臨床心理検査の現在(6)発達障害関連③Vineland-II 適応行動尺度|稲田尚子

稲田尚子(大正大学)
シンリンラボ 第10号(2024年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.10 (2024, Jan.)

1.はじめに

発達障害のある人への支援の目標は,発達障害の特性をなくすことではなく,当事者の生活の適応を高め,充実感や満足感をもって過ごすことができるようになることであろう。日常生活におけるWell-beingや生活の質(Quality of Life: QOL)を向上させることが最終目標であり,そのために,生活への適応度を高めることが肝要となる。適応とは,生活体と環境が調和した関係を保つことであり,セルフケア,家事,学業,仕事,余暇,地域生活など多様な側面について,個人が自らのニーズを環境の中で調整しつつ自己実現する力である。日常生活の適応度をアセスメントする臨床心理検査のひとつがVineland-II適応行動尺度(日本文化科学社.以下,Vineland-IIと表記)であり,これを活用することにより,人の日常生活における適応の程度が把握でき,支援の優先順位や内容を決めるための指針が得られる。

2.“適応”と“障害”

日常生活への“適応”を考えることは,“障害”について改めて考えることにもなる。発達障害の特性はスペクトラムであり,定型発達との連続線上にある。では,特性はあるが診断に至らない人と,発達“障害”と診断される人の境目はどこにあるのだろうか。DSM-5などの国際的診断基準では,日常生活に支障をきたしているかどうか,が判断基準となる。発達障害の特性がありながらも自分に合った環境をみつけ,仕事をし,日常生活を適応的に過ごしている人も多数いる。一方で,発達障害の特性はそれほど強くはないにもかかわらず,環境が合わなかったり適切な配慮が受けられていないがゆえに,日常生活に支障をきたしている人も数多くいるのである。そのため,まずは現状を把握し,その上で,日常生活の適応を高めるための支援が求められる。

DSM-5では,知的能力障害は,単に知能指数の値だけでは診断されず,日常生活への支障の程度や発現の時期を総合して診断される。日常生活に支障をきたしているかどうかは,本人の困り感や周囲の人々の訴えによって明らかになるのであるが,その訴えは多々ある困りごとの一部であることも少なくない。Vineland-IIは,日常生活,コミュニケーション,社会性,運動スキルなど,日常生活の幅広い側面の“適応”について,全体的な程度とそれぞれの側面の適応度について把握することができる有用な検査である。

3.Vineland-IIに定義される“適応”

Vineland-IIでは,適応行動を「個人的および社会的充足を満たすのに必要な日常活動の遂行」と定義しており,次の4つの考えに基づいて作成されている。

(1)適応行動は年齢に関連するものであり,それぞれの年齢で重要となる適応行動は異なる
例えば,乳児期は身の回りのことは一人でできなくて当然であるが,幼児期後期には食事,衣服の着脱,排せつなどの身辺自立が完了していることが重要となり,また,成人期には金銭や健康を管理することが重要となる。

(2)適応行動は他人の期待や基準によって決定され,関わる環境によって適応行動の評価も変化していく
例えば,保護者の車で移動したり送迎してもらうことが多いアメリカと比べて,徒歩や自転車の移動・通学が多い日本では,交通ルールの意味を理解することが期待される年齢が異なるのである。

(3)適応行動は支援などの環境によって変化する
適応行動は,教えれば身に着く“スキル”であり,支援の影響が大きくなるため,この点に留意して目標を設定・共有することが望ましい。

(4)適応行動は行動自体を評価するものであり,その可能性を評価するものではない
スキルとして持っていても実際に使っていない場合は“日常的にしている”とはみなされないということである。例えば,家事に関して,成人で,調理のスキルをもっているとしても,実家暮らしで親が食事の支度などを全部担っていて本人が実際にやっていない場合は,「まったくしていない」と評価されるのである。逆に一人暮らしをして毎日調理するようになれば,「日常的にしている」と評価される。(3)とも関連するが,適応行動は環境や機会の有無によっても変化する。Vineland-IIでは,この(4)をとりわけ重視しており,支援や適応を考えるためにも,可能性ではなく,実際に行っているかどうかを確認して評価していくことが肝要となる。

4.Vineland-IIの特徴

Vineland-IIの対象年齢は,生後0カ月~92歳であり,対象者をよく知る者に対して半構造化面接を行い,回答を面接者が評価する。対象者は検査には同席しない。質問項目は,幅広い年齢に対応するため全385項目と多いが,暦年齢に応じて項目が指定されており,その質問項目から開始するため,385問すべてを尋ねるわけではない。各項目について,面接で得られた情報をもとに,常に自立的に行っていれば2点,時々あるいは促されてやる場合は1点,やっていない場合には0点と面接者が3段階で評価する。「2点」が4つ連続した場合を下限としてそれ以前の項目は全て2点とみなし,「0点」が4つ連続した場合を上限としてそれ以降の項目は全て0点とみなす設定により,時間短縮ができる。所要時間は約30分~1時間である。

Vineland-IIの半構造化面接は特徴があり,質問項目を一つずつ読むのではなく,関連する質問項目に関してオープンエンドな質問をして,回答者から自発的な回答を引き出す。例えば,読み書きの下位領域では,「読み書きについてはどうですか?」,身辺自立の下位領域では「トイレットトレーニングはどうですか?」などとオープンに尋ね,回答者にできるだけ具体的に生活の様子を語ってもらうように努める。この方法により,一般的な面接をしているような暖かな雰囲気で情報収集をすることができ,回答者とのラポールが高まる。オープンな質問への回答の内容が評価するために十分な情報かどうかを判断し,不足している情報や項目については追加で確認をしていくことになる。「やらせたらできると思います」というように回答者が対象者の可能性を語る場合も少なくなく,実際にやっているのかどうかを確実に評価する必要がある。このやり方は,慣れるまでは難しいと感じることが多く,修練を積む必要があるが,回答バイアス(答える人が点数を操作しようとして,意図的に実際とは違う回答をすること)も低減することができる。

5.Vineland-IIの内容

Vineland-IIには,どんな項目,内容が含まれているのだろうか。Vineland-IIは,主に適応行動についてアセスメントする尺度であるが,不適応行動についても評価する。

適応行動は,コミュニケーション,日常生活スキル,社会性,運動スキルの4つの領域から構成され,それぞれに下位領域がある(表1)。知能検査は,見る,聞く,話す,覚える,考える,など情報処理能力を評価しているのに対し,適応行動では,セルフケア,社会性,コミュニケーション,学習や仕事,余暇,環境におけるニーズを自己調整するスキルなどを評価しており,知能検査とは異なる側面をアセスメントする尺度であることが分かる。不適応行動については,不適応行動指標(内在化問題,外在化問題)および不適応行動重要事項がある。

表1 Vineland-IIの構成

領域下位領域
コミュニケーション領域受容言語
表出言語
読み書き〈3歳~〉
日常生活スキル領域身辺自立
家事〈1歳~〉
地域生活〈1歳~〉
社会性領域対人関係
遊びと余暇
コーピングスキル〈1歳~〉
運動スキル領域〈~6歳,50歳~〉粗大運動
微細運動
不適応行動〈3歳~オプション〉不適応行動指標
不適応行動重要事項

6.Vineland-IIの標準得点の求め方

適応行動に関する標準得点を求めるためには,まず各下位領域の粗点の和から換算表を用いてそれぞれv評価点を得る。その後,各領域を構成する下位領域のv評価点の和から4つの領域標準得点を求め,その上でその4つの領域標準得点の総和から適応行動総合点を求めることができる。

不適応行動については,不適応行動指標として,内在化問題,外在化問題,その他の粗点の和からv評価点を求める。内在化問題,外在化問題についてもそれぞれv評価点を得ることができる。不適応行動重要事項は,得点化はせずに,事項の有無と程度(重度か中等度)を判断する。

標準得点およびv評価点は,Vineland-IIのマニュアル内にある換算表を用いて求めることができるが,現在は,「Vineland-II換算アシスタント」が発売されており,換算得点の算出およびスコアレポートの出力ができるソフトウェアもある。

7.標準得点の解釈

Vineland-IIの標準得点の意味するものは,ウェクスラー系の知能検査とほぼ同様である。全検査IQに相当する全般的指標としての適応行動総合点,4つの領域標準得点は,平均が100,標準偏差15である。下位領域のv評価点は,平均15,標準偏差3である。ウェクスラー系の知能検査は,評価点の平均10,標準偏差3であるが,Vineland-IIの場合は-4標準偏差などもありうるため,v評価点は15点に設定されている。不適応行動については,不適応行動指標はv評価点を求めることができ,不適応行動重要事項は行動の有無と程度(重度か中等度)を判断する。

適応水準は,平均と標準偏差を用いて求めることができ,標準得点,v評価点ともに,平均から±1標準偏差の範囲が「平均的」に分類される(図1)。+1~+2標準偏差の範囲が「やや高い」,-1~-2標準偏差の範囲が「やや低い」,+2標準偏差以上は「高い」,-2標準偏差以下は「低い」と分類される。これ以外に,信頼区間,スタナイン,領域内の下位領域間の強みと弱み,対比較などが求められる。

これらの結果が得られることで,対象者の適応行動と不適応行動の全体像が把握できる。同年齢の他者と比較して,対象者の適応水準がどの程度なのか,全体的な適応行動と各4領域,各下位領域,不適応行動指標について個人間の差が把握でき,また領域,下位領域のプロフィールから個人内の特徴も理解できる。

図1 Vineland-IIの適応水準

8.テストバッテリー

Vineland-IIは単独で使用することもできるが,基本的には知能検査や発達検査とあわせて実施し,IQ(Intelligent Quotient:知能指数)やDQ(Developmental Quotient:発達指数)とのギャップや関連をみていくことが対象者の理解につながる。一般的には,適応行動と知的水準は関連するが,発達障害のある人の場合には,そのふるまいが違うことが複数の研究によって示されている(Kanne et al., 2011; Klin et al.,2007; Perry et al.,2009)。知的水準は平均域であっても適応水準は低いことが少なくなく,本人の適応やQOLの向上を考える上では,IQと適応水準のギャップを把握することが重要であり,テストバッテリーとして知能検査は欠かせない。言い換えれば,知能検査,発達検査を実施する場合には,Vineland-IIの実施もまた必須ということである。フィードバックの際には,知能検査,発達検査で評価された能力を日常生活に活かせているのかどうかについて,特に取り上げて話し合っていくとよい。さらに,発達障害関連の臨床心理検査も実施していくことにより,対象者の多面的な理解につながるであろう。

9.支援に向けて

Vineland-IIは,現在の支援ニーズの把握や個別支援計画の立案に非常に有用なツールである。発達障害のある子どもを持つ保護者は,子どもの社会性やコミュニケーションについて心配していることは多いが,Vineland-IIを実施して子どもの生活全体をみると,支援の優先順位が変わることも少なくない。身辺自立や運動スキルの適応水準の方が社会性やコミュニケーションスキルと比較してより低く,本人の生活の満足度やQOLを高めるためには,身辺自立や運動スキルの支援をより重視するべきことが分かることもあるのである。あるいは,日常生活スキルは「平均的」もしくは「高い」水準であることが分かり,より本人が苦手とする社会性やコミュニケーションの向上,および不適応行動の軽減に注力するべきであることが分かることもある。ひきこもりの成人の場合でも,実はその背景に単独での移動スキルのなさが関係していることが分かることもあり,Vineland-IIの実施は,現状を的確に認識し,支援の優先順位や支援の内容を再検討するきっかけになると考えられる。

また,Vineland-IIの結果を踏まえ,対象者のその領域,下位領域の適応がなぜ低いのかについて検討することが必要となる。ボタンが一人で止められない場合,保護者が全部サポートしているために自分でやる機会がないこともあれば,手先が不器用で難しいこともある。状態としては同じ「日常的にやっていない」であっても,その背景は一人ひとりさまざまである。Vineland-IIの面接の中で得られた情報から,本人にその機会がないのか,部分的にできることがあるとすればどんな場面やどんなサポートがそれを可能にするのか,その前提となるスキルは獲得しているのかなどを丁寧に分析し,また行動観察やそのほかのテストバッテリーから得られた情報を統合し,適応度を高めるための具体的な方策を考えていく。加えて,適応水準が「平均的」「高い」領域がある場合には,なぜそのような高い水準を獲得しているのかについても検討することで,本人の適応を高める要因を探ることもできるであろう。

短期的な支援目標を設定する際には,1点がついた項目を中心に検討するとよい。部分的にできていることを,完全に自立してできるようにするために,どのようにその機会を増やしたりサポートしていくかを検討する。

10.不適応行動を軽減するための適応行動

Vineland-IIでは,適応行動と不適応行動の両方の側面を評価することを忘れてはならない。不適応行動の背景には,適応行動のスキル不足があることがほとんどで,適応行動と不適応行動は切り離せない。適応行動をとることを難しくしているその背景に,不適応行動として評価される本人の情緒や行動の問題,精神科的な疾患がある場合も多い。支援を考える際には,不適応行動を軽減するために必要な適応行動の獲得が最優先されるべきである。そして,その適応行動のスキルは,問題行動や不適応行動が起きた場合に教えるのではなく,本人が落ち着いて学べる状態であるときに,視覚支援も用いながら分かりやすく教えていくことが望ましい。問題となる行動が増えている場合には,周囲の人々の対応が,その行動を維持,増加させていることにも留意が必要である。

例えば,子どもの要求目的でのかんしゃくが増えている場合,子どもがかんしゃくを起こすたびに周囲の人がその子どもが欲しいものを渡していることが多いかもしれない。子どもは,かんしゃくを起こすのは,ほしいものの名前を伝えるスキルがないからであり,その上,かんしゃくを起こすとほしいものが手に入ることを学習している。かんしゃくを起こした時には,欲しがっているものを渡さずに本人が落ち着いた瞬間に渡すように対応を変え,また,別の場面で落ち着いているときに,ほしいものの名前を言ってほしいものを手に入れる経験を積む必要がある。

11.おわりに

Vineland-IIは,適用年齢が幅広く生涯のほぼすべての年齢帯をカバーし,障害のある人に限らず,すべての人を対象として実施できる検査である。ライフステージや年齢に応じて周囲から期待される適応行動やその重要度は変化していくため,支援ニーズがある人の場合には,定期的に適応行動をアセスメントしていくことが望ましい。Vineland-IIを用いて適応行動という視点から臨床実践をしていくことは,対象者の生活を豊かにしWell-beingの向上につながるであろう。

文 献
  • Kanne, S. M., Gerber, A. J., Quirmbach, L. M., Sparrow, S. S., Cicchetti, D. V. & Saulnier, C. A.(2011)The role of adaptive behavior in autism spectrum disorders: Implications for functional outcome. Journal of autism and developmental disorders, 41, 1007-1018.
  • Klin, A., Saulnier, C. A., Sparrow, S. S., Cicchetti, D. V., Volkmar, F. R. & Lord, C.(2007)Social and communication abilities and disabilities in higher functioning individuals with autism spectrum disorders: The Vineland and the ADOS. Journal of Autism and Developmental Disorders, 37, 748-759.
  • Perry, A., Flanagan, H. E., Geier, J. D. & Freeman, N. L.(2009)Brief report: The Vineland Adaptive Behavior Scales in young children with autism spectrum disorders at different cognitive levels. Journal of Autism and Developmental Disorders, 39, 1066-1078.
+ 記事

稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学心理社会学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023)

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