心理面接の道具箱(13)世界とつながるおもちゃ箱,Roblox(ロブロックス)|長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第13号(2024年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.13 (2024, Apr.)

1.『Roblox(ロブロックス)』はゲームじゃない?

2023年の下半期頃から,小学生とのカウンセリングの中で,『Roblox(以下,ロブロックス)』という名前を耳にする機会が増えている。まだ世間的な認知度や知名度はそこまで高くないので,その名を初めて耳にする人も少なくないだろう。子どもたちは熱中しているゲームの一つとして『マインクラフト』等と同列に語るが,正確には『ロブロックス』自体はゲームであってゲームではない。「オンラインゲーミングプラットフォーム」と呼ばれる,オンライン上の「ゲームの遊び場」であり,膨大な数のゲームと人が集う「場所そのもの」なのである。

近年,「メタバース」(=インターネット上の仮想空間)という言葉を耳にすることが増えているが,『ロブロックス』はまさにそのメタバースであり,ゲームの新たな可能性と方向性を示すものだとも言える。すでに世界的人気は高く,米国では2020年の時点で16歳未満の10代の若者の半数以上がゲームをプレイしているという話もある(Taylor, 2020)。日本においても,小学生が好んで視聴するYouTube等の動画サイトのゲーム実況で『ロブロックス』を扱った動画も日に日に増えてきており,今後日本でも小学生を中心に広がっていくことが予想される。

2.『Roblox(ロブロックス)』で何ができる?

『ロブロックス』は米国で制作され,2006年にそのサービスが開始された。スマートフォンやタブレット,PC等でダウンロードさえすれば,『ロブロックス』内で膨大な数のゲームを基本無料でプレイすることができる。

プレーヤーはメニュー画面に表示される膨大な数のゲームの中から好きなものを選択(NetflixやAmazon Prime Videoのようなサブスクリプションの画面をイメージすると分かりやすい)し,そのゲームごとに用意されるバーチャル空間の中に入る。『ロブロックス』の世界やキャラクターはレゴブロックのような見た目であり,その空間内で自分のアバター(=分身)を操作することになる。選べるゲームの種類は鬼ごっこやスポーツ,カーレース,お絵描き,その他あらゆるゲームジャンルに渡り,その中には世間で人気のゲームやキャラクターを模倣したものなども多く見受けられる。

それもそのはず,『ロブロックス』の最大の特徴として,『ロブロックス』の開発元が無料で提供しているソフトを用いて個人の自由な発想でオリジナルゲームを作成することができ,それをゲーム内で世界中のプレーヤーが楽しむことが可能となっている。毎日数えきれないほどの新しいゲームが世界中から投稿され続けているので,お気に入りのゲームを遊び続けることも,日ごとに増える新たなゲームに興じることも,プレーヤーにその自由は委ねられているのである。現実の友人や,ゲーム内で知り合ったフレンドとも一緒にプレイでき,メッセージを送る,チャットでやりとりするなどのコミュニケーションを図ることもできる。

では,子どもたちは実際そこでどんな体験をしているのだろうか。ある一例を通して考えてみよう。

3.「放課後の公園」体験

ある小学生女子は学校にあまり登校することができない状態だったが,しかし同級生の友人らと遊びたい思いは強く持っていた。学校を休みがちになる前からその友人らと『ロブロックス』でつながっていたこともあり,学校に登校できない日も放課後には数名で『ロブロックス』内に集まり,友人とともにゲームをして過ごすことが毎日の楽しみになっていた。『ロブロックス』内には音声でやりとりする機能はないので,スマートフォンのLINE通話を同時に使用しながら,というスタイルが彼女たちの間では当たり前になっているようだった。「学校を休んでもロブロックスで会えるから寂しくない」と語ったように,現実では会えなくても『ロブロックス』で会える,という感覚を彼女は持っていたのである。『ロブロックス』は彼女にとって,友人とのつながりを維持し,実感するために欠かせないものであり,大事な居場所となっていた。知らない人とは絶対にやりとりしない,と決めているのも,世界中の誰かとではなくあくまで友人と一緒に楽しむのが目的,という彼女の思いや求めているものを端的に表しているようにも思えた。

ここまで述べたことはある種「ゲームあるある」で,『マインクラフト』や『フォートナイト』といったゲームでも起こり得ることであり,一見それらと違いはないように思える。しかし彼女の『ロブロックス』の楽しみ方を聴くと,他のゲーム体験とは少し異なる様相が見えてくる(もちろん,そこに優劣はない)。

『ロブロックス』で彼女と友人らは,気に入った鬼ごっこ系のゲームやホラー系のゲームを一緒に楽しむだけでなく,「これもやってみよう」「次はこれがいい」とオススメに挙がってくるゲーム(前述の映像系サブスクリプションと同様に,オススメ機能が搭載されている)をその日の気分でさまざまにプレイすることが多いとのことだった。

この彼女の話を聴いていて筆者の中には「放課後の公園」のイメージが思い浮かんだ。小学校が終わった後,近所の公園に友人同士で集まり,ボール投げや鬼ごっこなど一つの遊びに没頭する日もあれば,その日の気分によって「今日はこれで遊ぼうよ」と誰かが提案し,みんなでそれをやってみる日もある。時代の流れとともにそういった集まりや関わりは世の中から徐々に失われつつあるが,彼女にとっては放課後の公園の代わりのように『ロブロックス』が存在し,機能しているように思えた。ルールも遊び方も違う多種多様な遊びに興じることで得られる楽しさや経験,そして人とのつながり……時代は変われど子どもたちの求めるものは変わらない。彼女の言葉と表情はそんなことを思わせてくれるものであった。

4.世界とつながるおもちゃ箱

冒頭で『ロブロックス』を,オンライン上の「ゲームの遊び場」と紹介したが,彼女にとってはまさに友人と共に過ごすための「遊び場」兼「居場所」として,オンライン上だけでなく心の中にも存在しているのだろう。「放課後の公園」と形容したが,世界中から毎日さまざまな遊びが自分のおもちゃ箱に投げ込まれてくる……そんなイメージで『ロブロックス』を捉えてみるのもいいかもしれない。

ほとんどの小学生がそうして投げ込まれた遊びを,今は楽しむ側として思い思いに楽しんでいる。その子どもたちが今度は自分の手で,世界中のおもちゃ箱に新たな遊びを投げ込み,楽しませる側に回る日もそう遠くないかもしれない。世界とつながるおもちゃ箱『ロブロックス』は,そんな可能性と創造性を秘めているように思う。

参考サイト

Taylor, L.(2020年7月21日)Over half of US kids are playing Roblox, and it’s about to host Fortnite-esque virtual parties too. The Verge. https://www.theverge.com/2020/7/21/21333431/roblox-over-half-of-us-kids-playing-virtual-parties-fortnite

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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