【特集 グループ・アプローチの魅力】#05 私設(開業)心理相談機関におけるグループカウンセリング実施について|信田さよ子

信田さよ子(原宿カウンセリングセンター)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

はじめに

公認心理師・臨床心理士の臨床実践の中心は,一対一の対面による個人カウンセリングであるといってもいい。そんな中にあって,筆者はもともと心理劇をはじめとする集団活動をとおして実践の基盤を形成してきた。70年代から精神科病院でアルコール依存症者の集団療法にかかわり,その後もアディクション全般を対象としたソーシャルワーカー主体の開業相談機関で家族への初期介入を中心にアディクションを対象とする実践経験を積んだ。その独特のアプローチをアディクションアプローチと呼ぶが,自助グループの存在抜きには回復を論じることもできないことが,個人療法中心のカリキュラムや養成課程と馴染めないことの一因になっている。筆者の臨床においては,グループがホームであり,狭い部屋でクライエントと対面する個人カウンセリングはいまだにアウェー感があることは否めない。

1.開業心理相談機関におけるグループカウンセリング

1995年に設立以来28年間,原宿カウンセリングセンター(以下センターと略す)では複数のグループカウンセリング(以下グループと略す)を実施している。しかし開業(私設)心理相談機関でグループを実施している例は少ない。理由は経済的負担が増加するからだ。個別カウンセリングに要するスペースに比すと,グループのそれはその5倍ほどとなる。多いときで15名近くのクライエントが円形になれること,セミナー実施の際は20名近い受講者を収容できることが必須であり,それ相応の広さのミーティングルームが必要となる。当然賃料もそのぶん増加することとなり,開業心理相談機関の経営を圧迫する要因となる。

またセンターの料金設定は,初回面接は60分10,000円,個人カウンセリングが60分で12,000円(いずれも別途消費税),グループカウンセリングは2時間で3,000円である。単純計算によればグループ参加者数が7名以下であれば,個人カウンセリング(1時間)を2ケース実施したほうが収益は高いことになる。このようにしせつ(私設)心理相談において,しせつ(施設)の面積とグループの収益の双方から,グループはほとんど経営的に不採算であるといっていい。

経済的なリスク要因ともいえるグループをなぜセンターでは実践しているのだろう。それはセンターがさまざまなアディクション・家族の暴力・性暴力の加害者と被害者などを対象としており,内的世界よりも「今・ここで起きている」危機への対応を迫られているからである。そのために必要なことは,12名のスタッフが緊密に連携しひとつの家族に対応することである。たとえば母から娘,その後に父親という順番で来談する場合,3名のスタッフが3人のクライエントを別々に担当する。家族が敵対的で暴力が生じていたり自殺企図がある場合は,スタッフ3名が緊密に情報を共有して今後の方針を確認し合う必要も生じる。

そこにグループカウンセリングが加わると,個別カウンセリング担当者,母親が参加するグループ(後述する)担当者,娘の個別担当者,娘が参加するグループ担当者4名がSlack注1)も用いて連絡し合ようにしている。グループカウンセリングは,クライエントだけでなく,スタッフが横断的につながる交点にもなっているのだ。

2020年,コロナ禍にあっていち早くすべてのグループをオンライン化したが,コロナ5類移行後の現在もオンラインによるグループは継続中である。

注1)Slack:ビジネス用のチャットツールアプリ。

2.グループの種類とその緊急度の高さ

現在センターで実施しているグループは5種類ある。
①共依存のグループ(KG):息子や娘の問題で困っている母親を対象(引きこもり,リストカット,摂食障害,アルコール依存症,家庭内暴力など)
②DV被害女性のグループ(AG)
③子育て中の母親のグループ:子育てに困難を抱えた女性を対象(現在休止中,来春再開予定)
④アダルトチルドレンのグループ(ACGⅠ,ACGⅡ,ACGⅢ):ACと自認したひとたちを対象
⑤メンズグループ:子どもへの対応で困っている父親を対象

1クールの期間限定の契約制であり,随時参加のオープングループもあれば,クローズドなプログラム実施のグループもある。グループによっては契約は更新可能であり,長期(5年余)参加者もいる。

筆者は①②④の4グループを担当しており,ファシリテーター(グループの司会・運営担当者)の役割を担っている。所要時間は2時間,頻度は①は毎週,②③④は月二回,⑤は月一回の実施である。

参加者の特徴は,端的に言えば緊急度が高いことである。①では,頻回に起きる娘の自殺企図,息子の暴力,泥酔状態で高額のカード決済をする,といった問題が起きている。また参加者自身が家族の中で追いつめられて精神的に不安定になっていることも珍しくない。一歩間違うと殺人事件も生じかねない緊張状態をはらむ。②では,さまざまな状況(夫と同居中,別居中,離婚調停中,裁判中,子どもの面会交流調停中など)の女性が参加しており,弁護士紹介をはじめとして司法関係者との連携が不可欠である。③は育児行動に関して心理教育的なプログラムに沿って運営される。④参加者は女性が多いが,年齢は幅広い。被虐待経験のCPTSDに苦しんだり,性虐待のフラッシュバックが顕著な人もいる。また現在進行形で親の介護問題を抱える人もいる。⑤は「よき父親」になりたいと願う男性(過去には虐待的行動があった)へのプログラムを提供するグループである。

このように生命危機や警察関与などの社会的危機と隣り合わせの参加者が多いことは,ファシリテーターの役割は第一義的に介入であることを意味し,その点においてソーシャルワーク的視点が欠かせない。ある同業者はセンターの実践を評して「臨床の極北だ」と述べたが,日々覚悟を要するのは事実である。目の前のクライエントのためには弁護士や内科医,精神科医との連絡・協力が不可欠であり,さらに子どもの学校のSCとも協力しなければならない。連携・協働は目的ではなく,不可欠なのである。そのことがよくわかるDV被害者のグループについて具体的に述べたい。

3.DV被害者のグループ

もともとアルコール依存症の夫で困る妻たちのグループだったものを,2003年よりDV被害女性を対象とするグループに改組したものである。それをAbused Womens’ Group(AG)と名づけた。

(1)AGの参加者

参加者は三層に分かれている。①最初から夫のDVを主訴として来所している女性,②子どもの問題(引きこもり,摂食障害,暴力など)で来所し,カウンセリングを重ねるうちにDVが課題となった女性,③夫婦関係がうまくいかないという主訴からDV被害者へと主訴が変化した女性である。①の中には,夫と離婚・別居中の女性,同居中の女性がいる。また調停中や裁判中の女性もいる。②と③は来所時の主訴が,カウンセリングを経験することでDV被害者という主訴に変化している。このような主訴の変化は重要な意味をもっている。

彼女たちの多くは,来談当初は自分たちが夫を怒らせたという加害者意識をもっているので,DV被害者と自己定義できる(当事者性をもつ)ようになることで,主訴は変化するのだ。

(2)AGの構造

月2回(1回2時間),12回(6か月)で1クール,参加費一回税込み3,150円の契約制である。ファシリテーターは筆者で,記録者が1名参加する。各回の平均参加者数は10名であり,オープングループであるため,ニューカマーとアドバンスメンバーが混在する。その効果は,過去の自分と未来の可能性を同時的にグループで認知することができる点にある。特にDV被害者の時間感覚は,極端に遠い未来を考えて悲観的になるか,今日一日しか考えられず過去にとらわれた閉塞感におそわれるか,のいずれかになりがちなので,この効果は大きい。

12回を通して心がけるのは,3点である。
①危機介入→逃げる,家を出る,弁護士を紹介する,子どもの不調の援助者探し等を迅速かつ適切に提案する。明快な口調で行うことで,彼女たちの自己選択への重圧を緩和する。
②自己効力感を高める発言→人生最大の課題となる夫婦関係の見直しを行う勇気とグループ参加を継続する力を承認・賞賛・拡大する。
③DVにまつわる正確な知識を伝達する→世の家族にまつわる常識の反転がDVの知識である。後述するように「責任がない」ことを中心として伝え続ける必要がある。そのことが,DV被害者であるという当事者意識をもつためには不可欠となる。

(3)AGの展開

一回2時間の展開は次のようである。
*導入期:AAなどの自助グループで行われているように,言いっぱなし聞きっぱなしで一周する。前回から今回までに起きたできごとについて自由に語る。ファシリテーターは介入しないで聞くだけにする。
*展開期:参加者ひとりずつにファシリテーターからコメントをする。介入的なアプローチが中心となるが,指示はせずファシリテーターの意見として具体的に提案する。家を出る,いざとなれば110番通報する,弁護士を紹介し相談を勧める,CPTSDについての説明をし受診を勧めるなどである。
*終結期:最後に全員が感想を一周する。次回までのタスク(夫に伝える内容など)を明確にすることで行動変容を促す。

おわりに:グループが目指すもの

これまでの多くの集団療法は精神科病院やクリニックで実施されてきた。しかしセンターは医療機関でないので,クライエントを治療するわけではない。また,個人の成長・変容を目指しているわけでもない。家族における暴力や支配,職場におけるハラスメントの被害に苦しむ人たちに対して,その苦しみの正当性を保障し,背景の構造を読み解く知識を提供し,状況を変えるための行動変容を促すことを目指している。それらを支えるのは同じ苦しみを抱える仲間が存在する場=グループであると確信している。

ファシリテーターである筆者は,被害を個人に帰すのではなく,家族や社会の構造まで視野に入れてDVや虐待をとらえながら,きわめて具体的な介入を実施するように心がけている。筆者のDVや虐待に関する知識のほとんどはグループにこれまで参加された200人近い女性たちから語られた経験から得られたものである。「仲間」という言葉に込められた意味(マイノリティの連帯・共苦・類的経験など)を痛感させられるのがグループカウンセリングの醍醐味であり,40年近いグループアプローチの実践を駆動してきたのは,筆者も広義の仲間の一員になれたことではないかと考えている。

+ 記事

信田さよ子(のぶた・さよこ)
原宿カウンセリングセンター
資格:公認心理師,臨床心理士
著書:『家族と厄災』(生きのびるブックス,2023),『共依存—苦しいけれど、離れられない 新装版 』(朝日文庫,2023),『タフラブー絆を手放す生き方』( dZERO,2022),『家族と国家は共謀する』(角川新書,2021),『暴力とアディクション』(青土社,2024),『心理臨床と政治 こころの科学増刊』(日本評論社,2024)など多数

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