voice 8 村瀬嘉代子先生の逝去を悼む〈皆さまの声をお寄せください〉│森岡正芳

村瀬嘉代子先生が,2025年1月2日に御逝去されました。この知らせを,皆様はどのようにお受けになりましたでしょうか。私たちも,まだ信じられずにいます。あのたたずまい,やわらかいほほえみを浮かべながら,どこかでそっと見守ってくださっているようなご様子。冷静で静かに今起きていることを感知し,判断と行動に移す。このようないで立ち,人に語りかけるときの声とまなざしは,私たちの心の奥にまで染み入っていて,今もひそかに光を与えてくださっています。魂の安らかなることご冥福を切にお祈りします。

在りし日の村瀬嘉代子先生
(写真:『緊急支援のアウトリーチ──現場で求められる心理的支援の理論と実践』遠見書房,2017 座談会より)

もしかしたら若い世代の方には,やや遠い存在になってしまっているかもしれません。村瀬嘉代子先生は,日本の臨床心理学を切り開いた歴史に残る人です。奈良女子大学を卒業後,戦後制度化された家庭裁判所調査官業務の基盤作りに始まり,現在に至るまで医療,教育,福祉にまたがる広範囲の領域において心理の仕事の礎を形成してこられました。日本臨床心理士会元会長。日本心理研修センター(現在の公認心理師試験研修センター)を創設し,心理職の国家資格化に向けて日夜奮闘されて来られたことは人々の記憶に新しいでしょう。

卒寿を間近にされていた先生の道のり,心理臨床家としてのお仕事の全貌はほとんど見渡せないくらいの広さと深さを有していらっしゃいます。生前長きにわたり,多くのクライエントとご家族たちの心の支えになって来られました。「面接室の時間だけでなく,24時間その人がどのような生活をしているのかを,イメージなさい」とよくおっしゃっていました。

そして,私たち後進の指導に日夜取り組まれ,さらに心理職の資格制度の充実発展に真っ向から従事され,達成されたその堅固なご意志と,圧倒的な持続,実行力を鑑みますと,シンリンラボ編集局として,格式ばった追悼の辞を申し上げるよりも,シンリンの専門家である読者の皆様から,声をお寄せいただき,その声を集め,ご霊前に供えるのが相応しいと考えます。

新しい年を迎えた今年も先生は,全国各地,数多くの研究会や専門職の集まりでの講演や臨床指導の予定を入れていらしたと伺っています。これまで,どのくらいの多くの方々が先生の言葉に耳を傾け,臨床の現場に向かう力を呼び覚まされたことでしょう。およそ見当もつきません。

学会,研究会,セミナー,スーパーヴィジョン他で,村瀬嘉代子先生に接し,直接の指導を受けた方々には,ご自身の心に深く刻まれたことや臨床実践に生きた力になった体験などを差し支えない範囲でお寄せ下さい。あるいは立ち話のささやかな場面で先生とふと交わした言葉,そして,多くの書籍を通して深く心に刻まれた言葉などをぜひお寄せいただきたく思います。

シンリンラボ編集委員を代表して
森岡正芳

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シンリンラボ編集部

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森岡正芳(もりおか・まさよし)
所属:立命館大学総合心理学部
資格:公認心理師・臨床心理士
主な著書として『物語としての面接―ミメーシスと自己の変容』(新曜社,2002)『うつし 臨床の詩学』(単著,みすず書房,2005),『臨床ナラティヴアプローチ』(編著,ミネルヴァ書房,2015)『臨床心理学』増刊12号「治療は文化であるー治癒と臨床の民族誌」(編著,金剛出版,2020)などがある。

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1コメント

  1. 村瀬嘉代子先生は、私にとって先生でもありカウンセラーでもあります。

    「人を人として遇することが、アルファでありオメガでしょう」

    拙著のご相談をさせていただいた際、研究会やご自宅でお話した際にも何度かお聞きしたお言葉です。

    私はオメガという言葉を聞いた時、先生が終わりを意識されているようで、少し寂しくなったことを覚えています。

    私が先生にカウンセリングをお願いしたのは数年前のことです。

    先生は私の話を聴いてくださるというより、先生のこれまでの生い立ちやご経験のお話をされることで、私に多くメッセージを送ってくださっていたように思います。

    カウンセリングの期間が少し空いても、前回話した内容を詳細に覚えておられました。

    先生のご自宅の応接室でお話する際、先生はいつも赤いメモ帳を持ってこられるのですが、カウンセリング中は一度も開かれることはなく、そこに何が書かれているのかは知ることはできませんでした。

    帰り際には、「あなたはもう大丈夫だから」といつも励ましていただいたのですが、これも終わりを意識されているようで、寂しい気持ちになったことが何度もあります。

    結局は、次回の約束はしないままにお別れになってしまいました。

    これも先生らしいお心遣いのように思うのですが、私は次回の約束をして、もう一度お会いできていたらと思わずにはいられません。

    そう思っていると、「足るを知りなさい」と諭されそうです。

    夏の朝早くにご自宅に伺った際に冷たいフルーツを出していただいたり、カバンにつけた新しいキーホルダーに気づいてくださったり、本当にきめ細やかで、それが自然にできるところが、先生が多くの人に慕われ愛される所以なのだと身に沁みて感じました。

    これからも見守っていただき、時には諭していただきたいです。

    本当にありがとうございました。

    樋口隆弘

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