臨床心理検査の現在(9)MMPI③MMPI-3|武山雅志

武山雅志(石川県立看護大学名誉教授)
シンリンラボ 第13号(2024年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.13 (2024, Apr.)

第3回はMMPIについてお話する最後の回となる。第1回でも少しふれたがMMPI-3に関してより詳しく説明していく。

1.MMPI-3の成り立ち

海外ではMMPIからMMPI-2,MMPI-2-RFそしてMMPI-3へと変わってきており,アメリカ全土の標本からの標準化データの取得と一部の質問項目(宗教的信念に関わるもの,性差別的表現,排尿・排便の機能に関する言及など不快感を与えるものや時代遅れの言葉や文化的言及)の見直しがなされてきている。

しかし日本においてはMMPI-2作成の動きはあったが途絶えている。そのため日本ではMMPIはMMPI新日本版からいきなりMMPI-3日本版に変わり,かなり多くの方が戸惑いを感じていらっしゃるのではないだろうか。その戸惑いの原因は以下に示すMMPIからMMPI-3にかけての6つの大きな変化にある。

2.MMPI-3における6つの変化

● Uniform Tスコアの導入
第1回でもふれた通り,従来のMMPIにおいては素点をTスコアに変換するのに線形T得点が用いられてきた。しかし臨床尺度ごとに素点の分布が異なるため,同じTスコアであってもその尺度における逸脱の程度は同じとは限らないという問題が生じていた。そこで複数の尺度の分布を統合する分布を求めるために,従来のTスコアの平均が求められ,その結果得られた一連の合成Tスコアの分布ができあがった。海外ではMMPI-2以来,このUniform Tスコアが用いられてきた。日本でUniform Tスコアが用いられたのは,MMPI-3日本版が最初ということになる。このUniform Tスコアに関する今後の検討課題として,その算出の元になっているデータがアメリカのものを使っている点を鋤柄(2023)が指摘しており,日本における標準化集団のデータを基準とするためにミネソタ大学との議論の積み重ねが必要と言える。

● ジェンダー別の基準がない
従来,MMPIでは男女それぞれの標準化集団のデータを元にしてTスコアを算出し,プロフィールを描いてきた。ところが近年はMMPIが測定している特性が,女性と男性によって本質的に異なるというより,何らかの反応傾向の違いではないかという考え方がとられるようになってきた。また近年の性的多様性への理解・取り組み等を考慮して,生物学的な性で単純に二分することへの疑問が呈されている。さらにMMPI-2におけるジェンダーに関係ない基準の有効性を示す多くの研究が発表されている。このような状況を踏まえてMMPI-2-RFから男女を一緒にした基準を用いるようになってきている。

● K修正がない
K尺度は臨床尺度の弁別力を高めるために開発されたものである。その開発に際して精神病患者のデータを用いたため,別の集団にK修正を適用することは必ずしも適切ではないという指摘も見られる。MMPIの青年期基準においてはK修正を用いていない。MMPI-2-RF以降,MMPI原版における臨床尺度が用いられなくなっておりMMPI-3でもK修正は使われていない。

● コードタイプアプローチをしない
コードタイプアプローチというのは,MMPIプロフィールの中で最も高い2個または3個の臨床尺度の番号を用いて記号化し,そのプロフィールをもつ被検者に特有な検査外行動の特徴を捉えようとするものである。これはMMPI原版における質問項目が尺度間で重複しているために,ある精神疾患を分類するのに単一の尺度得点だけではうまくいかず,複数の尺度得点のパターンを用いるようになったことに由来している。MMPI-2-RF以降,MMPI原版の臨床尺度が用いられなくなったことと,MMPI-2-RF以降の新しい尺度が後述するとおり,個々独立した行動特性を捉えようとしていることによって,コードタイプアプローチは使われなくなっている。

● 因子分析の考え方の導入
MMPI原版では第1回で説明したとおり,臨床群と健常群の間に統計的に有意差のあった項目により尺度を作成するという経験的な方法を用いている。この方法は近年における尺度構成の方法とは違っている。そこでMMPI-2-RF以降,MMPIの尺度構成には構成概念という考え方を導入している。

MMPI-3では三層構造の因子構造を仮定している。一番上の層には「高次尺度」,ついで「再構成臨床尺度」,一番下には「特定領域の問題尺度」となっている。それぞれの尺度構成については後述する。

● PSY-5尺度の導入
PSY-5尺度はパーソナリティの5因子モデルをパーソナリティ障害の記述に応用しようとしたことから始まっており,MMPI-2-RFから導入されている。すなわちPSY-5尺度では健常者のパーソナリティ特性から逸脱したものとして,パーソナリティ障害を記述しようとしており,健常者との連続性を考えている。

3.MMPI-3の実施法

MMPI-3の実施法は従来とはいくつか変更になった点がある。適用対象者は18歳以上で,質問項目を読むこととそれを理解することが必要である。実施者は心理検査について専門的な知識を有する心理臨床家(臨床心理士,公認心理師,精神科医等)およびそれに準ずる者に限られる。検査場面においては受検者が不正な回答を行わないよう,検査実施者が注意を払う必要がある。受検者の気が散らない静かで快適な環境で行うべきである。検査実施者は必ず自分の目の届く範囲内で検査を実施する必要がある。検査時の質問への対応としては,もし受検者からの項目の内容に関する質問があったり,項目の解釈を求められたりした場合は,その質問に答えたり説明を行ったりすることはしてはならないが,思った通りに回答してもらえればいいことは伝えてもよい。また視力障害への対応として,受検者の視力障害が拡大鏡で対応できないならば,音声USB注)に収録されている音声データを用いた実施を検討するべきである。実施者が受検者に検査項目を読み上げることは標準的な実施法からの逸脱となるので,決して読み上げてはならないとなっている。

注)音声USBは三京房より購入可能。

4.MMPI-3の尺度構成

MMPI-3は10の妥当性尺度と42の臨床尺度(3種類の高次尺度,8種類の再構成臨床尺度,26種類の特定領域の問題尺度,5種類のパーソナリティ精神病理5尺度)から構成されている。ここでは紙面の都合上,各尺度の名称と簡単な説明を示すことしかできない。詳細についてはMMPI-3日本版マニュアル(MMPI-3日本版研究会,2022)を参照してほしい。

10の妥当性尺度の構成を表1に示した。3種類の高次尺度の構成を表2に示した。8種類の再構成臨床尺度の構成を表3に示した。

26種類の特定領域の問題尺度は,身体的・認知機能尺度,内在化尺度,外在化尺度,対人関係尺度の4つに分類できる。それぞれの構成を表4から表7に示した。

5種類のパーソナリティ精神病理5尺度の構成を表8に示した。

MMPI-3日本版はミネソタ大学理事会の許諾を得て翻訳, 作成されています。 本検査の著作 権は公式ライセンシーである株式会社三京房に帰属し, 今回は同社の許可を得て特別に表1~8を掲載しています。

表1 MMPI-3日本版の妥当性尺度

記号名称内容
CRIN複合的な回答非一貫性一貫性を欠くランダム回答と固定回答の組合せ
VRIN不定型の回答非一貫性ランダム回答
TRIN固定型の回答非一貫性固定回答
F低頻度の回答一般の集団において低頻度の回答
Fp低頻度の精神病理回答精神疾患患者の集団においても低頻度の回答
Fs低頻度の身体症状回答身体疾患患者の集団においても低頻度の回答
FBS症状の妥当性尺度信憑性を欠く身体的愁訴や認知機能的愁訴
RBS回答の偏り尺度誇張された記憶愁訴
Lまれな道徳観滅多に主張されない道徳的特性や行動
K適応の強調非常に高水準な心理的適応の主張

表2 MMPI-3日本版の高次尺度

記号名称内容
EID情緒・内在化機能不全気分や感情に関連する問題
THD思考機能不全思考の異常に関連する問題
BXD行動・外在化機能不全統制不全行動に関連する問題

表3 MMPI-3日本版の再構成臨床尺度

記号名称内容
RCdデモラリゼーション・士気の低下全般的な不幸と人生への不満
RC1身体的愁訴広範な身体的健康に関する愁訴
RC2ポジティブ感情の欠如ポジティブ感情経験や反応の欠如
RC4反社会的行動規範に従わない無責任な行動
RC6被害念慮他者が自分を脅かすという自己言及的信念
RC7機能不全に陥るネガティブ感情適応的でない不安,怒り,易怒性
RC8異常体験思考機能不全と関連した異常な知覚や思考
RC9軽躁病的行動の活性化過度の活性化,攻撃性,衝動性,誇大性

表4 MMPI-3日本版の特定領域の問題尺度(身体的・認知機能尺度)

記号名称内容
MLS身体的不調全体的な身体的衰弱感と健康不良
NUC神経学的愁訴めまい,筋肉低下,麻痺,平衡感覚の喪失など
EAT摂食の問題問題ある食行動
COG認知機能的愁訴記憶障害,集中困難

表5 MMPI-3日本版の特定領域の問題尺度(内在化尺度)

記号名称 内容
SUI自殺念慮・希死念慮自殺念慮や最近の自殺未遂についての直接的な回答
HLP無力感・絶望感目標に到達できない,あるいは問題を克服できないという信念
SFD自信喪失自信の欠如,無能感
NFC効力感の欠如自分には決断力や自己効力感がないという信念
STRストレスストレスと神経症に関連する問題
WRY心配過度な心配と先入観
CMP強迫性強迫行動をとること
ARX不安に関連した経験破局的思考やパニック,恐怖,侵入思考といった多様な不安に関連した経験
ANP易怒性(怒りっぽさ)他者に対して簡単に怒ったり,我慢できなくなったりすること
BRF行動制約を伴う恐怖通常の行動を著しく制約する恐怖

表6 MMPI-3日本版の特定領域の問題尺度(外在化尺度)

記号名称内容
FML家族問題葛藤のある家族関係
JCP少年期の素行問題学校や家庭での問題,万引
SUB物質乱用現在あるいは過去の酒やドラッグの乱用
IMP衝動性乏しい衝動制御と無計画な行動
ACT活性化高い興奮性とエネルギー水準
AGG攻撃性身体的攻撃行動,暴力的行動
CYNシニシズム他者は悪であり,信頼すべきでないという信念

表7 MMPI-3日本版の特定領域の問題尺度(対人関係尺度)

記号名称内容
SFI自信過剰自分に特別な才能や能力があるという信念
DOM支配性他者との関係において支配的であること
DSF非親和性他者を嫌い,また他者がそばにいることも嫌うこと
SAV社交回避社交的な行事を楽しめず避けること
SHYシャイネス他者がいると心地悪さや不安を感じること

表8 MMPI-3日本版のパーソナリティ精神病理5尺度

記号名称内容
AGGR攻撃傾向道具的な目的志向的攻撃
PSYC精神病傾向現実離れした思考や経験
DISC統制不全統制不全行動
NEGEネガティブ感情・神経症傾向不安,自信喪失,心配,恐怖
INTR内向性・ポジティブ感情の欠如社会からの逸脱とアンへドニア(快感消失)

5.MMPI-3の解釈

MMPI-3の解釈を行うに際して,最初に回答全体の妥当性を評価する必要がある。回答全体の妥当性はMMPI-3の335項目に対する採点不可能な回答数である無回答(CNS)と10の妥当性尺度に基づいて判断することになる。CNSの素点や妥当性尺度のTスコアの値をどのように判断すればよいかは,MMPI-3日本版マニュアル(MMPI-3日本版研究会,2022)の中で表にして示してある。妥当性尺度は不適切応答を示すCRIN(複合的な回答非一貫性)・VRIN(不定型の回答非一貫性)・TRIN(固定型の回答非一貫性),過剰報告を示すF(低頻度の回答)・Fp(低頻度の精神病理回答)・Fs(低頻度の身体症状回答)・FBS(症状の妥当性尺度)・RBS(回答の偏り尺度),過少報告を示すL(まれな道徳観)・K(適応の強調)に分類できる。回答の妥当性に問題がある場合はどの側面に問題があるのかを考慮する必要がある。

妥当性尺度の結果,臨床尺度得点が信頼できるものであることが確認できたら臨床尺度の解釈に進む。臨床尺度は5つの領域(身体的・認知機能不全,情緒機能不全,思考機能不全,行動機能不全,対人関係機能)に分かれている。対人関係機能以外の4つの中で顕著な特徴が認められる領域があれば,解釈をレポートする際にはそれについて最初に記述することになる。各領域を構成する尺度を示したのが表9である。各領域には高次尺度,再構成臨床尺度,特定領域の問題尺度,パーソナリティ精神病理5尺度などが含まれている。

高次尺度から始まり,再構成臨床尺度そして特定領域の問題尺度と各尺度のTスコアの高さをチェックしていくことで,被検者の行動特性をより具体的に記述することが可能となる。

表9 臨床尺度の領域とそれを構成する尺度

臨床尺度の領域領域を構成する尺度
身体的・認知機能不全RC1,MLS,NUC,EAT,COG
情緒機能不全EID
RCd,SUI,HLP,SFD,NFC
RC2,INTR
RC7,STR,WRY,CMP,ARX,ANP,BRF,NEGE
思考機能不全THD
RC6
RC8
PSYC
行動機能不全BXD
RC4,FML,JCP,SUB
RC9,IMP,ACT,AGG,CYN
DISC
対人関係機能SFI,DOM,AGGR,DSF,SAV,SHY

最後に,MMPI-3が実施される場面,すなわち診断,治療,採用時などを考慮して関連情報を追加して考慮することになる。

以上のようにMMPI-3の解釈は,従来のMMPIの解釈の進め方とは違い,その進め方の手順がはっきりとしており,ロールシャッハテストの包括システム(CS)と似ている。そのために,今までMMPIを使ったことがない方にとっては解釈をスムーズに進めることができるだろう。

6.最後に

MMPIについて3回にわたっていろいろと書かせていただき,最後にまとめとしてMMPI-3日本版を通じてわが国の臨床分野に貢献するために必要なことを考えてみたい。

第1回の「MMPIの歴史と特徴」でも述べたとおり,時代的な背景もありMMPI原版にはさまざまな問題点があった。それが改善されMMPI-3に至っていることはすでに話したとおりである。統計的な手法を用いて構成概念に基づいた形を取り入れ,最新の診断基準にも配慮した形になっている。

心理査定の道具もそれが開発された時代や標準化集団の特徴,当時の科学的知見を反映したものであるという限界を持っている。その限界を克服するためには,一定の年月が経過した後はその時代や標準化集団,科学的知見の変化を反映できるような見直しがなされる必要があると考える。このような点からMMPI-3の開発は非常に有意義なものだと考える。

さまざまな専門職との連携が求められる現代において,MMPI-3は心理職にとって大きな武器になるのではないだろうか。その武器をさらに精度の高いものにしていくためには,さまざまな分野におけるMMPI-3に対するニーズを的確に把握し,それに応えられるような研究を積み上げていくことが求められていると考えている。

文 献
  • MMPI-3日本版研究会(2022)MMPI-3日本版マニュアル.三京房.
  • 鋤柄増根(2023)MMPI-3日本版への招待.心理学の諸領域,12 (1); 47-54.

訂正情報:2024.4.22 青字箇所を加筆・修正しました。

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武山雅志(たけやま・まさし)
石川県立看護大学名誉教授
資格:公認心理師,臨床心理士,精神保健福祉士
主な著書:『新日本版MMPIマニュアル』(共訳,三京房, 1993),『MMPI新日本版の標準化研究』(共著,三京房, 1997),『MMPIによる心理査定』(共訳,三京房, 1999),『リハビリテーションにおける評価法ハンドブック』(共著,医歯薬出版,2009),『看護心理学―看護に大切な心理学』(共著,ナカニシヤ出版,2013),『公認心理師の基礎と実践14 心理的アセスメント』(共著,遠見書房,2019)
趣味:最近はまっているのはキャンプ,コーヒーの自家焙煎,ジョギング,多肉植物栽培など。

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