【書評特集 My Best 2023】|岡村達也

岡村達也(文教大学)
シンリンラボ 第9号(2023年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.9 (2023, Dec.)

1.心理療法

まず,心理療法について,次の2つを軸に記します。

① Weinberg, H. & Rolnick, A. (Eds.)(2020)Theory and practice of online therapy: Internet-delivered interventions for individuals, groups, families, and organizations. Routledge. (Softcover; Hardcover, 2019)

② Barkham, M., Lutz, W. & Castonguay, L. G. (Eds.)(2021)Bergin and Garfield’s handbook of psychotherapy and behavior change (7th ed.). Wiley. [1st ed. 1971; 6th ed. 2013]

COVID-19 pandemic下で,オンラインでエンカウンター・グループやグループ・スーパーヴィジョンをすることになった。グループをどう構成したらいいか? どう運営したらいいか? 参考になったのが①だった。サブタイトルにあるように,オンラインによる「個人療法」「集団療法」「家族療法」「組織コンサルテーション」の4部から成る。各部はIntroductionの章に始まり,Practical Considerations(簡にして要を得た実践ガイドライン)の章で終わる。同化/調節は必要だったが,役立った。「オンライン」は,「対面」とは別のフォーマットとして,展開が見込まれる。貴重な本だと思う。 ☞野島一彦のカウンセリング小話 第66話 「対面」と「オンライン」

集団精神療法のバイブルYalom I. D., & Leszcz, M. (2020)The theory and practice of group psychotherapy (6th ed.). Basic Books. も,第14章「オンライン心理療法グループ」を追加し,①を推薦していた[同書には第4版(1995)の翻訳がある。中久喜雅文・川室優監(監訳)『ヤーロム グループサイコセラピー―理論と実践』(西村書店,2012)]。

②は,言うまでもなく1971年初版の「心理療法リサーチ」ハンドブックの第7版である。そのメタ分析は,リサーチのメルクマールである。7部から成る。第4部は,さまざまなアプローチやフォーマットのメタ分析である。「力動療法」「人間性-体験心理療法(HEP)」「認知療法,行動療法,認知行動療法」「マインドフルネス療法,アクセプタンス療法」「夫婦家族療法」「小集団療法」「児童青年心理療法」の7章から成る。少なくとも「HEP」の章は,フリーで閲覧できる。HEP全体,その中の1つパーソンセンタード・セラピー(PCT)とCBTとの比較では,RCTによる研究でresearcher allegiance(研究者の身びいき)をコントロールすると,効果量に差はない。

「ハンドブック」と言えば,(1)1992年初版の「心理療法統合」ハンドブックの第3版Norcross, J. C., & Goldfried, M. R. (Eds.)(2019)Handbook of psychotherapy integration (3rd ed.). Oxford University Press. と,(2)2002年初版の「治療関係リサーチ」ハンドブックの第3版Norcross, J. C., & Lambert, M. J. (Eds.)(2019)Psychotherapy relationships that work (3rd ed.). Vol. 1: Evidence-based therapist contributions. Oxford University Press. Norcross, J. C. & Wampold, B. E. (Eds.)(2019)Psychotherapy relationships that work (3rd ed.). Vol. 2: Evidence-based responsiveness. Oxford University Press. が,同じ2019年に出版された。

(1)には,日本版と言うべきものがある。日本心理療法統合学会(監修),杉原保史・福島哲夫(編)『心理療法統合ハンドブック』(誠信書房,2021)である。第2部は「確立された統合的心理療法」として,「加速化体験力動療法(AEDP)」「フォーカシング指向心理療法(FOT)」「エモーション・フォーカスト・セラピー(EFT)」「弁証法的行動療法(DBT)」「アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)」「スキーマ療法」の6つにつき,各1章を充てている。「心理療法統合」には「共通要因」「技法折衷」「理論統合」「同化統合」の4つがあるが,多くの実践家の実践は,実際は「同化統合」と思える(私自身そう自認する)。第1部「心理療法への統合的アプローチとは」を読み,自分の実際の実践の位置を確かめてみたり,その幅を広げる方向性を考えてみたりしたい。

(2)は,これまで1巻だったのが2巻になった。第1巻は「関係要因」の有効性に関するメタ分析,第2巻は関係要因を有効化する「適応要因」に関するメタ分析である。さまざまな要因が,「有効」「たぶん有効」「有望」の3段階で最終評価されている。第3版で「有効」な「関係要因」とされたのは,「治療同盟(成人,児童青年,夫婦家族療法)」「治療目標の合意,治療の協働性」「凝集性(集団療法)」「共感」「積極的関心,肯定すること」「Clからのフィードバック,Clへのフィードバック」の6つである。第2版(2011年)からの変化は,「治療目標の合意,治療の協働性」「積極的関心,肯定すること」の2つが,「たぶん有効」から「有効」に格上げされたことである。「有効」な「適応要因」とされたのは,「Clの文化(人種,民族)」「Clの宗教/スピリチュアリティ」「Clの治療に関する好み」の3つである。「宗教」は本邦では馴染まないかもしれないので,「Clの文化的背景やClがいま生きている文化,Clの価値観,Clの治療に対する好みに合わせよう」でどうか。第2版からの変化は,「リアクタンス・レベル」が,「有効」から「たぶん有効」に格下げされたことである。リアクタンス・レベルに関わらない療法における展開があるのなら,望ましい格下げと言えようか。

2.PCA,PCT

次に,パーソンセンタード・アプローチ(PCA),パーソンセンタード・セラピー(PCT)について,次の3つを軸に記します。

③ メアンズ,D. ・クーパー,M.(著),中田行重・斧原藍(訳)『「深い関係性」がなぜ人を癒すのか―パーソン・センタード・セラピーの力』(創元社,2021)

④ Farber, B. A., Suzuki, J. Y. & Ort, D.(2022)Understanding and enhancing positive regard in psychotherapy: Carl Rogers and beyond. American Psychological Association.

⑤ 中田行重『臨床現場におけるパーソン・センタード・セラピーの実務―把握感sense of gripと中核条件』(創元社,2022)

③は,Mearns, D., & Cooper, M. (2018)Working at relational depth in counselling & psychotherapy (2nd ed.). Sage. の翻訳である。初版は2005年,Mearnsが来日した年である。講演で第6章の「リックの事例」を話し,同書の年内出版を予告していた。Mearnsは業界からリタイアしたので,改訂はCooperによる。キーコンセプトは「深い関係性(relational depth)」だが,ともかくMearnsによる2つの事例,第5章「ドミニクの事例」,第6章「リックの事例」を読んで,「PCTとは何か?」,Mearnsと対話したい。

Mearnsには次の訳書がある。伊藤義美(訳)『パーソンセンタード・カウンセリング』(ナカニシヤ出版,2000)[初版1988;第4版2013。第3版までで15万部売れたという],諸富祥彦(監訳)『パーソンセンタード・カウンセリングの実際―ロジャーズのアプローチの新たな展開』(コスモス・ライブラリー,2000)[初版1994;第2版2003]。

Cooperには次の訳書がある。清水幹夫・末武康弘(監訳)『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究―クライアントにとって何が最も役に立つのか』(岩崎学術出版社2012)[2008;文献は要更新だが,メタ分析を含め「エビデンスの読み方」が0からわかる],末武康弘・清水幹夫(監訳)『心理臨床への多元的アプローチ―効果的なセラピーの目標・課題・方法』(岩崎学術出版社,2015)[2011;『心理療法統合ハンドブック』はこれを「第5の心理療法統合へのアプローチ」としている]。

④の著者Farberは,「治療関係リサーチ」ハンドブック(NorcrossのPsychotherapy relationships that work)で,初版から第3版まで一貫して「積極的関心(positive regard;以下PR)」の章の著者である。また,本邦では,Farber, B. A., Brink, D. C. & Raskin, P. M. (Eds.)(1996)The psychotherapy of Carl Rogers: Cases and commentary. Guilford Press. で知られていると思う。

そのFarberらが,みずからの研究室における最新のPRに関するリサーチを軸に著したものである。『心理療法における積極的関心―カール・ロジャーズを越えて』と題し,第1章「PRとは何か?」,第2章「PRと治療効果」,第3章「PCAにおけるPR」,第4章「PCA外におけるPR」,第5章「心理療法外におけるPR」,第6章「Clから見たPR」,第7章「Thから見たPR」,第8章「PRの臨床例」,第9章「PRに関する論争や批判」の9章から成る。第6章は,量的研究と質的研究からなり,第7章は,Clに行った量的研究と同じ研究をThに行ったものである。「Clから見て最もPRと思うThの行動」「Clから見て自分のThが最もよく行った(行っている)PR行動」「Thから見て最もPRと思うThの行動」「Thから見てTh(自分)が最もよく行っていると思うPR行動」の4つは,トップに評定された項目群において,ほぼ一致した。「Clから見て最もPRと思うThの行動」のトップ10は,次のとおりである[全項目数43。サンプルサイズ540。CBT43%,折衷20%,精神力動13%,人間性7%,その他18%]。Clの視点からPR行動を見直し,その幅を広げたい。

① Thは,私の弱点について,違う見方を示してくれる。
② Thは,その姿勢から,傾聴していることが伝わってくる。
③ Thは,今の私の経験と私が以前話したこととのつながりを示してくれる。
④ Thは,私の言ったことを正確に要約してくれる。
⑤ Thは,キャンセルリスケを理解してくれる。
⑥ Thは,以前話した人のことや出来事を覚えていてくれる。
⑦ Thは,目をしっかり見てくれる。
⑧ Thは,私の強みについて,ほめてくれる。
⑨ Thは,私の得意なことについて,自信を持つよう励ましてくれる。
⑩ Thは,おだやかな声で話してくれる。

⑤の著者 中田行重さんは,③の訳者である。海外のPCTの実践家,研究者との交流は広く,深く,本邦を代表するPCTの実践家にして研究者であり,今後の本邦PCTの師表である。その中田さんが実践について著した畢生の作である。PCTのキーコンセプトをどのように「実務」において実現するか? 自らの体験と思考に徹底的に照合しつつ,丁寧に,丁寧に,紡ぎ出すように記されている。「入門」はすまされた上で読まれることが期待されている[入門には,例えば,同じ書肆の坂中正義注1)(編)『傾聴の心理学―PCAを学ぶ』(創元社,2017)はどうか]。「初級者」は,中田さんをなぞりながら実践を開始していいと思う。「中級者」は,中田さんと対話しながら,みずからの実践を見直したり,その幅を広げてみたりすることができる。ともかく,PCTに関心のあるすべての人にとって(proでもconでも),must-readである。

以上

注1)1970年12月21日~2021年8月24日(享年50歳)。元南山大学人文学部教授。大きな喪失だった。

バナー画像:Alex G. RamosによるPixabayからの画像

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岡村達也(おかむら・たつや)
文教大学人間科学部心理学科教授。1985年,東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻第一種博士課程中退。専門は,臨床心理学・カウンセリング。
主な著書に『思春期の心理臨床』(共著,日本評論社,1995),『カウンセリングを学ぶ』(共著,東京大学出版会,1996,2版2007),『カウンセリングの条件』(日本評論社,2007),『カウンセリングのエチュード』(共著,遠見書房,2010),『臨床心理学中事典』(共編,遠見書房,2022)などがある。

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