【特集 心理療法ってなに?】#00 はじめに|岡村達也

岡村達也(文教大学)
シンリンラボ 第2号(2023年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.2 (2023, May)

心理療法とは何か?

アメリカ心理学会(APA)のAPA Dictionary of Psychology (https://dictionary. apa. org/psychotherapy)は,psychotherapyを次のように定義しています。

Any psychological service provided by a trained professional that primarily uses forms of communication and interaction to assess, diagnose, and treat dysfunctional emotional reactions, ways of thinking, and behavior patterns.

分節化して,見てみましょう。
まず,心理療法は,「あらゆる心理サービス」です。「心理(学的)支援」と言い換えていいでしょう。

次に,心理療法は,「訓練を受けた専門家」が行います。公認心理師や臨床心理士などの「有資格者」ということになるでしょう。が,そもそも,治療者とは誰なのか? 何者なのか?

第3に,心理療法家は,「さまざまなコミュニケーション相互作用」を用います。「治療技法」ということになるでしょう。が,そもそも,治療技法とは何なのか? その前提となる「治療関係」とは何なのか?

最後に,心理療法家は,「非機能的な情動反応思考法行動パターンの,アセスメント診断治療」を行います。非機能的な知情意機能が対象ということになりますが,そもそも,「クライアント」とは誰なのか? 何者なのか? また,治療を行うと言いますが,そもそも「治療効果」とは何なのか?

以上,「心理療法とは何か?」を考えると,その定義を越えて,少なくとも次のような問いが出てきます。

1.そもそも「治療者」とは誰なのか? 何者なのか?

2.そもそも「クライアント」とは誰なのか? 何者なのか?

3.(治療者とクライアントとをつなぐ)「治療関係」とは何なのか?

4.(その上で治療効果を媒介する)「治療技法」とは何なのか?

5.そもそも「治療効果」とは何なのか?

心理療法「入門」で,いきなりこんなこと考えるの? まるで禅の公案のようだ。確かに,参禅する人(たち)に考えさせる問題,に違いありません。けれども,お決まりのような,「なんとか療法」の羅列的概説的紹介からの入門じゃなく,こんな視角から入門してみたらどうかな? って,ふと思いました。

みな,「なんとか療法」から入門するにしても,「治療(する)って何だろ?」「治療効果って何だろ?」「治療者って何だろ?」「クライアントって何だろ?」って,ときにふと思うようになると思います。「それは専門性の一部ではないかな?」とも思います。
もう1つ,「どのようにして治るんだろ?」という「治療機序」への問いがあります。が,これは,まずは「なんとか療法」ごとに問うのがよい,と考え,今回は措くことにしました。

執筆者の方々には,それぞれのお立場やご自身の(臨床)経験からエッセイ風に,自由な形式で,あるいは試論的に記していただきました。また,執筆タイトルを越え,他の「問い」に渡ることも可,としました。

バナー画像:Manfred Antranias ZimmerによるPixabayからの画像
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岡村達也(おかむら・たつや)
文教大学人間科学部心理学科教授。1985年,東京大学大学院教育学研究科教育心理学専攻第一種博士課程中退。専門は,臨床心理学・カウンセリング。
主な著書に『思春期の心理臨床』(共著,日本評論社,1995),『カウンセリングを学ぶ』(共著,東京大学出版会,1996,2版2007),『カウンセリングの条件』(日本評論社,2007),『カウンセリングのエチュード』(共著,遠見書房,2010),『臨床心理学中事典』(共編,遠見書房,2022)などがある。

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