【特集 グループ・アプローチの魅力】#03 不登校の子どもを持つ保護者のコンサルテーション・グループ|野島一彦

野島一彦(九州大学名誉教授・跡見学園女子大学名誉教授)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

1. はじめに

不登校者は約10年前の2012年度は小・中学校で112, 689人(1.09%)であったが,それ以降は毎年,増加し続けている。文部科学省の報告(2022)では,2021年度の不登校者は小学校で81, 498人(1.30%:77人に1人),中学校で163, 442人(5.00%:20人に1人),合計で244, 940人(2.57%:39人に1人)となっている。つまりこの10年あまりで倍増していることになる。

不登校者への対応としては,次のようなものがある。

(1)本人に対して
① 面接相談(カウンセリング):学内のスクールカウンセラー,養護教諭,学生相談室等/臨床心理士養成大学院附属の相談所,教育センター,クリニッック,病院等
② 電話相談
③ メール相談
④ 訪問:メンタルフレンド等
⑤ 適応指導教室
⑥ フリースクール
⑦ サポート・グループ
⑧ フリースペース等

(2)保護者に対して
① 保護者面接(カウンセリング)
② (専門家が入る)保護者の会(今田・夏野, 1997,小野, 2000,他)
③ (保護者だけの)サポート・グループ等

筆者は,2012年6月以前に,精神科病院と精神科クリニックで40年間,学生相談で26年間,中学・高校のスクールカウンセラーで19年間,不登校の子どもや親の支援(「個人アプローチ」)を行ってきた。それらの経験を基に,2016年6月から大学附属の心理教育相談所で〈コンサルテーション〉を特徴とする不登校の親の会(「グループ・アプローチ」)を始め,有意義であると感じている。それでその報告をして,考察をする。

2.親の会の構成と経過

まずはA市で2012年6月15日から月に2回,2時間のセッションを開始し,2020年11月15日まで143回開催し,55名の親が参加している。次にB区で2013年6月27日から月に2回,2時間のセッションを開始し,2020年11月15日まで152回開催し,41名の親が参加している。会はオープングループである。各回の参加者は6名までとしている。理由は各人の持ち時間を最低でも20分を確保するため。スタッフは筆者(男性)とインテーカー(女性)の2名である。参加費は当初は500円,最近は1,000円。なお,コロナ問題のため最近はズームで実施。

3.コンサルテーションの進め方

まず2時間(120分)を参加者の人数で割り,各人の「持ち時間」を決める。例えば,6名参加の場合は,各人は20分が持ち時間となる。会への到着順に,各人が子どもの様子や親の関わり方等についてひとしきり発言し,その後以下のような形で筆者がコンサルテーションを行う。

(1)コンサルテーションの基本的な進め方は,親が子どもをどのように理解し(「見立て」),どのように関わるとよいか(「手立て」)を具体的にコメントする。

(2)親の発言内容に関連して,適宜,以下のようなことを筆者が伝える。
① 不登校にはいろいろなタイプ(無気力型,遊び・非行型,優等生の息切れ型,甘やかされ型,学校生活起因型等)があり,そのタイプによって関わり方は異なってくる。
② 不登校に関係する3要因は,本人(性格,特性等),学校(友人関係,教師との関係,勉学等),家庭(父,母,きょうだい等)である。
③ 不登校の経過はギプス固定期(登校刺激を与えることはしない)とリハビリ期(立て直しに向けて鍛えていく)がある。
④ 心身のコンディションのバロメーターは,「快食,快眠,快通」である。
⑤ 立て直しに必要なことは食う,寝る,遊ぶ+話すである。
⑥ 立て直しに必要なことはセルフコントロール(主体性の回復)である。そのためには,タイム・コントロール,マネー・コントロール,ウェイト・コントロールの3つが重要である。
⑦ 立て直しの第一歩はお手伝い作戦(お手伝いしてもらう)である。お手伝いをすることは,休んでいることについての罪悪感の緩和になる,家庭生活を維持するのに自分も貢献していることとなる。自己効力感が高まる。これをやれるかどうかは,予後を占う重要なポイントである。
⑧ ビタミンM(母親)だけでは不十分でビタミンF(父親)が必要である。比喩として,ぜんざいにおける砂糖(母親)と塩(父親)の話をする。
⑨ 不登校の立て直しには「心理支援」と「学習支援」が必要である。学習支援は,親が教える,家庭教師,塾等がある。
⑩ 家庭内セルフ・コントロールができたら,家庭内バイト→外でのバイトと進めるやり方がある。
⑪ 「焦らず,慌てず,諦めず」に子どもの成長力を信じることが大切である。
⑫ 親が親の会に参加していることを子どもに伝える。

4. 考 察

(1)保護者支援の有効性

現状は,不登校の子どもへの支援を相談機関に求めても,多くの相談機関では,本人が来談しなければそれはできないと断られることが多い。しかし,筆者のスクールカウンセラーの経験では,本人がカウンセラーと直接会えるのは2〜3割であり,保護者面接で対応せざるを得なかった。しかし,本人と一度も会えなくても,保護者面接だけでも子どもが立ち直っていった。

保護者への支援を行うことは,子どもにとっては自分のことに専門家がコミットしているということを知ることであり,間接的に本人は専門家の影響を受けることになる。子どもによっては,専門家は自分のことをどんなに言っているのかを知りたがるし,時には専門家への質問を親に託すこともある。つまり,直接的援助関係はできなくても,間接的援助関係ができる。

(2)親の会が「グループアプローチ」であることの意義

筆者の保護者への支援は,親の会の開始以前は「個人アプローチ」だけであったが,親の会は「グループアプローチ」である。そのため「個人アプローチ」では見られない「グループアプローチ」に特有の以下のような援助機能が働き,非常にパワフルで有意義であると強く思う。

  • 普遍化:他の保護者の話を聴くことで,他の保護者も自分と同じように不登校の子どもを持つことによる問題や悩みを持っているということを知り,自分だけが特別に苦しい思いをしているのではないことを知り,気が楽になる。
  • 観察効果:他の保護者の子どもとの関わり方について聴くことによって,あのような関わり方をすれば子どもは楽になるだろうし,あのような関わり方をすれば子どもは苦しくなるだろうということに気づき,自分のことを振り返ったり,見習ったりする。人のふり見て,我がふり直せと言われるようなことが起こる。
  • 希望:他の保護者の子どもが元気になったり進路について自分なりの考えをもつようになり立ち直っていく様子を聴くことによって,我が子もそのうちきっと立ち直っていくだろうと将来に向けて希望がもてるようになる。
  • 相互作用:グループ担当者や他の保護者が話すのを聴くことによって,自分の中に触発が起こり,それを話す。するとその話を聴いた他の人に触発が起こり,話が広がったり深まったりしていく。つまり次々と触発が起こり,話が広がったり深まったりする。
  • グループ凝集性:不登校の子どもを抱えて苦悩しているという同じ境遇を持つ者同士ということで,お互いに親近感がわき,グループとしてのまとまりができる。グループとしてのまとまりができると保護者は相互に支え合うようになり,元気になる。
(オプトアウトの手続きをとった。筆者には開示すべきCOIの状態はない。)
付記:本稿は,2021年3月の日本集団精神療法学会の学術大会での口頭発表「不登校の親の会のコンサルテーション」をもとに加筆修正したものである。
文 献
  • 本田彩乃・窪内節子(2012)不登校の親の会における母親の変化過程.日本心理臨床学会第31回大会論文集, 658.
  • 今田浩・夏野良司(1997)適応指導教室における不登校児童・生徒の母親グループの事例―ファシリテーターの変容を中心に.日本心理臨床学会第16回大会発表論文集,164-165.
  • 文部科学省(2022)いじめの状況及び文部科学省の取組について https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_ijime_boushi_kaigi/dai1/siryou2-1.pdf
  • 中地展生(2006)不登校児の親グループ.In:野島一彦編:現代のエスプリ別冊 臨床心理地域援助研究セミナー.至文堂,128-138.
  • 小野修(2000)子どもとともに成長する不登校児の「親のグループ」.黎明書房.
  • 鷹尾雅裕・久保慎一(1992)不登校児の親のグループ.In:山口隆・中川賢幸編:集団精神療法の進め方.星和書店,182-197.
+ 記事

野島一彦(のじま・かずひこ)
九州大学名誉教授・跡見学園女子大学名誉教授
1975年,九州大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程単位取得後退学。1998年,博士(教育心理学),九州大学。
資格:臨床心理士,公認心理師,日本集団精神療法学会認定スーパーバイザー。
主な著書:『エンカウンター・グループの新展開 学びの書』,『エンカウンター・グループの新展開 出会いの書』(共著,木立の文庫,2020),『臨床心理学中事典』(監修,遠見書房,2022),『臨床心理学概論 第2版』(共編,遠見書房,2023)ほか多数

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