動機づけ面接入門(6)依存症専門外来における動機づけ面接|加濃正人

加濃正人(大石クリニック/昭和大学横浜市北部病院)
シンリンラボ 第6号(2023年9月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.6 (2023, Sep.)

筆者は物質使用症および嗜癖症(以下依存症と総称)の治療を専門とする精神科クリニックにて外来診療を行っている。治療対象はアルコール使用症,他の物質使用症群,ギャンブル行動症,窃盗症,パラフィリア症(性嗜癖),買い物嗜癖,インターネットゲーム行動症,家庭内暴力,あるいはこれらの患者の家族相談など多岐にわたる。本稿では,依存症の各種臨床における動機づけ面接(Motivational Interviewing;以下MI)の適用場面を概説する。

1.一般的な治療困難状況に際して

患者自らが予約を取り来院する外来専門クリニックの性質上,治療そのものへの動機づけが必要な場面は少ない。しかしながら,治療目標の話し合いや,治療経過中の動機低下に際しては,MIが必要になることがある。

1)「減らすだけに留めたい」と言う患者

依存症における治療目標には,中止と節制管理(量や頻度の制限)がある。潜在的なものも含め自身や周囲に対する有害事象が生じないよう制限できそうな場合や,中止すると社会生活が成り立たなくなるような対象(買い物)である場合には節制管理が検討される。一方で,依存症はうつなどのメンタルヘルス不調を誘発し,増悪させる因子であるから(Hasin et al., 2002; Taylor et al., 2014),メンタルヘルス不調が存在する場合には節制管理ではなく中止が原則となる。しかしながら,物質使用や嗜癖行動の節制管理を希望して来院する患者に対して,治療者が権威的な態度で中止を強要すれば,治療の途絶を招いてしまう。

このような場合にMIが有効である。患者の「減らしたい」との発言を,単なる現状維持を求める発言(維持トーク)と捉えるのではなく,何らかの形で現状から変わろうとする要素を含む発言(チェンジトーク)と見なし,チェンジトークの要素を抽出して強化していくことができる。

具体例として,飲酒に伴ううつ状態が重篤化していて,節酒ではなく断酒が望ましいと判断されるような患者が,断酒ではなく節酒を希望する場合がある。そのようなときには,「このままではなく,減らしたいのは何故ですか?」と理由を尋ねたり,「今とは変えた方がいいと思われるのは,日常生活にちょっと支障が出ているからでしょうかね……」と理由の仮説を聞き返したりする。理由を尋ねる質問には,「このままではなく」のような言葉を添え,患者が現状維持との違いに注目しやすいように注意する必要がある。単に「減らしたいのは何故ですか?」と尋ねてしまうと,止めないのを批判されると考えている患者から,止めないで減らすだけに留める理由(維持トーク)を引き出し,変化の動機を低下させることになる。

2)スリップを告白した患者

それまで物質使用や嗜癖行動を中止できていた患者が,何らかのきっかけで一時的な使用・行動を行ってしまうことをスリップ(ラプスともいう)と呼ぶ。使用・行動の再燃(リラプスともいう)とは異なるものと解されるが,スリップは再燃に発展する可能性も高く,スリップも含め再使用を防止できるよう,自助スキルを磨いてもらうことが治療の目標となる。

診察の中で患者がスリップを告白した場合,再度のスリップを防ぐために,行動分析や認知行動的アセスメントなどに基づいて,スリップの発生メカニズムを分析することが有用だが,いきなりその作業に入るのは望ましくない場合が多い。なぜなら,スリップを体験した患者は,ときに回復への自信を喪失していたり,治療意欲を低下させていたり,自暴自棄になっていたりするからである。

スリップに至った患者に対しては,まずMIの原則に則り,スリップの経過に内在する望ましい行動や意欲を明確化し,そのような望ましい行動や意欲を持った理由(チェンジトーク)を話させる必要がある。たとえばギャンブル行動症の寛解早期にある患者が1日だけパチンコに行ってしまったならば,「翌日はこらえたんですね……」「1日だけで止められた理由は何でしょう?」「続かないように頑張りましたね」などと,翌日の状況に焦点を当てて応答する。あるいは,スリップを告白してきた患者には,「勇気を出してここで共有して,仕切り直しをしたいと思われたんですね……」などと,告白が治療意欲に関連しているという仮説を投げかける聞き返しを行ってもよい。

2.認知行動療法の実施に際して

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy;以下CBT)は,認知や行動に関する法則やモデルに基づいて患者の問題を解決する方法の総称である。一般的なCBTのモデルでは,何らかの不都合な状況に際して,状況へのとらえ方(認知)が不健康な感情と自滅的行動を引き起こすと仮定し,認知を変容させることによって不健康な感情や自滅的行動を抑止することを目指す。当院では対症疾患別,あるいは全疾患対象の集団認知行動療法を提供しているが,それに参加する患者への補足的な対応として,医師による個別の認知行動療法を実施することがある。診察の中でCBTを実施しようとするとき,MIの援用が有効な2場面を解説する。

1)認知の検討を拒否する患者

CBTにおいては,きっかけとなる状況を直接変えようとするのではなく,状況への推論や評価(認知)を変える。きっかけとなる状況には,職場や家庭での理不尽な扱い,社会的孤立,過去の過酷な体験などが挙げられるが,一部の患者は,それらの状況が存在する限り依存症から抜け出すことができないと訴える。しかし,状況は単独で行動を引き起こすわけではなく,その状況に際して抱く認知が,感情的混乱を経て行動を生起させる。このため状況が変わらなくても,認知を検討して変容させるスキルを身につければ,行動を変化させることができる。また,行動を変化させることによって発端の状況を好転させられることもある。

CBTの中で認知の検討を進めるときに,患者から拒絶的な反応を返されることがある。患者からの主張の多くは,理不尽な目に遭っている自分が変わらなければならないこと自体が理不尽,というものである。

MIは,このようなケースに有用である。まず,自分が変わることの理不尽さに対して抱いている怒りと,その背景にある「理不尽さを受容しない認知」を十分に共有する。その上で,その認知を持ち続けることのメリットを可能な限り挙げてもらい,その後で別の認知を持つメリットを挙げてもらう。持ち続けるメリットを先に尋ねる順番が重要である。このようにすると,別の認知を考えてみる行動へのチェンジトークを引き出しやすくなる。チェンジトークを引き出せた後は,通常のMIと同様にチェンジトークの詳細や理由を明確化する。

なおこの際,患者の感じている理不尽さが正当なものであるかどうかの道徳論に陥らないようにすることが肝要である。たとえ理不尽であっても,患者が自分の利益のために状況を受容できるようにガイドすることが,状況を好転させるステップとなる。それが本当に理不尽なことなのかの議論は,水掛け論になって問題解決につながらない。

2)宿題の実施を渋る患者

CBTでは,頭の中で自己修正した認知を実感に落とし込むための行動的課題を設定し,次のセッションまでの宿題とすることが多い。具体的には,物質使用や嗜癖行動のきっかけとなるような状況に置かれたとき(イメージ上で故意に状況を想像してもらうこともある),セッション内で行った認知の自己修正を試して,感情や行動の変容が起こるかどうかの確認をしてもらうことなどが宿題となる。

宿題はCBTにおける治療の中核的要素であることを説明するとともに,次のセッションでは必ず宿題のチェックをすることによっても宿題の動機づけにはなるが,それでも,宿題の実施を渋る患者がいる。このようなとき,MIのやり方を使って宿題の提案をすると,患者に受け入れられやすい。

MIにおける提案は,「尋ねるー提案するー尋ねる」の順序で行う。まず初めに,「ひとつ,治療効果を高めるための提案があるんですがよろしいでしょうか?」と,提案を聞いてもらえるかどうかの質問を行う(尋ねる)。患者が承諾したら,宿題についての具体的提案を行う(提案する)。そしてさらに,「次回までの宿題とすることについてどう思われますか?」と,選択権を委ねる形で開かれた質問を行う(尋ねる)。状況に応じ,その回答に対して聞き返してチェンジトークを引き出してもよい。

3.家族相談において

家族に対するサポートは,依存症治療において重要な役割を果たす。治療者が患者に関われるのは患者の日常生活のごく一部の時間で,家族が患者に関わる時間はそれより多いからである。当院では,依存症患者家族向けの個別相談・集団指導を行っている。集団指導としては,心理師が定式的なマニュアルに基づいた技術指導(CRAFTと呼ばれる)や,当院スタッフの司会の元に患者家族同士で問題点の整理や解決法の模索を行うグループミーティングが行われている。これらの効果を高めるために,医師による個別相談の中でも,患者家族にMIの知識やスキルを教えることがある。以下にその例を示す。

1)両価性の概念の心理教育

患者の家族は,患者が「回復したか」「回復していないか」のいずれかの状態に分別できると錯覚しがちである。患者が「変わりたい」と話したり実際に行動が変わったりすると,依存症から回復してすべての問題が解決したと思い込んでしまうが,その後問題が再燃すると,「やっぱり回復していなかった」「変わりたいと言っていたのは嘘だった」と絶望してしまう。

MIの特徴の一つは,行動変容問題を,「変わりたい」と「変わりたくない」が併存しての綱引きをしている状態(両価性)として理解していることである(図1)。「変わりたい」と話して治療に積極性を見せている患者であっても,一定程度は「変わりたくない」気持ちがある。一方,「変わりたくない」と話して治療に拒絶的な患者であっても,多少は「変わりたい」気持ちを持っている。患者家族が依存症の病態をこのような両価性として認識し,「変わりたい」という言動を強化することによって両価性のバランスを変化させることを目標とするイメージを持てると,患者支援に疲弊することが少なくなる。

また,両価性のバランスを「変わりたい」に移動させるためには,患者にチェンジトークを話させることが必要との知識を教えることにより,具体的に身につけるべきスキルを理解しやすくなる。

図1 行動変容の両価性

2)MIの「演習」を活用する

患者家族は,患者の問題解決を望む熱心さのあまり,物質使用や嗜癖行動の中止を患者に高圧的に指示したり,スリップや再燃に至った患者を強く責めたりすることがある。その結果,患者からの反発を招いたり,患者との対話が途絶えたりして,患者への介入が困難になってしまうことも多い。

MIの特徴は,MIを身につけるための練習方法が「演習」として系統化され,マニュアルとして公開されていることである(MINT, 2020)。家族支援の面接において演習を実施し,家族にMIのスキルを学んでもらうようにするのは,10~15分程度の時間を要するが,効果的な方法である。また,患者回復の重要な要素が家族のスキルであるという視点に立った家族支援は,患者が回復しないのは自分たちの熱心さが足りないからだという家族の誤解を解く上でも有効である。

公開されている演習のうち,家族支援に使いやすいものとして「MIを体験してみる」や「構造化演習」などがある。「MIを体験してみる」は,図2に示すようなマニュアルに基づいて,治療者または他のスタッフ相手に面接を実施してみるもので,高圧的でない受容的な対話を体験的に学ぶことができる。

図2 演習「MIを体験してみる」
Training of New MI Trainers Manual (Japanese translation 2020) (MINT)

「構造化演習」は話し手(1名)と聞き手(1~2名)で行う演習で,話し手が提示するあいまいな表現や行動変容の課題に対して,聞き手が「それは○○ということでしょうかね」「そうしたいのは□□だからなのですね」と内容や理由を含んだ聞き返しを返していく演習で,共感的応答を身につけるのに役立つ。これらは専門家のトレーニング用に考案されたものだが,治療者が適切な説明を加えれば専門的知識がない家族でも実施できる。

このほか,平易な表現で書かれたMIの入門書(清水,2022)や,MIの自助教材(Rosengren, 2009/邦訳,2013)なども,家族支援の面接の中で紹介できる。他の心理療法と異なり,MIは一定の手順を要するものではないので,一定量のトレーニングを積んで手順を頭に入れないと実施できないということがない。少しだけの学習であってもそれに見合ったスキルの向上が見込めるので,家族支援でも取り入れやすい。

依存症を扱う外来においては,対象が行動であるが故に,行動変容の重要度,自信度を変容させる介入が必須となる。自信度を上げるにはCBTが強力なツールだが,重要度を上げるための方法としてはMIに頼るところが大きい。

文 献
  • Hasin, D. S., Grant, B. F.(2002)Major depression in 6050 former drinkers: association with past alcohol dependence. Archives of general psychiatry, 59 (9); 794-800.
  • MINT(Motivational Interviewing Network of Trainers)(2020)Training of New MI Trainers Manual 2020(TNTマニュアル日本語版翻訳チーム訳(2020)TNTマニュアル日本語版 2020). https://motivationalinterviewing. org/motivational-interviewing-resources(2023年7月16日閲覧)
  • Rosengren, D. B.(2009)Building Motivational Interviewing Skills: A Practitioner Workbook. The Guilford Press.(原井宏明監訳,岡嶋美代・山田英治・望月美智子訳(2013)動機づけ面接を身につける—一人でもできるエクササイズ集.星和書店.)
  • 清水隆裕(2022)外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法―動機づけ面接入門編.メディカルサイエンスインターナショナル.
  • Taylor, G., McNeill, A., Girling, A. et al.(2014)Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis. British Medical Journal, 348: g1151.
バナー画像:mohamed_hassanによるPixabayからの画像
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加濃正人(かのう・まさと)
大石クリニック/昭和大学横浜市北部病院
資格等:博士(医学),医師,公認心理師,臨床心理士,論理情動行動療法(REBT)インストラクター,動機づけ面接トレーナーネットワークメンバー
主な著書:『人生哲学感情心理療法入門』(分担執筆,静岡学術出版,2013),『今日からできるミニマム禁煙医療 第2巻 禁煙の動機づけ面接法』(中和印刷,2015)
専門:動機づけ面接,論理情動行動療法(REBT),依存症治療

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