【特集 学校が変わる! ポジティブ行動支援(PBS)の理論と実践】#06 通常学級場面における第3層支援の実際|平澤紀子

平澤紀子(岐阜大学大学院教育学研究科)
シンリンラボ 第13号(2024年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.13 (2024, Apr.)

1.はじめに

小・中学校の通常学級には,知的発達に遅れはないものの,学習面や行動面に著しい困難を示す子どもが8.8%在籍している(文部科学省,2022)。そこで,通常学級場面では,このような子どもに必要な支援を行いながら,学級全員の教育を進める必要がある。しかし,先生方の願いや努力とは裏腹に,子どもが授業に参加しない,友達とトラブルを起こす等の望ましくない行動を示し,試行錯誤の中で,悪循環が生じることも少なくない。

2.第3層の支援

こうした課題に対して,学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS:School Wide Positive Behavior Support)は,望ましくない行動を個々の子どもの問題ではなく,望ましい行動をしにくい学校システムの問題と捉える。そして,望ましい行動を育成する社会的文化や個別的な行動支援を構築することで,学校を安全で効果的な学習環境にする(Sugai & Horner, 2009)。そのために,すべての子どもへの第1層の支援を基盤として,全体への支援で効果が得られないリスクのある子どもへの第2層の支援,さらにすでに望ましくない行動を示している子どもへの個別的な第3層の支援を行う。この第3層の支援においては,後述する機能的アセスメントに基づく支援の有効性(Jeong & Copeland, 2020)が明らかにされており,米国では障害のある子どもの教育保障の法律(Individuals with Disabilities Education Act:IDEA)において個別の教育計画への活用が明記されている。

3.機能的アセスメントに基づく行動支援計画

機能的アセスメントは,子どもの行動を環境とのかかわりの中で理解するための情報収集方法であり,その情報を基に子どもの望ましい行動を促し,望ましくない行動を必要ないものとするための環境やかかわり方を明らかにする(O’Neill et al., 1997)。

1)なぜ,そのように行動するのか?

私たちは日々の経験を通じて,さまざまな行動を学習する。その学習には,行動した後の結果が影響する。ある状況で,ある行動をしたら,良いことが得られたり,嫌なことがなくなったりすれば,その行動が増える。これが強化の原理である。すなわち,その状況で,強化を得る有効な行動を学習する。そこで,どんな時(Antecedent)に,どんな行動(Behavior)をすると,どんな結果(Consequence)が生じるかの行動随伴性ABCから,「なぜ,そのように行動するのか?」を理解することができる(図1)。

図1 行動随伴性ABC

2)望ましくない行動の機能

ABCからみると,表1のように,子どもが示す望ましくない行動は,周囲の注目を獲得する,嫌なことから逃れる等の機能を果たしていることがわかる(O’Neill et al., 1997)。例えば,授業中に先生が説明している時に,子どもが関係ないおしゃべりをする。先生は止めさせようと,その都度注意する。このような場合,子どもにとって,他に手段がなければ,おしゃべりは,注目を獲得する有効な行動として学習される。すなわち,周囲にとっては望ましくない行動であっても,子どもにとっては必要で意味のある行動である。ただし,やり方が望ましくない。そこで,ABCから望ましくない行動の機能を理解し,その機能を望ましい行動で発揮できるようにするための支援を考えるのである。

表1 望ましくない行動の機能

3)競合行動バイパスモデル

機能的アセスメントから,どのように支援を計画するのかの理論が競合行動バイパスモデル(O’Neill et al., 1997)である(図2)。その考え方は,現在の望ましくない行動よりも,望ましい行動が効果的で効率的になれば,望ましくない行動は必要なくなるというものである。現在,ある場面や状況で,望ましくない行動をして,結果を得ている(図2の真ん中)。そこで,この場面や状況で,望ましい行動をしやすく,それに即時に結果が得られれば,望ましくない行動をしにくくなる(図2の上)。代わりの行動をしやすく,それに望ましくない行動で得ている結果が即時に得られれば,望ましくない行動をする必要がなくなる(図2の下)。このようなバイパスをつくるという考え方を基に,支援を計画する。望ましくない行動が起きる前の場面や状況を変える先行操作,子どもの好みや強さを生かしてすぐにできる望ましい行動や代わりの行動を教える行動教授,望ましい行動や代わりの行動には結果が生じ,望ましくない行動には生じないようにする結果操作である。

図2 競合行動バイパスモデル

4)文脈適合性

機能的アセスメントに基づく行動支援計画は,それを実行する場面や人々の諸条件に適合していなければ,実行されず,ゆえに期待される効果を実現できない。そこで,行動支援計画を実行する場面や人々のライフスタイルや価値観,スキル,サポート体制等を踏まえて,実行しやすい支援を検討する。これが文脈適合性であり,確実な効果を実現するための重要な検討点になる(O’Neill et al., 1997)。集団での学びの場である通常学級場面においては,学級全員の中でどのように個別に支援するかを検討する。

4.機能的アセスメントに基づく行動支援計画の実際

機能的アセスメントは,望ましくない行動が生じる場面を把握し,ABCを観察し,望ましくない行動の機能を推定し,その機能を基に支援を考え,文脈に適合する支援を検討する。特別支援教育コーディネーターが中心となり,学校チームで進めた事例をみてみよう。

1)関係のないおしゃべりをするFさんへの支援

小学校1年生のFさんは,授業中に関係のないおしゃべりをする。周囲も騒然となり,担任は授業が進められない。Fさんのみならず,学級の子どもの学びも阻害される。周囲のFさんへの評価も低下し,保護者からも不安の声があがっていた。まず,時間割を用いて,Fさんの望ましくない行動が生じやすい場面と生じにくい場面を整理した(表2)。すると,すべての授業ではなく,1限の国語が多かった。そこで,国語の授業場面で,特別支援教育コーディネーターがFさんの行動をABCから観察した。担任が注目していない時に,Fさんは関係ないおしゃべりをした。そして担任は「やめなさい」とその都度注意した。友達も「うるさい」とその都度注意した。Fさんはその場は止めるが,繰り返した。一方,Fさんは授業中に注目される機会はなかった。これらの分析から,Fさんの関係のないおしゃべりは注目を獲得する機能をもつと推定した。

表2 時間割での把握時間割での把握(〇の項目は望ましくない行動が生じやすい場面)

2)機能的アセスメントに基づく行動支援計画

この仮説を基に,学校チームで,競合行動バイパスモデルから,Fさんの支援を考えた。とくに,集団の学びの場においては,学級全員に対する働きかけとFさんへの働きかけとして整理した。まず,①望ましい行動のバイパスをつくるために,学級全員に,先生が説明している時には話を聞く,おしゃべりしてもよいのはおしゃべりタイムとする等の授業の約束を確認した。そして,全員がしている望ましい行動をほめることにした。Fさんには,個別に注目される機会として,授業の約束を確認する係にし,取り組みを皆の前でほめることにした。②代わりの行動のバイパスをつくるために,おしゃべりタイムで,Fさんに自分の意見をいうことを教えた。支援の結果,Fさんは,関係ないおしゃべりをしなくなり,課題に取り組むようになった。周囲の子どもも,Fさんに「やるね」と声をかけるようになった。授業は活発になり,担任は手応えを感じた。学校チームは,この支援をFさんの個別の教育支援計画に記載し,引き継いだ。次年度はスムーズになった。

5.おわりに

法的基盤のないわが国において,多層的な支援を組織的に行うことは,すぐには難しいかもしれない。しかし,ABCから子どもの行動を理解し,支援を考え,実行し,見届けることは,どの学校や学級でもできる。とりわけ,ABCからみれば,子どもの望ましくない行動は子どもの良さを伸ばすチャンスとなる。個別の教育支援計画に活用すれば,教育保障につながる。そして,個々の子どもに考えた支援を学級全員に行えば,周囲の育ちも支援できる。学校チームで行えば,学校の教育力も高まる。本稿が,ポジティブな行動支援を実感する手がかりとなることを願う。

引用文献
  • Jeong, Y. & Copeland, S. R.(2020)Comparing functional behavior assessment‑based interventions and non‑functional behavior assessment‑based interventions: A systematic review of outcomes and methodological quality of studies. Journal of Behavioral Education, 29, 1–41.
  • 文部科学省(2022)通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について.
  • O’Neill, R. E., Horner, R. H., Albin, R. W. et al.(1997)Functional assessment and program development for problem behavior: A practical handbook. Brooks/Cole, pp.9-64.
  • Sugai, G., & Horner, R. H.(2009)Defining and describing schoolwide positive behavior support. In: W. Sailor, G. Dunlap, G. Sugai, & R. Horner (Eds.), Handbook of positive behavior support. Springer, pp.307–326.
+ 記事

平澤 紀子(ひらさわ・のりこ)
所属:岐阜大学大学院教育学研究科 教授
学校心理士
主な著書:『応用行動分析学から学ぶ子ども観察力&支援力養成ガイド 改訂版』(単著,Gakken,2023)
『特別の支援を必要とする子どもへの教育』(編著,ジダイ社,2019)

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