【特集 こころを支えるお仕事】心理療法ってなに? カウンセリングってなに?|岡村達也

岡村達也(文教大学)
シンリンラボ 第1号(2023年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.1 (2023, Apr.)

心理療法やカウンセリングは,公認心理師の業務の1つである

公認心理師法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=427AC1000000068 は,周知のように,その第2条(定義)において,公認心理師の4つの業務を規定している。その第2号に次のようにある。

二 心理に関する支援を要する者に対し,その心理に関する相談に応じ,助言指導その他の援助を行うこと。

「相談,助言,指導その他の援助」の中身は,『公認心理師カリキュラム検討委員会報告書』 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000167172.html の「[2]『公認心理師のカリキュラム等に関する基本的な考え方』を踏まえたカリキュラムの到達目標」の「15.心理に関する支援(相談,助言,指導その他の援助)」を見るとわかる。6項から成るが,その第1項,第5項に次のようにある。

15-1.代表的な心理療法並びにカウンセリング歴史概念意義及び適応について概説できる。
15-5.心理療法カウンセリングの適用には限界があることを説明できる。

これを受けて,同報告書の「[4]大学及び大学院における必要な科目」のうち,「大学における必要な科目に含まれる事項」の「⑮『心理学的支援法』に含まれる事項」は6項から成るが,その第1項に次のようにある。

1.代表的な心理療法並びにカウンセリングの歴史,概念,意義,適応及び限界

このように,心理療法やカウンセリングは,公認心理師の業務の1つである。「なにをいまさら」と言うまい。心理療法やカウンセリングをその業務として含む国家資格の誕生には,長い道のりがあったのである(野島,2023参照)注1)

注1)臨床心理学に心理療法への道はどのようにして開かれたか? 道を開いたのは第二次世界大戦である。1942年米国政府は退役軍人庁(VA;1989年退役軍人省)と公衆衛生局(PHS)に,メンタルヘルスの専門家の確保を命じた。心理療法を医師の専権事項としていたのでは数が足りない。臨床心理学者を確保せよ! PHS は大学での訓練に,VA は実習やインターンシップに,それぞれ資金を提供した。「戦時中400人以上の臨床心理学者が軍の神経精神科で働いていた。大多数が少なくとも業務の一部として心理療法を行っていた。これが分岐点だった。パリを見たのだ。もう農場には戻れない。軍によって扉は大きく開かれ,精神医学がそれを閉じることは不可能だった」(Baker & Benjamin, 2014, p.81)。

ところで,心理療法ってなに?

米国心理学会のAPA Dictionary of Psychology https://dictionary.apa.orgは何事につけ便利な辞書だが,psychotherapyを次のように記している。段落を設けて引用する。

Any psychological service provided by a trained professional that primarily uses forms of communication and interaction to assess, diagnose, and treat dysfunctional emotional reactions, ways of thinking, and behavior patterns. 
Psychotherapy may be provided to individuals, couples (see couples therapy), families (see family therapy), or members of a group (see group therapy).
There are many types of psychotherapy, but generally they fall into four major categories: psychodynamic psychotherapy, cognitive therapy or behavior therapy, humanistic therapy, and integrative psychotherapy.
The psychotherapist is an individual who has been professionally trained and licensed (in the United States by a state board) to treat mental, emotional, and behavioral disorders by psychological means. He or she may be a clinical psychologist, psychiatrist, counselor, social worker, or psychiatric nurse.

第1段落には「心理療法の定義」,第2段落には「治療モードによる心理療法の分類」,第3段落には「治療理論による心理療法の分類」,第4段落には「心理療法家」について記されている注2)

注2)第2パラグラフには,「治療モードによる分類」として,個人療法,カップルセラピー,家族療法,集団療法などがあることが記されている。第3パラグラフには,「治療理論による分類」として,精神力動療法認知行動療法人間性療法(日本ではクライアント中心療法,国際的にはパーソンセンタードセラピーが代表),統合的心理療法の4つが挙げられている。第4パラグラフには,「心理療法家」は訓練を受けた有資格者で,臨床心理学者精神科医,カウンセラー,ソーシャルワーカー,精神科看護師などであることが記されている。

「心理療法の定義」を越えて,問いがある

第1段落の「心理療法の定義」を,分節化して見てみる。

まず,心理療法は「心理サービス」である。公認心理師カリキュラムにおける「心理に関する支援(心理支援)」と言い換えていいだろう。

次に,心理療法は「訓練を受けた専門家」によって行われる。公認心理師などの有資格者ということになるだろう。しかし,そもそも,「治療者」とは誰なのか? 何者なのか? 第4段落では答えにならない。

第3に,治療者は「さまざまなコミュニケーション相互作用」を用いる。「治療技法」ということになるだろう。しかし,そもそも,治療技法とは何なのか? また,その前提となり,治療者とクライアントとを橋渡しする「治療関係」とは何なのか?

最後に,治療者は「非機能的な情動反応思考法行動パターンの,アセスメント診断治療」を行う。非機能的な知情意機能が対象ということになるが,そもそも,それらがあるとされる「クライアント」とは誰なのか? 何者なのか? また,治療を行うと言うが,そもそも「治療効果」とは何なのか?

これらに対する回答が定義の中にないことは,異とするに足りない。しかし,定義だけでは,心理療法とは何なのか,わからないということである。

「カウンセリングってなに?」でも同じである

これは,APA Dictionary of Psychologyのcounselingを見ても変わらない。

Professional assistance in coping with personal problems, including emotional, behavioral, vocational, marital, educational, rehabilitation, and life-stage (e. g., retirement) problems.
The counselor makes use of such techniques as active listening, guidance, advice, discussion, clarification, and the administration of tests.

まず,カウンセリングは「専門家」によって行われる。 → そもそも,「カウンセラー」とは誰なのか? 何者なのか? 第2段落では答えにならない。

次に,カウンセリングは「アシストすること」である。→「心理支援」と言い換えていいだろう。psychotherapyでは「治療」,counselingでは「アシスト」となっているが,いずれにあっても,「アシスト」が本義だろう注3)

注3)helpは「助ける」ことを表す最も一般的な語。強い意味を表し,何かを達成するという目的を伴って用いられることが多い。assistとaidはともにやや堅い語で,helpに比べると意味は弱い。assist側面から補助的に「手伝う」という場合に,aidは「苦悩や困難を抱えている相手に安心感を与える」の意を表し,特に団体に対して公的資金を援助する場合に用いられる(ジーニアス英和辞典 第5版)。assistは,サッカーにおける「アシスト」を思えばよい。ゴールを決めるのはクライアントである。aidは,「サイコロジカルファーストエイド」の「エイド」を思えばよい(https://www.ajcp.info/heart311/?page_id=2193)。

第3に,カウンセリングは「個人が当面している問題(情動,行動,仕事,結婚,教育,リハビリテーション,ライフステージ[退職など])」を対象とする注4)。 → そもそも,それらがあるとされる「クライアント」とは誰なのか? 何者なのか? また,アシストすると言うが,そもそも「治療効果」とは何なのか?

注4)APA Dictionary of Psychologyにおけるpsychotherapyとcounselingのもう1つの違いは,「非機能的な情動反応,思考法,行動パターン」か「個人が当面している問題」かで,病態水準による区別とも見えるが,本質的とは思えない。

最後に,カウンセラーは「さまざまな技法(積極的傾聴,指導,助言,話し合い,明確化,心理検査)」を用いる。 → そもそも,「治療技法」とは何なのか? また,その前提となる,カウンセラーとクライアントとを橋渡しする「治療関係」とは何なのか?

「こころを支えるお仕事」の一面は,これかな?

このように,「心理療法とは何か?」「カウンセリングとは何か?」を考えると,少なくとも次のような問いが出てくる。

1.「治療者」とは誰なのか?
2.「クライアント」とは誰なのか?
3.「治療関係」とは何なのか?
4.「治療技法」とは何なのか?
5.「治療効果」とは何なのか?

まるで禅の公案のようである。確かに,心理療法やカウンセリングを行(お)う(とする)者への公案に違いない。「治療は行っているが,治療とは何か知らない」,「治療者の治療知らず」はまずくないか?

否,みな,「治療(する)って何だろ?」,「治療効果って何だろ?」,「治療者って何だろ?」,「クライアントって何だろ?」って,ときに思うのではないか? その問いを問うことは,「専門性」の一部ではないか?

「こころを支えるお仕事」は,こうした問いから離れられないように思える。ときに思い,「解」を得,またときに思い,また「解」を得……。そんな仕事のように思える。

(一人ひとりのクライアントについて)治療者としての自分のことを思い,クライアントのことを思い,両者の関係のことを思い,自分がクライアントに行っていることを思い,クライアントの役に立っているのか? と思い……。そんなことから離れられないように思える。

「暑さに耐えられないならあなた方は台所を去るべきだ。They should get of the kitchen if they cannot stand the heat.」(Kohut, 1984, p.183/本城・笠原監訳,1995, p.254)。

文献
  • Barker, D. B., & Benjamin, L. T.(2014)From Séance to Science: A History of the Profession of Psychology in America (2nd ed.). University of Akron Press.
  • 石坂好樹(1998)精神療法の基礎学序説―こころの病とその治療の構造的解明にむけて.金剛出版.
  • Kohut, H.(1984)How Does Analysis Cure? University of Chicago Press.(本城秀次・笠原嘉監訳(1995)自己の治癒.みすず書房.)
  • 野島一彦(2023)日本の臨床心理学.In:野島一彦・岡村達也編:臨床心理学概論,第2版.遠見書房,pp.11-20.
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岡村達也(おかむら・たつや)
文教大学人間科学部心理学科教授。1985年,東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻第一種博士課程中退。専門は,臨床心理学・カウンセリング。
主な著書に『思春期の心理臨床』(共著,日本評論社,1995),『カウンセリングを学ぶ』(共著,東京大学出版会,1996,2版2007),『カウンセリングの条件』(日本評論社,2007),『カウンセリングのエチュード』(共著,遠見書房,2010),『臨床心理学中事典』(共編,遠見書房,2022)などがある。

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