【特集 学校が変わる! ポジティブ行動支援(PBS)の理論と実践】#04 学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)における第2層支援の実際|若林上総

若林上総(宮崎大学教育学部)
シンリンラボ 第13号(2024年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.13 (2024, Apr.)

1.はじめに

学校規模ポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support:以下,SWPBSとする)は,学校に在籍するすべての児童生徒を対象とした支援体制を構築する(Sugai & Horner, 2006)。体制の基礎は,すべての児童生徒に対する行動問題の予防策となる第1層支援にある。一方,校内組織を整え,第1層支援に取り組んだとしても,すべての児童生徒が適応的に過ごせるとは限らない(大久保ら,2020など)。これに対してSWPBSでは,第2層支援を構築し,追加支援の提供を目指す。このとき,第1層支援だけでは適応的に過ごせない児童生徒への支援を円滑に行うためには,第1層支援とは異なる支援システムを整える必要がある。そこで本稿では,研究知見を引用しながら第2層支援の実際を紹介する。そして,わが国における追加支援の適用,その前提となるシステム構築の可能性を探ることとする。

2.第2層支援の実際

1)対象児童生徒の絞り込み

第2層支援の対象は,第1層支援を受けても反応がなく,日常的に行動の問題で対応を要する児童生徒と定義される(Sugai & Horner, 2009)。すでに第1層支援が行われているにもかかわらず,期待される行動が十分みられないとなれば,その後に問題行動が顕在化するリスクがある。こうした捉えから,学校適応のリスク低減を目指し,いち早く対応を進めるのが第2層支援である。

2)第2層支援の根拠となるデータ

対応の根拠には,第1層支援の過程で収集されるデータが用いられる。第1層支援では,学校生活のあらゆる場面で児童生徒に期待される行動(school-wide behavioral expectations)の整理と合わせて,何を問題行動とするかが共通理解される。そして,問題行動が生じた時,特定の書式(discipline referral form)を用いて記録を残す。このとき,一定期間内に何回を超えると追加支援の対象にするか,といった判断の基準を設けて,第2層支援の円滑な実施につなげる。判断の基準は,各学校の実情に合わせて操作的に設定される。そのため,学校が解決を目指す課題との関連から,成績,出席統計,保健室利用などの各種のデータを第2層支援の判断に用いる場合もある。現在,各学校には校務支援システムが導入され,こうしたデータへのアクセスが可能な状況にある。これらを定期的に集計し,課題を有する児童生徒を特定することは,気になる児童生徒に対する「様子見」や,個別の指導計画が作成されるまでの「見守り」が繰り返される状況を改善する。

3)第2層支援の手立て

第2層支援は,特定された児童生徒に対していち早く実施されることが望ましい。そのため,エビデンスの蓄積された実践方法をあらかじめ定めておき,第2層支援の対象となった児童生徒に実践を当てはめる形で支援が行われる。これは,あくまでも支援実施の効率化をねらったもので,一つの対応でどの児童生徒のニーズにも応じること(one-size fit all approach)を推奨しているわけではない(Stormont & Reinke, 2013)。だから,第2層支援の充実した学校では,児童生徒の実態に合わせて複数のアプローチを備える体制を構築することがある。実際,第2層支援を構築した米国の学校では,後述するCheck-in/Check-out(以下,CICOとする)をはじめ,社会性と情動の学習(Social Emotional Learning:SEL),グループカウンセリング,簡単なスキルの指導,セルフマネジメントの指導などが行われている(Nese, et al., 2023)。

4)第2層支援の仮説

適用された第2層支援に期待されることは,児童生徒の期待される行動の増加である。ところが,支援の対象には,第1層支援に十分反応できなかった児童生徒が絞り込まれている。この児童生徒らには,期待される行動の学習機会が十分設けられず,強化も随伴しなかったということが考えられる。こうした仮説に基づけば,第2層支援の対象児童生徒に絞って,期待される行動を改めて指導し,第1層支援の対象児童生徒より強化が伴う環境を設定する必要がある(McDaniel, et al., 2015)。加えて,児童生徒の行動の機能に応じながら,文脈適合性が高まるように方策を変化させる柔軟性も,第2層支援には求められる。こうした議論のもと,米国では第2層支援として数多くの学校で用いられているCICOの工夫が検討されている。

5)CICOの「毎日の実践」

標準的なCICOは,「毎日の実践」のサイクルを基礎とする。このサイクルは①から④の要素で構成される(図1の白抜き楕円の部分)。①登校後に児童生徒は指導担当者から1日の取り組みを記録するワークシート(Daily Progress Report:以下,DPRとする。図2参照)を受け取る。児童生徒は,②授業ごとに自分の課題となっている行動ができれば獲得したポイントをDPRに記し,取り組みに関して担任や教科担当から肯定的なフィードバックを受ける。③日課の終わりには,指導担当者と一緒にDPRをみながら獲得ポイントの合計が目標とした基準に達しているかを確認し,肯定的なフィードバックを受ける。④DPRのコピーは家に持ち帰り,家庭でも保護者と取り組みを振り返り,肯定的なフィードバックを受ける。こうして,課題となっている行動が集中的に強化される環境を構築する。

図1 Check-in/Check-out(CICO)の2つのサイクル((Hawken, et al., 2020)を参考に作成)

図2 Daily Progress Reportの例

6)CICOにおける実践の「見直し」

「毎日の実践」が進めば,2週間ごとに「見直し」の機会を設ける。このサイクルは,①から④の要素で構成される(図1の青い四角の部分)。まず,①指導担当者が毎日蓄積されるDPRの結果を集計する。そして,②指導担当者が隔週で会議を開き,児童生徒の取り組みを踏まえて,③手立てを継続するか(手立てを適合させるかどうかを含む),④手立てを終了して第1層支援のみの環境に戻すか,といったことを意思決定する。継続であれば,意思決定の内容が児童生徒や保護者と共有され,再び「毎日の実践」のサイクルに入ることになる。

7)第2層支援の適合(adaptation)

子どもの問題行動を改善し,適切な行動支援につながる知見がCICOにはあるが(Campbell, & Anderson, 2011; Miller, et al., 2015など),それは万能ではない。むしろ,標準的なCICOには反応しない児童生徒が一定数いることが,先行研究では指摘されている(Swoszowski, et al., 2013)。この原因の一つには,指導に関与する大人の注目以外の環境が,児童生徒の問題行動を維持する場合があると考えられている(Campbell & Anderson, 2008)。第2層支援による効果が限定的であった場合には,それまでに用いた第2層支援の枠組みを生かし,さらなる支援の工夫が検討される。そうして第2層支援を柔軟に変化させ,支援を適合させる取り組みは,階層支援システムの上位の機能を一層高めることにも役立つ。

8)児童生徒に適合させたCICO

図3は,児童生徒の実態に合わせてCICO手続きを適合させた例である。事例の児童は,級友とのかかわりに困難さがあり,授業中の発表やグループ活動でトラブルが頻発したため,第2層支援の対象となった。指導担当者は,すぐに本人,保護者と一緒に行動契約を結び,〈CICO第1期〉を開始した。当初,児童が遂行率80%を達成する日が限られたが,この一因が本人のスキル不足にあると議論された。そこで,〈CICO第2期〉のはじめにはSSTが実施された。しかし,引き続き目標とする遂行率には達しなかった。

図3 対象児童生徒に適合させたCICOの結果

そこで,冬休みには,学級担任と協議を行った。その結果,〈CICO第3期〉には教卓のそばに座席を変更し,発表やグループ学習の際には学級担任から取り組み方のプロンプトが頻繁に出されることとなった。加えて,仲のよい友達を近くの座席に配置し,コミュニケーションをとりやすくした。この環境調整は機能し,〈CICO第4期〉には担任からの支援を次第に減らす中,発表やグループ活動への取り組みがみられ,遂行率80%を超える日が6日続いた。このことから,〈CICO第5期〉には同じ環境のまま,学級担任からのプロンプトを出さないこととした。すると,発表場面でも,グループ学習場面でも,これまでの経験を生かし,仲間にも助けを借りながら取り組むことができるようになっていった。

9)指導の担当と運営

第2層支援の対象は,全児童生徒の10~15%となる。つまり,学校に500人の児童生徒が在籍すれば,そのうちの50~75人の児童生徒の対応を要する。この点に関して,Hawken, et al.(2020)は,第2層支援の円滑な運営のための実行チーム編成を勧めている。実行チームでは,DPRの配付や確認は,登校後や日課の終わりに対応可能な教職員が担う。各学年の教育相談担当教員が対応する場合,支援員に対応をお願いする場合など,学校の実情に合わせてよい。肝心なことは,指導担当者が実行度を保って支援することである。そのために,CICOに精通する教職員がコーディネーター役を担い,支援方法の研修,実施時のフィードバック,DPRに基づくデータの集約などを行う体制の構築が重要となる。

3.おわりに

本稿では,研究知見を引用しながら第2層支援の実際を紹介した。特に,第2層支援には絞り込まれた児童生徒を対象に,そのリスクを抑える働きがあることについて触れた。これは,すべての児童生徒を対象とした第1層支援とは異なる機能であった。併せて,児童生徒を絞り込む過程では,第1層支援で収集するデータが活用されることも説明した。このことは,第2層支援が3層支援構造の一部であり,第1層支援とは不可分であることを表す。わが国においても,第1層支援の成果や課題に関する研究が次第に行われるようになっている。こうした研究に続いて,第2層支援の構築や実践も試行されるだろう。そうして,わが国における第2層支援の議論が深まっていくことを今後に期待したい。

引用文献
  • Campbell, A., & Anderson, C. M.(2008)Enhancing effects of check-in/check-out with function-based support. Behavioral Disorders, 33, 233–245.
  • Campbell, A., & Anderson, C. M.(2011)Check-in/check-out: A systematic evaluation and component analysis. Journal of Applied Behavior Analysis, 44, 315–326.
  • Hawken, L. S., Crone, D. A., Bundock, K., Horner, R. H.(2020)Responding to Problem Behavior in Schools, Third Edition: The Check-In, Check-Out Intervention (The Guilford Practical Intervention in the Schools Series). The Guilford Press.
  • McDaniel, S. C., Bruhn, A. L., & Mitchell, B.(2015)A Tier 2 framework for identification and intervention. Beyond Behavior, 24, 10–17.
  • Miller, L. M., Dufrene, B. A., Sterling, H. E., Olmi, D. J., & Bachmayer, E.(2015)The effects of check-in/check-out on problem behavior and academic engagement in elementary school students. Journal of Positive Behavior Interventions, 17, 28–38.
  • Nese, R. N., Kittelman, A., Strickland-Cohen, M. K., & McIntosh, K.(2023)Examining teaming and tier 2 and 3 practices within a PBIS framework. Journal of Positive Behavior Interventions, 25, 16-27.
  • 大久保賢一・月本彈・大対香奈子・田中善大・野田航・庭山和貴(2020)公立小学校における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)第1層支援の効果と社会的妥当性の検討.行動分析学研究,34(2), 244-257.
  • Stormont, M., & Reinke, W. M.(2013)Implementing Tier 2 social behavioral interventions: Current issues, challenges, and promising approaches. Journal of Applied School Psychology, 29(2), 121–125.
  • Sugai, G., & Horner, R. H.(2006)A promising approach for expanding and sustaining school-wide positive behavior support. School psychology review, 35(2), 245-259.
  • Sugai, G., & Horner, R. H.(2009)Defining and describing schoolwide positive behavior support. In Handbook of positive behavior support. Springer, pp.307-326.
  • Swoszowski, N. C., McDaniel, S. C., Jolivette, K., & Melius, P.(2013)The effects of tier II check-in/check-out including adaptation for non-responders on the off-task behavior of elementary students in a residential setting. Education and Treatment of Children, 36, 63–79.
+ 記事

若林 上総(わかばやし・かずさ)
所属:宮崎大学教育学部教育臨床心理(特別支援教育)講座
資格:公認心理師,臨床心理士
主な著書:「学校全体で取り組むポジティブ行動支援スタートガイド」(ジアース教育新社)
「高校ではじめるスクールワイドPBS─階層的な校内支援体制整備を目指して」(ジアース教育新社)

目  次

コメントを書く

あなたのコメントを入力してください。
ここにあなたの名前を入力してください

過去記事

イベント案内

新着記事