動機づけ面接入門(3)チェンジトークと維持トーク|沢宮容子・佐藤洋輔

沢宮容子(東京成徳大学)・佐藤洋輔(埼玉学園大学)
シンリンラボ 第3号(2023年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.3 (2023, Jun.)

前回の「動機づけ面接入門」では,動機づけ面接(MI)を実践するために必要となる基本的なスピリットと,MIを用いた面接の大まかな流れについて紹介した。第1回・第2回で説明したように,他のアプローチと異なるMIの大きな特徴は,「クライエントのチェンジトークに選択的に焦点を当て,強化することで動機づけを引き出す」点にある。第3回では,この「チェンジトーク」の特徴や種類について,詳しく説明する。

1.チェンジトーク

チェンジトークとは「変わりたい」や「このままではだめだ」といったような,人が変化に向かって進んでいることを示す発言である。チェンジトークの概念は時代とともに変遷しており,現在では「変化を肯定する本人自身の発言」と包括的に捉えられている(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)。

多くの研究を通じて,治療におけるチェンジトークの多さにより,クライエントの変化を予測できることが明らかにされており(Houck&Moyers, 2015; Moyers et al., 2007),またセラピストの反応の仕方により,クライエントのチェンジトークの出現を予測できることが示されている(Barnett, et al., 2014; Bosari, et al., 2015)。こうした多くの知見に基づき,MIではいかにクライエントからチェンジトークを引き出すかということを重視している。なお,チェンジトークが人の変化にとって重要な理由については未だ明確に示されてはいないが,ローゼングレンRosengren(2018/原井訳,2023)はベムBem(1967)の自己知覚理論を引用し,次のように説明している。ベム(1967)によれば,人は自分の態度を決めるときに,あたかも他人の行動を観察するように,自分自身の行動を観察することがある。そして,このプロセスが起こりやすいのは,信念や態度が不確かで,外的な報酬が行動の動機になるほどではない場合とされている。つまり,「変わるべき」か「現状のままでいるべき」かの間で迷い,また変化に対するメリットとデメリットが混在するような両価性(アンビバレンス)のある状況では,人は外的な報酬よりも自分の行動や発言に沿った方向で,自らの態度を変えるということである。これは,MIにおいてクライエントの抵抗(変化に否定的な発言)を避け,クライエントのチェンジトーク(変化を肯定する発言)を引き出すことがクライエントの変化に役立つ一つの理由であると言えるだろう。さらに,アムラインAmrheinら(2004)によれば,チェンジトークは次の2種類に大別することができる。

(1)準備チェンジトーク

変化の準備段階においてみられるチェンジトークであり,主に変化に対する気持ちや考えが表明される。ただし,「○○したい」,「○○しなければならない」という発言は「○○します」という発言と同義ではない。したがって,準備チェンジトークだけでは変化が起きることのサインにはならない。しかしながら,準備チェンジトークを繰り返すことによって,クライエントは次第に変化に対して肯定的な立場を強めていく。準備チェンジトークは願望(Desire),能力(Ability),理由(Reason),ニーズ(Needs)の4つの要素から構成されるので,頭文字を取ってDARNと覚えるとよいだろう。

願望(Desire)
「タバコをやめたい」「もっと食べる量をコントロールできたらいいのに」「これから少しでもいい方向に変わっていくといいな」など,クライエントの望みについての発言である。これはクライエントの「変化したい」という気持ちを表すもので,変化に取り組むための第一歩となる。

能力(Ability)
「(問題を解決するために)どうすればいいかはわかっているんです」,「もしかしたら○○ならできるかもしれない」「以前は,こういうやり方で対処できていたことがあったんです」など,変化するための能力についての自覚である。この段階では,まだクライエントは変化に対し何ら取り組んでいないが,能力に関する発言にフォーカスすることで,クライエントの変化に対する自信を高めることができる。

理由(Reason)
「タバコをやめたら,家族も喜んでくれると思う」,「こんなにくよくよ悩まなければ,日中もっといい気分で過ごせるだろうな」,「痩せることができれば,健康にもいいし,結婚も上手くいくかもしれない」など,変化する理由についての説明である。こうした発言は,「もし○○ならば,○○になるだろう」という仮定の形をとることも多い。変化する理由が十分にあったとしても,「変化したくない」,「できない」と感じる人もいるため,変化の理由の説明が,変化に対する願望や能力を意味しているわけではない。

ニーズ(Needs)
「今のままではだめなんです」,「なんとか一人で生活できるようにならないと」,「結婚生活を続けるには,変わるしかないんです」など,変化の重要性や緊急性を強調する発言である。理由の場合と同じように,変化のニーズがあるからといって,クライエントが変化に対する願望や能力を自覚しているとは限らない。また,詳しく聞けば変化するべき理由が語られるかもしれないが,ニーズについての発言自体に,変化の理由は含まれない(もし理由が特定できているのであれば,それは理由の発言に分類するのがよいだろう)。クライエントの中には,変化をせざるを得ないという状況で相談にやって来る人も多いため,この発言は面接の最初の段階でなされることが多い。

(2)実行チェンジトーク

変化につながる具体的な行動についての発言であり,クライエントが両価性の解決に向けて動き出すための手がかりとなる。実行チェンジトークはコミットメント(Commitment),活性化(Activation),段階を踏む(Taking steps)の3つの要素から構成されるので,頭文字をとってCATsと覚えるとよいだろう。

コミットメント(Commitment)
「これから○○します」「明日,○○してみるつもりです」「次回までに○○することを誓います」など,行動に取り組もうとする意図を反映した発言であり,クライエントのチェンジトークが行動変容に結びつく上で重要なものである。コミットメント言語と準備チェンジトークの大きな違いは,行動しようとする意図が含まれているか否かという点にある。既述したように,「変わりたい」や「変わる必要がある」という準備チェンジトークは,実際にこれから変わる(行動する)ことの保証にはならない。一般的に,コミットメント言語には行動の目標が含まれており,「宣誓」や「約束」という形で強調して表明されることもある。

活性化(Activation)
「○○する気はあります」,「○○するための用意はできています」,「○○を試してみようと思っています」など,動き出そうとはするものの,あと一歩コミットメントには至らない発言である。行動するための準備や意志はあるが,まだ行動することを約束することはできないということである。コミットメント言語ほどの拘束力はないが,活性化言語もクライエントが動こうとしていることを示すサインとなる。

段階を踏む(Taking steps)
「毎日ジョギングできるように,ランニング用のシューズを買ってきました」,「つい食べすぎてしまわないように,一週間分の献立を作ってみました」「困った時に手伝ってもらえるように,昨日母にも相談してみました」など,クライエントが変化に向けて既に動きだしたことを示す発言である。前回のカウンセリングの後に,クライエントが何か具体的な行動をとったと報告することなどがよい例である。そのステップが小さなものであっても,クライエントが変化に向けて確実に歩んでいることを示すサインとなる。

以上が,チェンジトークに関する大まかな分類となる。ただし,実際のカウンセリングの中では,クライエントのチェンジトークを分類することにやっきになる必要はない。大切なのは,クライエントのチェンジトークに気づくことである。Millerミラーら(2013/原井ら訳,2019)は,チェンジトークについての理解を助けるために,変化が進むプロセスを「MIの丘」のメタファーを用いて説明している。(図)

図 MIの丘(Miller at al., 2013/原井ら訳,2019を参考に作成)

図が示しているように,クライエントの準備チェンジトークとは,上り坂をコツコツと歩み続けるようなものである。坂の斜面は両価性に覆われていて滑りやすく,臨床家とクライエントが工夫と努力を重ねて一歩ずつ上っていかなければならない。次第に準備チェンジトークが強まり,実行チェンジトークが増えてくると,やがて丘の頂上にさしかかる。そこからは,まるで坂を下りていくようなものである。もちろん,坂を下りることも簡単ではない。至るところに危険があり,クライエントは時に転ぶかもしれない。臨床家は先走りすぎないようクライエントのペースに合わせる必要がある。要するに,カウンセリングの中で臨床家が意識しなければならないことは,「自分たちが今,丘のどの辺りにいるか」ということなのである。

2.維持トーク

変化に対して相反する2つの気持ちを抱えるクライエントが口にするのは,チェンジトークだけではない。実際の面接の中では,チェンジトークと一緒に,変化に否定的な態度を示す発言や,現状のままでいようとする発言が見られる。MIではこれを維持トークと呼び,チェンジトークと区別する。維持トークはチェンジトークと対照的な概念であり,どのような発言が維持トークに当たるかは,DARNやCATsと対応させて考えてみるとわかりやすい(表)。

表 DARNやCATsと対応した維持トークの例

維持トークが我々に教えてくれるのは,何かに困って来談したクライエントが,その心の内に両価性を抱えているということである。自分一人で問題の解決に向かって歩めるのであれば,クライエントはわざわざ臨床家を頼って来談する必要はない。クライエントのチェンジトークと維持トークの両方に注意を払いながら,クライエントがどのような2つの価値の間で迷い,揺れ動いているのかを理解するのが,MIを始める第一歩である。

3.チェンジトークと維持トークに対応する

一般的には,ここまでに紹介したチェンジトークと維持トークが,会話の中で入り混じりながら面接が展開する。そこで,チェンジトークと維持トークに対して,MIではどのように対応するのかを,第1回で示した例を使って,確認していこう。

「もうお酒はやめようとずっと思っているんです。でもストレスがたまると,我慢できずについ飲んでしまって……。家族からもやめたほうがいいとは言われているんですけど,自分ではどうにもコントロールできないんです」

ここまで読んだ読者の方であれば,この会話の中に含まれるチェンジトークと維持トークの存在に気づくのは,それほど難しいことではないだろう。DARNやCATsと照らし合わせて分類してみるのも,チェンジトークと維持トークを理解するためのよい練習となる。

「もうお酒はやめようとずっと思っているんです(CT:活性化)。でもストレスがたまると,我慢できずについ飲んでしまって……(ST:理由)。家族からもやめたほうがいいとは言われているんですけど(CT:理由),自分ではどうにもコントロールできないんです(ST:能力)」

*CT……チェンジトーク(Change Talk) *ST……維持トーク(Sustain Talk)

いかがだろうか。クライエントには変化する意思(ずっとやめようと思っている)があり,変わるための理由(家族からの助言)もある。一方で,お酒を飲んでしまう理由があり(ストレスの存在),お酒をやめるための能力についても自信をなくしている(コントロールできない)。このようなクライエントに,あなたは臨床家としてどのように声をかけるだろうか。今回の冒頭で述べたように,MIの特徴の1つは,「クライエントのチェンジトークに選択的に焦点を当て,強化する」ことである。簡潔に言ってしまえば,維持トークには反応せず,チェンジトークに焦点を当てるのである。先ほどの例であれば,次のように反応することができる。

クライエント:もうお酒はやめようとずっと思っているんです。でもストレスがたまると,我慢できずについ飲んでしまって……。家族からもやめたほうがいいとは言われているんですけど,自分ではどうにもコントロールできないんです。
臨床家:家族からはお酒をやめた方がいいと言われていて,ご自身でも「もうお酒はやめよう」とずっと考えていらっしゃる。

このようにチェンジトークに意図的に焦点を当てることで,クライエントは変化に賛成する立場から自分の状況を説明することとなり,「そうなんです。今のままではいけないと思って……」など,さらなるチェンジトークを引き出すことができるかもしれない。その一方で,無力感や絶望感の強いクライエントの場合は,「わかってはいるんだけどできない。もうどうしようもないんです」と維持トークを続けることもあるだろう。そのようなときには,臨床家から「何かささいなことでも,変わるためのきっかけや方法が見つかればと思っている」とクライエントが直接は口にしていないものの,その背景に隠れているチェンジトークに焦点を当てることもできる。もし臨床家の理解が誤っていたとしても,そのときはクライエントの間違い指摘反射(righting reflex)が働き,臨床家の間違いを指摘することだろう。そうしたら,臨床家は素直に間違いを認め,クライエントの本当の気持ちに耳を傾ければよい。なお,間違い指摘反射とは,間違ったことを聞いた時,「それは違います」と修正したくなる自然な願望を指し,正したい反射とも呼ぶ。

以上のように,第3回ではMIの重要なターゲットとなるチェンジトークを中心に解説した。チェンジトークや維持トークはMIを用いた面接だけに存在するものではない。日々の支援の中で,クライエントのチェンジトークや維持トークにより注意を払うように意識すると,MIを身につける練習となるだろう。

次回では,チェンジトークに反応する際の臨床家の会話のバリエーションについて解説する。

文  献
  • Amrhein, P. C., Miller, W. R., Yahne, C., Knupsky, A., & Hochstein, D.(2004, May)Strength of client commitment language improves with therapist training in motivational interviewing. Alcoholism-Clinical and Experimental Research, 28 (5), 74A.
  • Barnett, E., Spruijt-Metz, D., Moyers, T. B., Smith, C., Rohrbach, L. A., Sun, P., & Sussman, S.(2014)Bidirectional relationships between client and counselor speech: the importance of reframing. Psychology of addictive behaviors, 28 (4), 1212-1219.
  • Borsari, B., Apodaca, T. R., Jackson, K. M., Mastroleo, N. R., Magill, M., Barnett, N. P., & Carey, K. B.(2015)In-session processes of brief motivational interventions in two trials with mandated college students. Journal of consulting and clinical psychology, 83 (1), 56-67.
  • Houck, J. M., & Moyers, T. B.(2015)Within-session communication patterns predict alcohol treatment outcomes. Drug and alcohol dependence, 157, 205-209.
  • Miller, W. R. & Rollnick, S.(2013)Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.) Guilford Press.(原井宏明監訳(2019)動機づけ面接(第3版).星和書店.)
  • Moyers, T. B., Martin, T., Christopher, P. J., Houck, J. M., Tonigan, J. S., & Amrhein, P. C.(2007)Client language as a mediator of motivational interviewing efficacy: where is the evidence?. Alcoholism: clinical and experimental research, 31, 40s-47s.

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(さわみや・ようこ)
東京成徳大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,動機づけ面接トレーナー(MINT)

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(さとう・ようすけ)
埼玉学園大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

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