない部分,すなわち氷山の中でも水面下にある部分を推測しようとするものである。推測を加えて聞き返しをすることで,クライエントの自己探求に勢いが増し,会話が先に進みやすくなる。もちろん,臨床家が的外れな推測をしてしまうこともあるが,その場合は,間違いに気づいたクライエントが修正してくれることが多い。このときも,クライエントをガイドとして臨床家は自らの反応を修正し,クライエントの理解に努めればよいのである。また,間違いが連続するとクライエントに不快感が生じることもあるが,その時は開かれた質問を使って「では,詳しく話してください」と応じればよい。

4.サマライズ(Summarizing)

クライエントが今までに話したことを臨床家が簡潔にまとめることである。サマライズを行うことによって,クライエントはいったん立ち止まり,自分が今どこにいるのか,そしてこの先どこに向かおうとしているのかを臨床家と確認・共有することができる。また,サマライズの本質は聞き返しであり,「あなたが私に話してくれたことをこのように記憶し,理解している」ことの表明という意味で,是認にもなる。

サマライズを行う上で重要となるのは,クライエントが話したことについて,何を,どのように,どのような順序でまとめるかということである。クライエントの話す内容には維持トークとチェンジトークの両方が含まれるが,サマライズではこの両者を含めつつ,自然にチェンジトークにフォーカスが当たるようにしていく。この時,サマライズを行う順序も重要であり,維持トークから始めてチェンジトークで終わるようにするとよい。これは,サマライズの最後がチェンジトークで終わることで,近接性による強調が働き,より変化に関する会話が印象に残りやすくなるからである。そして,維持トークとチェンジトークをつなぐ際には,逆説を示す「しかし」などの接続詞を用いず,臨床家が双方を対等に並べていることを示す「一方で」や「そして」などを用いるのがよい。

良いサマライズとは,「全体像」を把握できるものである。一見するとバラバラに見える情報をサマライズして組み合わせ,順序を変えることによって,一つ一つを見ていたときには気づかなかった,新しいものが生まれるのだ。そして,サマライズの中に変化したい気持ちと現状を維持したい気持ちの両価性が含まれていることで,クライエントは自分の置かれている状況をはっきりと自覚し,先に進めるようになる。また,サマライズの最後に,「他には?」という開かれた質問を加えれば,カウンセラーが取りこぼしてしまったことをクライエントが補うことができるだろう。

5.許可を得た上での情報提供と助言

クライエントの許可を得た上で情報提供やアドバイスを行うことである。MIはクライエントの内にあるものを引き出そうとするため,クライエントに対して情報や助言を与えてはいけないと誤解されることがある。しかし,クライエントの方から求めてきた場合など,情報提供や助言を行ったほうがクライエントの変化の助けとなる場合は確実に存在する。このとき最も重要なことは,情報提供や助言が臨床家からの一方的な指示とならないよう,事前にクライエントから許可を得ることである。他にも,情報は小分けして理解しやすくしたり,治療の選択肢の情報の場合は一つだけにせず,複数にしてクライエントが自分で選べるようにしたりするなどの工夫を行う。与えられた情報をどう使うかをクライエントが自分で考え,自分で選択することを大切にしなくてはならない。

以上が,MIの中核をなす5つのカウンセリングスキルである。スピリットでも述べたように,これらのスキルそのものがMIを構成するわけではない。5つのコアなカウンセリングスキルは,MIを効率的に実践するための必要前提条件である。MIとは,クライエントが変化の方向に動くよう助けるために,これらのスキルを戦略的に使用する特別な方法なのである。

文  献
  • Linehan, M. M., Dimeff, L. A., Reynolds, S. K., Comtois, K. A., Welch, S. S., Heagerty, P., & Kivlahan, D. R.(2002)Dialectical behavior therapy versus comprehensive validation therapy plus 12-step for the treatment of opioid dependent women meeting criteria for borderline personality disorder. Drug and alcohol dependence, 67 (1), 13-26.
  • Miller, W. R. & Rollnick, S.(2013)Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press. (原井宏明監訳(2019)動機づけ面接(第3版)星和書店.)
バナー画像:mohamed_hassanによるPixabayからの画像
+ 記事

(さわみや・ようこ)
東京成徳大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,動機づけ面接トレーナー(MINT)

+ 記事

(さとう・ようすけ)
埼玉学園大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事