心理面接の道具箱(15)発達障害とおもちゃ[1]|白石雅一

白石雅一(宮城学院女子大学宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」)
シンリンラボ 第15号(2024年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.15 (2024, Jun.)

1.自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの遊びとおもちゃ

ASDの子どもは,他人とは遊ばず,自分の感覚器官を自分で刺激して過ごす「独り遊び」を好みます。おもちゃを使う場合でも,そのおもちゃ本来の使い方を無視して,自己流のやり方で満足しようとします。

それが「リカちゃん」人形であった場合はどうでしょう。ASDの子どもは,定番である他児との“ごっこ遊び”には進まず,“髪の毛をなめる”“手足の先端を噛んで引き千切る”“頭を引っこ抜いて投げる”“服を脱がして口に含む”ことがよく見られます。

また,ASDの子どもは,怒ったり興奮したりすると,お気に入りのおもちゃであっても容易に壊す行為に及びます。これは,まるで,不満やストレス,不安の解消,時に八つ当たりのようでもあります。彼らはまさしく「壊し屋」でもあります。

以上のように,ASDの子どもたちは,おもちゃで遊ばない,操作しない,壊すので,人間関係も育ちませんし,発達も促されません。

2.おもちゃを媒介にして,人間関係を育み,発達を促すこと(療育)

その反面,ASDの子どもは,人よりも物に愛着を示し,特定のおもちゃにこだわりを示します。したがって,ASDの子どもと関わる際は,きっかけ作りや信頼関係,そして人間関係を構築するためにも,“おもちゃを教材として活用する”必要が出てきます。

その「おもちゃ教材」を選ぶポイントは6つあり,これらが「療育」につながります。

①取っ付きやすさ:子どもが無条件に手を出せるような分かりやすさがあること
②感覚への刺激性:子どもが喜ぶ感覚的な刺激が適度にあること
③操作しての楽しさ:おもちゃ本来の使い方で操作をして楽しさを味わえること
④集中と持続性:上記の楽しさから集中して,それが持続されることが大切です
⑤協働しての達成感:人に誘われ,励まされ,協働して得られる達成感があること
⑥次の課題への発展性:おもちゃ教材は多数用意し,達成感と意欲,信頼感を増すこと

これらは,「おもちゃ教材のレーダーチャート」にして現場で用いています(写真1,2)注1)

写真1)おもちゃ教材のレーダーチャート

写真2)レーダーチャートの記入例
【「魚介のからがむけちゃうままごと えび ほたてセット」の場合(写真3~8参照)】

3.ASDの子どものアンガーマネジメントに使えるおもちゃ教材の紹介

「壊し屋」の子どもの「アンガーマネジメント」に使えるおもちゃ教材をご紹介します。それは,100円ショップのセリアで手に入る「魚介のからがむけちゃうままごと えび ほたてセット」です(レーダーチャートは満点評価 写真2)。この使い方は次の通りです。

まず,マジックテープで留まっている,えびの殻を剥がします。すると「ベリッ」という感触と音が出て気持ちが良くなります。次にえびの頭と尻尾を引き抜きます。頭と尻尾のそれぞれにある凹は,胴体の凸にキッチリとハマっているので,指先に力を込め,歯を食いしばり,「えいやぁっ」て引き抜かないといけません。その分,操作しての楽しさや達成感は大きくなるし,大人の励ましも重要になります。だからこそ,子どもはたくさんやりたがりますし,集中もし,持続もされて,剥いた殻は,缶カラいっぱいになります(写真3~8)。

写真3)魚介のからがむけちゃうままごと えび ほたてセット(税込110円セリア)

写真4)殻をむく

写真5)頭を抜く

写真6)尻尾を抜く

写真7)バラバラにして「満足」

写真8)家庭では「皮剥き」の調理のお手伝いの練習になります

そこを「良く出来たね! 頑張ったね!」と褒めれば,その後,家庭での調理のお手伝い行動に発展させることも出来ます。すると,自ずと,子どもの怒りは解消されて,自己コントロールの力が増していくのです。つまり,このおもちゃ教材は,①壊す行動の「代替」になり,②ストレスの「発散」の効果もあり,③「褒める」対象となって,④他の適応行動に「発展」もしていく,⑤「療育」のための教材になるのです。それも,100円で。

注1)おもちゃ教材とレーダーチャートについては,白石雅一著『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育―親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド』東京書籍(2024)を参照してください。
バナー画像:kerutによるPixabayからの画像

白石雅一(しらいし・まさかず)
宮城学院女子大学 宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」
資格:臨床心理士,公認心理師,介護福祉士
療育のためのおもちゃ教材の開発に心血を注ぐ。メーカーに意見したくて懸賞論文に応募して,表彰式で社長に提言した(リカちゃん人形で有名なタカラの当時の社長さん)。
新著に『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』(東京書籍,2024)がある。

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