動機づけ面接入門(9)司法領域における動機づけ面接の活用|山田英治

山田英治(公認心理師・MINT認定動機づけ面接トレーナー)
シンリンラボ 第9号(2023年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.9 (2023, Dec.)

1.はじめに

動機づけ面接(以下,MI)は,アルコール依存症の治療における活用に始まり,その他の薬物への依存,減量,その他の不健康な行動の変容を促進するために用いられ,効果を示している。MIは,薬物依存症治療におけるエビデンスに基づく実践としてすでに確立されていたため,司法領域におけるエビデンスに基づく実践の流れを受けて,司法領域の現場でも注目されるようになった。Stinson & Clark(2017)は,「どのような人を対象にしても,行動変容を促すメカニズムは同じである。これが,動機づけ面接が一見して異なる集団にこれほど幅広く適用できる理由である」と述べている。一方で,エビデンスに基づくということは,特定の介入方法は万能の杖ではないことを示しており,どのような状況で,どういう時に役立つのか,役立たないのかが分かるということでもある。

本稿では,司法領域におけるMIの活用について,刑事・少年事件(加害者への改善更生に向けての働き掛けと被害者支援),家事事件(とりわけ離婚,面会交流,虐待,DVなどの家庭問題)のそれぞれのポイントについて示す。司法領域におけるクライエントについてはさまざまな呼称があるが,刑事・少年領域の犯罪をした者や非行をした少年を「対象者」,犯罪や非行の被害を受けた人々を「被害者」,家事領域のクライエントを「当事者」と記す。

2.刑事・少年司法における動機づけ面接

刑事・少年司法手続においては,対象者の向社会的行動を促し,再犯や再非行を防止することが求められている。司法領域において,MIは,専門職が対象者の社会的,健康的かつ前向きな変化を促すと同時に,遵守事項違反や再び法令違反をした場合についての説明責任を果たす際に活用されている。

刑事・少年司法領域においては,警察,検察という捜査機関,裁判という判断・決定機関,保護,矯正という処遇機関,児童保護関係機関,民間の相談機関やNPOなどの多職種多機関連携を通じて実践されている。多職種多機関連携を行うためには,関係職種がスルーケア(一貫した処遇)を念頭に,対象者が置かれた状況や対象者の変化のプロセスを共有しながら,変化を促進することが要となる。この作業を効果的に行うための土台かつ共通言語であり,鍵となるのがMIである。司法領域におけるMIは,捜査機関による捜査に必要な情報収集を対象者と協働して行う場面(Alison, et al. 2013)で活用されたり,関係機関において行う教育的措置や処遇において活用されている。

刑事・少年司法手続において,対象者は,一見すると,自分自身の問題行動を変えようとする動機づけが乏しく,時に激しい感情を示したり,酷く無気力な様子を見せることがある。司法領域の専門職は,その職責から,法令違反の問題について対象者に分らせようと説諭し,対象者から望ましい反応を得ることができなければ,さらに教え込もうとしたくなる傾向がある。

このような状況においては,犯罪・非行をした対象者に対して,常識や善悪という価値を振りかざして,対象者の間違いを指摘して,正したいという専門家自身の「間違い指摘反射」をいかにコントロールするかが課題となる。面接者が面接者の視点から正論で対象者の言動を正そうとすればするほど,対象者は面接者の言動に反発したり,無視するようになる。それに対して,面接者はさらに対象者の問題を指摘し,対象者の責任を厳しく責め,さらに遵守事項や法令に違反すればどのような結果が待っているのかを示して対象者を怖がらせる。

対象者の視点から見れば,彼らは,司法領域の専門職と出会うまでに,周囲から繰り返し正論を聞かされてきており,常識や正論を振りかざされることにうんざりしている。対象者の変化を促す上で,同様の働き掛けをすることは,ほとんど無効である。また,非行を繰り返す少年の多くは,親など周囲の人々からの虐待経験を有しており,侵襲的な恐怖体験を持っている。虐待を受けた少年たちは親などの権威者から支配(コントロール)された体験から,面接者の対応によって,過去の体験を再体験することがある。面接者に厳しく叱責され,責められたと感じる場面において,少年たちは,面接者と戦うか,その場から逃げるか,無気力を示すという対応をする。そして,少年たちは変わることへの希望や手応えをさらに失い,変われないことを確信し,問題行動や非行につながるパターンを繰り返す。対象者に関わる専門職は,人は,サポートされていると感じたときに変わるのであって,他者から無理矢理,直面化させられたときに変わるのではない(Miller & Rollnick, 2013)という事実を十分に認識し,適切な対応ができるようトレーニングする必要がある。

さらなる問題として,正論や常識を振りかざし,対象者と怒り,恐怖及び恥といった感情のやりとりを続けることで,専門職自身の職務を果たすことへの自信度が下がり,職務を果たすことの重要度が下がる点が挙げられる。つまり,変わらないのは対象者の問題が大きいのであり,対象者のせいであり,どうしようもないと考えるに至り,専門職が対象者の行動変容を促進する役割を取れなくなることを意味する。MIを一貫して用いると,このような悪循環が生じるのを防止することができる。

そもそも人は,「変わらなければならない理由」と「変わりたくない理由」を同時に抱えることがある。これを両価性という。MIのレンズを通すと,対象者は両価性を抱え続けて,行き詰まっている状況にあることが分かる。MIの実践家は,対象者の視点から,対象者が置かれた状況における両価性,なりたい(ありたい)自分やできたらいいと思う行動と,現在の自分の行動や置かれている状況との間のギャップ(矛盾)を捉え,対象者自身がその状況に向かい合えるように鏡となって反映的に映し出し,対象者自身がその状況をなんとか変えたいと変化についての議論を自分自身で始められるよう支援する。その際,面接者は,対象者固有の価値観,目標,行動を選び取り,変化の方向性を見出すことができるように支援する。MIの中核は,両価性を解消するために人々と協働することである。

価値観,目標という対象者にとって大切なものに加え,対象者自身が変化の議論を強めるためには対象者自身の変化への自信を高めることが必要になる。MIは,対象者の強みや資源に焦点を当てるアプローチであり,対象者の既存の強みを土台にして,望ましい変化に向かうプロセスにおいて小さな変化への手応えを得て,自己効力感を高めていくのを支援する。自己効力感とは,対象者が変化を達成するために持っている,実際に行動することができるという自分自身の能力に対する自信のことである。変化は,未来が現在とは違う,あるいはより良いものになるという手応えや希望がある時に起こるのである。

3.被害者支援と動機づけ面接

司法・犯罪領域においては,被害者の支援が重要なテーマである。法的には,2000(平成12)年の刑事訴訟法改正によって意見陳述制度が始まった。被害者は,法廷において,事件に対する意見や心情を述べることが認められた。さらに,2004(平成16)年には犯罪被害者等基本法,2005(平成17)年には,その具体的な方策を示した犯罪被害者等基本計画が制定され,被害者のための施策が推進されてきている。

被害者の支援においては,トラウマについての正確な知識に加え,肯定的で思いやりのある関係の中での深い傾聴が基盤となる。MIは,この基盤作りに役立つ。トラウマは肯定的で思いやりのある関係がないところで生まれているのである。被害やトラウマは,決して他人事ではなく,私たちの誰にでも降りかかってくるものである。面接者は,被害者と安心,安全な協働関係を作ることによって,クライエントの過去に何があって現在のような事態になったのか,そして,今どのような問題が生じているのかを一緒に探索する。つまり,被害によるトラウマを抱え続けてきたプロセスにおいて,一見すると不合理で逆効果に見えて,バラバラで一貫性を欠いた行動や体験を,生き抜くための対応や技術であったと一貫して理解し,被害者個人の固有のストーリーとして面接者と被害者が一緒に整理していくのである。

被害者支援においては,強みに着目し,活性化させ,生かすことも重要な点である。MIは強みに基づくアプローチである。被害者支援において,MIの態度の一つであり,タスクの一つでもある引き出す(Evoking)は,トラウマや痛み,苦しみを抱えながら生き抜いてきた被害者の中にある強さ,努力,知恵を引き出すことを意味する。引き出す作業を通じて,クライエントは,自分に変化する能力があり,変化するという選択肢があることを認識することができる。クライエントに固有の価値,強さをクライエント自身の言葉で引き出すことが,クライエントの変化を促進する(Miller & Rollnick, 2013)。

被害者の支援は1つの機関で留まるものではない。繰り返しになるが,多職種多機関連携の中で息の長い取り組みが行われる。一時的な「介入」というものではなく,その人と一緒に居続けるための方法であり,MIが適合する理由である。面接者は,被害者の痛みを理解するために,被害者の苦痛を少しでも軽減したいという思いやりを持ちながら,被害者の視点から状況を見て,どうすれば,被害という体験をしながら,被害者が自分の人生をより良いものにすることができるのかという問いを持ち続ける必要がある。被害者が誰かと肯定的で思いやりのある良好な関係を持つことができれば,他の対人援助職とも同様の関わりを持つ可能性が高くなる。どのような職種であっても,対人援助職の間で共通言語としてのMIを共有できれば,被害者の福祉を向上させるために円滑な機関連携ができることは明らかである。その逆もあり得る。一つの機関で関係が悪化すれば,その他の対人援助職や関係機関につながる可能性は低くなる危険性がある。人が将来に向けて長く安心して過ごせるセーフティネットワーク作りが不可欠である。

4.家事事件における動機づけ面接の応用

MIは,家庭内の紛争解決に係る家事調停事件にも応用されている。調停は変化についての会話である。少なくとも,一方の当事者は現状に不満を持ち,変えたいと思っている。調停とMIは変化についての会話を行うという点において共通している。家事調停は,子の監護や面会交流といった子どもの養育に関する葛藤や紛争の解決を目標としているという点において,目標志向的な援助介入である。家事調停は,当事者双方の葛藤(両価性)を解消し,当事者間の適切な合意を形成するプロセスである。調停においては,紛争解決に向けて,中立的かつ公平な第三者である調停者が両価性を抱える当事者間における率直かつ正直なコミュニケーションを促進していくことが求められている。とりわけ離婚,児童虐待,家庭内暴力といった近親者間における紛争を扱う家事調停事件においては,審判や裁判で決着をつけても,感情の問題が解決されないと,取り決められたことが遵守されないという弊害が生じる。したがって,こうした高葛藤で強度の感情が絡む紛争においては,当事者間の健康なコミュニケーションを回復し,紛争解決を目的とする調停を行うことによって,当事者が納得する真の解決に至ることが期待されている。

調停事件において考慮するべき3つの重要な要素がある。それらは,①当事者それぞれが話し合いたい課題,②当事者それぞれが認識している自分自身の状況,③当事者それぞれが本当に大切だと思っていること,である。ここで大切なことは,それぞれの当事者が認識している自分自身が置かれた状況の背後にある願望やニーズ(「このままでは困る」)という本当に大切に思っていることを知ることによって,調整の余地が出てくるということである。調停に関わる専門職は,紛争解決に向けて,当事者それぞれが本当に大切に思っていることを十分に探索する必要がある。当事者それぞれが本当に大切に思っていることをよりよく満たす解決案を当事者双方及び調停に関わる専門職が協働して見つけることによって,当事者それぞれの両価性を解消することで紛争解決を目指す。調停は,裁判とは異なり解決を柔軟に探索することができ,このような解決の方が,当事者双方の納得感が高まり,長期的な履行遵守につながる。

調停に関わる専門職には,紛争解決のプロセスを行き詰らせるような両価性に焦点を当てて,両価性をうまく処理することが求められる。人は両価性を抱え続けると状況に対してなす術はないと諦めたり,無力感という「弱さ」を体験する。その結果,相手をますます責める行動を強めるという悪循環を生じる。この悪循環を防ぐために,調停に関わる専門職は,当事者双方が置かれた状況と両価性,感情的な主張行動の背後にある感情や価値に共感的理解を示し,思いやりを持って当事者と一緒に探索し,当事者それぞれにとっての事実として受容し,当事者双方にとって本当に大切なことを共有する。さらに,調停に関わる専門職は,当事者それぞれがすでに持っている「強さ(努力,資源)」を支えて,反応を引き出し,対話を活性化させる。自身の強みへの手応えや将来への希望が生じ,当事者の自己効力感が高まると,次第にさまざまなものの見方や変化の可能性についての発話が見られ,当事者双方ともに相手が置かれた状況に視点を移しやすくなる。

調停に関わる専門職は,当事者がお互いの状況や両価性を認識できるように,当事者が共有している価値(例:子どもには健康で幸せに育ってほしい)を土台として共有できる目標を創り,対話の焦点と方向性を維持する。対話が続くように支援し,当事者双方の視点を拡げて,解決の選択肢を探り,当事者それぞれが変化のための行動計画を立てるのを促進する。加えて,維持トークを減弱し,不協和に適切に対応して,チェンジトークに焦点を当てて当事者の変化を促し,生活領域のどの分野の具体的な変化に注目しているのかを引き出した上で,子どもの最善の利益をどのように満たすことができるのかを話し合うための安全な環境を提供する。

山田とスペック(Yamada & Speck, 2022)は,当事者が認識している自分の状況や主張の背後にある4つの領域を4M(Myself(自分のこと),Mind(他者との人間関係),Method(仕事,子育て,面会交流等の具体的な方法や生活の過ごし方),Money(家計,財産,養育費等))とし,4つの領域における生活上の本当に大切に思っていることを探索し,調停者と当事者の間で可視化して共有するために特性要因図と決断分析表を用いるモデルを提案している。これらのツールを使って,当事者双方と協働して作業し,当事者双方が置かれた状況,行動とその背後にある感情や価値,両価性を明確にし,当事者双方の変化の重要性,変化に向けてできること(変化への自信)を高めて両価性を解消する。

調停において可視化するツールを使うことによって,①デリケートな問題を取り上げやすくなる,②当事者の納得を得られやすく,作業に取り組みやすくなる,③心理教育に活用できる(当事者が自分の状況を把握しやすくなる),④当事者と協働して介入のための作業仮説を作り(介入方法を話し合い),目標の再確認をすることができる。⑤ケースフォーミュレーション(事例の概念化)を行い,仮説の妥当性を検証し修正するプロセスを生み出すことができる,といったメリットが得られる。

山田とスペック(Yamada & Speck, 2022)は,MIを応用した調停のプロセスについて,①協働作業関係を作り,調停で話し合いたいことを焦点化し,②相手に対する敵対心や猜疑心から一歩引いて,相手が置かれた立場から主張を認識し,③視点を広げて柔軟に解決策について選択肢を検討し,④具体的かつ現実的な変化のための行動計画を立てるという4つの段階に整理した。

以上のように,MIは,当事者の自律性と意思決定を支援し,当事者が自分自身でいつ,どのように変化するのが自分にとって最善かを判断するのを助ける。

5.さらに社会的実装を進めるために

これまで見てきたように,司法領域におけるMIは日常の実践における基盤となっている。2022(令和4)年4月に施行された改正少年法に伴い新設された第5種少年院の処遇プログラムの中核の一つはMIであり,保護観察における中核となる実務のスキルにおいてもMIの活用が推奨されている。家事調停においてMIを活用することで成立率が2倍になったというエビデンスも示されている(Morris, 2018)。今後の課題として,刑事・少年司法手続きの専門家においては,再犯・再非行を防止するために,家事事件においては,紛争解決につなげるために専門職のMIの忠実度(治療整合性)を高めて,実践の質を改善することである。そのためには,日常的に各現場の状況に応じた研修や研究を行える環境作りが必要である。

MIは,Motivational Interviewing Skill CodeやMotivational interviewing Treatment Integrityといった面接を可視化する手段を持つという強みがある。また,現在,司法領域におけるデジタル化が進んでおり,今後,データの共有,分析・評価が行いやすい環境の整備が期待される。研修においてもオンライン研修と集合研修のそれぞれの強みを使い分けて効果的なトレーニングを検討する環境ができつつある。実践,研究,研修においてPDCAを回し続け,持続可能かつ効果的な実践ができるシステムを作ることが課題である。

文 献
  • Alison, L. et al.(2014)The Efficacy of Rapport-Based Techniques for Minimizing Counter-Interrogation Tactics Amongst a Field Sample of Terrorists. Psychology, Public Policy, and Law, 20(4); 421-430.
  • Miller, W. R. & Rollnick, S.(2013)Motivational Interviewing: Helping people change(3rd ed.). New York: Guilford Press. (原井宏明監訳(2019)動機づけ面接(第3版)星和書店. )
  • Morris et al.(2018)A randomized controlled trial comparing family mediation with and without motivational interviewing. Journal of Family Psychology, 32(2); 269-275.
  • Stinson, J. D., & Clark, M. D.(2017)Motivational Interviewing with offenders Engagement, Rehabilitation, and Reentry. New York, The Guilford Press.
  • Yamada, E. & Speck, K.(2022)Family Mediation & Motivational Interviewing: A Guidebook.(in printing)
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山田英治(やまだ・えいじ)
資格:公認心理師,MINT認定動機づけ面接トレーナー
主な著書:訳書『動機づけ面接<第3版>上・下』(分担翻訳,星和書店,2019),『動機づけ面接を身につける』(分担翻訳,星和書店,2013)
趣味:ジャズとヨガ

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