心理面接の道具箱(4)終わらない大運動会,スプラトゥーン|長行司研太

長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第4号(2023年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.4 (2023, Jul.)

1.『スプラトゥーン』って何?

2023年現在,小中学生を中心に,性別問わず多くの人々が熱中しているゲームがある。『スプラトゥーン』という名のそのゲームは,2015年に1作目『スプラトゥーン』が発売されて以来,2017年発売の『2』,昨年2022年発売の『3』とシリーズを重ねる度にその裾野は広がり,カウンセリングの中で話題に挙がる機会も年々増えてきている。

任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」でプレイできるこのゲームは,端的に表すと「地面にインクを塗り合う陣取り合戦のゲーム」である。4人でチームを組み4対4の形式で,用意されたステージの地面を自分のチームカラーのインクで塗り合い,最終的により大きく面積(ナワバリ)を広げたチームが勝利するという,「ナワバリバトル」と呼ばれるルールで競い合うアクションゲームとなっている。

一人でプレイする場合はオンラインでたまたまマッチングした(一緒になった)見知らぬ人とチームを組むことになるが,友人らと示し合わせて同じチームで一緒に協力プレイをすることも可能となっている。

では,一見単純にも思えるこの「インクを塗るゲーム」がいったいなぜここまで流行し,子どもたちの心を惹きつけ続けているのだろうか。

2.『スプラトゥーン』の持つ楽しさ

このゲームでプレイヤーが操作するキャラクターは「ヒトの姿になれる不思議なイカ」という設定で,「ブキ」と呼ばれるインクを塗るための装備(水鉄砲のようなものからフデ,バケツに至るまでさまざまな形状と性能を持つ)からひとつを選択することになる。その「ブキ」を用いて「ヒトの姿で好き放題にインクを塗っていける」「イカの姿になり,塗ったインクの中を素早く泳いで移動できる(と同時に,その潜る行為でインクの補充ができる)」というように,「塗る」「潜る」がそれぞれボタン1つの操作で可能となっている。

そういった操作の分かりやすさに加え,このゲームの持つカラフルでポップな世界観は彩り豊かで目にも楽しく,とりあえずボタンを押して動き回っているだけでも色鮮やかなその世界の中に色をどんどん塗り足していける,という感覚的な楽しさを味わうことができ,ゲームの上手下手を問わず,子どもも大人も楽しめるキャッチーさに満ち溢れているのである。

実際にプレイしてみると,インクがステージ全体に絶え間なく飛び交い続け,キャラクターもインクまみれになるそのにぎやかさに,まるで水鉄砲や水風船でびちゃびちゃになる「水遊び」と,泥にまみれる「どろんこ遊び」を同時に疑似体験しているような感覚にもなる。

こうした『スプラトゥーン』で得られる楽しさや充実感は,他のゲームで味わえそうで味わえない,そんなオリジナリティを持っているように思う。

3.勝敗を超えたところにあるもの

ある小学生男子が述べた,「ただのガチバトル(=真剣な戦い)じゃないのがいいところ。別に負けてもいいし,やるだけでスッキリする。いい息抜きになるねん」という言葉もまた,このゲームの持つ特徴を的確に言い表しているように思う。

『スプラトゥーン』は,勝ち負けがハッキリ着くタイプのゲームではあるものの,もし負けてしまった場合も責任はチーム4人に分散されるので,「アイツのせいで負けた」という他責や,「自分のせいで負けた」という自責の感覚は自然と薄くなる。また1試合はたったの3分で終了し,勝っても負けても,またすぐ次の試合に移行するというサイクルが延々と続いていくので,プレイヤーは1回1回負けの重みや責任を大きく背負うことなくこのゲームに興じることが可能になっているのである。

上述の彼も,当初は「勝ちたい!」という思いでゲームを続けていたが,気づけば勝ち負けにあまりこだわらなくなっていき上述のような思いに至ったとのことであった。(もちろんこれは一例に過ぎず,勝ちにこだわるあまり,友人を責め立て,トラブルに発展してしまう,という話も一方でしばしば耳にする。)

4.終わらない大運動会

このゲームが子どもや大人の心にもたらすワクワク感とその作用はまさに,「遊び」が本来持っている楽しさそのものと言える。

1試合3分という短さで勝敗がつき,勝ち負けにかかわらずこのゲームをプレイすること自体が楽しさに繋がっている,というそのゲーム性を改めて考えた時,『スプラトゥーン』がまるで運動会の競技のひとつのように思えてくる。互いのチームが陣地をかけてせめぎ合う「綱引き」や,どちらが勝っているか終わってみないとわからない「玉入れ」,四人一組で競い合う「騎馬戦」など,我々に馴染みのある運動会の競技ともさまざまな共通項を見出すことができるであろう。

現実では実際に運動場にインクを塗り合い競い合うことはできないが,『スプラトゥーン』の中では疑似的にその楽しさと爽快感を心ゆくまで味わい続けることが可能となっている。この終わらない大運動会は,そこに楽しさややりがいを見出してる人たちにとって,日々を生きていく上でのひとつの大事な「遊び」であり,また人によっては真剣な「競技」として,今日も明日も続いていくことだろう。

百聞は1プレイにしかず……「やればわかる」このゲームの魅力を、あなたも体感してみてはどうだろうか。

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像
+ 記事

長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事