臨床心理検査の現在(7)MMPI①MMPIの歴史と特徴|武山雅志

武山雅志(石川県立看護大学名誉教授)
シンリンラボ 第11号(2024年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.11 (2024, Feb.)

日頃,臨床現場で仕事をしていらっしゃる方の中には,MMPIを使ったことがないという人も多いと思う。また研修の場でも大学院時代,MMPIについては簡単にしか学んでこなかったというお話をよく耳にする。そのような中,今回を含め3回連続でMMPIについて説明する貴重な機会をいただいた。第1回は「MMPIの歴史と特徴」というテーマである。

1.MMPIのはじまり

MMPIは正式にはMinnesota Multiphasic Personality Inventory(ミネソタ多面的人格目録性格検査.日本語版発行所:三京房)という名称の質問紙法である。精神医学的診断に客観的な手段を提供する目的で1943年にHathaway, S. R. とMcKinley, J. C. によって作られたものである。

心理学や精神医学の教科書に記載されている情緒的・社会的態度に関する記述,問診用例,各種人格検査などから1,000あまりの文章を集め,吟味して最終的に550項目を質問項目として選んでいる。

基礎尺度は4つの妥当性尺度と10の臨床尺度から構成されている。妥当性尺度は被検者がどのような態度で心理検査に臨んでいたのかを捉えるものである。具体的には採用選考などでは自分をよく見せようとする防衛的態度が反映される。また犯罪者が精神病にかかっているように見せかけるために,その症状を誇張する態度が見られることもある。このように検査時の受験態度を考慮した上で,その個人特性を理解するために臨床尺度を解釈することになる。

臨床尺度の作成には,すべての質問項目を患者群と非患者群に実施し,両群の回答方向に統計的な有意差があった項目をまとめて1つの尺度とするという経験的方法を用いている。この方法を用いたことにより,結果的に臨床尺度は患者群と非患者群を弁別できるかどうかで質問項目が構成されているため,被検者が質問項目を読んでそれが何を測定しようとしているかが分からないことがあるという結果をもたらした。例えば第2尺度(抑うつ尺度)には「時には,動物をからかうことがある」という質問項目があり,「あてはまらない」と回答すると採点される。つまり質問項目の意味内容から測定内容を推測するのが困難であり,被検者が意図的な回答をしにくいという特徴がある。

550項目の中には複数の尺度に重複して採点されるものがある。これは個々の質問項目が特定の属性をもつのではなく,多面的な属性をもっていることを表している。これにより基礎尺度だけでなく,新たな追加尺度を作る可能性を与えている。これらの追加尺度を用いることでより詳細な解釈が可能になるという側面をもたらしている。しかし同時にこのことにより尺度間の相関が高くなり,特定の尺度だけで精神医学的診断に寄与することを難しくしている。この結果,臨床尺度から個人特性を解釈する際には,個々の尺度のT得点の高さを調べ,高い方から2つまたは3つの尺度のパターンを用いるという2点コードまたは3点コードが使われることになった。それ以外にも転換V,パラノイドの谷,かもめの翼など臨床尺度のプロフィールパターンからその特徴を記している。

MMPIは世界各国の精神医療,産業,教育,司法などさまざまな分野で利用されており,国際的にも高く評価されている。また蓄積された研究業績も膨大な数にのぼる。しかしMMPIに対してさまざまな批判もある。一つには標準化集団について,ミネソタ大学病院に見舞いに来た主に白人で小都市か農村地区に住む平均教育歴が8年の農場労働者や事務職の724名だったことである。これらの人のデータに基づいた基準が他の地区の住民に一般化できるのかは疑問が残る。また1940年代に作られた質問項目はその当時は違和感のなかったものも半世紀以上が経過すると,古臭い言い回しや性差別的な表現,キリスト教に偏った内容であることを非難された。

2.MMPI-2

MMPIのもつさまざまな問題点を改善するためにMMPI再標準化計画がもちあがり,その結果,1989年にできあがったのがMMPI-2である。

MMPI-2では以下の4点を目標として進められた。
① 全米を代表するような標準サンプルを集める
② 膨大な量の経験的研究を活用できるようにMMPIとの連続性を保つ
③ 新たに作成する内容尺度にはMMPIではカバーできていない行動領域を含める
④ 妥当性尺度と臨床尺度の改訂・削除は最小限度とする

その結果,標準化集団は1980年の国勢調査の結果に対応した2,600名(男性1,138名,女性1,462名)となった。MMPI-2の質問項目は567で,そのうち392項目は従来のMMPIをそのまま用いており,68項目が文章や語句の一部修正を行い,107項目は新しい質問項目となった。尺度としては従来の妥当性尺度,臨床尺度に新しい内容尺度と補助尺度を加えた。内容尺度は不安,恐怖,強迫,抑うつ,健康関心度,風変りな思考,怒り,皮肉,反社会行動,タイプA行動,低自己評価,社会に対する不満,家庭内問題,就労適応障害,治療抵抗度の15尺度からなっている。補助尺度にはMMPIから完成度の高い尺度として不安,抑圧,自我強度,アルコール依存症の4尺度,臨床的に有用な尺度として敵意過剰抑制,支配性,社会的信頼性,大学生活不適応,外傷後ストレス障害(ケアン),外傷後ストレス障害(シュレンガー)の6尺度が引き継がれた。そして男性的役割,女性的役割,夫婦間問題,依存潜在性,依存容認の5尺度がMMPI-2で新しく開発された。また妥当性尺度の補強ということでFb(Back-Page Infrequency),VRIN(Variable Response Inconsistency),TRIN(True Response Inconsistency)の3指標が開発された。FbはMMPI-2の後半部にある項目の中で健常者の応答率が10%未満の40項目で作られている。VRINは一貫性のない応答傾向を示しており,同一あるいは反対の内容をもつ67のペア項目から作られている。TRINは内容が反対である23ペア項目からなっていて,ペア項目両方に「あてはまる」あるいは「あてはまらない」と回答した場合に矛盾していると見なされる。

MMPIでは粗点をT得点に変換するのに線形T変換が用いられてきた。しかし臨床尺度ごとに粗点の分布が異なるため,同じT得点であってもその尺度における逸脱の程度は同じとは限らないという問題があった。そこでMMPI-2ではUniformTスコアを用いることになった。つまり複数の尺度の分布を統合する分布を求めるために,従来のT得点の平均が求められ,その結果得られた一連の合成Tスコアの分布ができあがった。これによりTスコアは尺度間で比較可能となった。

2003年にはMMPI-2に再構成臨床尺度が付け加えられた。再構成臨床尺度は,MMPIの問題点と言われている臨床尺度の作成方法である経験的方法を改良したものである。臨床尺度を統計的に分析した結果,共通因子として取り出された「士気の低下」以外に,弁別的妥当性の高い因子として残った9つの尺度をあげている。

3.MMPI-2-RF

2008年にはMMPI-2-RFが公刊された。MMPI-2-RFでは従来のMMPIで使われてきた臨床尺度の再構成アプローチがさらに進められた。その結果,臨床尺度は3つの高次尺度,再構成臨床尺度が9つ,特定領域の問題尺度が23,2つの興味尺度と5つの人格精神病理尺度からなり,8つの妥当性尺度と併せて質問項目は全部で338項目となった。MMPI-2-RFの標準化集団はMMPI-2で用いられた2,600名のうちの2,276名を抽出して用いている。

4.MMPI-AとMMPI-A-RF

従来のMMPIが持つ問題点を改善する動きの中,青少年を被検者とした場合に従来のMMPIの質問項目が大人の視点で書かれており,青少年にとって重要である友人や学校などに関する内容が含まれていない点が指摘されていた。成人の基準を青少年に適用した場合にはMMPIの尺度のほとんどで上昇がみられるという傾向が見られた。そのためMMPIの再標準化計画の中で青年版の開発が行われMMPI-A(Adolescent)が14歳から18歳までの青少年向けとして1992年に公刊された。MMPI-Aの標準化集団は14歳から18歳までの全米の8つの学校の男性805名と女性815名から構成された。またMMPI-Aの再構成形式としてMMPI-A-RFが2016年に公刊された。

5.MMPI-3

2020年,MMPI-3がBen-Porath, Y. S. とTellegen, A. によって公刊された。MMPI-3の詳細な説明は第3回にさせていただくことになっているので今回はごく簡単なものにとどめておく。

MMPI-2とMMPI-2-RFの標準化集団が1980年代のものであったので,MMPI-3では新たな標準化集団が集められた。その標準化集団は2020年の国勢調査の人口比率(人種,年齢,教育歴)に従って1,620名(男性810名,女性810名)が選ばれている。MMPI-3は全部で335項目あり,大半をMMPI-2-RFから引き継いでいるが,既存の尺度の最適化が図られるとともに新しい重要な項目内容(摂食の問題,強迫性など)が含まれている。MMPI-3には52の尺度があり,その内訳は10の妥当性尺度,3つの高次尺度,8つの再構成臨床尺度,26の特定領域の問題尺度,5つのパーソナリティ精神病理尺度となる。

6.日本におけるMMPIの動き

わが国におけるMMPIに関する動きを見ていく。わが国では日本語翻訳版が複数存在し厳密な意味での標準化資料が明らかにされていなかった。さらに公表された資料が少なかったため,MMPIの利用はごく限られたものでしかなかった。出版物は「日本版MMPI使用手引き」(阿部・住田・黒田,1963)が最初である。このような問題を解決する方法としてMMPI新日本版の作成が行われた。

MMPI新日本版の作成過程では質問項目の日本語訳の改訂が行われた。具体的には日本語翻訳版9種類(日本版,金沢大学改訂版,東大改訂版,統合版,福岡矯正管区版,同志社大版,日本女子大版,水口病院版,東北大改訂版)を参考にして,読みやすく分かりやすい文章になるようにした。また項目是認率注1)と項目の社会的望ましさが原版にできるかぎり近くなるような日本語訳を目指した。その結果,日本版MMPIの17項目以外はすべて改訂するという結果になった。また標準化データとして日本全国を8地区(北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州)に分け,1990年の国勢調査結果に基づき年齢,教育歴,職業の構成比に従って男女500名ずつ,合計1,000名の15歳以上の健常者のデータ収集を目標とした。データ収集にあたり全国の実施協力者190名に性別,年齢,職業,教育歴を指定した被検者リストを送付し協力を得た。そのような手続きを進めて1993年にMMPI新日本版が完成した。アメリカでMMPI-2が公刊されて4年が経過しており,その評価を見守っている途中のことであった。

注1)ある項目に対して採点方向に回答している標準化集団の割合

MMPI-2の日本語版には塩田版と北里・旭川版がある。その中でも小口徹先生を中心とした北里・旭川MMPI-2研究会メンバーはMMPI-2のわが国への導入に積極的に活動をされている。その成果は「国際的質問紙法心理テストMMPI-2とMMPI-Aの研究」にまとめられている。そこではMMPI-2についての詳細な説明とともにMMPI-2を用いた基礎および臨床研究17編の簡単な紹介をしている。しかしMMPI-2日本版の公刊は残念ながら未だに実現していない。

そのような状況の中,2022年にMMPI-3日本版が鋤柄を中心にしたMMPI-3日本版研究会のメンバーによって公刊された。テスト項目は注意深く英語から日本語に翻訳され,その後バックトランスレーションが行われた。次に,日本語と英語の両方に堪能で,両方の文化に精通している男性25名と女性28名に,英語版と日本語版の両方を実施して,翻訳の妥当性をチェックした。再検査信頼性は良好であった。MMPI-3の標準化集団は2010年度の国勢調査に従って按分して年齢,性別,地方,最終卒業学校を考慮した形で1,236名(男性592名,女性644名)となった。2週間の間隔で再度検査を受けた157名(男性70名,女性87名)のデータを用いて再検査信頼性を確かめた。その結果,妥当性尺度では. 59~. 86,臨床尺度では. 71~. 92のそれぞれ高い値を得ることができた。

7.おわりに

以上のとおりMMPIの歴史は80年あまり経過する中で多くの変化があった。その背景には診断分類と妥当性それぞれに関する変化がある。診断分類の変化に関しては,精神科臨床における診断分類がドイツを中心にして発展してきたクレペリン流の伝統的診断分類から,客観性を重視した操作的定義に基づいたDSM-Ⅲ以降の診断分類への変化が大きく影響している。また妥当性に関する変化としては,基準関連妥当性から何らかの仮説的な構成概念が存在するという構成概念妥当性という考え方の変遷も反映している。これらの変化は現在が終着点というわけではなく,今後も変化していくものと考えるべきである。それとともに社会の変化に伴ってさまざまな問題が生じてくる。それらを適切に反映した質問項目が求められてくるものと考えるべきである。今後も一定期間が経過するごとに新たな標準化集団を集めた上で,新しいMMPIを作りあげていくことが必要となってくるものと思う。

文 献
  • 阿部満州・住田勝美・黒田正大(1963)MMPI日本版使用手引.三京房.
  • Ben-Porath, Y. S. & Tellegen, A.(2020)Minnesota Multiphasic Personality Inventory-3:Technical Manual. University of Minnesota Press.
  • Friedman, A. F., Webb, J. T. & Lewak, R.(1989)Psychological assessment with the MMPI. Lawrence Erlbaum Associates.(MMPI新日本版研究会訳(1999)MMPIによる心理査定.三京房.)
  • MMPI新日本版研究会(1993)新日本版MMPIマニュアル.三京房.
  • MMPI-3日本版研究会(2022)MMPI-3日本版マニュアル.三京房.
  • 小口徹(2001)国際的質問紙法心理テストMMPI2とMMPI-Aの研究.私家版.
  • Selbom, M.(2019)The MMPI-2-Restructured Form (MMPI-2-RF): Assessment of personality and psychopathology in the twenty-first century. Annual Review of Clinical Psychology, 15; 149-177. https://doi.org/10.1146/annurev-clinpsy-050718-095701
  • 鋤柄増根(2023)MMPI-3日本版への招待.心理学の諸領域,12; 47-54.

訂正情報:2024.4.22 青字箇所を加筆・修正しました。

+ 記事

武山雅志(たけやま・まさし)
石川県立看護大学名誉教授
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士
主な著書:『新日本版MMPIマニュアル』(共訳,三京房, 1993),『MMPI新日本版の標準化研究』(共著,三京房, 1997),『MMPIによる心理査定』(共訳,三京房, 1999),『リハビリテーションにおける評価法ハンドブック』(共著,医歯薬出版,2009),『看護心理学―看護に大切な心理学』(共著,ナカニシヤ出版,2013),『公認心理師の基礎と実践14 心理的アセスメント』(共著,遠見書房,2019)
趣味:最近はまっているのはキャンプ,コーヒーの自家焙煎,ジョギング,多肉植物栽培など。

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