動機づけ面接入門(8)学生支援に活かす動機づけ面接|瀬在 泉

瀬在 泉(防衛医科大学校)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

1.なぜ学生支援に動機づけ面接?

筆者は15年ほど大学の学生支援部門にて心身の相談支援業務を経験した後,現在は公衆衛生看護の教員として講義や演習,実習に奔走する毎日を送っている。一口に学生支援といっても日常の窓口対応から学習支援,さらには特別なニーズや困難を抱える学生への対応までその守備範囲は実に広い。日々学生への対応はこれでよかったのかという悩みの連続であるが,同時にこれまでさまざまな場面で動機づけ面接(以下,MI)からの学びを1つの道標としながら取り組んでいる。

今回は,主に大学年代に対する学生支援において,MIの考え方や技術がヒントになるようなトピックについて事例を通して紹介する。今,学生支援の場で抱える課題の1つとして,いわゆる「悩みを抱えていながら相談に繋がらない学生への対応」が挙げられている(木村,2017)。MIはもともと飲酒や薬物など依存症の行動変容に効果的な面接技法として注目されたが,それはコーチングや認知行動療法など専門的な支援にまでなかなか辿り着かない,いわゆる行動変容ステージの「準備期」に至らない層(無関心期や関心期)へのアプローチとして参考になる。学生の抱える問題は学業不振や心身の不調,進路の問題など個々に多様であるが,筆者の経験では学生(や保護者)が学内のいずれかの部署(教職員)に繋がっていてその糸が切れない限りは,いずれ学生の持つ「力」によって学生生活の意味を自ら見出せる帰結を迎えていくように思う。つまり,なかなか相談に繋がらない学生(や保護者)と教職員を繋ぎ,学生の潜在的な力を引き出す一助となるのがMIではないかと考えている。

なお本稿では,学生支援の諸活動として日常的学生支援,制度化された学生支援,専門的学生支援の3階層で表されている「学生支援」のモデルを基にしている(日本学生支援機構,2007)が,詳細な定義や具体的な諸活動については成書を参考にして頂ければと思う。

*以下,CT→チェンジトーク,ST→維持トーク

2.窓口の対応で――学生の持つ両価性を理解しつつスピリッツで会話を引き出す

事例:大学3年生。就職課から何度か催促が来ている状況確認と面談予約の連絡を返信できておらずそのままになっていたが,たまたま他の用件を済ませたついでに就職課の窓口にも足を運んでみた。
学生(以下,学):(窓口に来て立っている)……。
担当者(以下,担):こんにちは。……。どうかされましたか?
学:……。メールが……。
担:あー,メールが来て……。(単純な聞き返し)
学:……。はい……。
担:とりあえず窓口に行ってみよう,と……。(状況の聞き返し)
学:……,はい。
担:そうですか,よく尋ねてくれましたね。ありがとうございます。(是認)
学:あ,いえ,でももう予約期日過ぎているので……。
担:ええ,ええ。よかったら,こちらの椅子に掛けませんか?
学:はい。
担:こちらに来るの,すごく勇気が必要でしたね……。(気持ちの聞き返し)
学:……。まぁ……。いえ……。そろそろ行かなきゃなと思ってましたから……。
担:行かなきゃってね……,というと……?(単純な聞き返し・発話を促すための開かれた質問)
学:……。いや,周りの友達が就職課の職員さんと話をしたとか言っていたし,もうすぐ4年なんで……。
担:ああ,そうなんですね……。で……。
学:……。あ,え,やっぱりみんな3年生で動きますよね? 学校からもそう言われていたし……。……。でももう遅いし無駄かなって……。
担:無駄だし……,学校からも3年生から行動しようって。で,そういう風に言われるとちょっと気がかり……。(STとCTを含めた聞き返し)
学:……。まぁけっこう焦ってます,焦っているけど,なんかピンと来てなくて,今に至るって感じで……。
担:そうなんですね,焦る気持ちも少しあって,もういいかって思いつつ,メールも来ていたし,この際話だけでも聞いてもいいかなと……。(両価性のある気持ちを含めた聞き返し)
学:……。まぁそんなところです。
担:もし時間があれば,こちらから情報を伝えたいのですが,今特にどんな情報があると役立ちそうですか?(情報提供のための開かれた質問)
学:正直,どんな仕事に就くとか職種とか今は全く考えられなくて……。
担:そうなんですね。すぐお役に立つかは分かりませんが,こちらには仕事の内容や職種のことなど資料もあるので,ちょっと見ていきますか?(許可のある情報提供)

この事例はよく遭遇する窓口での様子である。窓口が閉まるギリギリの時間だったり,こちらの意図しない形で学生が訪れることもある。「何だか要領えないなぁ……」とつい一言いいたくなる場面だが,こういう時こそMIの基本であるスピリッツとプロセスは指針になる。

まずは最初のプロセス「関わる」ために,こちらから伝えたいことや質問は極力抑え,言葉や表情,態度から聞き返しを丁寧に行い,労い,正確な共感につとめることを優先させたい。事例では少ない言葉(「……(沈黙)」や「はい」)から短い聞き返しに徹している。学生が抱えている両価性「そろそろ就活に動かなければいけない」と同時に「もう遅いし無駄」を引き出し,関係性を築いてから次の段階,話題の焦点化や必要な情報提供・情報交換にフェーズを移している。

3.教員との面接で――協働作業の確認とアジェンダ設定,STに付き合う

事例:大学2年生。看護実習の振り返り記録を白紙で提出し,教員に面談を指定される。
教員(以下,教):今日は忙しい中,時間をとってくれてありがとうございます。
学:……。
教:呼ばれてちょっと困ってるって感じかな……。(様子から気持ちを推測した聞き返し)
学:……。私,別に困っていませんし。なんで私だけ呼び出されるんですか。
教:ちょっと嫌な気持ちにさせちゃいましたね。実はねこの実習の記録のことが気になって……。記録,ちょっと難しいかな。(気持ちや状況の聞き返し)
学:……。難しいというか……。書きたくないです。書けません。
教:書けない……。(単純な聞き返し)
学:はい,こんな風に呼び出されてもホントにもう無理ですから,自分。
教:今日は何か評価をしようとか注意をしようとかいうことではなくて,Aさんと一緒に考えたいと思って来てもらいました。だから,もし気が向かなかったらお話しなくてもいいんですよ。
(協働作業の確認・自律性の尊重)
学:……。そうなんですか,分かりました。少しなら。
教:さしつかえなければ,どんなことが無理なのか,もう少し教えてもらってもいいですか?(ST側の開かれた質問)
学:……。私,患者さんとコミュニケーションをとることが本当に苦手で。
教:コミュニケーション……。(単純な聞き返し)
学:みんなはどんどん患者さんと話しているけど,私はベッドサイドに行っても何を話していいか分からないし,患者さんと話すのが楽しいっていう人がいるけど信じられません。
教:どうしていいか分からない……。(ST側の単純な聞き返し)
学:……,本当に苦痛です。……。コミュニケーションって看護の基本って言われるじゃないですか。それが出来ないというのは致命傷だなって。
教:……。致命傷……。というと?(単純な聞き返し・CTの種を意識した開かれた質問)
学:……。患者さんをアセスメントするにも情報が必要だし,まずはコミュニケーションで信頼関係を築け,と習っているし……。でもそれが本当に無理で。
教:そっか……,Aさんはコミュニケーションが大事だって分かってて。だから致命傷だなって。(是認・CTの種を意識した聞き返し)
学:そりゃそうですけど,あれってもともとの才能じゃないですか。私そんな才能ないし……。無理です。
教:才能ね……。そんな中,ベッドサイドにはとにかく頑張って行ったわけだ……。
(単純な聞き返し・是認)
学:だって,行くしかないじゃないですか……。単位落とすわけいかないし……。
教:単位は落としたくないんだ……。(CT側の聞き返し)
学:……,まぁ矛盾してますけど。単位はほしいです。
教:入ったからには卒業したい……。(CT側の聞き返し)
学:そりゃそうですよ……。今さらやり直しは出来ないですから。でもこんな状態じゃ無理ですよね……。
教:せめて単位を落とさない程度には記録を書きたい……って感じかな。どうだろう,Aさんがよかったらなんだけど,患者さんと話しが続くコツとそこから記録にどういう風に繋げるか,一緒に考えてみませんか?(CT側の聞き返し・アジェンダの提案)
学:……。そうですね……。

事例は学業の成果が思わしくない学生に対する面接の場面である。何かしらのつまづきを抱えている学生と対応する初期は,不協和発言やSTを多く耳にすることも少なくない。むしろこのような心理的リアクタンスは若年者の自然な反応ともいえる(Sylvie et al. 2021)。MIの原則は相談者の両価性を引き出しつつCTを強化することを目指すが,若年者との面談ではCTの増加を直接的に目指すよりも,CTとは相対するSTや不協和発言を出来るだけ少なくするよう早めに応答するだけでも行動変容に関連することが示唆されている(Baer et al, 2008)。

事例では,まずは無言や態度から伝わる不協和状況に対し,状況や気持ちを推測した聞き返しに徹し議論を避けている。そして「書けない,書きたくない」「自分には無理」というSTを引き出し,聞き返しや開かれた質問でST側についていきながら,学生にとってのCT「単位を落とすわけにはいかない」を引き出した。原則としては単位を落とすわけにはいかない理由をさらに強化してもよいが,この事例ではあえてそれをせず,学生にとって単位を落とさないための方策を一緒に考える方向で話をすすめた。

学生に圧迫感を与えることが予想される面接の場ほど,一方的な判断や許可のない助言,批評することを避け,MIのスピリッツ,例えば事例にもあるようにこの場は学生の自律性が尊重されること,協働的にアジェンダを一緒に設定することなど工夫できる。筆者自身も学生のCTを性急に引き出したり深めようとして,逆にSTが増えたり不協和的な状況に陥ることも多々あるが,STや不協和発言を学生の変化を考える機会として認識し焦らずに対応することが,結局は行動の変化に通じることを心に留めたい。

4.保護者からの電話対応で――保護者も一緒にチームで学生を支える

事例:大学1年生。父親より学習相談室に電話が入る。前期試験に遅刻し入室拒否され,パニックになって帰宅したことについての問い合わせ。
担当者(以下,担):学習相談室です。
保護者(以下,保):息子が試験を受けられなかったと言って,パニックになって帰ってきました。一体,どういうことでしょうか?! 単位は取れないということでしょうか?!
担:息子さんが試験のことでパニックを……。(単純な聞き返し)
保:そうです,泣いてばかりで何も話してくれないので,らちがあきません。学校で何があったんですか?!
担:それはご心配ですね。ご連絡をありがとうございます。こちらも何か力になりたいと思うので,もう少し話を聞かせて頂けますか?(気持ちの聞き返し・是認・開かれた質問)
保:……。まぁ……。今に始まったことではないので,またか,というか……。
担:これまでもこんなことが……。(単純な聞き返し)
保:……。ええ,まぁ……。何か学校で嫌なことがあると,頭がパニック状態になって,整理がつかないみたいなんです。……。高校もいろいろあって。まぁ何とか卒業はしましたが。
担:そうでしたか。高校時代は親御さんとご本人と二人三脚で……。(状況を想像した聞き返し)
保:まぁ妻が一生懸命やってくれましたから。
担:奥様が……。ここまでのご尽力に頭が下がります。高校時代は例えばどんな工夫をされていたのでしょうか。(是認・知恵を共有するための開かれた質問)
保:……。息子は学校で嫌なことがあるとずっと部屋にこもって……。ゲームに逃げているというか……。でも無理やり取り上げるとさらにパニックを起こすので……。妻は息子の機嫌を損ねないようにしながら,学校の宿題ファイルを作ったり,試験の範囲は担任の先生に直接確認したり……。
担:……。ここまでさまざまな工夫をされてこられたのですね。(是認)
保:ええ,まぁ……。ただ,大学に入って本人がどんな勉強しているのか,どんな風なやり方になっているのかは,正直自分は分らないです。もうあまりうるさく手を出す年代ではないですし。しかし,相変わらず夜遅くまでゲームは続いているようですし,上手くいっていないだろうなとも思ってます。
担:そろそろ自立してもらいたい,そして,大学に入って上手くやれているのか少し心配で……。
(両価性を含めた控え目な聞き返し)
保:いやかなり心配ですよ,あの調子だと学校に行かなくなるのも時間の問題でしょう。
担:今後に向けて何か出来ることがあれば……,という……。(CTを意識した聞き返し)
保:……。実は高校のカウンセラーの方には相当お世話になりました。しかし,大学は本人が自分で頑張るしかないんでしょうね。
担:そうだったのですね,試験の件もご心配ですよね。……。もしよろしければ,大学が息子さんに出来そうな支援について,一緒に考える機会を頂ければと思うのですが,いかがでしょうか。(許可のある提案)

学生支援において学生が特別なニーズや困難を抱えている場合,特に保護者やさまざまな教職員が連携しながらチームで学生を支える必要がある(石隈, 2005)。また2016年施行の障害者差別解消法では大学での合理的配慮の提供が義務となった一方で,学生本人や保護者からその意思が明確に表明されるまでにはさまざまな葛藤を伴うことは想像に難くない。事例では学生のアクシデントをきっかけに,保護者の抱える「大学でも(子どもを)サポートしてほしい」,同時に「もう大学生なんだからこれを機会に自立して頑張ってほしい」という苦しい葛藤を丁寧に引き出しつつ,ここまでの苦労を労い,協働作業で保護者の持つ知恵を共有しつつ専門的な支援に繋げるプロセスが表されている。

困難な状況を呈している学生を前にすると,つい課題や問題点ばかりに目が向きがちであるが,大学年代に至るまでの学生の「歩み」や「強み」,そして学生を取り巻く「資源」に注目することをMIは教えてくれる。

5.おわりに

中高生を含む学生支援の場におけるMIの有効性としては,飲酒や喫煙行動への介入以外にも,学生・生徒の精神的不調や成績不良,障害学生のキャリア発達への効果が示されている(Laura et al. 2016)。また,少し古いデータではあるが英国のEducational psychologistの3人のうち1人は日常的に用いている心理的アプローチとしてMIを挙げている(Atkinson. et al. 2011)。

既出の通り,MIは万能ではないし使い時があることは前提ではあるが,筆者自身は特に学生との関わりに迷いが生じている時,MIが助けになることを実感している。日本でも学生支援の場においてMIがさまざまな形で役立つことを願う。

文 献
  • Atkinson, C., Bragg, J., Squires, G. et al.(2011)Educational Psychologists and therapeutic interventionsーpreliminary findings from a UK-wide survey. DECP Debate, 140; 6-12.
  • Baer, J. S., Beadnell, B., Garrett, S. B. et al.(2008)Adolescent change language within a brief motivational intervention and substance use outcomes. Psychology of Addictive Behaviors. 22 (4); 570-575.
  • 石隈利紀(2005)学校心理学—教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス.誠信書房.
  • 木村真人(2017)悩みを抱えていながら相談に来ない学生の理解と支援.教育心理学年報,56; 186-201.
  • Laura, S. & Cathy, A.(2016)The evidence for student-focused motivational interviewing in educational settings: a review of the literature. Advances in School Mental Health Promotion, 9 (2); 119-139. https://doi. org/10. 1080/1754730X. 2016. 1157027
  • 日本学生支援機構(2007)大学における学生相談体制の充実方策について―「総合的な学生支援」と「専門的な学生相談」の「連携・協働」.https://www. jasso. go. jp/gakusei/publication/jyujitsuhosaku. html(2023年7月1日閲覧)
  • Sylvie, N. & Mariann, S.(2011)Motivational Interviewing with Adolescents and Young Adults. Guilford Press.
  • Sylvie, N. & Mariann, S.(2021)Motivational Interviewing with Adolescents and Young Adults. second edition. Guilford Press.
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瀬在 泉(せざい・いずみ)
防衛医科大学校医学教育部看護学科 地域看護学講座 准教授
資格等:保健師,看護師,公認心理師,動機づけ面接トレーナーネットワークメンバー(MINT),博士(ヒューマン・ケア科学)
主な著書は,『保健医療・福祉領域で働く心理職のための法律と倫理』(分担執筆,ナカニシヤ出版,2016),『リーダーのための動機づけ面接』(監修,幻冬舎,2019),『代替行動の臨床実践ガイド』(分担執筆,北大路書房,2022)

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