【特集 グループ・アプローチの魅力】#01 EGカフェへようこそ――気軽に参加できるグループを目指して|法眼裕子

法眼裕子(赤羽田中クリニック)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

1.どちらのグループに参加する?

エンカウンター・グループ(EG)とは,お互いが自由に語り合い共に時間を過ごす中で,自分自身の内面を見つめ他者と深い関係を築くことを体験するグループであるが,もし恩師や先輩から,「君もEGに参加してみるといいよ」と誘われたとしたら,EG未経験のあなたは次の2つのどちらのグループを選ぶだろうか。

➀「山の温泉でEG体験…自然の中でゆっくりと自分の内面と向き合い,他のメンバーと交流体験してみませんか」
2泊3日で参加費35, 000円。最寄り駅からバスで30分の山奥にある温泉宿が会場。

➁「気軽に日帰りEG体験…日常から少しだけ離れた場所で気軽にグループ体験してみませんか」
日帰り開催で参加費6, 500円。最寄り駅から徒歩5分のカフェ風スペースが会場。

おそらくあなたは「➀は自然の中というのは魅力だけれど,休みの日は研修会や学会に出なきゃいけないし,3万円越えの研修はなかなかハードルが高いな。ましてや山奥だと会場にたどり着くまでに時間もかかりそう。もしや前泊も必要!?」などとあれこれ考えた末に,「➁気軽に日帰りEG体験」を選ぶのではないだろうか。

2.EGは敷居が高い

しかし,「➀山の温泉でEG体験」のように,従来のベーシックなEGは日常から遠く離れた場所に宿泊して開催されることの方が多い。初めて出会う参加メンバーとファシリテーターの10数名が数日間寝食を共にしながらグループ体験を共有することになり,宿泊を伴う長期間のグループなので参加費が決して安くはなく,参加をためらってしまうのも無理はない話だと思う。仕事に勉強に忙しい若い世代の方々にEG体験を勧めてみても,「初めて出会う人とリアルで長時間一緒に過ごすなんて不安でしかない」,「忙しすぎて時間の都合がつかない」,「研修費やら学会費やら出費がかさむのにそんなに高い参加費払えない」といった反応が返ってきそうである。実際に参加者が集まらず中止になったグループもあり,EG参加人口は減少してきているように感じる。

3.参加しないのはもったいない

ただ,日常から離れた場所で自分自身の内面に向き合い,他の参加者と関係を徐々に築いていくグループ体験の味わい深さや面白さを知っていると,参加しないのは本当にもったいないと思う。また,自分自身の経験から考えても,グループの中で自分がどんなことを感じてどう反応をするのか,他者とどこまで深く向き合って関係を築けるかといったことを体験し,自己理解しておくことは心理の仕事をする上で役に立つと思われるので,心理臨床に携わる方々にはぜひEGを経験してもらいたいのである。

4.EGカフェの誕生

しかしそうは言っても,「EG体験が心理の仕事に役立ちそうなのは分かったし興味が出てきたけれど,やっぱりお金や時間を考えると参加するのは簡単じゃないよ」という声が聞こえてきそうである。そこで,もっと気軽に参加してもらえるEGを開催できないものだろうかと仲間とあれこれ考えて生まれたのが,先ほどの「➁気軽に日帰りEG体験」=EGカフェである。EGカフェは,日帰りであること,宿泊型EGに比べて参加費が安いこと,交通の便が良くアクセスしやすい会場ということから参加しやすく,また,カフェという言葉の響きが気軽に入ってお茶を飲むような場所というイメージにつながり,これまで参加をためらっていた人もハードルが低く感じられる心理的効果もポイントの一つである。

5.「お茶っこ」の体験から

そして,もう一つ印象深い経験がEGカフェ誕生の背景にある。それは,2011年の東日本大震災で津波の被害が甚大だった地域の避難所で支援活動を行っていた時のことである。ある時,誰かが避難所の片隅に卓袱台を置いたところ,その空間に自然と人が集まってきてお茶を飲みながら語り合うようになった。元々その地域には「お茶っこ」という,お茶を飲みながらおしゃべりする文化があるのだそうだが,卓袱台の周りに集まった人達同士がお茶を飲みながら会話するのを見聞きし,時に一緒に語り合う中で,その場が傷ついた人たちの支えになっていることが実感された。この経験から,我々の生活の中にも「お茶っこ」のような場があればいいという思いが湧き,EGカフェという発想につながったように感じている。

6.EGカフェのグループ構造

EGカフェの構造だが,当日朝に会場に集まったメンバーとファシリテーターの10数名が4~5セッションをともに過ごし,夕方解散する。話し合うテーマは決まっておらず,他のメンバーと自由に語り合い体験を共有する中でグループプロセスが進んでいくのは従来の宿泊型EGと変わらない。ただし,EGカフェでは会場を後にするとすぐに日常に戻っていくことになるので,より心理的な安全性を考えて,オリエンテーションやセッション後のクロージングには丁寧に時間をかけるようにしている。

7.宿泊型EGへの橋渡し

また,宿泊型EGは時間をかけてグループプロセスが進むのでグッと密度の濃い体験ができるのに対して,EGカフェは時間が短く少し物足りないぐらいの体験で終わってしまうこともある。だが,そのぐらいで良いと考えている。というのも,従来の宿泊型EGでは参加すらしないまま終わってしまっていた人たちに,短時間でもグループ体験の面白さを味わってもらうことで,「面白かったけど,あっという間だったな。もっと長く体験してみたいから今度は泊りのEGに参加してみよう」と,宿泊型へ橋渡しができれば,それぞれのグループの良さを生かせる上に,EGの参加人口が少しでも増えるのではないかという期待が持てるからである。

8.EGカフェ@オンライン

2020年初頭から始まったコロナ禍では,対面のグループが全く開催できない事態に追い込まれ,EGカフェも休止することになった。ただ,その中で,オンラインツールを使った「EGカフェ@オンライン」を開催できたことは大きい。苦肉の策で始めた企画だったが予想以上に参加を希望する人が多く,遠方に住んでいる,家を空けられないという人たちも気軽に参加しやすいことから,対面のEGカフェよりもさらに敷居が低くなる効果が生まれているようである。ただし,自宅など日常の場から参加するのでグループに没入しにくいことや,ネットを切断すればそこで瞬時にグループプロセスが切れてしまうといったオンライングループならではの難しさもあり,対面よりもさらにグループ構造に配慮し心理的な安全性を担保できるよう工夫していくことがこれからの課題である。

9.対面でのEGカフェの再開と今後に向けて

コロナ禍が落ち着いてきた2023年2月,久しぶりに対面でのEGカフェを再開したところ,キャンセル待ちが出るほど参加者が集まった。EG初体験の人も,グループ体験の再開を心待ちにしていた人も,それぞれがコロナ禍で人との接触を抑えねばならなかった数年を振り返りながら,他のメンバーとその場の雰囲気を共有し語らうことの醍醐味を味わうことができた。また,役割や立場を脇に置いた本来の自分からは思ってもみない感情や言葉が湧いてくるのを感じ,予定調和にいかないところも含めて「やっぱりグループはいいな」としみじみ感じた体験であった。

今後はオンラインでのグループを含め,「今日はちょっとEGカフェに行ってくるね」と言ってもらえるぐらい,EGカフェがより身近なものになるように仲間とともに展開していきたいと考えている。これを読んでいるあなたもWelcome to EGカフェ!

文 献
  • 人間関係研究会監修(2020)エンカウンター・グループの新展開 学びの書. 木立の文庫.
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法眼裕子(ほうげん・ゆうこ)
赤羽田中クリニック
資格:公認心理師,臨床心理士

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