心理面接の道具箱(12)子どもの心理療法における「おもちゃ」の効果的活用[4]|丹 明彦

丹 明彦(すぎなみ心理発達研究センターほっとカウンセリングサポート
シンリンラボ 第12号(2024年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.12 (2024, Mar.)

場面緘黙の子どもたちとのセラピーで最近よく使っているカードゲームのことなど

さてこの連載も私の担当は今回でおしまいとなりました。残念ながら取り上げられなかった「ミルクモウモウ」(ツクダオリジナル)注1)をはじめとしたおもちゃ達の群れが悲しがっていますが,また機会があればよろしくお願いします。現在私に与えられているミッションは,昨年遠見書房さん主催で行ったオンライン研修『場面緘黙克服のメソッド』の書籍化ですので,こちらを急ぎます。

注1)ミルクモウモウとは,実際に乳しぼりが体験できるという驚異的なおもちゃである。牛人形の首を下に下ろし,水を飲ませ,お腹がいっぱいになると首が戻り準備はオーケー。手で乳をしぼるとミルク(白い水)が出てくるという仕組みになっている。牛の大きさなどによって複数のバージョン違いがあり,乳しぼりはできないものや,首が動かないものもある。筆者はこれまでオークションなどで購入を重ね多頭飼いしているが,良い状態の牛に出会えることは稀である。ぜひyoutubeなどで閲覧してみて欲しい。

というわけで,今回は場面緘黙のお子さんとのセラピーで筆者が最近使っているおもちゃやゲームの一部をご紹介いたしましょう。筆者が行っている場面緘黙のお子さんたちへのセラピーの中では,発話を伴うさまざまなゲームにチャレンジします。場面緘黙のお子さんなど不安症のお子さんたちは,不安から慣れない新しい物事や状況を避けるということが症状としてみられます。ですから,最初はできるか大丈夫か不安だったけど,やってみたらできた楽しかった,何度もやっていたらあんまり不安じゃなくなったよという体験が欠かせない訳です。

お子さんたちが相談室にきて毎回最初に取り組むのはキャンディークレーンです。クレーンゲームに飴を入れておいてこれをゲットするというチャレンジです。「チャレンジすることは楽しいし怖くない」というイメージへのはじめの一歩の誘導はこのおもちゃが担ってくれています。これまでたくさんの種類のクレーンゲームを購入してきましたが,壊れないし,飴も難なく取れるし,慣れると一回で取れるようになるという上達の感覚を体験できるのは,このクレーンゲーム(TUGO)だけです。購入する際はこれにされることを強くお勧めします注2)。ちなみにあめはハイチューだと取りにくいです。

注2)このクレーンゲーム(TUGO)はamazonでこれまで普通に購入できたが,現在検索をかけても出てこないため販売されていない可能性が高い。筆者の商売道具なので今のが壊れてしまったらと心配である。是非別の良いものが見つかったらお知らせください。

次に発話を伴いながら遊べるゲーム。すでに拙著『プレイセラピー入門』の中でかなり詳しく紹介していますのでそちらを参考にしてほしいのですが,ポイントは一言だけで遊べるゲームから始めて,次第に発話量が多いゲームへと変えていくことです。また,ルールも簡単なものから始めて,お子さんの状態や変化に合わせて少しルールが多いもの,また自己表現が伴うものへと変化させていきます。今回は,拙著の中では紹介しなかったゲームの中から,これは良いなぁと最近思っているカードゲームを2つご紹介します。両方とも初期段階では使えませんのでご注意ください。発話が安定してきた頃に行うと発話をより促進できるお勧めゲームです。

まずは,「サンリオキャラクターズ・スピードウルフ」(オインクゲームズ)。写真を見てください。真ん中に「ポチャッコ」がいますよね。緑側の一番右に「ポチャッコとシナモロール」のカードがありますが,このカードを「シナモロール!」と言うと真ん中のカードの上に重ねることができます。つまり,真ん中のカードより1キャラが増えていたらそのキャラを言うとそのカードを出せるというルール。もう一つは,真ん中にあるカードより一キャラ減っていたら,減ったキャラを言うとそのカードが出せるというルールです。自分のカードを一番に全部出し切った人が勝ち。やればすぐにわかりますが,このゲーム無茶苦茶熱いのです。このゲームなぜサンリオキャラクター? と最初は不思議に思いますが「はぁなるほど」と思いますよ。かなり激しい戦いをこのかわいいキャラクター達が和らげてくれます。筆者のところでは親と子が同席でセラピーを行うのですが,親も子もおじさん(私)も我を忘れて大声でサンリオキャラを叫ぶ光景は面白いです。おじさんが行う難点は4つのサンリオキャラの名前を忘れてしまうこと。なので必ず負けちゃいます。

次に「ナナ」(モブプラス)。日本発のこのゲーム(正確にはそのフランス語版「TRIO」)が,つい先日フランスの年間ゲーム大賞を受賞されました。なので面白さは折り紙付きです。一度やると「もう一回!」となるゲームはたくさんありますがこのゲームもその一つ。同じ数字のカードを3枚そろえるだけの簡単なゲームなのですが,そこに神経衰弱とメンバーとの重すぎない駆け引きがあって楽しくてくせになること間違いなしです。自分の揃えたい数のカードの3枚のうち1枚か2枚のカードは,目の前に裏面になった場札としてあるかメンバーが持っているという状況になります。このゲームのポイントは,自分以外のメンバーにカードを出すように要求する場面があること。子どもたちはそろって皆,最初は親にばかりカードを出させるか,場札に手をつけますが,どうしても揃わないとなると私にも「丹さん出してください」と言わざるをえなくなるので,自分から声をかけなくてはいけない状況が生じます。それで欲しいカードがゲットできて3枚揃ったときの喜びが私に声をかけることへの抵抗感を減らしてくれる訳です。繰り返すうちに最初から私にもカードを要求することも増えてきて,そのことが当たり前のことになっていきます。

場面緘黙のお子さんとこんなやりとりができるようになるとは思えない? という専門家の方々や親御さんもいらっしゃることでしょう。筆者は来室しているお子さん全員(幼児はルールが難しいのでこれらのゲームは行っていないが),半年もあればこのレベルのゲームを(簡単なゲームは初回から)発話しながら行えるようになるところまでサポートしています。現在執筆中の書籍(遠見書房から出版)にその方法を詳細に示していますのでしばらくお待ちください。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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丹 明彦(たん・あきひこ)
すぎなみ心理発達研究センターほっとカウンセリングサポート代表
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著訳書:『場面緘黙の子どものアセスメントと支援──心理師・教師・保護者のためのガイドブック』(訳,遠見書房,2019),『プレイセラピー入門──未来へと希望をつなぐアプローチ』(遠見書房,2019)

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