動機づけ面接入門(1)動機づけ面接とは|沢宮容子・佐藤洋輔

沢宮容子(東京成徳大学)・佐藤洋輔(埼玉学園大学)
シンリンラボ 第1号(2023年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.1 (2023, Apr.)

「医者からとめられているのに,ついついタバコに手がのびてしまう」。「受験前なのに,ゲームにはまってやめられない」。支援者ならきっとこんな相談者に出会ったことがあるだろう。なぜ彼らはやめられないのだろうか。なぜ行動を変えないのだろうか,変えられないのだろうか。行動を変えるのは多くの人が想像するほど容易なことではない。習慣化した行動は膠着状態に陥り,なかなか行動変容に結びつかないもの。それが現実だ。

そんなときに有効性を期待されるのが,動機づけ面接(Motivational Interviewing,以下MI)である。MIとは,協働的なスタイルの会話によって,相談者自身が変わるための動機づけを高め,行動変容を促す方法とされている(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)。ただし,MIは,あっという間に相手が変わるというような魔法の杖ではない。相談者の言葉からささやかな行動変容への糸口を見つけ,それを少しずつ広げたり深めたりしていく,いたって地道な協働作業である。

本連載では,「動機づけ面接入門」として,初めてMIを知った,あるいは興味を持って学びはじめた方に対して,MIの基礎理論を解説した上で,8人の専門家が,MIの(あるいはMIに関連した)実践と応用について紹介する。第1回では,動機づけ面接の定義や成り立ち,特徴について概説する。

1.動機づけ面接とは何か

MIのはじまりは,1980年代に米国で行われた研究にさかのぼる。ミラーMillerら(1980)は,当時米国で深刻となっていた飲酒行動の問題(アルコール依存症など)を抱える参加者に対して,行動療法の枠組みに基づいた自己管理マニュアル配布群と,カウンセラーによる行動療法セッション群の介入効果を比較した。その結果,2つのグループ間で飲酒量の変化に有意な差はなかった。しかし,行動療法セッション群のデータを細かく見ていくと,介入を行ったカウンセラーの共感度によって飲酒量の変化にかなりバラツキのあることがわかった。参加者の飲酒量の減り具合は,介入を行ったカウンセラーの特徴に影響を受けていたのである(Miller, 1983)。これをきっかけに,ミラーはロルニックRollnickとともに優れた成果を出すカウンセラーの特徴について議論を重ね,MIの原型が形作られていった。その後,MIの効果については多くの実証研究が行われ,複数の研究を対象としたメタアナリシスからも当初の対象であった飲酒や薬物使用だけでなく,喫煙,ギャンブル,健康増進,育児などのさまざまな行動について,その有効性が示された(Lundahl et al., 2010)。現在では犯罪者の矯正(Clark, 2005)などの司法分野においても活用されており,「行動変容を促す」というその特徴から,非常に汎用性の高い方法である。

2.MIはどのようにして変化を引き起こすのか

変化は人生において避けられないものであり,時に個人の成長や問題解決のために不可欠なものである。しかし,特に古い習慣にとらわれたり,困難な問題に直面したりした場合,変化は困難を伴う。そこで,MIの出番である。MIがどのように人々の変化を引き起こすのかを理解するために,まずは変化が必要な場面での人の心理状態について知っておく必要がある。変化が求められているとき,人々はたいてい次のような葛藤状態に陥っている。

① 接近―接近葛藤

これは,同じくらい魅力的な2つの選択肢の中から,1つを選ばなければいけない状態である。例えば,レストランに入ってどの料理を注文しようかと迷っている状態などがこれにあたる。この場合,片方の選択肢に絞ろうとするほど,もう一方の選択肢がより魅力的に感じられて葛藤が生じる。

② 回避―回避葛藤

この場合,同じくらい不快な2つの選択肢の中から,どちらかを選ぶことが求められる。「前門の虎,後門の狼」ということわざが示すように,どちらかに進もうとしてもその脅威はますます強くなり,どちらからも逃げようとして最終的に動けなくなってしまう。

③ 接近―回避葛藤

①・②のタイプの葛藤とは違い,1つの対象が魅力的な側面と不快な側面の両方を持っている場合に生じる。例としては,どうしても購入したい商品があるが,金額が予算をオーバーしてしまっている場合などが挙げられるだろう。このような状況では,購入を現実的に考えるほど予算のやりくりや購入後の家計への影響を考えることを余儀なくされるが,購入を諦めようとすると,とたんにその商品がますます魅力的に見えてくるのである。

④ 二重接近―回避葛藤

これは,2つの目標がそれぞれ魅力的な側面と不快な側面を持っているような状況である。例えば,ダイエットをしている時に「美味しい(魅力)けれどカロリーが高い(不快)」食品と,「美味しくない(不快)けれどカロリーが低い(魅力)」食品の,どちらかを選ぶような場合である。どちらかを選択しようとすればするほど,その選択の不快な側面が強くなり,もう一方の選択肢がより魅力的に見えてくる,最もストレスの強い葛藤状態と言える。

ここから読み取れることは,人は葛藤状態にある時,何らかの行動を起こそうとすることによって「行動すること」への不快感が強くなったり,「そのままでいること」への魅力が強まったりするということである。たいてい,悩みを抱えて自ら来談するクライエントの多くは「変わりたい」という気持ちを持っており,「変わるべき理由」についても理解している。しかしながら,同時に「今のままでいること」のメリットや理由も持っており,すでに頭の中で2つの選択肢について十分に議論を行っているのだ。つまり,どのような葛藤であれ,そこに「変化」を踏みとどまらせる何かがあるのであれば,「変化すること」も「そのままでいること」も本人にとっては価値のあることなのである。MIでは,このような「変化すること」と「そのままでいること」の価値の間でゆれ動くジレンマを「両価性」としてとらえ,クライエントの抱える両価性を明確にした上で,「行動すること」の価値や理由が高まるようにクライエントの発言を促すことにより,変化への動機を高めることをめざす。

それでは,変化につながるクライエントの発言とは,どのようなものを指すのだろうか。クライエントが両価性を抱えている場合,その発言の中には2種類の会話が存在することが多い。その1つはチェンジ・トークと呼ばれるもので,これは変化に向かう発言のことを指している。例えば,「お酒を控えたい」「喫煙が身体に悪いのはわかっている」「今のままでは何も解決しない」という発言がこれに当たる。言うなれば,変化することの価値を認め,変化に向かって歩みたい,歩むべきだという宣言である。その反対に,変化に否定的で,現状のままでいることに価値を見出そうとする発言のことを維持トークと呼ぶ。例えば,「ストレスがたまるとついお酒を飲んでしまう/タバコを吸ってしまう」という発言がこれに当たる。両価性を抱えたクライエントとの会話の中では,この2つの会話が次の例のように混ざり合って発言される。

「もうお酒はやめようとずっと思っているんです(チェンジ・トーク),でもストレスがたまると,我慢できずについ飲んでしまって……(維持トーク)。家族からもやめたほうがいいとは言われているんですけど(チェンジ・トーク),自分ではどうにもコントロールできないんです(維持トーク)」

このような両価性の含まれたクライエントの発言に対して,援助者がクライエントの間違いを正すような指摘をしたらどうなるであろうか。例えば,慢性的な飲酒がクライエントの健康に及ぼす被害について説明したり,クライエントの飲酒が原因で生じている家庭内の不和や経済的な問題について指摘したりした場合の,クライエントの反応を想像してほしい。多くの場合には,援助者の指摘に対してクライエントは「それはわかっているんです。でも……」と続けることだろう。これは援助者がクライエントを正しい方向に導こうとしてかえって変化への抵抗を生じさせている一例であり,間違い指摘反射と呼ばれるものである。援助者の側はたいていクライエントが進むべき道筋について把握しており,説得するための知識も持ち合わせている。そのために,間違った道を進もうとするクライエントに対して,ついついその選択のマイナス面を指摘し,正しい道に誘導したくなってしまう。しかしながら,先にも述べたように変化することの重要性やメリットについてはクライエント自身がすでに理解している可能性があり,援助者からのアドバイスが役に立たないこともしばしばあるのだ。むしろ,援助者が変化に対して賛成の立場を取れば,クライエントはバランスを取ろうとして反対の立場に立とうとするのである。すなわち,クライエントが変化に向かって歩みを進めるためには,他者から指示されるのではなく,クライエントの内面に存在する動機を引き出し,クライエント自身が変化に対して賛成の立場を取りやすいように関わる必要がある。こうした変化の特性から,MIでは次に示すコミュニケーション様式の連続体(Miller et al., 2013/原井ら訳,2019)のうち,追従と指示の中間にある案内(ガイド)的なスタイルを取るという特徴がある。

3つのスタイルのうち,左端の指示スタイルにおいては,援助者はクライエントに対して情報を提供したり,指導,助言を与えたりすることが中心となる。一方,右端の追従スタイルにおいては,援助者はクライエントの語りにひたすら耳を傾ける。こちらから具体的な提案などをすることはせず,クライエントの知恵や力を信じて寄り添うように関わることになる。そして,この2つのスタイルの中間に存在するのが案内(ガイド)スタイルである。例えば,外国旅行をする際に現地ガイドを雇う場面を想像してほしい。ミラーらは腕のいいガイドというものは,「行くべきところ,見るべきところを一方的に指図する」のでも「旅行者にただ従順についていく」わけでもないと述べている。基本的に聞き上手であるが,必要なところでは専門的知識を提供してくれるのが腕のいいガイドということなのだ。クライエントは自らの進みたい道を自分で決めるわけだが,そのために必要な情報や手段は援助者が提供する。その点で,MIでは指示スタイルと追従スタイルの両方の側面を取り入れたガイド的なスタイルが重視されているのである。

3.MIに関する10のnot

さて,ここまでで,MIとはどのような方法であり,変化を促すとはどのようなことか,大体のイメージはつかめただろうか。次に,MIの特徴をさらによく理解するために,「MIに関する10の“not”」を紹介したい。これは,MIについて改めて定義を行い,さらなる議論を重ねるために,ミラーら(2009)がまとめた「MIではない」10の特徴を表すものである。ぜひ,自らのMIに関するイメージや先入観と照らし合わせて,MIの理解を深めるために活用してほしい。

(1)MIとは多理論統合モデルに基づくものではない

多理論統合モデル(Transtheoretical model,以下TTM)とは,嗜癖に対する新たな治療モデルであり,変化が生じるプロセスを5つのステージ(前熟考期,熟考期,準備期,実行期,維持期)から説明したものである(Prochaska et al., 1984)。MIと同時期に広まったTTMとMIは相補的な関係にあるが,MIはTTMを基盤として形作られたものではない。TTMと違ってMIでは変化のプロセスを包括的に説明することを目指していないし,MIが変化のステージに合わせて実施されるわけでもない。前熟考期にあるクライエントがいきなり実行期に移行する可能性も想定し,実行期のクライエントにも両価性が存在することを考慮したうえで援助を行うのが,MIなのである。

(2)MIは人々を望まない方向へ誘導するための方法ではない

MIとは,クライエントの意思とは無関係に,クライエントを援助者の思い通りに動かそうとするトリックではない。MIは「行動を選択するのはその人自身である」という前提に立ち,クライエントの主体性を尊重するところから始まる。そのため,MIが行うことはクライエントの中に存在する変化についての主張を引き出すことであり,もしその人が変化するための動機を全く持っていなければ,MIが新たに動機を創造することはできない。

(3)MIはテクニックではない

MIとは,変化を促すためのシンプルな方法や,マニュアル的な手続きといったテクニックを指すものではない。むしろMIで重要となるのは,すべてのMI実践の根底に存在する「スピリット」である。詳しくは後の回で解説するが,MIの基盤となるスピリットは①「パートナーシップ」,②「受容」,③「思いやり」,④「引き出す」の4要素から構成される。

(4)MIは意思決定バランスのアプローチではない

意思決定バランスのアプローチ(Janis et al., 1977)では,変化のメリットとデメリットの両面について探索するが,MIは変化の会話(チェンジ・トーク)に選択的にフォーカスし,変化についての動機づけを強化する。

(5)MIは評価についてのフィードバックを必要としない

MIでは,クライエントに援助者からの評価をフィードバックすることは必須ではない。フィードバックは特に変化への準備が整っていないクライエントにとって役立つこともあるが,MIにおいては必要条件でも十分条件でもない。

(6)MIは認知行動療法の一形態ではない

認知行動療法にはコーピングスキルや適応的思考など,クライエントに不足しているものを提供することが含まれる。一方でMIではクライエントに新たなスキルを提供するのではなく,クライエントが本来持っているものを引き出すことが目指される。この点で,MIの概念やスピリットは行動主義的というよりは,人間性心理学的なものであるといえる。

(7)MIはクライエント中心療法ではない

クライエント中心療法における知見や方法は,MI実践の基礎を成している。しかしながら,MIは「変化に向かって進む」という点で目標指向的であり,チェンジ・トークを選択的に引き出し,強化しようという明確な意図を持っている。これが,従来のクライエント中心療法とは大きく異なる点である。

(8)MIは簡単ではない

MIはシンプルだが,簡単ではない。これは,スポーツや楽器の演奏方法を学ぶことと似ている。熟練者は何の問題もなくやってのけるように見えるが,初心者にとっては,一通りのやり方を学んだからといって,すぐに熟練者と同じようなパフォーマンスを発揮できるわけではないだろう。MIも同じで,その方法を習得するためには,自己学習やワークショップに参加するだけではなく,フィードバックやコーチングなどを受けながら時間をかけて訓練することが必要となる。

(9)MIとは,これまでにあなたがやってきたことではない

MIに初めて触れた方の中には,「こんなことはすでにやっていることばかりだ」と感じる人が多いかもしれない。しかし,MIの理解や習得における自己認識と,実際のMIの熟練度や効果は関連しない(Miller et al., 2001, 2004)。MIは熟練した臨床家のスキルを洗練させて形作られたものであり,MIの訓練を受けずにその奥義を自然に身に着けることはきわめて困難である。

(10)MIは万能薬ではない

MIはあらゆる問題を解決するための万能薬ではない。MIは行動やライフスタイルの変化を必要とし,またその変化に対して両価性を抱える人々のために開発されたツールである。そのため,すでにクライエントが明確なゴールに向かって変化する準備ができていれば,必ずしもMIを用いる必要はないし,またMIを用いることによってクライエントにとって不利益となることが予想される場合にも,MIは用いられるべきではない。

一方で,MIは他のアプローチと併用することも有効である。冒頭で述べたように,MIは特定の理論や体系から開発されたものではない。動機づけに関する特定の理論を持たないことは欠点にも見えるかもしれないが,だからこそMIには認知行動療法や薬物療法,栄養指導などの他のアプローチにもよく馴染むというメリットがあるのだ(原井,2012; 2015)。これは,熟練した専門家にとっても,大きな魅力と言えるだろう。

文献
  • Clark, M. D.(2005)Motivational Interviewing for Probation Staff: Increasing the Readiness to Change(Part I). Federal Probation, 69(2)22-28.
  • 原井宏明(2012)方法としての動機づけ面接: 面接によって人と関わるすべての人のために. 岩崎学術出版社.
  • 原井宏明(2015)動機づけ面接.心と社会,46(3)99-104.
  • Janis, I. L. & Mann, L. (1977)Decision Making: a psychological analysis of conflict, choice and commitment. New York: Free Press.
  • Lundahl, B. W., Kunz, C., Brownell, C. et al.(2010)A meta-analysis of motivational interviewing: Twenty-five years of empirical studies. Research on social work practice, 20(2)137-160.
  • Miller, W. R. (1983)Motivational interviewing with problem drinkers. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 11(2)147-172.
  • Miller, W. R. & Mount, K. A.(2001)A small study of training in motivational interviewing: does one workshop change clinician and client behavior? Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 29, 457–471.
  • Miller, W. R., & Rollnick, S. (2009)Ten things that motivational interviewing is not. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 37(2)129–140.
  • Miller, W. R. & Rollnick, S. (2013)Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press. (原井宏明監訳(2019)動機づけ面接 人が変わることを援助する(第3版).星和書店)
  • Miller, W. R., Taylor, C. A., & West, J. C. (1980)Focused versus broad-spectrum behavior therapy for problem drinkers. Journal of consulting and clinical psychology, 48(5)590.
  • Miller, W. R., Yahne, C. E., Moyers, T. B., Martinez, J. & Pirritano, M. (2004)A randomized trial of methods to help clinicians learn motivational interviewing. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 72, 1050–1062.
  • Prochaska, J. O. & DiClemente, C. C. (1984)The Transtheoretical Approach: crossing traditional boundaries of therapy. Homewood, Illinois: Dow/Jones Irwin.

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(さわみや・ようこ)
東京成徳大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,動機づけ面接トレーナー(MINT)

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(さとう・ようすけ)
埼玉学園大学
資格:博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

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