心理面接の道具箱(1)心の遊び場,マインクラフト|長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第1号(2023年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.1 (2023, Apr.)

1.『マインクラフト』の多様な楽しみ方

『Minecraft(マインクラフト)』(Mojang),通称『マイクラ』と呼ばれるこのゲームの名前を誰しも一度は聞いたことがあるのではないだろうか。2011年に発売されて以来,世界中で大流行し,2023年現在では「世界で最も売れたゲーム」として多くの人に愛され続けている。「サンドボックスゲーム」とも呼ばれるこのゲームは,その名の通り箱庭的な自由な世界観の中で,冒険をしたり,ブロックで建築物を造ったり,回路を組み立てさまざまな装置をつくったり,友人と時には協力し,時には対戦したりと,プレイヤーの思うがままに過ごすことができ,そのできることの多さや自由度の高さによって,発売以来他のゲームと一線を画す存在感を放ち続けている。

また,膨大な数のプレイ動画がYouTube等で日々公開され続けており,実際に自分でプレイせずともそういった動画をテレビ番組のように見て楽しんだり,建物や仕掛けを建築し作り上げる技術や方法を動画を見本にして学んだりという楽しみ方も可能となっている。

そうした「何を目的にプレイするか」「楽しむか」というゲームの目的自体がプレイヤーに委ねられているからこそ,プレイの仕方,言い換えれば「このゲームとの向き合い方」にその人の心の内が現れ出てきやすいように思われる。いったい人々は『マインクラフト』というゲームの中に何を求め,そこで何を表現しようとしているのだろうか。

2.それぞれの『マインクラフト』体験と心の動き

カウンセリングで出会う子どもたちを手がかりに考えてみると,カウンセリングの中でも,熱中しているゲームとして『マインクラフト』の話題が出ることは珍しいことではなく,そこから彼らの内面が見えてくることや理解が深まることも少なくない。

ある中学生は,地下室を作り,そこを強固な扉で守り,その場所を「自分だけの場所」と語った。話を聴いていくと,現実の家の中にも学校にも自分が落ち着ける場所が存在せず,そういう場所がずっと欲しかったということであった。ゲーム内のその場所が彼の心の安全基地として機能していることが感じられ,彼が日々を生き抜く上で必要な場所となっていたとも理解できるだろう。

また別の中学生は,自分の中のイライラや衝動性に無自覚であったが,彼はゲームの中で丁寧に町をつくっていき,そしてある程度つくったら一気にその町を破壊する,という行為をひたすら繰り返していた。彼にとってはただのストレス発散の一環であったが,そのことについてこちらが耳を傾け,彼が語るうちに,ゲームでの体験と重ね合わせて現実世界での怒りを言語化することが可能となっていった。

他にも,ひたすら地面を掘り続けることで心をリセットしていた高校生や,刑務所を再現し,そこから脱獄するという物語を思い描くことで,日々の息苦しさからの解放を表現しようとしていた小学生など,さまざまな「心の動き」を感じる語りに出会うことが今まで何度もあったのである。

3.「想像力」と「心」の繋がる場所

このように意識的にも無意識的にも「自分なりの目的」を持って多くの人が『マインクラフト』をプレイするのは,このゲームが人の「想像力」や「思い」を受け入れる器となっているからに他ならない。人々が今まで,頭と心に浮かんだ自分なりの世界を真っ白な紙に向かって,時には文字で,時には絵という形で自由に描き出し表現してきたように,『マインクラフト』は新たな心の表現方法として,我々の心に寄り添うひとつの道具として根付いてきているように思う。

自分を自由に表現できる「心の遊び場」として,そうした「想像力」とその人の「心」が繋がる場所として,我々は『マインクラフト』を理解していけるのではないだろうか。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
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長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

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