動機づけ面接入門(7)クライエントの尊重と変化の促進|岩壁 茂

岩壁 茂(立命館大学)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

はじめに

筆者は,動機づけ面接(MI)は専門としていない。しかし,カウンセリングの訓練を受け,そしてカウンセリングプロセス研究を行う上で,クライエント中心療法について着目してきた。そして,動機づけ面接と同様に,クライエント中心療法の治療関係を基礎として発展したエモーション・フォーカスト・セラピー(EFT:Greenberg, 2002/邦訳,2013)や感情変容を促進する加速化体験力動療法(AEDP:Fosha, 2000/邦訳,2017)について研究と実践を行ってきた。EFTとMIは,ヒューマニスティックアプローチの現代の旗手として,実証的研究を推進し,特定の心理障害に対する効果研究を発展させ,ヒューマニスティックアプローチを盛り上げている。そのような部外者の立場であるが,動機づけ面接の特徴について,クライエントの尊重,チェンジトーク,技法という3点から考えていきたい。

動機づけ面接との出会い

筆者がはじめて動機づけ面接に出会ったのは,アメリカ心理学会の心理療法ビデオシリーズの翻訳を担当したときだった。ダイエット,心疾患,その他慢性病などに対する健康心理学的アプローチの1つとしてミラー氏によるデモンストレーションが収録されていた(Miller, 2003)。当時は,健康上の問題に対して,健康行動の改善と管理を目的とする認知行動療法に基づいたアプローチが主流であった。これらの健康の問題に関するエキスパートの介入は比較的似ており,クライエントの問題の重度や特徴についてアセスメントをした上で,具体的な知識や対処方法や問題解決法を教えるのであった。専門家ならではの手際の良さと正確な情報の提供が際立っていた。

そのようななかでかなり趣が異なっていたのがミラー氏による動機づけ面接法であった。ミラー氏は,特定の健康問題のエキスパートとして情報提供をしたり,クライエントが問題解決に向かっていると想定するのではなく,問題をクライエントの人生と生活の文脈において捉え,クライエント自身の問題の捉え方をじっくりと理解した。クライエントの変化を願う肯定的な意志だけでなく,ちょっとしたためらいや不安,そして自分には良くないと分かっていながらも,かりそめの快感を求める気持ちも,丁寧に受け止めていた。それは,クライエントという存在を肯定し,尊重することによってクライエントのうちなる力を引き出すエンパワーメントの手法と感じられた。

最近になって,筆者は,「一歩ずつ学ぶ 動機づけ面接」という4本のDVDシリーズの翻訳に携わった(Cole, 2023)。動機づけ面接の基本的な考え方についてふれ,技法の解説と実際の面接場面で技法がどのようにして使われるのか,繰り返しみていくことで,このようなクライエントに対する尊重の姿勢を改めて実感した。

根源的な人の尊重

かなり昔の話であるが,筆者は大学院在籍時にカナダの病院での薬物依存の治療にふれることがあった。患者は,その治療を受けるために“sober”,つまり断酒,断薬していることが条件とされた。もし,治療が進行中に,酒を飲んでしまったり,薬物を一度でも使用した場合,そこで治療が止められてしまう。薬物の使用は本人の意志による逸脱であり,治療拒否というように捉えられていた。薬物依存の治療には,強い動機づけとコミットメントが必要とされ,薬物依存の治療が難しくそれを受ける番を待っている人たちが多くいることからも,やる気がないと見なされた人が治療プログラムから追放されてしまうのは,仕方がないかもしれない。しかし,薬物依存が慢性的問題であり,それが改善されるまでの道のりの中で何度も“slip”(しくじり)を体験することがある。それなのに,slipによって治療を諦めないといけないのであれば,治療的判断というよりも本人に対する「罰」にもなりかねないだろう。このようななかで,断薬を唯一の選択肢として提示してそれに向き合わせるのではなく,クライエントの問題の捉え方自体をしっかりと理解し,受容する動機づけ面接法の姿勢は,とても新鮮であり,革新的であるように思えた。

「クライエントは問題に取り組まなければならない」「行動を変えるべきである」「問題をもった人間である」という治療者側の姿勢は,支援において「危険」である。クライエントが問題をもった存在であり,変化に対して開かれなければならないと想定する時点で,すでに支援者とクライエントの力関係が不均衡になりやすい。そしてそのような構えはさまざまな言動となって,意図せずクライエントに伝わってしまう。動機づけ面接は,クライエントに変化を強要しない。そして,変化に対するクライエントのアンビバレンスを問題と見なして,クライエントがそこから早く出るように押すこともしない。クライエントのアンビバレンスに共感し,そこに一緒にとどまる。これは,クライエントに尊重を伝えるもっとも良い方法である。特に,薬物依存がある場合,すでに自尊心が揺らいでいる。クライエントにとって,自分自身の迷いも含めて自分の存在が肯定されることは変化の一歩を踏むのに必要な自信を回復する上で極めて重要ではないかと思われる。

すべての心理療法は,クライエントがなんらかの形で変化することを目標とする。しかし,変化を求めれば,それと同時にそれと反発する力も生まれやすい。反発する力は,変化を拒むという意図に基づいているというよりも,変化に対する恐怖や不安,そしてそれに伴う喪失への漠然とした拒否感であったりする。これはもともと抵抗と呼ばれていたが,現在では,クライエントが肯定的な変化に対して意図的に反抗するというような見方自体に対して疑問が投げかけられている。というのも,クライエントが変化の方向へと進めない理由には,セラピストとの相互作用も大いに関わっており,クライエントだけにそれを押しつけるのは,さらに変化を難しくする原因ともなるからである。そのため,抵抗という概念自体を使わない臨床家も多い。いずれにせよ,人は変化を求められたとき,それが良いものであっても,一歩たじろぐことは少なくない。

抵抗は明らかにクライエントの意図的な破壊行動ではないだろう。むしろ,変化が起こることに対する恐怖や不安から起こっていることも少なくない。また,周囲から「止めて当たり前だ」「自分の身体に悪いことをやっているほうが悪い」「そんな悪い習慣をまだ続けているなんてばかだ」などというメッセージを少なからず受けてきただろう。そのようななかで,抵抗を手玉に取る(rolling with resistance)という姿勢はとても重要になる。抵抗とともに転がるというのは,その力に逆らうのではなく,それとともに進んでいくことであり,尊重の姿勢を支える1つになるはずである。

チェンジトークと自己実現傾向

筆者にとって,動機づけ面接においてチェンジトークはとても興味深い概念である。チェンジトークは,面接者の発する行動の変化に向かっている言動を指す。筆者は,普段の臨床活動において,面接を録画することが多い。面接について振り返るうえで,記憶に頼るのではなく,細部まで何度でも再生できる録画データは,とても役に立つ。セラピストである自分が,面接が停滞している,クライエントが抵抗している,または変化を嫌がっているという印象をもっていても,録画を振り返って,クライエントの発言を1つずつ丁寧に聞いていくと,変化を求め願うような発言が少なからずあることに驚かされる。全体的な印象に引きずられて,このような発言に気づけないままになってしまっているのだ。

このような変化に向かうチェンジトークという概念は,クライエント中心療法の「自己実現傾向」に起源をもつことは間違いないだろう。ロジャースは,人間には一人一人成長に向かっていく力が備わっていることを指摘した。そして,その力が正しく発揮されるには,共感,無条件の肯定,自己一致というセラピストの条件が必要であると考えた。変化に向かうポジティブな力を引き出すという視点は,心理療法において見過ごされやすい。というのも,問題をもった個人と接するなかで臨床家はどうしても「病理」を見いだし,それを正確に分類し,それを修正するための方法を提示するという視点をとりがちである。近年ではレジリエンスをはじめ,ポジティブ心理学の視点が少しずつ浸透しつつあるが,それを一貫して活用するための理論的枠組みは少ない。クライエントとの協働関係を作るためには,このようなポジティブな力にセラピストが気づき,それを肯定することが必要である。自己実現傾向の表れというと,とらえどころのないようなものに思えるが,それをチェンジトークとして具体的に示していることが動機づけ面接の理論の強みの1つである。

加速化体験力動療法(AEDP)では,“transformance”という概念がある。それは,人が生得的にもつ変化と成長,回復を求める内なる力であり,人にエネルギーをもたらす(Fosha, 2000/邦訳,2017)。問題を解決するためには,それに立ち向かう力が必要である。AEDPでは,セラピストが初回面接からクライエントのtransformanceの表れに敏感であり,それに焦点を当てることが推奨されている。クライエントの問題のアセスメントが中心の面接から,チェンジトークやtransformanceにも着目した面接にシフトすることで,クライエントの関わりも変化するはずであろう。

セラピストの技法

クライエント中心療法において重要なのは,技法ではなく,セラピストの姿勢であることが強調された。そして,共感を伝える反射という技法を修得することが,あたかも共感の技術を高めることと捉えられる危険について指摘されてきた。カール・ロジャースが面接中にどのような技法を用いているのか彼が行った面接における発話を分類して検討した研究(Gazzola et al., 1997)によると,発話の80%以上は反射(聞き返し)であった。残りはクライエントの話したことに対してセラピストの視点からの見方を伝える解釈であった。解釈は,クライエント中心療法において適切な介入とは考えられていない。そのような技法をロジャースが使っていたことは驚きである。しかし,そのうち,感情がどのように起こったのかその理由などの理解を伝える反射に近い解釈は,反射よりもクライエントの効果的な探索を促進していた。この研究から,感情体験に焦点を当てる解釈は,効果的に直後のクライエントの探索を促進していることから,単に姿勢として捉えるよりも,より細かく技法の水準で捉えることが有効になりうると示される。

姿勢の強調は,クライエント中心療法の実践のあり方を反映していることは確かである。クライエントの発言に対して,「何を」伝え返すのか,ということは,重要であるが,共感には,それ以上のプロセスが伴い,それは常に連続的に起こっている。クライエントが話しているときに,セラピストは表情で反応し,相づちにもその感じ方が反映されており,反射という枠では捉えきれないことが多い。しかし,この姿勢という捉え方のみだと訓練や実践の理論の発展には必ずしも適していなかった。つまり,教条的になり,セラピストがクライエントの気持ちを理解してそれを伝えるというプロセスよりも,セラピストに対する戒めのようになり,技法的な学びを排除してしまうことがあるからである。

動機づけ面接と同じようにクライエント中心療法から発展したエモーション・フォーカスト・セラピーでも,ロジャースの「反射」をさらに分化させている。クライエントの体験の意味の全体を理解し,しっかりと受け取る反射である共感的理解の反応を基本として,感情の探索を進めるための共感的探索,感情を喚起することを目的として共感的喚起の反応などに分化した(Greenberg et al., 1995/邦訳,2006)。そして,Gazzolaらが研究において明らかにしたクライエントがはっきり言い表していない感情を推し当て,それを言葉にする解釈的性質が強い共感的推測などがある。これらはすべて面接中の感情体験を促進するというエモーション・フォーカスト・セラピーの目的に向けられている。動機づけ面接の聞き返しについては,単純な聞き返しと複雑な聞き返しに分けられ,単純な聞き返しは,一般的には「言い換え」と呼ばれ,相談者の発話の繰り返しや簡単な言い換えであり,複雑な聞き返しは,発話で語られてない内容や気持ちや感情を含めることがある。このような区別は,実用的であり,使いやすく,面接においてセラピストが即座の判断をするのに役立ち,もう一方で,訓練者の学習を促進してくれるだろう。

終わりに

動機づけ面接は,心理の専門家だけでなく,医療従事者だけでなく,産業領域に従事する人たちなどにも広まりつつある。その基本的な考え方や技法は,おそらくすべての心理支援の基礎となりうるし,カウンセリングの技法を学ぶ上でとても良い入り口となる。しかし,そこには,対人援助の根幹にある人間の尊重という永遠の課題があり,それに向き合うために,動機づけ面接は,単純明快でありながら,とても有用な指針を与えてくれる。

文 献
  • Cole, C.(2023)一歩ずつ学ぶ 動機付け面接シリーズ.日本・精神技術研究所.https://www.nsgk.co.jp/psychotherapy/
  • Fosha, D.(2000)The Transforming Power Of Affect: A Model For Accelerated Change. Basic Books.(岩壁茂・花川ゆう子・福島哲夫・沢宮容子・妙木浩之監訳,門脇陽子・ 森田由美訳(2017)人を育む愛着と感情の力―AEDPによる感情変容の理論と実践.福村出版.)
  • Gazzola, N.,& Stalikas, A. (1997)An investigation of counselor interpretations in client-centered therapy. Journal of Psychotherapy Integration, 7 (4), 313–327. https://doi.org/10.1023/B:JOPI.0000010886.33685.64
  • Greenberg, L. S., Rice, L. N.&Elliott, R.(1995)Facilitating Emotional Change: The Moment-by-Moment Process. The Guilford Press.(岩壁茂訳(2006)感情に働きかける面接技法―心理療法の統合的アプローチ.誠信書房.)
  • Greenberg, L. S.(2002)Emotion-Focused Therapy: Coaching Clients to Work Through Their Feelings. Amer Psychological Assn.(岩壁茂・伊藤正哉・細越寛樹監訳,関屋裕希・藤里紘子・村井亮介・山口慶子訳(2013)エモーション・フォーカスト・セラピー入門.金剛出版.)
  • Miller, W. R. (2003)アメリカ心理学会心理療法ビデオシリーズIII:行動の健康および健康カウンセリング:アルコール・薬物乱用の心理療法―動機付けを高めるクライエント中心療法的アプローチ.日本心理療法研究所・丸善.
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岩壁 茂(いわかべ・しげる)
立命館大学総合心理学部
資格:臨床心理士 
主な著書:『改訂増補 心理療法・失敗例の臨床研究―その予防と治療関係の立て直し方』(金剛出版),『恥(シェイム)ー生きづらさの根っこにあるもの』(アスク・ヒューマン・ケア)ほか多数
趣味:ランニング

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