動機づけ面接入門(2)スピリットとプロセス|沢宮容子・佐藤洋輔

沢宮容子(東京成徳大学)・佐藤洋輔(埼玉学園大学)
シンリンラボ 第2号(2023年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.2 (2023, May)

「変わりたいのに,変われない」。そのような悩みを持つクライエントに対して,協働的なスタイルの会話によって変化への動機を引き出し,行動変容を促す方法が動機づけ面接(Motivational Interviewing,以下MI)である。連載の第1回では,MIの成り立ちや特徴,MIに関するよくある誤解や他の治療法との違いについて概説した。第2回では,これからMIを学んでいくにあたってまず知っておいてほしいMIの4つの「スピリット」,そしてMIを用いた面接が進んでいく4つの「プロセス」について解説する。

1.MIのスピリットとは

第1回で説明したように,MIは変化を望まないクライエントを言葉巧みに誘導するためのトリックではないし,一連の手順に従って進めるテクニックでもない。MIは時間をかけて習得される複雑なスキルの組み合わせであり,臨床やコミュニケーションの一つのスタイルである。これを示す興味深い例として,次のような報告がある。ヘッテマHettemaら(2005)が,MIを用いたいくつかの効果研究の結果についてメタアナリシスを行ったところ,MIに関する構造化されたマニュアルがある場合と,マニュアルがない場合とでは,後者の方がMIの効果量は倍化したというものである。なぜこのような差が生じたのか。

1回の面接で完結するように構造化されたMIでは,クライエントの「変化への準備」が整っているかどうかに関わらず,クライエントに行動変容の計画を求めたため,クライエントの抵抗を引き出してしまったのではないかとヘッテマらは考察している。一方で,マニュアルの用意されていないMIで共通していたのは,「クライエントの準備が整っているかどうかを判断すること」が暗黙の目的となっていたということである。これは,MIが単なるテクニックではないことをよく表している一例である。MIを開発したミラーMillerら(2009)は,MIを実践するうえで全てのMIの会話の基礎となる「スピリット(面接者が持つべき態度や心構え)」を重視しており,スピリットのないMIは「曲のついていない歌詞のようなもの」と述べている。具体的なマニュアルがないと言われると,「ではどうやってMIを実践したらいいのか」と不安を抱くかもしれない。しかし,MIのスピリットをよく理解し,それを体現することができれば,MIの複雑なスキルをクライエントの変化に最も有効なやり方・タイミングで活用することができるのである。

2.MIのスピリットを構成する4つの要素

MIのスピリットは「パートナーシップ(Partnership)」,「受容(Acceptance)」,「思いやり(Compassion)」,「引き出す(Evocation)」という4つの中心的な要素から構成される(図1)。これらの要素は互いに関係しており,MIはこの4つの要素が交わるところに体現される。

(1)パートナーシップ(Partnership)

専門家同士の間で行われる能動的な協働関係のことである。ここで,臨床家は臨床における専門家であるが,クライエントもまた,自分自身のことを誰よりも知っている自分自身の専門家であることを忘れてはならない。両者の間に上下関係はなく,対等な立場で相手の発言を尊重することが重要である。また,MI はクライエントの「ために(for)」,クライエントと「ともに(with)」行うものである。MIがどのようなものであるか,説明する際によく使われるたとえとして「MIとは,レスリングではなく,社交ダンスのようなもの」というものがある。レスリングが相手を力づくで押さえつけようとするように,臨床家が自分の願望や意見を通すためにクライエントを説得しようとすれば,クライエントもそれに抗おうとする。これでは臨床家とクライエントが協力しているとは言えないだろう。社交ダンスのように,互いに協力して一つの成果を生み出そうとするのがMIである。そこに勝ち負けは存在しないのである。

(2)受容(Acceptance)

クライエントが体験しているすべての側面を受け入れる態度である。これは,必ずしもその人の行動を承認する,あるいは現状を黙認するという意味ではない。大切なのはクライエントの発言や行動について批判せず理解しようとする姿勢である。受容には大きく次の4つの側面があるとされる(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)。

① 絶対的価値

あらゆる人間に備わる価値と,潜在的な可能性に対する尊重を意味するものであり,クライエント中心療法(client-centered approach)を唱えたロジャーズRogersの言葉では「無条件の肯定的関心」にあたるものである。すなわち,明確な根拠の有無に関わらず,クライエントが生まれつき持っている価値や,成長への可能性に対して敬意を払うことが受容である。これは変化が起きるための必要十分条件の一つと考えられている。この反対の態度が「判断」であり,クライエントに対して「条件つき」で価値を見出そうとするものである。クライエントがうまくいかない時に臨床家が否定的な態度を示せば,クライエントは「自分は無力だ」と考えてしまうだろう。これではMIは最初から躓いてしまう。

② 正確な共感

クライエントの気持ちや考えを正確に理解しようとする関心や努力のことであり,クライエントの目を通して世界を見ようとする態度である。ここでいう共感とは同情や同一化とは異なり,相手を憐れむことでも,自分の体験をもとに相手を理解しようとすることでもない。「クライエントの内的世界を,あたかもカウンセラー自身のものであるかのように感じながら,しかし,『あたかも』という性質を決して失わずに感じること」(Rogers, 1989)である。

③ 自律性のサポート

「人には自分の行動を決める能力や,権利がある」ことを大切にし,尊重する態度である。これと対極にあるのが,相手の行動をコントロールしようとする態度である。「馬を水辺に連れて行くことはできても,水を飲ませることはできない」ということわざが示すように,最終的にそうするかどうかを決めるのは常にクライエント自身であることを忘れてはならない。また,人には束縛されればされるほど,自由を主張しようとして反発する特徴がある。宿題をやろうと思っていたのに,「宿題をしなさい!」と言われて途端にやる気がなくなった経験のある人は多いだろう。選択の自由を尊重することで,かえって行動に対する防衛が弱まり,変化に向かって自分から歩むことができるようになるのである。

④ 是認

相手の強みや努力を探し出して承認することである。クライエント自身がまだ気づいていない側面も含めて,クライエントの強みや努力に焦点を当て,クライエントを勇気づけるように関わることである。

(3)思いやり(Compassion)

クライエントの利益を最優先することである。臨床家はクライエントの利益のためにサービスを提供するのであって,臨床家自身に益することは二の次でなければならない。これは他者が健やかで幸せであることを重んじる態度であり,人が対人援助職に就こうとする動機づけの一つと言える。

(4)引き出す(Evocation)

クライエント自身の強みやリソース(資源)に注目し,それを活性化することである。これは,クライエントに不足しているものを外から与えて補おうという欠陥モデルとは全く異なる。「必要なもののほとんどはその人の内側にある」という前提に立つのがMIであり,それを誘い出し,引き出すことが臨床家の仕事なのである。たとえて言うなら,MIにおける臨床家の役割は,クライエントの内部にある深い井戸から水を汲み上げることであり,決してクライエントの空の井戸に,水を注ぎ込んで満たすことではないのである。

以上がMIの基盤となる4つのスピリットである。忘れてはならないのが,これらのスピリットはMIの本質を成すものであるが,MIを実践する上で必須の前提条件ではないということだ。なぜなら,あらかじめ受容や思いやりを備えた人間でなければMIを始めることができないのであれば,多くの人は一生かかってもMIを実践することは困難だからである。むしろ,MIのスピリットはMIの実践によって磨かれるものであり,スピリットの体現を目指しながら,日々のトレーニングを重ねることが大切なのである。

3.4つのプロセス

MIには,その具体的な手順や手続きを規定したマニュアルがないと言ったが,一方でMIには多くの面接に共通する大まかなプロセスが存在する。MIでは,クライエントと出会ってからクライエントの行動変容を促すまでに,4つのプロセスを想定している(図2)。この図はMIを構成する4つのプロセスを階段状に表したものである。基本的に,MIの流れは図に示した「関わる」段階から「計画する」段階へとステップアップしていく。前のプロセスが次のプロセスに進むための土台となっており,必要な場合には再び前の段階に戻ることもできる。こうして,臨床家とクライエントが一緒に階段を昇ったり降りたりを繰り返しながら,変化という目標に向かって進んでいくことが特徴である。

(1)関わる(Engaging)

臨床家がクライエントと出会い,信頼関係を築き,いわゆる作業同盟を確立するプロセスである。MIに限らず,どのような作業においても信頼関係ができていることが前提となる。このプロセスは,はじめの1回で完了することもあれば,何週間もかけてようやく絆が結ばれることもある。大事なことは,2つ目のフォーカスする段階に進めば,1つ目の関わる作業が終わるわけではないことである。クライエントと関わることの重要性は,MIの全ての共同作業の土台であり,それは4つのプロセスの間中ずっと変わらない。したがって,途中,何か折りあるごとに,関わることを再確認する必要が出てくるのである。

(2)フォーカスする(Focusing)

クライエントが持ち出そうとしている話題を特定し,取り組むべき問題を絞り込むプロセスである。面接の中では,時に変化に対して複数の話題が提供されることがあるが,まずどの問題について考えたいのか,クライエントの希望を聞きながら方向性を定めていくことになる。またこの場合,クライエントの目標を達成するためには,行動変容だけでなく考え方を変えることや,現状を受け入れることなど心のあり方も含めてさまざまな変化についての道のりがあることも考えておきたい。面接の話題が定まることによって,クライエントがこの先どこに向かっていきたいのかを臨床家とクライエントで共有することができ,その結果,会話を特定の方向に進めることができる。

(3)引き出す(Evoking)

クライエント自身から変化への動機づけを引き出すプロセスであり,MIの中核となる要素である。クライエントの動機を引き出すことは,「フォーカスする」段階で変化の方向性が定まり,変化に向けた会話に焦点が当たったときに初めて可能となる。このとき重要なことは,「変化を支持する意見をクライエント自身の口から語らせること」である。多くの臨床家が陥りやすい罠として間違い指摘反射があるが,臨床家が変化に関する意見を伝えても,変化したいと同時に現状のままでいたいという両価性(アンビバレンス)を抱えるクライエントには役に立たないことも多い。人は,どうしようか迷っているときに周りから「ああしろこうしろ」と言われても,反発したくなるのが普通である。もちろん,中には純粋にこれからどうしたらよいのか助言を求めて相談に来るクライエントもいる。その場合は,クライエントは変化に対して準備が整っていると考え,次の「計画する」段階に進むのがよいだろう。

(4)計画する(Planning)

クライエントが変化に向けて動き出した段階で,具体的な行動計画を立てるプロセスである。この段階では「変わるか否か」や「なぜ変わるのか」ということよりも,「いつ・どのように変わるか」に面接の焦点が移っていく。計画することは,チェンジトークによるエンジンの動力を車輪に伝えるためにクラッチへつなぐようなものであり,そのタイミングを逃さないことが大切である。もちろん,具体的な行動計画を立てたとしても,思うように計画を実行できないこともある。その場合は,再びクライエントのチェンジトークに耳を傾け,行動計画を見直すことが必要となる。

以上の4つが,MIが変化に向かって進む中心的なプロセスである。たいていの場合,変化が生じるのにはある程度の時間を要する。そのため,実際のMIは関わる,フォーカスする,引き出す,計画するの4つのプロセスを出たり入ったりしながら,らせん状に進むことになる。必ずしもこのプロセスに従って順番にMIを進めなければならないというものではないが,スピリットと合わせて,MIのさまざまなスキルを効果的に用いるための一つのガイドラインとして活用していただければ幸いである。

第2回では,MIを実践するための基盤となるスピリットとMIが進む4つのプロセスについて解説した。これらは『動機づけ面接(第3版)』(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)によるものであり,第4版では構成概念や用語が変わる可能性があることに留意してほしい。

注記)連載第2回より,change talkの日本語表記を過去文献に鑑みて「チェンジトーク」とします。
文  献
  • Hettema, J., Steele, J. and Miller, W. R. (2005)Motivational interviewing. Annual Review of Clinical Psychology, 1, 91-111.
  • Miller, W. R.,&Rollnick, S. (2009)Ten things that motivational interviewing is not. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 37, 129-140.
  • Miller, W. R.&Rollnick, S. (2013)Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press. (原井宏明監訳(2019)動機づけ面接(第3版).星和書店.)
  • Rogers, C. R. (1989)The interpersonal relationship: The core of guidance. In C. R. Rogers & B. Stevens (Eds), Person to person: The problem of being human.(pp. 89-103). Moab, UT: Real People Press.

バナー画像:mohamed_hassanによるPixabayからの画像
+ 記事

(さわみや・ようこ)
東京成徳大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,動機づけ面接トレーナー(MINT)

+ 記事

(さとう・ようすけ)
埼玉学園大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事