心理面接の道具箱(3)子どもの心理療法における「おもちゃ」の効果的活用[1]|丹 明彦

丹 明彦(すぎなみ心理発達研究センターほっとカウンセリングサポート)
シンリンラボ 第3号(2023年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.3 (2023, Jun.)

『プレイセラピー入門―未来へと希望をつなぐアプローチ』を2019年2月に遠見書房さんから出版して数年が経つ。そのおかげで明らかに研修会の依頼が増えた。子ども理解のための研修会,プレイセラピー事例のグループSV。しかし,圧倒的に増えたのは,ボードゲームの活用法など「ボドゲ研修会」。20回は行っただろうか。例えば,東京都某区では150名もの特別支援教室の先生たちとオンライン研修を行った。どこにいっても「先生の本を参考にボドゲ揃えています」「専門書に書いてあるというと予算がおりますので重宝しています」「今はどんなゲームがいいですか」「また書いて欲しいです。ゲームのこと」と大好評。本文よりもゲーム紹介の方がインパクトがあったようだ。悲しい。そんな矢先,遠見さんからそれっぽい原稿依頼が舞い込む。「ついに出番が来ましたか」。よく読むと,ちっ,違う。ボドゲ担当は別の方とのこと。キュラーズ(貸し倉庫)に保管しきれないほどの大量のボドゲを所有し,その購入と試技のアップデートを寝ずに行っているので,「それって私の役目じゃないの?」などと勝手に驕り高ぶっていたことを反省。

私の担当は「おもちゃ」でした。「でも大丈夫―!」これも実は結構たくさん持ってるのだ。ボードゲームとおもちゃの境界のことやおもちゃの定義など書くほど文字数もないので,早速,かつて臨床場面で行った「おもちゃ」の活用についてお話しよう(個人が特定される内容は捨象し,掲載許可も得られている内容です)。

1.『釈お酌』で会食恐怖を克服

【写真1】をご覧あれ。ご存知!(じゃない方もいますよね?),我らが釈由美子さんがおじさんにお酌をしてくれるという夢のようなおもちゃ。しかも,100以上の多彩なワードでおしゃべりしてくれるという逸品である。もちろん現在絶版。

写真1 釈お酌

会食恐怖症で不登校になっていた中学3年生のA子さん。給食はもちろんのこと外食も出来ず,人のいるところでは水一滴も飲めないで困っているという。そこで登場してもらったのがこの釈ちゃん。まずは,お母さんとA子さん二人で釈ちゃんについでもらったお茶やジュースを二人で飲んでもらう。釈ちゃんは写真の通りバッキバキな眼でうそ笑顔を浮かべ,むちゃくちゃしゃべるので存在感は十分。「あれ,何も言わんぞ,どした?」と思っていると「ふんにゃか,ふんにゃか」などといきなりおどけてみせるので目が離せない。毎回それを続けて,その状況に馴れてもらった後,本人の心の準備が整ったところで,お母さんとA子さんは,お茶を口にした状態でストップ。そこに,筆者がコップを持って部屋に入り釈ちゃんに注いでもらった後,せーので三人で一気に飲み干す。それからも4人(もちろん釈ちゃんもメンバー)でのお茶会は続き,さらに慣れたところに,大学院の実習を兼ねていたので,院生の女性も加わって。そのうち,外でも飲み物が飲めるようになり,次第に外食も大丈夫になっていった。進学したサポート校では校内でお弁当を食べることができるようになったことが報告された。筆者はその喜びを噛みしめながら,「釈ちゃん,いや,由美子。いつものを」とお酌してもらい二人で乾杯! したとかしなかったとか。

2.『ブンブンモンキッキー』で登校しぶりを解消

【写真2】こちらのモデルは当センタースタッフの娘さん。体にくっついてるのが「ブンブンモンキッキー」くん。みんな「モンキー」とか「キッキー」とか勝手に呼んで良し! ということにしてある。両手が洗濯ばさみのようになっていて洋服にくっつく。それをブンブン振り回すと,つんざくような鳴き声で叫ぶ。まったくもって可愛くないのだ。なので振りほどきたい。というかぶん殴りたくなる。でもなかなか取れないので最後には泣きたくなる,そんなおもちゃ(現在も発売中)。

写真2 ブンブンモンキッキー

いわゆるADHDと診断されていた小学4年生のB君。朝の目覚めが悪く,イライラしてお母さんや弟にあたりまくり,登校しぶりが激しくて大変困っておられた。そういう時こそ彼の出番。是非これをどうぞとお勧め。朝起きたら,大リーグボール養成ギブス(知らない方はお調べ下さい)がごとく,まず身体にこれを装着し,ブンブン振り回すこと10分。すっかり目が覚めたB君はすんなりと登校するようになっただけでなく,学校でも午前中から集中して過ごせるようになった。なぜこのような効果が出たかは専門家の方々には言わずもがなということで。お母さん曰く,「コンサータよりブンブンの方が効く」。おっと,このお母さんは彼を「ブンブン」と呼んでいるらしい。

筆者もたまにウエストを意識して彼を時々ぶん回しているが,残念なことにお腹周りには今のところ効果は感じられてはいない。

釈お酌参考動画(youtubeに飛びます)

バナー画像:kerutによるPixabayからの画像

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丹 明彦(たん・あきひこ)
すぎなみ心理発達研究センターほっとカウンセリングサポート代表
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著訳書:『場面緘黙の子どものアセスメントと支援──心理師・教師・保護者のためのガイドブック』(訳,遠見書房,2019),『プレイセラピー入門──未来へと希望をつなぐアプローチ』(遠見書房,2019)

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