臨床心理検査の現在(8)MMPI②これまでのMMPI研究|武山雅志

武山雅志(石川県立看護大学名誉教授)
シンリンラボ 第12号(2024年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.12 (2024, Mar.)

今回はMMPIに関する研究を紹介する。ただし第1回でも述べたとおりMMPIに関する研究は膨大な数にのぼるため,ごく一部を紹介するのに留まることをご容赦いただきたい。

1.日本におけるMMPI研究の特徴

田中(2005)では1973年から2003年までの日本版MMPIに関する論文と新日本版MMPIに関する論文を研究領域の観点から比較して,その特徴を明らかにしている。研究領域はMMPIという心理検査自体を研究対象とする「基礎領域」と,MMPIという道具を用いて被検者の人格・行動特徴を査定する「適用領域」に分けている。その結果,「基礎領域」においては新日本版が70%以上と多いのに対して,日本版では17%に過ぎず,反対に「適用領域」においては新日本版が27%,日本版では80%以上という対照的な結果が得られている。さらに新日本版MMPIに関する研究が今後,さまざまな標本集団で得られたデータを提示するという記述レベルの研究から解釈仮説の妥当性研究へ進んでいくという方向性を示唆している。

2.MMPI新日本版における研究

MMPI新日本版における研究は先ず標準化集団のデータを用いた基礎研究から始まっている。それをまとめたものが「MMPI新日本版の標準化研究」として発刊されたのが,1997年である。そこには14編の研究成果が掲載されており,そのうちの3編について紹介する。最初に紹介する木場(1997)はMMPI新日本版の標準化データを用いた因子分析研究の最初のものであり,MMPIに関する妥当性研究として新たな側面に焦点を当てている。次に紹介する村上(1997)は精神科領域でMMPIを診断補助として使用する際に有効な指標である危機項目に焦点を当てており,実用的な面で注目すべき研究である。最後に取り上げた田中(1997)は,日本においては今まであまり取り上げられてこなかった青年期基準に焦点を当てており,更なる研究の進展の第一歩となるものだと考える。

最初は「尺度レベルの因子構造」と題した木場(1997)の研究を取り上げる。木場(1997)ではMMPI新日本版の尺度レベルの因子構造について報告し,併せてMMPI原版の因子構造との比較を行うことを目的としている。分析データはMMPI新日本版標準化のために収集されたもののうち,「どちらともいえない」が30個以下の1, 229名(男性557名,女性672名)のデータと中学生集団444名(男子211名,女子233名)のデータを用いた。分析には,K修正を行わない尺度得点(粗点)を用い,ピアソンの積率相関係数をもとにして主成分分析(バリマックス回転)を用いた。MMPI原版の因子構造との比較を行うため,主として3因子解および4因子解について報告している。その結果,性格的なものを含む精神病的症状を表す因子(F,Hs,Pd,Pa,Pt,Sc,Ma),一般的不適応を示す因子(D,Pt,Si),精神的問題の否定を示す因子(K,Hy)の3因子とそれとは独立したMfが抽出された。MMPI原版の因子分析との比較では一般的不適応を示す因子は一致するが,他については対応は不明確で,各尺度内の因子あるいは下位尺度を単位とした分析の必要性を報告している。また,中学生集団と標準化集団の因子構造には基本的な違いは見られなかった。

次に村上(1997)の「危機項目」という研究を紹介する。村上(1997)では4つの危機項目リスト(グレイスン,コードウェル,コスとブッチャー,ラシェールとローベル)を取り上げ,それらの項目に対する標準化集団の回答状況について検討することを目的としている。各リストの危機項目に対する標準化集団の採点キー側回答率注1)を算出した結果,グレイスンのリストのように項目内容が精神病的な症状に集中しているものは逸脱方向への回答はごくまれであった。しかしその他のリストでは内容領域によっては採点キー側回答率がかなり高いものが認められるという結果であった。このように危機項目リストの使用については注意すべき点を示唆している。

注1)項目ごとに「あてはまる」または「あてはまらない」のどちらかに回答した場合に採点するのか設定してあり,標準化集団において採点方向に回答した割合。

MMPI新日本版標準化研究として最後に田中(1997)の「基礎尺度の暫定的な青年期基準」を紹介する。田中(1997)の目的は,「青年期の被検者のMMPI回答が標準化集団のそれとどのような差異を示すのかを検討し,明らかな差異が認められた場合には青年期の基準を設定する方向の準備をすることである」と述べている。青年期の被検者は13歳から18歳までの中学生と高校生の1, 436名(男子632名・女子804名)であった。青年期集団を年齢毎に各尺度得点の平均と標準偏差を算出するとともに,標準化集団に基づくT得点に換算して示した。その結果,LとKは標準化集団に比して青年期の方が低く,他の尺度はすべて青年期の方が高い結果となった。その中でも標準化集団に比して青年期が高いのは,F,Pa,Pt,Scの4尺度でT得点で10程度の差であった。これらの結果から暫定的な青年期基準を設定する必要性を述べている。

次にMMPI研究・臨床情報交換誌に掲載された研究について紹介する。MMPI研究・臨床情報交換誌はMMPI新日本版を用いた研究活動と臨床活動を推進し,会員相互の情報交換を行うことによって,会員の資質の向上を図ることを目的としたMMPI新日本版研究会の機関誌である。

そのうち摂食障害を研究対象として扱った研究を紹介する。清水(1999a)では先行研究の結果から摂食障害者のMMPIの特徴を明らかにすることを目的としている。95編の先行研究を概観した上で,摂食障害患者のいくつかのMMPIの特徴について整理している。1つには摂食障害患者のMMPIでは最も高い尺度の中に第2尺度と第4尺度が含まれることを指摘している。第2の特徴としては第4尺度,第5尺度,第6尺度の形から受動ー攻撃性のVの傾向が認められている。ただ摂食障害患者が示す病態には拒食,病識の欠如,過食,行動化などさまざまなものがあり,特有のMMPIプロフィールがあるというよりは多様性があるという見方が妥当であるとしている。その他,治療による摂食障害患者のMMPIプロフィールの変化などにも言及している。最後にMMPI情報から食行動に影響を及ぼす対人関係,外界の認知,ストレスおよびコーピングなどの要因が明確になる可能性があると指摘している。

また清水(1999b)においては42名の摂食障害患者と92名の看護学生のMMPIプロフィールと2数字高点コードの出現率を比較している。MMPI平均プロフィールを統計的に比較した結果,疑問尺度を除く13個の基礎尺度のうち9つの尺度で摂食障害患者が有意に高いという結果であった。2数字高点コード注2)についてはT得点が70以上という基準を用いた場合,看護学生の約70%がコードなしと分類されたが,摂食障害患者は約70%がいずれかのコードに分類された。出現率の高かった2数字高点コードは86,27,72,4-,20,78であった。受動ー攻撃性のVを示す4-5-6形態を見てみると,その最も厳しい基準を満たす患者は14%程度であるものの,V字型のプロフィールを示す者が多く認められた。最後に摂食障害患者のMMPI研究について,4-5-6形態の基準を含め,この形態に結びついた症状,認知・行動特徴,および対人関係等のさまざまな特徴について情報を蓄積していく必要性に触れている。

注2)MMPIプロフィールの中で最も高い2個の臨床尺度の番号を用いて記号化するもの。

また石黒(2003)は摂食障害患者が過食や排出の有無によってMMPIプロフィールの特徴が異なるかを検討することを目的としている。68名の摂食障害患者を過食/排出群50名と制限群18名に分類し,そのMMPI平均プロフィールを比較した。その結果,摂食障害患者では過食や排出の有無に関わらず第2尺度,第4尺度および第6尺度が相対的に高く,第5尺度が相対的に低いという傾向が認められた。しかし過食や排出を行う患者の方がプロフィールが上昇しており,抑うつや衝動制御の問題が深刻であることが明らかとなった。また過食や排出を行う摂食障害患者では同年代の女性に比べ,受動ー攻撃性のVの特徴が顕著であり,過食,嘔吐もしくは下剤乱用を行う摂食障害患者における自己主張の問題が示唆されている。

ついで青年期基準に関する研究として武山(2007)の「特殊尺度の暫定的青年期基準」を紹介する。先に紹介した田中(1997)では14の基礎尺度と16の主な追加尺度について青年期基準を示している。武山・木場(2006)ではMMPIプロフィール解釈の際に36%の心理臨床家が主だった追加尺度以外の特殊尺度を参考にしていることが明らかとなっている。このことから武山(2007)では基礎尺度と主な追加尺度以外の特殊尺度についても暫定的な青年期基準を明らかにすることが有意義なことと考え,その基準を示すことを目的としている。田中(1997)で用いた1, 436名の青年期集団(男子632名,女子804名)のデータを分析した。暫定的な青年期基準を示した特殊尺度は,ハリス・リングース下位尺度,ウィギンス内容尺度,ウィーナーとハーモンのSubtle-Obvious下位尺度,トライアン・スタイン・チュークラスタ尺度,フリードマン重複尺度,偽装尺度,偽装尺度改訂版であった。

3.MMPI-2(塩田版)における研究

第1回でもお伝えしたとおりMMPI-2の日本版は刊行されていないが,塩田版を使ったMMPI-2の研究を2つ紹介する。

1つは「国際的質問紙法心理テストのオリジナルMMPI(MMPI-1)とMMPI-2の連続性についてー邦訳版による伝統的基礎尺度保持の検討ー」(北里・旭川MMPI-2研究会,2001a)を紹介する。本研究では311名の女子学生に対しMMPI新日本版あるいはMMPI-2(塩田版)を約1か月の間隔をあけて実施した。すなわち第1グループ(105名)ではMMPI新日本版を2回,第2グループ(105名)はMMPI-2(塩田版)を2回,第3グループ(101名)はMMPI新日本版とMMPI-2(塩田版)を実施した。MMPI-2(塩田版)はMMPI新日本版より項目数が少ない尺度が5つ(F,Hs,D,Mf,Si)あるため,分析を行うにあたり尺度項目数に比例するように微調整した相対値を用いている。その結果,MMPI新日本版とMMPI-2(塩田版)ともに高い相関係数が得られ同程度の信頼性が確認された。また因子分析の結果,MMPI新日本版およびMMPI-2(塩田版)ともに4因子を抽出し極めて類似した因子構造をもつことが確認できた。そして本研究ではMMPI新日本版とMMPI-2(塩田版)は基礎尺度に関して実質的に同一のものであると結論づけている。

ついで「慢性精神分裂病患者に対する新心理テストMMPI-2の施行ー基礎尺度と内容尺度の検討ー」(北里・旭川MMPI-2研究会,2001b)を紹介する。本研究の目的は,MMPI-2(塩田版)を慢性の統合失調症に実施した結果を分析することで,基礎尺度についてMMPI新日本版と等質性の有無を確かめることである。研究対象は229名の統合失調症患者(男性123名,女性106名)であった。すべての研究対象者に最初MMPI新日本版を,2週間後にMMPI-2(塩田版)を実施した。ピアソンの積率相関係数からMMPI新日本版とMMPI-2(塩田版)の間には基礎尺度において等質性が確認された。バリマックス回転を用いた主成分分析の結果,ともに4因子が抽出され基本的因子構造は一致しており精神医療における臨床施行妥当性を示していると結論づけている。2数字高点コードのパターンからもMMPI新日本版とMMPI-2(塩田版)の差は見られなかった。またMMPI-2で新しく紹介された内容尺度のうち,不安,抑うつ,風変りな志向,低自己評価,就労適応障害,治療抵抗度で高い値を示し,その有用性が示された。

4.海外におけるMMPI研究

ここでは海外におけるMMPI研究を2つだけ取り上げる。最初に紹介するArcher(2017)は,長年にわたりMMPIの青年期基準の研究に取り組んできた著者の最新の著書であり,MMPI-2からMMPI-2-RFそしてMMPI-3と発展してきている成人の基準に対比する形でここに紹介する。また次に取り上げるBurchett & Ben-Porath(2010)はMMPI-2-RFやMMPI-3で使われている新しい妥当性の中の過剰報告に関するものであり,妥当性尺度を充実させる必要性の裏付けとなるものである。

1つはMMPI-Aに関係した研究としてArcher(2017)を紹介する。この書籍ではMMPIを用いた青年期の査定について幅広い側面から取り上げている。そのうちのMMPIがMMPI-AそしてMMPI-A-RFと発展していった背景について述べている部分について紹介する。MMPIが長い期間使われていくにつれ,現代的な基準や項目の改訂,青年期に関係した領域を査定できる尺度の作成,青年期に関するMMPIの標準化などが求められた。その結果,MMPI-Aの標準化データが14歳から18歳の1, 620名(男子805名,女子815名)を対象にして集められた。標準化作業の結果,MMPI原版の基礎尺度の58項目が削除されたが,それらは宗教的な態度や実践,性的嗜好,排泄や排尿の機能など,青年期の生活経験には不適切なものに言及している項目であった。MMPI-Aは最終的に478項目となった(新しい4つの妥当性尺度を加えた基礎尺度17,内容尺度15,補助尺度6,ハリスーリングス下位尺度28,第0(Si)下位尺度3,内容要素尺度31,パーソナリティ精神病理5尺度5)。MMPI-AではMMPI原版の妥当性尺度や臨床尺度が残されたため,尺度間の過度な重複とともに尺度における多次元性や異質性などの限界があった。また478項目という長さも問題であった。それらの問題を解決するために15, 128名の標準化集団(男子9, 286名,女子5, 842名)を用いてMMPI-A-RFの標準化作業を進めた。その結果,MMPI-A-RFは241項目,48尺度(妥当性尺度6,実質尺度42)から構成されていた。MMPI-A-RFは理論的にも方法論的にもMMPI-2-RFから非常に影響を受けており,MMPI-Aの単なる改訂ではなく全く新しい査定道具といえるとそのMMPIにおける青年期基準の歴史について述べている。

ついでMMPI-2-RFに関する研究としてBurchett & Ben-Porath(2010)を紹介する。Burchett & Ben-Porath(2010)では,標準的な教示を用いた統制群(124名)と精神病を装うように教示された群(94名)そして身体的な不調を装うように教示された群(94名)の3群の参加者がMMPI-2-RFを受けた。関連する外部基準として妥当性係数等を用いてMMPI-2-RFの各尺度の妥当性に及ぼす過剰報告の影響を調べた。MMPI-2-RFの各尺度の妥当性係数は統制群よりも偽装群でかなり低いという結果が得られた。平均プロフィールは統制群よりも偽装群が高いという結果であった。それらの効果は身体的な偽装よりも精神病的な偽装の方がより強いという結果であった。これらの結果から性格や精神病理について自己報告式の査定では妥当性尺度の必要性が示されたと結論づけている。

5.今後のMMPI研究

精神科医療における長年にわたる筆者自身の経験の中で,主治医から「〇〇についてMMPIではどうなの?」と問いかけられたことが何回となくあった。その度にMMPIに関する膨大な数の研究が発表されていることでとても助けられた記憶がある。世界を見渡すと同じような疑問をもつ研究者はいるんだなあと痛感したことを思い出す。心理臨床家にとっては心強い情報である。MMPI-3日本版の発刊を機に,今後はMMPI-3日本版に関する基礎研究および臨床領域の研究が徐々に増えてくることを期待したい。

文 献
  • Archer, R. P.(2017)Development of the MMPI, MMPI-A, and MMPI-A-RF Assessing adolescent psychopathology: MMPI-A/MMPI-A-RF. 4th ed. Routledge, pp.26-64.
  • Burchett, D. l. & Ben-Porath, Y. S.(2010)The impact of overreporting on MMPI-2-RF substantive scale score validity. Assessment, 17 (4); 497-516.
  • 石黒美幸(2003)摂食障害患者のMMPIプロフィール特徴.MMPI研究・臨床情報交換誌,14; 18-22.
  • 木場深志(1997)尺度レベルの因子構造.In:MMPI新日本版研究会(編)MMPI新日本版の標準化研究.三京房,pp.184-200.
  • 北里・旭川MMPI-2研究会(2001a)国際的質問紙法心理テストのオリジナルMMPI(MMPI-1)とMMPI-2の連続性について―邦訳版による伝統的基礎尺度保持の検討.In:小口徹編:国際的質問紙法心理テストMMPI-2とMMPI-Aの研究.私家版,pp.260-271.
  • 北里・旭川MMPI-2研究会(2001b)慢性精神分裂病患者に対する新心理テストMMPI-2の施行―基礎尺度と内容尺度の検討.In:小口徹編:国際的質問紙法心理テストMMPI-2とMMPI-Aの研究.私家版,pp.285-301.
  • 村上雅子(1997)危機項目.In:MMPI新日本版研究会編:MMPI新日本版の標準化研究.三京房,pp.110-129.
  • 清水美幸(1999a)MMPIを用いた摂食障害者の研究一覧.MMPI研究・臨床情報交換誌,7; 255-282.
  • 清水美幸(1999b)摂食障害者と看護学生における2数字コードの出現率.MMPI研究・臨床情報交換誌,8; 311-342.
  • 武山雅志(2007)特殊尺度の暫定的青年期基準.MMPI研究・臨床情報交換誌,17; 47-58.
  • 武山雅志・木場清子(2006)MMPIに関する意識調査.MMPI研究・臨床情報交換誌,16; 9-14.
  • 田中富士夫(1997)基礎尺度の暫定的な青年期基準.In:MMPI新日本版研究会編:MMPI新日本版の標準化研究.三京房,pp.201-230.
  • 田中富士夫(2005)MMPI新日本版の十年間の研究.MMPI研究・臨床情報交換誌,15; 1-6.
+ 記事

武山雅志(たけやま・まさし)
石川県立看護大学名誉教授
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士
主な著書:『新日本版MMPIマニュアル』(共訳,三京房, 1993),『MMPI新日本版の標準化研究』(共著,三京房, 1997),『MMPIによる心理査定』(共訳,三京房, 1999),『リハビリテーションにおける評価法ハンドブック』(共著,医歯薬出版,2009),『看護心理学―看護に大切な心理学』(共著,ナカニシヤ出版,2013),『公認心理師の基礎と実践14 心理的アセスメント』(共著,遠見書房,2019)
趣味:最近はまっているのはキャンプ,コーヒーの自家焙煎,ジョギング,多肉植物栽培など。

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