山本竜也(神戸松蔭女子学院大学)
シンリンラボ 第9号(2023年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.9 (2023, Dec.)
本書メイヴィス・サイら(著)杉若弘子ら(訳)『機能分析心理療法―臨床家のためのガイドブック』(金剛出版,2023)は,セラピスト(Th)-クライエント(Cl)関係という極めて複雑で個別具体的だが重要なことに焦点を当て,そこから得られる効果を最大化するためのヒントがちりばめられた良書となっている。
1.面接で起こっていること
1)優れた結果を生み出すセラピストは何をしているのか?
機能分析心理療法は,非常に優れた結果を生み出すセラピストの特徴を特定するところから始まった。彼ら/彼女らには共通して熱意,Clへの積極的な関与,親密なTh-Clの交流がみられるという。これらの重要性はメタ分析でも示されているが,どのようにそれを体現するのかと問われると答えに窮するのではないだろうか。このような難しい問いに対して,本書は「具体的に記述する」という特徴を持つ行動主義の立場から答えようとしている。
2)熱意,積極的な関与,親密なTh-Clの交流を具体的に記述する
Th-Cl関係で信頼が重要であることは言うまでもないが,本書においてそれは行動レベルで自分が傷つく可能性のある状況で他者に接近する傾向と説明されている。このように記述されることで,Clにとって傷つく可能性のある状況とはどういった状況で,そのような状況でも面接を続けていくためにThがどのような行動を取ればよいのか,具体的に考えやすくなっていると感じる。
そして,主訴に関連した行動に触れるときは,Clの準備が十分にできているという見立てのもと,過去の学習経験と現在の環境を踏まえればそのような行動をとることはもっともであると理解して,思いやりを持って接することで主訴の改善につなげていくという。
面接目標について話し合う際には,主訴の改善につながる行動を含めるのはもちろん,日常生活においてClの目標や価値に沿った行動も含めるとよいとされている。そうすることで,日常生活で主訴を改善する行動が自然に増えていくと考えられている。同時に,面接も肯定的なものになりやすく,Thの積極的関与や親密な交流につながりやすいと考えられている。
このように行動を機能の側面から考えることで,その瞬間瞬間に面接の効果を最も大きくする反応が可能になると思う。
2.面接で起こることを記述できるということ
面接で起こることは当然のことながら個別具体的であり,完全に同一の経過となることはない。その経過を(ある程度)一般化して記述し説明できるということは,心理臨床実践が社会の中で専門業務として知られ,認められていくうえで欠かすことができない。
また,アセスメントや技法の知識,技術は取り上げられることが多かったが,面接の進め方,技法の適用の仕方については,その重要性は認識されつつも取り上げられる機会は少なかったように思う。近年注目を集めているProcess-Based Therapyも変化の過程を重視している点で共通しており興味深い。
本書は行動主義の具体的に記述するという特徴は活かしつつ,第2章でも述べられているが,その反面持たれやすい機械的で,冷徹で,単純化のし過ぎといったイメージにも気を配った記述になっている。もちろん,行動主義の立場から書かれているため,そこでの言葉に馴染みのない者には読みづらい面はあるかもしれない。しかし,著者らも述べるように機能分析心理療法は他の心理療法に開かれている。この書評を読んで何か惹かれるものが少しでもあった方は,旅行のときのように好奇心を持ち,その旅先の文化を尊重するように思いやりをもって本書を読んでみることをお勧めしたい。
バナー画像:Alex G. RamosによるPixabayからの画像
山本竜也(やまもと・たつや)
神戸松蔭女子学院大学
資格:臨床心理士,公認心理師,認定行動療法士