掛井一徳(かけい臨床心理相談室)
シンリンラボ 第16号(2024年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.16 (2024, Jul.)
今回,書評の依頼を受けた時点で驚いていたのですが,タイトル「“令和型不登校”クイックマニュアル」を見て,さらに驚きました。令和型不登校とは,タイトルとしてあまりにもキャッチーすぎますし,クイックマニュアルだなんて,不登校はそんな簡単なものじゃないよ! と思ったところで「これは出版社の都合で無理矢理決められたに違いない」と気づきました。
著者ご本人に尋ねたところ「いいえ,このタイトルは私がお願いしました」とおっしゃられ,逆に私がタイトルにケチをつけた形になってしまい慄きました。
しかし,内容を見てみると,令和型不登校について,統計や事例を踏まえた分析がされており,ちょうど令和に入る前後,コロナ期に私自身が臨床の現場から離れていたこともあって「令和型不登校というタイトルでよかったのだ」と非常に納得をいたしました。
特に「学校との相性」「棘」というワードで「子どもが上手く言葉にできず,教師にもはっきり見えていない学校の嫌な感じ」について具体的に示されているので,これが補助線となって,教師や支援者からは,子どもの今の姿が少し見えやすくなるのではと感じました。ここまで読み進めて,令和型不登校の特徴とは「見えにくさ」「具体性の乏しさ」なのだなというところがやっと見えてきました。
第二部は未然防止編です。中学2年生の架空事例を通して,未然防止のためのケース会議のやり方について,かなり具体的に,マニュアル的に記述されています。未然防止の段階,つまり「まだ学校に来ているがリスクの高い状態」では,3人以下の少人数で機動力の高い「コア対応チーム」を組織し,現在と過去の情報を集約し,支援シートやアセスメントシートを作った上で,対応と対応会議を繰り返しながら,その場その場で関われるメンバーが対応し,アセスメントを深めていくと。
P.47にある「複数の教職員が,それぞれのポジションから支え,決定的な決め手など不明なまま,支援が継続していく体制が基本となるべきです」という言葉などは,まさに孫子の兵法の虚実編にあるような「無形無声」のチームになるということです。
はっきりと形のあるものには,目標と方針を定めて,順々にやるべきことをやっていけば解決できることが多いですし,教師はそういうことが得意です。学校で起こった複雑で見通しのつかない事象に対して,取り掛かるための手がかり,取っ手,ハンドルをつけることがスクールカウンセラーのチーム内での仕事,アセスメントと思い,これまで仕事をしてきました。
そもそも,不登校と言うのは,学校の中での対応としては見えにくい部類のものではあります。それが令和型不登校になるとさらに見えにくくなり,さらにその未然防止活動とくれば,かすかな兆し(リスク)や,学校への嫌な気持ち(棘)への気づきを,各メンバーがネットワークを作って共有し,決まった形のないままで,なんとなく,その場その場の柔軟な対応して,それで結果としてうまくいくのが「よし」であると。
それは非常に実践的かつ,難易度の高いチームマネジメントの「クイックマニュアル」ということです。クイックであるけど決してイージーではないということです。
今まではスクールカウンセラーが黒子として,見えないところで,学校組織を支えていくというイメージでいましたが,本書では「教師が複数人の黒子になって連携しつつ,人知れず動いたっていいじゃないか。そのための筋道をわかりやすくパッと示すよ」という意味でのクイックマニュアルであることに気づきました。「タイトルに偽りなし」ということで書評を閉じさせていただきます。
掛井 一徳(かけい・かずのり)
所属:かけい臨床心理相談室/ひだまりこころクリニック
資格:臨床心理士/公認心理師