【特集 グループ・アプローチの魅力】#04 総合病院におけるグループセラピー|花村温子

花村温子(独立行政法人地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター心理療法室)
シンリンラボ 第7号(2023年10月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.7 (2023, Oct.)

はじめに

心理臨床の仕事についてから,いや,病院実習で実習生として学んでいたころから総合病院においてグループ療法に参加し,親しみ,実践を行ってきた。今回,「総合病院におけるグループセラピー」というタイトルで,私が普段行っているものを紹介する。

当院でのグループ療法

当院は,許可病床395床の総合病院で,私は心理療法室という心理職のみの部署に勤務し,医師や看護師など他の専門職と連携しながら業務を行っている。総合病院での心理臨床というと,身体疾患をお持ちの方に対して心理的ケアを行っているイメージの方が強いかもしれない。私も,認知症ケアチームや緩和ケアチームに参加しており,そういった業務も行っているものの,精神科に通院してこられる患者さんの支援(心理検査や個人カウンセリングなど)が業務割合としては一番多い。そして,精神科患者さんへの心理支援業務の中に,グループ療法も入ってくる。当院で行っているグループ療法は,以下の3つである。

① 「ドリーム」 家族以外の方と交流を持ちにくい方を対象の中心としたグループ。季節行事や料理,近所の公園への散歩など

② 「運動表現療法」 身体を軽く動かしながら心をほぐすことを目的にした,リラックスを主体としたレクリエーション的グループ

③ 「ミントの会」 コミュニケーションの上達を目指す方を対象とした会話中心のグループ

これらのグループには,当院精神科や心療内科に通っていて,参加意欲があり,主治医が参加可能と判断された方ならば,疾患問わず参加していただいている。そのため,発達障害や知的障害をベースに持ち不適応になっている方や,うつ病の方,統合失調症の方,社交不安障害で引きこもり傾向だった方など,さまざまな方が参加しておられる。

公認心理師が中心にグループを運営し,公認心理師を目指す実習生が2~3名参加,医師や看護師,ソーシャルワーカーが顔を出してくれている。

3種のグループの共通目標は,「皆で一緒に一つのことをしたり,いろいろなことを学んだりしながら人間関係に慣れ,人とのふれあいを楽しめるようになること」であり,「見学のみでの参加でも構いません」「みなさん1人1人のペースで」「無理しないことを大切にしています」と参加者に伝えている注1)

注1)「 」内は,参加者向け説明リーフレットより引用

グループに参加される方々とその様子

ここでは,どのような方がグループに参加し,グループはどのように活用されているのか,ご紹介する。以下ご紹介するのは,いくつかの症例から作成した架空症例である。

Aさんは,小学校での集団生活の中で人間関係に自信を無くし,引きこもりになり,長年不登校を続けてきた女性である。過干渉かつ感情の不安定な母親のもと,家での生活を続けてきたが,14歳のある日,ひどい過呼吸を起こし,母に連れられ病院にやってきた。内科での診察を経て,精神科に紹介され,カウンセリングに導入することになったが,面接場面でも小声で,はい,いいえ程度しか話せず,過度に緊張していた。そこで公認心理師は面接の中で,色彩分割法を提案して行うことにした。2人で白い紙に交互に1本ずつ線を引いて行き,出来上がった模様に色を付けていくものである。そういったやり取りがしばらく続いたのち,面接の時間は「2人で色彩分割法を行う」時間から,「色彩分割をしながら会話をする」時間になり,「おしゃべりしながら色彩分割を2人で行う」時間になり,次第に「おしゃべりのみ」の時間となった。Aさんは定期的に通院することになってから周囲に目を向け,服装も意識するようになってしてきたのか,徐々に年齢相応の女子らしい服を身につけるようになった。

個人面接で1対1のやり取りに慣れてきたAさんは,主治医からグループへの参加を勧められた。母は「この子にはまだ無理なのでは」と心配し,毎回付き添ってきた。実際グループを実施している部屋の手前から動けずに帰ってしまうことが繰り返された。しかし,入室できたときには「5分だけ部屋に滞在する」といったことを続けた結果,次第に継続して参加できるようになった。通しで参加できるようになってからも緊張はまだまだ強く,スタッフのそばに座ることが多く続いていたが,慣れるにつれ表情も柔らかくなり,話を向けると小さい声ながら発言したり,他の参加者やスタッフの言動に笑ったりする様子が見られるようになった。年上の参加者にかわいがられる様子も見られた。並行して続けていた個人面接では,「参加者のBさんの話がすごく面白い。あんな風にお話しできるようになりたい」「Cさんは,イラストがとても上手で,尊敬する」「Dさんのご家族は,親子で仲良くお出かけするとか,家族で言いたいこと言いあうなど,うらやましい」「Eさんは,グループ参加からステップアップしてお仕事に出られるようになったと聞いた。すごいと思う」といったように,グループ内で見聞きしたこと,体験したことの感想が話されるようになった。

公認心理師は,グループ参加を通して体験する世界が広がり豊かになったAさんの内面を感じ取り,さらに個人面接とグループ内での体験をつなげることを試みた。自らもイラストを描くAさんに〈今度,Cさんに,イラスト素敵です,と話しかけてみては?〉と提案したところ,Aさんはグループ内の参加者Cさんに話しかけ,イラストの話や画材の話ができたと嬉しそうにしていた。本来であればクラスメイトと体験するような女子同士のおしゃれについてのおしゃべり,文化祭のように皆で何かを作るといったこともグループ内で体験していった。これらは「人と一緒に何かをすることは楽しい」という体験を再認識することに繋がったものと思われる。

Aさんは,自ら活動を広げ,院内のグループにすべて出席するようになり,外出頻度は増えた。当初は黙って作業に参加するタイプでも良いグループに参加していたが,会話主体のグループにも参加し,練習をつみ重ねた。グループの週2回参加が数年経過したのち,病院外の社会参加に向け動き出したのも,グループで出会った他の参加者の影響が大きかったものと思われる。自ら「ほかの皆さんのように,仕事に行く練習をしたい」とのことだったため,ソーシャルワーカーの面談を経ていくつか見学をしたのちに,作業所に通い始めた。そこで母親が干渉し,「作業所ではなく,普通のアルバイトをさせたい」と主治医や担当心理士にも訴えてきたが,本人は「母が何か言って来ても,聞き流してほしい」ときっぱり答え,密着していた母子関係から分離する様子を見せた。

作業所スタッフには,病院内でのグループの様子を伝え,Aさんが手先の器用な方であること,しかし本人のペースを尊重しててほしいことなどを伝えていた。Aさんは作業所という,病院とは違う集団のなかで新たな経験を積んでいった。作業所で制作した手作り作品がバザーで売れるなどの体験から,さらなる自信を付けていき,アルバイトを目指すまでになった。

Aさんが活動を広げていく過程では,公認心理師やグループに普段関わるスタッフだけでなく,ソーシャルワーカーという,新しい相談先にも繋がることができている。院内で個人療法⇒集団療法⇒他のスタッフによる支援,さらに他の機関による支援と,細かいステップアップを行いながら,社会参加に向けていくことができたと考えられる。このように,個人面接と,グループ療法を組み合わせることで,それぞれがより効果的に作用し,良い結果につながった症例をいくつも体験している。

その他,病院のなかにある「集団」

社会は「集団」で成り立っており,病院もさまざまな集団から成り立っている。上記で紹介したグループのスタッフも,小さな集団であり,日々支えあい,励ましあい,学びあっている。それぞれの個性を生かしてグループに関与し,相互に影響しあっている。また,公認心理師実習そのものも,グループの中で,皆で関与しながら進めるため安全である。

病棟も,一つの集団である。例えば,看護スタッフという集団や,入院患者という集団。その集団と個人,または集団と集団がぶつかり合いを見せることもある。これらがうまくいかなくなったときに,「多職種カンファレンス」が行われる場合があるが,これが単なる治療方針決定の場ではなく,スタッフが,建設的な意見を出し合い,素直な気持ちを出し合い,労いあうという形で集団精神療法的に機能すると,その集団は心理的にお互いを支えあう場となり,安定し,成長を見せる。臨床現場で倫理的課題などの葛藤(例:ご本人はこれ以上のことをせず眠らせてほしいとおっしゃるが,ご家族は積極的な治療継続を望んでおられるなど)が起きたとき,公認心理師はそういった場への積極的な関与を求められることもある。

グループはおもしろい

グループ療法に携わっていると,「この方,このような側面もあったんだ」など,個人療法のみでは見えてこない参加者の変化に驚かされる。人と人の相互作用が人を変化させるが,グループではその作用が何倍にもなる。私は人が好きで,皆で何かを一緒にすることが好きである。これからもグループには関わり続けていきたい。

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花村温子(はなむら・あつこ)
独立行政法人地域医療機能推進機構 埼玉メディカルセンター心理療法室
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士

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