臨床心理検査の現在(5)発達障害関連②M-CHAT|稲田尚子

稲田尚子(大正大学)
シンリンラボ 第9号(2023年12月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.9 (2023, Dec.)

1.はじめに

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は,早期介入により,短期的にも長期的にも予後が良くなる可能性が示唆されている。そのため,ASDの早期発見の必要性と重要性に関しては十分に認識されている。早期スクリーニングが可能なASDの下限年齢は,現在のところ1歳から2歳の幼児期早期である。この時期に使用可能なASDのスクリーニングツールとして,M-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers:乳幼児期自閉症チェックリスト修正版,Robins et al., 2001)がある。M-CHAT日本語版の信頼性と妥当性は確認され(Inada et al., 2011),1歳6か月健診における2段階スクリーニングの有効性も報告されている(Kamio et al., 2014)。M-CHATを用いて,ASDを早期にスクリーニングすることにより,早期に適切な専門的アセスメントが受けられ,必要な支援サービスに早期につながることができるようになる。児の発達および適応の促進はもちろんのこと,家族のメンタルヘルスの問題の予防や改善につながり,児とその家族へ与えるインパクトは大きい。

2.M-CHATの実施方法

M-CHATは,ASDのリスクにまだ気づかれていない16-30か月の一般乳幼児を対象とした一次スクリーニング目的で作成されている。そのため,適用年齢の範囲内(16-30か月)における乳幼児健康診査の場面(例:1歳6か月健診,2歳相談会)等で使用されるのが一般的である。M-CHATは保険収載されているため,小児科等での個別健診にも使用できる。

M-CHATを用いた標準的なスクリーニング手続きは2段階である。第1段階スクリーニングでは保護者にM-CHATに回答してもらう。基準を超えた陽性(ASDが疑われる)ケースに対しては,約1~2カ月後に第2段階スクリーニングとして,保健師や心理職などの専門家が電話面接で不通過項目を中心とした発達状況を具体的に確認する。なぜ2段階のスクリーニングが必要とされているだろうか。乳幼児期は発達の個人差が大きく,第1段階のスクリーニングで不通過となった行動についても1~2カ月のうちに芽生えてくることもしばしばある。ASDがある場合は,短期間では変わらないことが多く,1~2カ月の経過を確認する必要がある。また,M-CHATでは,指さしや模倣,遊び方などを詳しく尋ねるが,子どもの行動をよく見ておらず分からないと回答する保護者も一定数いる。そのような場合には,M-CHATに含まれる非言語の対人コミュニケーション行動の重要性と今後子どもの行動を丁寧に見るように伝える。このように,スクリーニングのプロセスは1回限りではなく,複数回行うことが肝要である。2段階スクリーニングにおいて陽性のケースについては,個別面接を案内し,保護者から子どもの詳細な発達歴を聴き取り,また子どもの行動観察および発達検査を行うことにより,包括的な発達評価を行う。M-CHATスクリーニングの基準は,第1段階,第2段階いずれも全23項目中3項目以上不通過である。

3.M-CHATの項目の内容

M-CHATの23項目には,年齢とともに芽生えてくる乳幼児の社会性発達を確認するための項目および年齢に関係なくそれが見られればASDを疑う項目が含まれる。前者は,共同注意,模倣,社会的参照,対人的関心,対人情動的反応性に関する項目であり,1歳6カ月頃までに通過していないことを問題と捉える。後者は音への過敏性,常同性,感覚没頭など,ASDに特異的な行動に関する項目であるが,これらの行動は乳幼児期の定型発達にも一時的に見られる場合もあり,経過を確認していくことが肝要である。

M-CHATの項目に含まれる対人コミュニケーション行動は,一般の乳幼児では,いつ頃獲得されるのだろうか。筆者らが行った8~20カ月の一般乳幼児を対象として行った調査(Inada et al., 2010)の結果,対人コミュニケーション行動に関する16項目は,保護者から見た獲得時期に基づいて,大きく3つに分けられ,各群に含まれる行動は獲得月齢が上がるにつれて,複雑さを増していくことがわかった(表1)。0歳代ですでに獲得されている行動群(第1群)は,子どもと大人との間,あるいは子ども同士,つまり一対一での関係で生じる行動である。1歳頃に獲得される行動群(第2群)は,模倣,共同注意,ふり遊びに関する行動である。1歳半になるまでに獲得される行動群(第3群)は,より高度な共同注意に関する行動である。M-CHATの項目を,単にスクリーニングとしての行動群としてではなく,定型的な獲得時期という観点で各項目を見ると,個人の社会性発達の目安にしたり,支援ニーズの高さを判断する目安にすることもできるであろう。

表1 M-CHATの社会性発達関連項目の獲得時期

第1群:8ヶ月以前
項目1 身体遊び
項目2 他児への興味
項目4 イナイイナイバー
項目10 アイコンタクト
項目12 微笑み返し
項目14 呼名反応
 
第2群:11~12ヶ月
項目5 ふり遊び
項目6 要求の指さし
項目7 興味の指さし
項目13 模倣
項目15 指さし追従
項目19 保護者の注意喚起
 
第3群:15~17ヶ月
項目8 感覚遊びからの脱却
項目9 ものを見せに持ってくる
項目17 視線追従
項目23 社会的参照

4.結果の解釈

M-CHATは,ASDのリスクを発見するためのスクリーニングツールであるため,2段階スクリーニングを経て陽性となったケースであっても,すぐさまASDと診断されるとは限らない。ASDの最終的な臨床診断は,スクリーニングの後,専門家がさらに詳細なアセスメントや数回の面接を行なった後,あるいは発達経過を追った後に行われる。

M-CHAT日本語版のスクリーニングツールとしての精度はどの程度であろうか。実際にM-CHATを日本の1歳6か月健診に導入し,1, 851名を3歳以降(3-6歳)まで長期フォローアップを行った結果(Kamio et al., 2014)を元に解説する。全体で51名が平均49. 4カ月でASDと判断され(2. 8%),そのうち,2段階のスクリーニングプロセスを経て陽性とされたASD児は20名(男児14名(70%),高機能8名(40%))であった。第1段階でのASDについての感度(ASD児のうち,M-CHATが正しくASDとした児の割合)は0. 69,特異度(非ASD児のうち,M-CHATが正しくASDを否定した児の割合)は0. 84であった。第2段階スクリーニングの感度は0. 48,特異度は0. 99,陽性的中率(M-CHATがASDとした児のうち,実際にASDであった児の割合)は0. 45(しかしながら非ASDと判断された児も全般的発達,言語発達,多動,注意機能など発達的側面に何らかのニーズがある児であった)と報告されている(Kamio et al., 2014)。感度や陽性的中率はいくぶん低く感じられるかもしれないが,特に陽性的中率は,有病率の影響を受ける。この結果は,乳幼児健診という低リスク児がほとんどの一般母集団を対象において実施されたこと,またASDの有病率は約2%であることを考慮して,慎重に解釈する必要がある。

5.ASDの判別力の高いM-CHAT項目

M-CHAT全23項目中,ASDの判別能力の高い項目はあるのだろうか。Kamioら(2014)は,M-CHATを日本の1歳6か月健診に導入し,1, 851名を3歳以降(3-6歳)まで長期フォローアップを行った結果,ASD51名,非ASD1, 800名と同定した。Kamioら(2015)は,その二次解析を行い,1歳6か月時点でASDの判別力が高い項目を調べたところ,判別力の高い順に6項目が抽出された(表2)。ASD児に,興味を共有するための指さしが乏しいことはよく知られた事実だが,この6項目には含まれていない。1歳6か月の段階では,要求の指さし(項目6)と興味の指さし(項目7)の通過・不通過のふるまいが類似していたため,統計的分析により興味の指さしが除外された。1歳6か月段階で,興味の指さしの芽生えがないことは,上記の6項目と同様に,判別力の高い指標となる。

1歳6か月健診におけるこの6項目の有効性については,二次解析で用いたコホートデータ,および,別の自治体で3歳までフォローアップしたコホートデータ(全665名:内ASD13名,非ASD652名)を用いて,後のASD診断の感度,特異度,陽性的中率,尤度比等を検討した。各指標のバランスから,カットオフを6項目中1項目とすることを推奨しており,このカットオフを用いた場合のスクリーニング精度は,23項目のフルバージョンを使用した場合とほぼ同等であった。これら6項目は,M-CHAT短縮版として活用することができ,保護者および健診実施者の負担軽減につながると考えられる。

表2  ASDの判別力の高い項目

項目6 要求の指さし
項目13 模倣
項目5 ふり遊び
項目15 指さし追従
項目21 言語理解
項目9 ものを見せに持ってくる

6.M-CHATで陽性となった子どもと家族へのフィードバック

スクリーニングで陽性となった子どもと家族にはどのようにフィードバックするのだろうか。第1段階では,すでに子どもの発達を心配している家族に対しては,第2段階のスクリーニングを待たずに,その後の発達相談等を案内することも有力な選択肢となる。一方で,そうではない家族に対しては,この段階では,不安をいたずらにあおらないような配慮も肝要である。不通過項目数によって強弱は必要であるが,まずは発達には個人差が大きいことを伝えつつ,指さしや真似といった言葉を使わない行動は,人とやりとりする力やコミュニケーションする力の発達の基盤となることを伝える。非言語性のコミュニケーションの重要性に気づいてもらうことがねらいとなる。対人コミュニケーション行動への注目を促すために,普段の様子を丁寧に見てほしいことを伝え,1~2ケ月後に電話で様子をきかせていただけるよう今後の約束をする。

第2段階スクリーニングでは,陽性の場合には,電話面接でその後の様子を確認した後,「○○はよく見られるようになり,△△や□□はまだあまり見られないようです」と第1段階スクリーニング時点からの変化に言及し,「まだ芽生えていない行動は,人とやりとりする力の土台になる,とても重要な行動です」と,対人コミュニケーション行動の意義を確認する。「子どもの発達の仕方は,一人ひとりさまざまなので,お子様の発達の状況を見せていただき,得意なところや苦手なところを一緒に考えていきましょう」と,専門的な行動観察や発達検査の意義を説明し,強みと弱みの両面に着目することを伝える。その上で,「現在のお子さんの発達状況に一番合った遊び方や関わりを工夫しましょう」と,個別に具体的な対応方法があることを説明して,発達相談につなげる。相談の場では,幼児期は発達が変化しやすい時期なので,現状把握のためにできる限り早期に発達検査を実施することを推奨する。

7.不通過項目に対する家庭での関わり方の助言

スクリーニング段階においても不通過の項目に対しては,保護者に家庭での関わり方について助言ができるとよい。この段階では,個別的な専門的な助言というよりはむしろ,乳幼児期の子ども全般に有効な助言をする。(1)“高い高い”や“イナイイナイバー”など子どもが喜ぶ人とのやりとり遊びを見つけて,繰り返し楽しむようにすること,(2)子どもの行動や遊びの真似をすること,(3)不通過とされた項目について,保護者が日常生活の中で意識してゆっくり見本を見せるようにすること,である。(1)の人との関わり遊びの中でも子どもが喜ぶ遊びをすることで,大人に対して“もっとやってほしい”という気持ちが高まり,大人への働きかけが増えたり遊びが持続するようになることを期待する。(2)の子どもの行動の真似は,そうすることで大人への注目や関わりが増えるという研究報告がある(Katagiri et al., 2010)。(3)の見本を多く見せることについては,子どもは周囲の人々の行動を見て学習したり,真似してさまざまな新たな行動を取り入れていくことが関わっている。例えば,保護者が興味あるものをゆっくり指さして子どもに知らせたり,保護者が何かを渡す際にはそれを少し持ち上げてしっかりと子どもに見せたりするなど,共同注意に関する行動の見本を丁寧に示す。子どもと遊ぶ際には,保護者がおもちゃに合った機能的な遊びやふり遊びなどの遊び方の見本を示すとよいだろう。子どもに真似させる必要はないが,見本を多く見せているうちに子どもが自発的に真似するかもしれない。このように,保護者が少し意識して丁寧に関わることで,子どもがその年齢に獲得することが重要な対人的なコミュニケーション行動に多く触れる機会を確保するのが望ましい。

8.医療機関や相談機関でのM-CHATの活用

M-CHATは,一次スクリーニング(一般集団を対象として,ASDのリスクがある人を見つけようとするプロセス)目的に開発されており,本来的には,乳幼児健診等(医療機関での個別健診含む)で実施されることが想定されている。では,二次スクリーニングに該当するような,何らかの発達の心配を抱えて医療機関や相談機関等を受診した対象に使用する場合には,どのようにすればよいだろうか。M-CHATはもともと2段階のスクリーニング手続きがあり,専門家が評定する電話面接は二次スクリーニングのプロセスであるとも考えられる。対象の年齢を確認しつつ,まずは保護者にM-CHAT質問紙に回答してもらい,その後電話面接プロトコルを用いて直接,面接で行動の詳細を確認することができるだろう。二次スクリーニングの段階では,質問紙の回答のみで判定することのないようにするべきである。

9.おわりに

発達的ニーズのある子どもの保護者との面談で,保護者は専門家に「様子を見ましょう」と言われたと話されることが多い。確かに子どもの発達の経過は丁寧に追わなければならないので,様子を見ていくことは間違いではない。ただ,その間,子どもと家族に対して無策であることが少なくなく,残念に感じている。子どもの発達に関する保護者の気づきや心配の訴えを傾聴することは大切であるが,それと同時に保護者に家庭での関わりの工夫を伝えられるはずである。M-CHATを,ASDの可能性の判別のみに用いるのではなく,子どもの社会性発達の状態を把握し,子どもと家族の関わりや環境を豊かにするために用いることができる。そのためには,乳幼児期の子どもの社会性発達をどのようにして促すことができるのか,心理職がその関わりの工夫の引き出しを多く持つことが求められる。

文 献
  • Inada, N., Kamio, Y. & Koyama, T.(2010)Developmental chronology of preverbal social behaviors in infancy using the M-CHAT: Baseline for early detection of atypical social development. Research in Autism Spectrum Disorders, 4(4)605-611.
  • Inada, N., Koyama, T., Inokuchi, E. et al.(2011)Reliability and validity of the Japanese version of the Modified Checklist for autism in toddlers (M-CHAT). Research in Autism Spectrum Disorders, 5(1)330-336.
  • 神尾陽子・稲田尚子(2007)1歳6か月健診における広汎性発達障害の早期発見についての予備的研究.精神医学, 48, 981-990.
  • Kamio, Y., Inada, N., Koyama, T. et al.(2014)Effectiveness of using the Modified Checklist for Autism in Toddlers in two-stage screening of autism spectrum disorder at the 18-month health check-up in Japan. Journal of autism and developmental disorders, 44, 194-203.
  • Kamio, Y., Haraguchi, H., Stickley, A., Ogino, K., Ishitobi, M. & Takahashi, H.(2015)Brief report: Best discriminators for identifying children with autism spectrum disorder at an 18-month health check-up in Japan. Journal of autism and developmental disorders, 45, 4147-4153.
  • Katagiri, M., Inada, N., & Kamio, Y.(2010)Mirroring effect in 2-and 3-year-olds with autism spectrum disorder. Research in Autism Spectrum Disorders, 4(3)474-478.
  • Robins, D. L., Fein, D., Barton, M. L. et al. (2001)The Modified Checklist for Autism in Toddlers: an initial study investigating the early detection of autism and pervasive developmental disorders. Journal of autism and developmental disorders, 31, 131-144.

稲田尚子(いなだ・なおこ)
大正大学心理社会学部臨床心理学科 准教授
資格:公認心理師,臨床心理士,臨床発達心理士,認定行動分析士
主な著書は,『これからの現場で役立つ臨床心理検査【解説編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023),『これからの現場で役立つ臨床心理検査【事例編】』(分担執筆,津川律子・黒田美保編著,金子書房,2023)

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