【書評特集 My Best 2023】|若島孔文

若島孔文(東北大学)
シンリンラボ 第9号(2023年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.9 (2023, Dec.)

高木 源『こころの健康度を高めるセルフケアツール開発―解決志向短期療法を検証する』(慶應義塾大学出版会,2023)

短期療法(ブリーフセラピー)や解決志向短期療法(ソリューション・フォーカスト・ブリーフセラピー)に関する本はこれまで多数存在するが,モデルの実証研究に関する著作は日本人によるものとして,はじめてではないだろうか。著者である高木源先生は,東北大学で,学部3年から博士課程で博士学位を取得するまで,私の研究室で研究と臨床に励んだ研究者である。学部生のときに,日本ブリーフセラピー協会のB1選手権注1)を制覇し,博士課程修了時には,東北大学総長賞を受賞するなど,いわゆるこの分野のホープである。

注1)B1選手権(B1グランプリともいう)とは,日本ブリーフセラピー協会学術会議で開催されるブリーフセラピストNo.1選手権のこと。全国の支部から精鋭を募り,カウンセリング技術を競い合う。

本書の第1章・第2章は,解決志向短期療法の理論と技法に関する分かりやすいレビューとなっている。この第1章・第2章だけを読んでも,たいへん整理されているため,解決志向短期療法の理論と考え方を理解するに十分な内容となっている。

第1章は「解決志向短期療法」について,ミルトン・エリクソンの思想の導入についてからはじまり,グレゴリー・ベイトソンによるシステム理論との関連,メンタル・リサーチ・インスティテュートのコミュニケーション理論との関連がわかりやすく整理されている。第2章は「解決志向短期療法の理論と技法」として,それらがコンパクトにまとめられ,日本における解決志向短期療法の研究動向などにも言及されている。CiNiiを用いて「解決志向」「ソリューション・フォーカスト」というキーワードで検索し,関連がないもの,発表抄録などを抜いた結果は,1990年から2019年の約30年間で,248篇であったという。調査研究は学会誌41篇,研究紀要27篇の合計68篇。事例研究は学会誌29篇,研究紀要21篇の合計50篇。解説・紹介が学会誌107篇,研究紀要23篇の合計130篇であったとしている。以上のようなまとめをしながら,第3章以降は,実証研究となっている。解決構築尺度の開発,第4章はさまざまな心理療法の鍵概念と精神的健康の関連を研究し,解決構築という解決志向短期療法の鍵概念が自己効力感と自己受容につながり,肯定的自動思考に影響し,また否定的自動思考を減少するという影響関係を成果として示している。第8章以降がセルフケア・ツールの開発に関わるものとなっている。第9章では,ミラクル・クエスチョンと例外探しの効果の研究,第10章は観察課題の効果の研究,第12章・第13章は,目標の具体性と現実性をAIにより予測することと,そのフィードバックを伴うことによるセルフケア・ツールの効果の研究となっている。

セルフケア・ツールを開発する中で,解決志向短期療法の技法やそのシークエンスがより明瞭になり,私たちの理解を手助けしてくれる。

本書を読み終え,最後にあるQRコードから解決志向短期療法ワークシートをスマフォで実施してみた。私の場合,目標の設定に少し時間を要し,つまり考えて,それができると,その後はかなりスムーズであった。目標の適切さがAIにより点数化されるのがポイントである。私の場合はこの目標設定がとても大切だったようである。目標設定をしてみると,何をすればよいかが分かり,何をすればよいかを考えると,そのまま明日から取り組めることであると分かる。すごく簡便なワークシートである。他者に依存することがないことも利点だと思った。また,スマフォ相手に抵抗は意味を持たない。こういうセラピーの進化の形があることをあらためて実感した。このスマフォでもアクセスできるワークシート。その結果を保存及び転送できるなら,その結果に向けた取り組みを日々記録できるならば,対面のケースでも利用してみたい。

バナー画像:Alex G. RamosによるPixabayからの画像

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若島孔文(わかしま・こうぶん)
東北大学大学院教育学研究科教授
ご資格:家族心理士,ブリーフセラピスト(シニア),臨床心理士,公認心理師。
主な著書:『短期療法実戦のためのヒント47—心理療法のプラグマティズム』(単著,遠見書房,2019),『臨床心理学概論』(共著,サイエンス社,2023),『テキスト家族心理学』(共編著,金剛出版,2021)ほか
趣味:犬の散歩

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