【特集 グループ・アプローチの魅力】#00 はじめに|野島一彦

野島一彦(九州大学名誉教授・跡見学園女子大学名誉教授)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

心理支援の形態としては,個人アプローチ(二者関係),グループ・アプローチ(三者以上関係),コミュニティ・アプローチ(多数関係)があるが,本特集ではグループ・アプローチを取り上げ,その魅力を紹介する。

グループ・アプローチの定義

「個人の心理的治療・教育・成長,個人間のコミュニケーションと対人関係の発展と改善,および組織の開発と変革などを目的として,小集団の機能・課程:ダイナミックス,特性を用いる各種技法の総称」である(野島,1982)。

グループ・アプローチの歴史と諸立場

現代的な意味でのグループ・アプローチは,1905年のボストンの内科医プラットによる結核患者の「クラス法」に始まると言われているが,その後,精神分析的立場,心理劇の立場,グループワーク,クライエント中心療法的立場,行動主義的立場,交流分析,ゲシュタルト療法等で展開され,今日に至っている。

グループ・アプローチの特徴

個人アプローチと比較してグループ・アプローチは2つの点で優位性がある。1つは,担当者にとっては,時間的・労力的に経済的である。利用者にとっては,個人アプローチよりグループ・アプローチの利用料金は安くなるという点で金銭的に経済的である。もう1つは,グループ・アプローチには個人アプローチの援助要因(①受容,②支持,③感情転移,④知性化,⑤カタルシス,⑥自己理解,⑦ガイダンス)もあるが,それに加えてグループ・アプローチ特有の援助要因(①愛他性,②観察効果,③普遍化,④現実吟味,⑤希望,⑥対人関係学習,⑦相互作用,⑧グループ凝集性)があり,パワフルである。

グループ・アプローチの適用

次のようにいろいろな目的でさまざまな対象に対し実践されている。①心理的成長:一般人,中学生,高校生,予備校生,専門学校生,看護学生,大学生,大学院生,夫婦,家族等,②人間関係能力の教育・訓練:保育士,教師,養護教諭,看譲師,福祉関係者,療育関係者,電話相談員,企業人,カウンセラー等,③心の癒し:緩和ケアにかかわる人,女性,働く人等,④心理的治療:総合病院,精神科病院等の患者等,⑤異文化間交流:異なる文化や言語を持つ人達,⑥社会的緊張・対立への対応:宗教,人種,政治体制等が異なるため緊張・対立が生じている人達。ちなみにカール・ロジャーズは,エンカウンター・グループを含めた集中的グループ経験を「20世紀最大の社会的発明」と述べている。

本特集で取り上げる5つのグループ・アプローチ

取り上げたい魅力的なグループ・アプローチは沢山あるが,そのなかからグループのスタイル,領域,対象者等がユニークな次の5つを紹介する。①1日数時間のエンカウンター・グループの時間を過ごす「EGカフェ」,②数十年以上にわたり定期的にエンカウンター・グループ的ミーティングを行っている「月曜会」,③長年にわたり不登校の保護者のコンサルテーションを行っている「不登校を考える親の会」,④総合病院における各種グループセラピィ,⑤民間のカウンセリングセンターでさまざまな対象者に行われているグループ。

心理専門職が身につけるべきグループ・アプローチ

国民の心の健康の保持増進に寄与する心理専門職(公認心理師,臨床心理士等)は個人アプローチのコンピテンシー(資質・能力)を身につけることは当然として,グループ・アプローチのコンピテンシーも是非身につけてほしい。これからの心理専門職は「二刀流」が必要である。

文 献
  • 野島一彦(1982)グループ・アプローチ.  IN:岡堂哲雄編:現代のエスプリ別冊 社会心理用語事典. 至文堂,pp. 86-87.
+ 記事

野島一彦(のじま・かずひこ)
九州大学名誉教授・跡見学園女子大学名誉教授
1975年,九州大学大学院教育学研究科教育心理学専攻博士課程単位取得後退学。1998年,博士(教育心理学),九州大学。
資格:臨床心理士,公認心理師,日本集団精神療法学会認定スーパーバイザー。
主な著書:『エンカウンター・グループの新展開 学びの書』,『エンカウンター・グループの新展開 出会いの書』(共著,木立の文庫,2020),『臨床心理学中事典』(監修,遠見書房,2022),『臨床心理学概論 第2版』(共編,遠見書房,2023)ほか多数

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