【特集 こころを支えるお仕事】心理カウンセラー|津川律子

津川律子(日本大学)
シンリンラボ 第1号(2023年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.1 (2023, Apr.)

1.日常と「こころを支える仕事」

朝起きると、新聞が配達されている。インクのかおりがする。郵便物が届いたり、宅配が届いたり、誰かが私に何かを運んでくれる。
カガミに向かって歯磨きをしたり、身支度をする。使っている歯ブラシや歯磨き粉も、人生で一度も手作りしたことはない。すべて誰かが作ってくれたものである。
出勤するまでの道路、カウンセリング室がある建物、どれもみな誰かが整備してくれたり、建ててくれたものである。
飲む水、食べる食材、基本的に何もかもが、誰かが手塩にかけてくれたものである。唯一、庭で採れた野菜があるが、これも「種」を購入しているので誰かのおかげである。
どれもこれも、不足すると、私の生活も仕事も成り立たない。たとえば、新鮮な野菜が自分を潤すように、どの仕事も、〝こころ〟に関係している。この特集である「こころを支えるお仕事」は、日本標準職業分類にある仕事のすべてなのかもしれない。

2.日本標準職業分類における「心理カウンセラー」

1)日本標準職業分類

総務省(2009)の「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)-日本標準職業分類一般原則」によれば、職業分類において「仕事とは、一人の人が遂行するひとまとまりの任務や作業をいう」とあり、職業分類の大分類は、A~Lまで12分類ある。それでは、私のような心理カウンセラーは、どこに分類されているのであろうか。結論からいうと、大分類B「専門的・技術的職業従事者」に入っているが、その中でばらばらに分類されている。

2)中分類で3つに分類されている

まず、中分類15「その他の保健医療従事者」の中で「心理カウンセラー(医療施設)」(分類コード159)がある。
次に、中分類16「その他の社会福祉専門職業従事者」の中で「心理カウンセラー(福祉)」(分類コード169)がある。
三番目に、中分類24「その他の専門的職業従事者」の中で「カウンセラー(医療・福祉施設を除く)」(分類コード243)がある。
最後の「カウンセラー(医療・福祉施設を除く)」の項目説明の冒頭に「カウンセリングに関する専門的知識を有し、学校・事業所等において、個人の抱える問題を把握して、専門的な援助を行う仕事に従事するものをいう」とあり、事例(例示)において「スクールカウンセラー」や「職場カウンセラー」がここに入っている。つまり、少なくとも、医療分野、福祉分野、教育・産業分野という3つの分類になっているようにみえる。

3)専門職だが「その他」

まとめると、大分類B「専門的・技術的職業従事者」の中にあるので、心理カウンセラーが専門職であることは認められているようだが、中分類では、いろいろな分野の「その他」に分類されているようである。

3.対人援助職

1)自分の〝まち〟にいる対人援助職

たくさんある「仕事」の中で、直接的に人を支援するものを対人援助専門職というのだろうか。対人援助専門職という言葉の定義や範囲は、確立されたものではないかもしれないが、自分が住んでいる〝まち〟を考えるとたくさんの職種が思い浮かぶ。
保育士や幼稚園の先生、学校の先生、塾や習い事の先生、医療関係の方がた、ソーシャルワーカー、福祉関連施設で働く方がた、警察官、栄養士や調理師、美容師や理容師・・・。
ここにすべては書けないが、「その他」にされたと感じる読者がいれば、申し訳なさを感じる。長年の「その他」敏感症であろうか。

2)心理カウンセラーと「弁護士」

心理カウンセラーはどうだろうか。自分のまちの中にいる、というイメージはもちにくいのではないだろうか。
一方、弁護士は、誰からみても専門職であり、対人援助職といえると思うが、自分のまちの中にいる、というよりは、何かあった時に頼る人というイメージであろうか。
それでは、心理カウンセラーは、弁護士に近いイメージかというと、そんなことはないであろう。弁護士=法律の専門家→何かあった時に頼る人→一定の信頼ができる人というのは、多くの人たちの理解ではないかと思うが、心理カウンセラー=心理相談の専門家→何かあった時に頼れる、という存在にはなっていないように思われる。
むしろ、少し胡散臭い人という印象があったり、自分のこころに入ってきてほしくない人というイメージもあったりするのではなかろうか。

4.信頼できる心理カウンセラーと倫理

1)信頼できる心理カウンセラーと出会うには

誰でも「自分は心理カウンセラーだ」と名のっても違法ではないということは、どうやったら信頼できる心理カウンセラーに出会えるのであろうか。自分がこれから会う心理カウンセラーが、最低限の仕事はまっとうしてくれるという保証は、どこにあるのだろうか。
資格の有無? 職業キャリアの長さ? 学歴? 博士号の有無? 社会的地位? 訓練年数? 留学歴? 専門論文数? ・・・ どの変数とどの変数の掛け合わせが、生活者に最も頼りになる心理カウンセラーを導き出すのであろうか。

2)倫理綱領と職能団体

その変数の1つとして、心理カウンセラー自身が倫理綱領をもつ職能団体に自主的に所属しているか否かが、あるのではないだろうか。
法律で処分されなくても、社会的なマナー違反はたくさんある。
たとえば、オンライン、とくにSNSにおける発信は、広く世の中に向けて社会的問題を発信するために効果的である一方、① 残存性(一度作られた情報は、完全に消えることはない)、② 複製性(デジタル化した情報は、短時間に大量に複製することが可能)、③ 伝播性(デジタル化した情報は、インターネットを介して世界中に拡散させることが可能)という特徴がある(一般社団法人 日本公認心理師協会 倫理委員会,2022)。
そのためには、オンライン、とくにSNSによる情報発信に際して留意し、それを呼びかけているような職能団体に自ら入会し、倫理的な研鑽を怠らないでいることは、小さいようで大きなことのように思われる。
むろん、SNSに限ったことではないが、倫理綱領をもつ職能団体に属しているかどうかは、信頼できる心理カウンセラーを探すときの変数の一つと考えられるのではないだろうか。

5.近未来

これからの自分の仕事(心理カウンセラー)は、どうなるのだろうか。自分のまちにいる対人援助職の中で、多くの人が自然に「心理カウンセラー」を思い浮かべるようになるのだろうか。弁護士のように、何かあったときに頼れる存在として認識されるようになるのだろうか。
わずか数年の間に世界や日本で発生する社会的な出来事の多さを考えると、20年後や30年後を予測することは容易ではない。自分の職業の10年後を予測することであっても、そんなに簡単なことではないような思いになる。
したがって、自分がやれることは、臨床実践の実力を磨くことに尽きる。近未来の信頼される 〝まち〟 の心理カウンセラーを目指して。

文  献
+ 記事

(つがわ・りつこ)
日本大学文理学部心理学科
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士

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