voice 9 新規開業のカウンセリングオフィス──開業3ヶ月目のリアルな現状│葛西修司

1.はじめに──心理職開業に関する情報

最初に,私が本稿を執筆した理由を述べておく。いろいろと考えた末,開業してみようと思い,カウンセリングオフィスの開業についてネットで情報をあさっていた。しかし何分ニッチな領域である。開業に関する情報はあまり多くない。

たまに,オフィスの開業について言及した先輩開業カウンセラーの方のブログを拝見することはできたが,開業当初の様子について触れた内容はあまりお見掛けしなかった。

私としては,開業までどのような準備をしてきたのか,開業初期の運営が不安定な時期にどのように乗り切ってきたのか,ということに関して参考となる情報が欲しかった。40代手前のいい年して勢いに任せて開業するというわけにもいかず,できるだけ情報を集めておきたかったのであるが,有益な情報は少なかった。

そのため,一般的な起業/開業初期の準備や運営に関する情報も参考にして,開業に踏み切った。

そんなこんなで,私の運営するオフィスは2025年4月に仙台市で開業し,現在4ヶ月が経過しようとしている(2025年7月現在)。

本稿の目的は,これから開業を考える方や開業に興味はありつつもビジョンが見通せない方に向けて,開業初期のリアルな情報を伝えることである。これまでの3ヶ月間の経験と心境をご覧いただければ幸いである。

2.開業への道のり──準備と戦略,収入源の確保

1)開業前の準備

開業には,事業計画策定,物件選定,設備購入,そしてウェブサイト構築と集客戦略が必須であった。約100万円を初期費用に見積もっており,その内訳は物件の初期費用(約50万円),WEBサイト制作費(当初は約30万円),家具・家電(約20万円)などである。しかし,WEBサイトは自作で費用を抑え,その分をWAIS-IV検査の購入に充てることができた。資金確保が難しい方は融資も検討すると良いだろう。

オフィスの選定も重要である。できるだけ固定費(家賃)を抑えつつ,利便性の良い場所を探した。見つけたオフィスは,仙台市営地下鉄始発駅から徒歩6分の駅近物件である。仙台の開業カウンセラーは都心部である仙台駅周辺に集中しているため,位置的競合を避けつつ利便性を保ち,近隣に駐車場が多いことも利点であった(仙台は車社会である)。当初は1Kの広さで十分と考え,費用を抑えることを優先した。

2)集客戦略

料金設定は初回を半額にするなど敷居を下げる工夫を行った。予約はWEB,LINE,メールで受け付け,決済は現金以外にキャッシュレス決済等にも対応している。

WEBサイトの作成やSEO対策は自力で行ったが,これは集客の要となるため,知識に自信のない方は業者に任せても良いと思う。私は初期費用の削減と,今後必須となる知識を身につけるため,自力で取り組む方を選択した(あと前職を退職前に溜まっていた有給休暇をフル消化したので時間もあった)。

3)収入源の確保

開業初期から申し込みがあることは期待しない方が良い。後述するが,本当に来ないから。そのため,オフィス以外での収入源を確保しておくことをおすすめする。私の場合は,前職の病院を非常勤で継続し,オンラインカウンセリングやEAP業務等を業務委託で確保していた。スクールカウンセラーも視野に入れたが不採用であった。私のように副収入も業務委託ばかりになった場合,仕事をふられなければ収入につながらないので,可能であれば非常勤でどこかに勤務することをおすすめする。より気持ちに余裕を持ちたい方は,生活費(社会保険料や住民税等含む)の1年分程度の貯えを用意しておくと良いだろう。

3.開業3ヶ月のリアルな現状

開業後3ヶ月は,期待と不安,そして気分の乱高下に振り回される日々であった。振り返ってみれば,とにかく集客に焦らないこと,アイデアを行動に移すことが大切だと思う。

1)1か月目:予約なし。ネットワークインフラ整備に没頭

1ヶ月目は,クライアントからの問い合わせを鶴首して待つ日々。事前情報で開業直後は新規予約が少ない(ほぼない)ことは承知していたが,人間は期待してしまう生き物である。案の定,予約は一件もなく,ひたすらブログを更新し,キーボードを叩く音だけがオフィスに響いた。この時期に近隣の心療内科に手紙を送ったところ,1件返事があり,提携していただくことができた。

2)2か月目:ポツポツ予約。継続に繋がらず

2ヶ月目に入ると,ゴールデンウィーク明けからポツポツと予約が入り始めた。予想より早い展開に有頂天となったが,初回面接以降の継続予約になかなかつながらず,すぐに意気消沈。クライアントの継続率を上げるため,「営業トーク」的な要素も必要と感じ,文献を読み漁る日々であった。恥ずかしながら,心理職として仕事を始めて今が一番真剣に本を読んでいる時期かもしれない……。一方で,この時期に特段PRしていなかったWAIS-IV検査を希望する方が現れ,結果を具体的に説明すると大変喜ばれた。この出来事を機に,WAIS-IVの本格的なPRを打ち出すことになった。「WAIS買っててよかった」と心底感じた。

3)3か月目:予約に波有り。気分も波有り

3ヶ月目の梅雨入りが近づく頃。先月10件ほどあった新規予約に舞い上がっていた(すぐに調子に乗る性分なのである)が,6月中旬まで何の音沙汰もなく,「もうだめだ。終わった。廃業だ……」とまたしても急降下。気分の乱高下が激しい日々であった。だが,6月中旬以降にカウンセリングとWAIS-IVの問い合わせが立て続けに入り,少しずつ継続利用の方も増え,私は再び調子に乗り始めたのである。

4)開業3か月間の総括と課題

これが,当オフィスの開業から3ヶ月間の様子である。開業しても半年くらいはほとんど予約が入らないといった情報も有ったので,覚悟はしていたが,想定より早く予約が入ったのはうれしい誤算であった。しかし,それで逆に舞い上がってしまい,予約状況に私の気分が振り回されてしまう羽目になった。そういう時は,セルフ認知行動療法と自律訓練法によって対処している。「資金にはまだ余裕がある」と自ら認知再構成を試みるのだ。現在は少し改善してきたものの,どうも私は「予約や問い合わせは毎日あるもの」といった考えに陥りやすいようである。経営者として私自身の課題も多く,感情のコントロールをはじめ,様々なことを学んでいかなければならないと思っている。

4.開業3ヶ月でわかったこと

1)集客の基本はネット戦略

集客にはネット戦略に力を入れることが開業初期においては特に重要である。カウンセリングを受けたい大半の人は,ネットで情報収集をしているからだ。当オフィスのクライエントもほとんどの方がネットで検索して予約されている。WEBサイトの開設や基本的なSEO対策はもちろん,ネット広告やSNSの運用も検討できるとよいだろう。当オフィスも,ネット広告とInstagramを運用し,専門的な内容のブログはWEBサイトに,ちょっとした日常の発信はInstagramに投稿し,インターネット上の露出を増やしている。カウンセラーの人となりを知ってもらうことで,クライエントの判断材料を増やしていくことを目的とした活動である。

また,オフィスを設ける場合は,MEO対策も必須である。MEOとは,Googleマップに自オフィスを登録することである。皆さんもGoogleマップで近くの飲食店や病院を検索すると,マップ上に店舗が表示されるだろう。あれがMEOである。これによって,オフィスのある地域住民の方に見つけてもらいやすくなる。

2)他機関と積極的に連携する姿勢をみせる

メンタルヘルス支援において,様々な職種や他機関との連携は重要である。それは,開業カウンセリングにおいても同様であると考えている。例えば,ひきこもり支援においては個人カウンセリングだけでなく,集団の中に入っていく練習も必要となるため,他機関との連携はクライアントのためにも重要であると考えている。

そのため,いくつか目ぼしい他機関があれば,連絡を取って挨拶をしておくことも良いだろう。私自身,開業して3ヶ月の間に,前述の医療機関に加え,就労支援機関にご挨拶に伺ったことがある。当オフィスのサービス内容や今後のビジョンをお伝えすると,共感していただけたようで,今後様々な形で協働関係を築けそうな下地を作ることができた。ご挨拶に伺った医療機関に関しても,すでに患者さんをご紹介いただくこともできている。

なんでもメールやオンラインで手軽に連絡を済ませられる昨今であるが,実際に足を運んで対面でやり取りをすることで,訪問先からもより信頼してもらえると思っている。このような地道なつながりが,クライアントの利益に資するだけでなく,後々オフィスの発展にもつながる可能性があると考えている。いや,信じている。

5.おわりに──開業は大変,でも楽しい,でも大変
1)開業初期の心得

「開業初期のカウンセリングオフィスは,まさに『種まき』と『土壌づくり』の時期である。」と,私は思うようにしている。売上の波や問い合わせの増減に一喜一憂することなく,目の前のクライアントに真摯に向き合い,得られたデータを分析し,改善を続けることが何よりも大切であると,そう言い聞かせている。そうでなければやってられない。また,今はとりあえず,アイデアを行動に移し,結果を検証するの繰り返しである。何がいい方向に繋がるか分からないので,「とりあえずやってみる」ことを意識している。ちなみに本稿の執筆も,「とりあえずやってみる」の一環である。

2)開業=収入の不安は覚悟して

開業することをおすすめするかと言われたら,今の私には「おすすめします」とは即座に答えられない。私自身,今のところ開業してよかったと思えることの方が少ない。その日暮らしで一寸先は闇。収入の不安は今後も付きまとうことだろう。気軽に開業したつもりもないし,覚悟はしていたが,開業したことに後悔することもある。ただ,開業したからこそできた経験や出会いもある。自分の中の様々な可能性が開けたような気もする。

3)開業して起こった私の変化

ただ一つ言えるのは,自分の人生で今が一番何かに対して主体的に取り組んでいるということだ。そういった意味では充実していると言えるのかもしれない。開業することによって,私が心理職としてやりたかったことを好きなように展開できているからだ。

今後,この事業がうまくいくかどうかは全く分からない。先が見通せない不安と面白さが一体化した感覚に,戸惑いつつも楽しさも感じている。このアンビバレンスな感情を抱えつつ,「今ここ」でやれることに精一杯取り組んでいきたい。

4)まとめにかえて

以上が,当オフィスの開業3ヶ月のリアルな現状と心境の様子である。開業は時間に縛られず,自分のやりたいことができるといった魅力的な面もあるが,大変なこと,考えなければいけないことがいっぱいであることをご承知おきいただきたい。私の個人的な考えであるが,心理支援業務に集中したいという方は,開業はおすすめしない。特に開業初期は本来の業務以外のところで時間を取られることが多い。SEO戦略や他機関との付き合い,資金戦略など経営に関することで考えなければいけないことが山ほどあるからだ。逆に,心理以外のことも色々と経験してみたいと思える方は,チャレンジしても良いかもしれない。

今後,当オフィスがどうなっていくのか。時折,この小さなオフィスの歩みを気にかけていただけると幸いである。

仙台泉メンタルサポートオフィス

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葛西修司(くずにし・しゅうじ)
仙台泉メンタルサポートオフィス
資格:公認心理師,臨床心理士
医療(精神科/児童思春期精神科領域),教育(スクールカウンセラー/学生相談室),産業(行政機関)において10年以上の臨床経験の後,2025年4月に開業。
認知行動療法/自律訓練法/WAIS-Ⅳ知能検査を「売り」にしたカウンセリングオフィスを運営中。主に成人期のメンタルヘルスにおけるカウセリングからアスリートのメンタルトレーニングまで幅広く対応している。

仙台泉メンタルサポートオフィス https://snr-heybn.com/

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