【特集 学校が変わる! ポジティブ行動支援(PBS)の理論と実践】#05 ポジティブ行動支援PTRモデルに基づく第3層支援の取り組み|田中善大

田中善大(大阪樟蔭女子大学児童教育学部)
シンリンラボ 第13号(2024年4月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.13 (2024, Apr.)

1.はじめに

学校規模ポジティブ行動支援では,多層支援モデルに基づいて学校全体(第1層)から小集団(第2層),個人(第3層)へと階層的で連続的な支援を行う(Horner & Sugai, 2015)。本稿で取り上げる第3層支援は,第1層支援および第2層支援でも十分な効果が見られなかった児童生徒を対象に実施するものである。第3層支援では,機能的アセスメント(Functional Behavior Assessment:以下,FBA)に基づく支援を実施する。FBAは,応用行動分析学に基づくアセスメントで,問題となる行動(以下,標的行動)に影響する,言い換えると標的行動と機能的な関係にある先行事象と後続事象についての情報を集めるプロセスである(Miltenberger, 2001;園山ら訳,2006)。第3層支援では,対象となる児童生徒に対してFBAを行い,その結果を基に行動支援計画を作成し,個別的な支援を実施する。

学校でFBAに基づく支援を実施するために開発されたモデルが,Prevent-Teach-Reinforce(以下,PTR)である(Dunlap, et al., 2019)。PTRでは,FBAに基づいて行動支援計画を作成するが,この計画は予防(Prevent),指導(Teach),強化(Reinforce)の支援で構成される。予防の支援は,標的行動が起こらないように標的行動のきっかけとなる状況を変える等の先行事象(Antecedent)に関するものである。指導の支援は,標的行動に代わる適切な行動(以下,目標行動)を教えるという行動(Behavior)に関するものである。強化の支援は,目標行動を強化し,標的行動に対するこれまでの対応を変えるという後続事象(Consequence)に関するものである。

PTRでは,FBAに基づく支援をチームで実施する。チームには,対象児の学級担任等の支援の実施者(以下,支援担当者)に加えて,FBAに基づく支援に関する専門性を持つ者がPTRファシリテーター(以下,ファシリテーター)として参加する。校内にこのような専門性を持つ者がいない場合は,学校外の専門家をファシリテーターとすることもできる。PTRはファシリテーターによって進行されるが,協働モデルを採用しているため,チームが何をすべきか,何をすべきでないかを指示したり,決定したりすることはない(Sullivan, et al., 2021)。その代わりにファシリテーターは,チームのメンバーに選択肢を提示したり,質問したり,傾聴したりすることによってガイダンスを提供する。このようなアプローチによってファシリテーターは,行動支援計画がFBAの結果と対応した妥当性の高いものとなることに加えて,支援担当者にとって実施可能で受容可能なものとなることを目指す。

PTRでは,ファシリテーターの進行のもと5つのプロセスに沿って,チームで事例検討を行う。5つのプロセスは,1)チーム編成と目標設定,2)データ収集,3)PTR-FBA,4)PTR行動支援計画,5)プログレス・モニタリングとデータに基づく意思決定である。ここからは,仮想事例を使って5つのプロセスについて見ていく。なお,以下で紹介する仮想事例は,実際の事例を基に作成したものである(田中ら,2023)。

2.対象児とチーム

対象児は,知的障害特別支援学校の中学部に在籍する1名の生徒(以下,対象児)であった。対象児は,知的障害および自閉スペクトラム症の診断を受けていた。

チームは,3名の支援担当者と1名のファシリテーターで編成された。支援担当者は対象児の学級担任(国語担当)2名と教科担当(数学担当)1名であった。ファシリテーターは,行動分析学およびポジティブ行動支援を専門とする大学教員であった。

3.第1回事例検討

第1回の事例検討では,PTRのプロセス1)の目標設定とプロセス2)のデータ収集方法の確立を行った。目標設定では,PTR目標設定シート(以下,目標シート)を用いて,標的行動一つと目標行動一つを決定した。目標シートには,各行動とその定義(行動を明確かつ観察可能な形で記述したもの)を記載する欄があった。各支援担当者が目標シートに記入した後,その内容を発表した。発表に対してファシリテーターが質問を行い,記述内容の具体化等を行った後,チームで標的行動および目標行動を決定した。対象児について決定した標的行動は「新しい活動・課題に対して抵抗する」で,目標行動は「新しい活動・課題に関して,意思(「いや」「わかりません」等)を伝える」であった。

標的行動と目標行動が決まった後,それぞれの行動に関するデータの収集方法を決定した(プロセス2)。データ収集は,個別行動評価尺度ツール(Individualized Behavior Rating Scale Tool:以下,IBRST)を用いて行った。IBRSTは,Direct Behavior Ratingの一種で,観察後に事前に決めた5段階で行動の状況を評価する記録方法であった。観察場面と5段階の評価の基準は,ファシリテーターによる支援担当者への質問を通して作成された。対象児の行動についての観察場面は標的行動,目標行動ともに支援担当者が担当する教科(国語,数学)の授業とした。標的行動については「新しい活動・課題の時間中に抵抗する動作(体・顔をそむける等)を行っていた時間の割合」について,目標行動については「新しい活動・課題が提示された際の意思表示の仕方」について5段階の評価基準を設定した(図1)。目標行動については,意思表示の仕方(「言葉・カード」,「首を振る」,「意志を伝えない」),抵抗の有無,声掛けの有無の組み合わせによって5段階の基準を設けた。5段階の数値は,標的行動の場合は数値が低くなるほど良い状態を示し,目標行動の場合は数値が高くなるほど良い状態を示した。

図1 国語の授業場面での個別行動評価尺度ツール(IBRST)の記録(図中の赤線は支援計画の開始を示す)

IBRSTの評価基準を決めた後,ファシリテーターは,それぞれの支援担当者に直近の担当教科の授業についての評価とその理由の説明を求め,評価が問題なくできるかを確認した。評価について3名とも問題なく実施できることが確認されたため,第1回の事例検討を終了した。第1回の事例検討終了後,各支援担当者はIBRSTの記録を開始した。

4.第2回事例検討

第2回の事例検討では,PTRのプロセス3)のPTR-FBAとプロセス4)のPTR行動支援計画を実施した。PTR-FBAでは,事前の準備としてファシリテーターが,PTR-FBA要約表を作成した。PTR-FBA要約表は,第1回の事例検討後に,各支援担当者が実施したPTR-FBAチェックリストの回答を整理する形で作成された。PTR-FBAチェックリストは,予防の項目,指導の項目,強化の項目から成っていた。

事例検討でファシリテーターは,PTR-FBA要約表をチームのメンバーに共有する中で,メンバーに対して質問し,要約表の情報をより具体的なものとした。要約表の情報をメンバーで確認した上で,標的行動の機能の仮説をチームで作成した。対象児の行動の機能の仮説は,「新しい活動・課題が提示されたときに,抵抗する(目を閉じて下を向く・うつむく,体・顔をそむける,声をかけても返答しない)。結果として,新しい活動・課題から逃避・回避できる。先生から声をかけてもらえる」であった。

行動の機能の仮説を作成した後,PTR支援チェックリストを使って実施する支援方法を決定した。PTR支援チェックリストには,予防の支援が9項目,指導の支援が9項目,強化の支援が3項目記載されていた。各支援担当者がPTR支援チェックリストに回答した後,ファシリテーターが回答結果をPTR支援得点表に記載して,整理した。整理したものをもとに,ファシリテーターが行動の機能の仮説との対応を確認した上で,予防,指導,強化のそれぞれについて実施する支援の項目をチームで決定した。チームで決定した支援の項目は,予防の支援については「選択肢の提供」,指導の支援については「目標行動(機能的に等価なコミュニケーション)」,強化の支援については「目標行動の強化(機能的に等価)」と「標的行動への強化の中止」であった。

実施する支援方法(支援の項目)が決まったら,PTR行動支援計画課題分析シート(以下,計画課題分析シート)を用いて決定した支援方法の課題分析を行った。支援方法の課題分析は,ファシリテーターが支援担当者に対して聞き取りを行ったり,実際に支援担当者に支援行動を実践してもらう中で,具体的な手順(支援行動)を明らかにした。ここで明らかになった手順を基にファシリテーターは計画課題分析シートを作成した。計画課題分析シートに記載された対象児に対する予防の支援は,新しい課題を提示する際に課題に関する選択肢を提供するというものであった。具体的には,内容は同じで形式が違う(問題数が違う,表示する文字の大きさが違う等)課題プリントを複数提示し選択させる,新しい課題のプリントと抵抗なく取り組める課題のプリントを提示し取り組む順番を選択させる等であった。指導の支援は,「いや」,「わかりません」のカードを使って意思を伝える練習をするというものであった。このカードでの意思表示の練習は,朝の時間に学級担任(支援担当者)と実践した後,国語と算数の授業にも導入された。授業では,必要に応じてカードの準備とカード使用に関する声掛けを行った。強化の支援の目標行動の強化は,カードでの意思表示の内容に合わせた対応を実施することであった。「いや」カードに対しては,意思表示に対する言語称賛に続いて,10分間の休憩を提供した。「わかりません」カードに対しては,意思表示に対する言語称賛に続いて,課題に関するヒントを出したり,同じプリントの別の問題に取り組むように提案するという対応を実施した。強化の支援の標的行動への強化の中止は,標的行動が見られた際にカードでの意思表示を引き出してから対応するというものであった。

第2回の事例検討後,ファシリテーターは,支援計画の実行度を測定するためのPTR計画評価シート(以下,計画評価シート)を作成した。計画評価シートには,支援方法の手順に加えて,各手順についての実行状況を3件法(「はい」,「いいえ」,「なし」)で評価する欄が設定された。

計画評価シートの作成後,支援担当者は支援計画の練習を行い,ファシリテーターが計画評価シートを用いて実行度の評価(他者評価)を行った。ファシリテーターは,計画評価シートを使って練習時の支援担当者の各手順の実行状況を評価し,実行度(「はい」数/(「はい」数+「いいえ」数)×100)を算出した。練習で実行度が基準値(80%)を超えたことが確認された後,支援担当者は対象児に対する支援計画に基づく支援を実施した。支援計画の開始後,支援担当者はIBRSTでのデータ収集に加えて,定期的に計画評価シートによる支援計画の実行状況の評価(自己評価)を行った。

5.第3回事例検討

支援計画の開始から約3週間後に,第3回の事例検討を実施した。ここではプロセス5)のプログレス・モニタリングとデータに基づく意思決定のために,データの確認,進捗状況の聞き取り,今後の支援計画の検討が行われた。対象児についてのデータの確認では,計画評価シートとIBRSTのデータをチームで共有した。計画評価シートの記録から算出した実行度は,いずれのシートも80%以上の値を示しており,どの支援担当者も高い実行度を伴って支援計画を実施していたことが確認された。IBRSTのデータから,国語,算数ともにベースライン期(支援計画開始前)から介入期(支援計画開始後)にかけて標的行動の値が減少し,目標行動の値が増加していることがわかった。これは標的行動および目標行動の改善を示すものであった。

データの確認に続く進捗状況の聞き取りでは,支援担当者から支援計画実施による対象児の行動の改善が報告された。この中では,標的行動および目標行動の改善を示すエピソードに加えて,新しい課題に抵抗なく取り組めたエピソード等も報告された。これらのことから,実施した支援計画は対象児の行動の改善に効果的なものであることがチームで確認された。支援計画の効果が確認された後,今後の支援計画を検討する中で,他の授業でもカードによる意思表示が使えるようにチーム以外の教員に対して各種シートを活用して支援計画の実施を依頼することや,新たな指導の支援としてカードが必要な場面を自分で決めてカードを準備する行動の練習を行うことが決まった。

引用文献
  • Dunlap, G., Iovannone, R., Kincaid, D., Wilson, K., Christiansen, K. & Strain, P. S.(2019)Prevent-Teach-Reinforce: The School-Based Model of Individualized Positive Behavior Support (2nd ed.). Paul H. Brookes Publishing Co.
  • Horner, R. H., & Sugai, G.(2015)School-wide PBIS: An Example of Applied Behavior Analysis Implemented at a Scale of Social Importance. Behavior Analysis in Practice, 8, 80-85.
  • Miltenberger, R. G.(2001)Behavior modification: Principles and procedures (2nd ed.). Wadsworth.(園山繁樹・野呂文行・渡部匡隆・大石幸二(訳)(2006)行動変容法入門.二弊社.)
  • Sullivan, K., Crosland, K., Iovannone, R., Blair, K. S., & Singer, L.(2021)Evaluating the Effectiveness of Prevent-Teach-Reinforce for High School Students With Emotional and Behavioral Disorders. Journal of Positive Behavior Interventions, 23, 3-16.
  • 田中善大・大対香奈子・庭山和貴(2023)特別支援学校中学部におけるPrevent-Teach-Reinforce(PTR)モデルに基づく事例検討の効果.日本行動分析学会第41回年次大会発表論文集,61.
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田中 善大(たなか・よしひろ)
所属:大阪樟蔭女子大学児童教育学部准教授
資格:公認心理師
主な著書:『学校全体で取り組むポジティブ行動支援スタートガイド』(編著,ジアース教育新社,2023)

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