【特集 子どものこころへ,臨床動作法による心理支援】#02 幼児動作法|鶴 光代

鶴 光代(淑徳大学)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

1.臨床動作法における「動作」とは

幼児を対象に臨床動作法を行う場合を幼児動作法と呼んでいる。個人を対象に行う場合や子どもと保護者とで一緒に行う場合,保育園などで集団で行う場合などがある。

臨床動作法では動作を扱うので,まずは動作についての考え方を紹介する。

ひとは,生まれながらに自らからだを動かして,生きる活動をしている。ひとに限らず命ある生きものは皆そうである。からだを動かすということは,生命体としての根源的活動といえる。何のためにからだを動かすのか? 生きるためである。

自分で自分のからだを動かすとき,それを動作と呼ぶと,動作は主体的・自発的活動のもとで生起しているゆえに,当人の意図や目的の実現を担っている。つまり,動作は,ひとが自分のからだを動かそうと意図し,動作として実現させる努力のもとで実現する。この一連の心理的活動は,生きる活動の基盤となっている。

動作は,心理的活動なしには起こらない。心理的活動とからだの動きが一体的になって生起している現象といえる。ただ,この心理的活動には,意識的活動の側面と無意識的活動の側面がある。ひとは,生まれたときから主体的・自発的に手足を動かしながら生きていくが,誕生からしばらくのその活動は無意識的活動によっているといえる。

意識とは,個人によって体験され,気づかれていることをいい,体験者自身には認識できている状態とされている。こうした意識的活動は幼児期に入ってからといえようが,意識的活動が出てきたからといって無意識的活動がなくなるわけではない。特に日常的動作は,一生涯において無意識的活動に支えられているところが大きい。

幼児を対象にして臨床動作法を行うときも,動作を上記のようにとらえ,幼児の動作はその子の生きる活動の現れであり,自己表現,自己主張であるとみて関わり,援助していくことになる。

2.幼児の発達を援助する

幼児とは,児童福祉法では,1歳から小学校就学の始期に達するまでの者とされている。その間5年の成長がみられるので,動作の発達は著しい。

幼児動作法は,幼児を対象に臨床動作法を行う場合をいうが,その目的は発達の援助である。「動作法」という言葉から,動作を良くしていく方法と受け取られがちだが,そうではなくて,「動作」を手掛かりにして,その子が自分の発達する力を活かして,総合的に自分を伸ばしていくよう援助することを目指している。

つまり,子どもは,身体的形態や生理機能,運動や情緒,知的面,社会性などのさまざまな発達の側面が,相互に関連しながら総合的に発達していくわけであるから,そのことを踏まえて,臨床動作法で援助していくことになる。

ゆえに,何歳までには○○ができるようになるといった同年齢の子どもの平均的な発達を目安に援助していこうというわけではない。一人ひとりの子どもが辿るその子の発達過程のなかで,子どもが困っていれば援助していくという姿勢である。しかしながら,暦年齢的な発達の様相を無視するということではない。そうした様相も念頭に入れながら援助していくわけで,その際参考にしているのは,「保育所保育指針(2009年度版)」の「第2章子どもの発達」注1)である。

注1)2018年度版の「保育所保育指針」では,2009年度版にあった「第2章子どもの発達」は削除されていたので,「保育所保育指針新旧対照表」(2023年10月10日取得,http://ikuji-hoiku.net/educare_wp/wp-content/uploads/2017/04/39e05eace5dd499d59266761c7e202d4.pdf)にある「第2章子どもの発達」を参考にした。

この指針における発達の様相に加えて,日頃の幼児観察から見た発達の様相を入れ込んだものが,下記の発達段階である。子どもの発達は直線的ではなく,行きつ戻りつや停滞,急速な伸びなど,さまざまの様相を見せながら進んでいくことを前提にしながら,臨床動作法による子どもの発達援助を行っていく。

3.幼児期の発達

1)おおむね1歳3カ月から2歳未満

歩き始め,手を使い,言葉を話すようになる。歩く,押す,つまむ,めくるなどさまざまな運動機能が発達し,新しい行動の獲得がなされていく。スプーンを使いはじめる。なぐり描きをする。指差し,身振り,片言などを盛んに使うようになり,二語文を話し始める。

2)おおむね2歳

歩く,走る,跳ぶなどの基本的な運動機能が発達し,低い段差を飛び降りる,しゃがむができる。指先の機能が発達し,ボール投げができる。それに伴い,食事,衣類の着脱など身の回りのことを自分でしようとする。発声が明瞭になり,語彙も著しく増加し,自分の意思や欲求を言葉で表出できるようになる。探索活動が盛んになり自己主張する姿が見られるようになる。

3)おむね3歳

基本的な運動機能が伸び,バランスを取って走る・止まるや交互に足を出しての階段上りができる。〇や線を書く。
食事,排泄せつ,衣類の着脱などもほぼ自立できるようになる。話し言葉の基礎ができて,盛んに質問するなど知的興味や関心が高まる。他の子どもとの平行遊びがみられるようになり,ごっこ遊びも出てくる。

4)おおむね4歳

全身のバランスを取る能力が発達し,からだの動きが巧みになる。箸を使い始める。ハサミで直線を切る。想像力が豊かになり,目的を持って行動し,作ったり,試したりするようになる。仲間とのつながりが強くなるなかで,けんかも増えてくる。少しずつ自分の気持ちを抑えられたり,我慢ができるようになってくる。

5)おおむね5歳

基本的な生活習慣が身に付き,運動機能はますます伸び,でんぐり返しや片足立ちなど喜んで運動遊びをしたり,仲間とともに活発に遊ぶ。自分なりに考えて判断したり,批判する力が生まれる。けんかを自分たちで解決しようとするなど,お互いに相手を許したり,異なる思いや考えを認めたりといった社会生活に必要な基本的な力を身に付けていく。

6)おおむね6歳

全身運動が滑らかで巧みになり,快活に跳び回るようになる。縄跳びや跳び箱跳びができるようになる。これまでの体験から,自信や,予想や見通しを立てる力が育ち,心身ともに力があふれ,意欲が旺盛になる。協同遊びやごっこ遊びを行う。さまざまな知識や経験を生かし,創意工夫を重ね,遊びを発展させる。思考力や認識力も高まり,自然事象や社会事象,文字などへの興味や関心も深まっていく。自立心が一層高まっていく。

4.動作から,気持ち(こころの活動)を見ていく

私たちは,日常的に,相手の動作や姿勢から相手の気持ち(こころを)を,意識せずに自然に推測している。声に出して言われなくても,相手の様子から様子からその気持ちを感じ取っている。特に,相手が年少の子どもの場合は,動作や姿勢から子どものこころの有り様を察知して,対応している。

保育園で,いつもと違って,うつむき加減で足を引きずりながら登園してくる子どもを見ると,「今日は,からだがだるいのだろうな」と同時に,「気持ちもきついのだろうな,やる気が起こらないのだろうな」とその気持ちに気づき,何か理由があるのだろうと情報を収集し子どもに対応していく。例えば,夜更かしをしたための睡眠不足に加えての保護者からの叱責が要因と分かれば,具体的な対応は難しくはない。

ところが,日常的に,背を丸くして机にもたれかかって坐っていたり,椅子に寝そべるように坐っている子どもや,立ち姿が頼りなくウロウロ歩きがみられる子どもについては,気にはなるがどう対応してよいか分かりづらく,そのままになってしまう。また,時に,「背を伸ばしてきちんと坐りましょう」と坐り直しの指導を行うが,効果はその場限りとなってしまう。なぜ,そうした姿勢や歩行になっているのかの要因は分かりづらいので,効果的な対応はなかなかな難しいということである。

5.姿勢の問題は,「動作するこころ」の発達援助で改善

坐り直しの指導をするのは,いわゆる「姿勢のくずれ」は,発達上よくないという共通認識があるゆえである。臨床動作法では,坐位姿勢はひとりの人間としての自立と自律を支えるものであると考え,坐位姿勢の安定は子どもの発達においても,ひとの一生涯においても極めて大事な動作と位置づけている。

幼児が一人できちんと坐れるような年齢になっても,姿勢をくずした坐り方をしているとき,大人は,往々にして,「きちんと坐れるはずなのにそう坐っていない」とみてしまいがちである。注意をすれば,彼らは,一時的には見た目に背を伸ばした坐り方はできるが,動作的に適切な坐り方をしているわけではないので,無理して坐っているので,その姿勢は長続きはしない。

なぜそうなのかというと,うまく坐れないからであり,坐り方が分らないからであり,うまく坐るために必要な動作を身に付けてこなかったからである。それは,身に付けるチャンスがなかったからともいえる。

坐り方一つにしても,それは単なる身体運動ではなく,坐るという意志の元で自分なりの坐り方で坐っているので,そこには心理的活動が展開している。保育園で保育士が,坐り方が気になるとする子どもの多くは,保育士から見て元気がない,消極的,注意集中が難しい,他の子と関わらない,自分中心,勝手に振る舞うなどの面からも,気になるという。そして,坐り方の問題とそうした子どものあり様との間には,何らかの関係があるのではないかという思いを持っている。だからこそ,きちんと坐れるようにしてあげたいという。

保育士の見立ては,臨床動作法の立場からもその通りといえるものだが,ただ,両者は原因と結果という関係ではなく,いわば裏・表の関係にあるといえる。ゆえに一方が変われば,同時的にもう一方が変わるということであるが,こころのあり様を変える援助はなかなか難しい。それに比し,動作を変える援助は動作法を用いれば,まだ易しいといえる。

臨床動作法では,ひとが動作をするに際しては,動かそうという意図のもとで動かす努力をすることで動作が実現するとしている。こころが働いて動作が生まれるのであるが,その働きは無意識的であるため,いちいち意識されることはない。こうしたからだを動かすこころを,「動作のこころ」と呼べば,このこころは人が生きていくための土台であるからだを動かしているわけであるから,重要といえる。

きちんと坐るためには,この動作のこころがそれを実現させるためにいつでも自動的に働くことが必要である。この動作のこころを育て,何時でも働くようにするには,実際に動作をすることでしか対応のしようがない。臨床動作法では,動作のこころを育て充分に働くようにするためには,どういう動作を行えばよいかを研究・開発してきた。今日,その動作を「動作課題」と呼び,臨床動作法の中核的技法となっている。

坐位姿勢の問題は,坐るという動作の問題である。動作の問題は動作のこころの働きの問題であるから,動作のこころの働きを援助しないといけない。きちんと坐れない子は,きちんと坐るための動作のこころを成長させる機会を,何らかの理由で逸したと考えることができる。それでは,今早速,臨床動作法でその機会を作り,動作のこころを育てようということになる。

6.坐位姿勢・坐位動作援助の実際

幼児の動作課題は10課題を用意しているが,坐位姿勢・坐位動作の援助課題は,成人と同じく「胡坐坐位・前屈げ動作課題」が基本となる。図1に示したように,幼児は胡坐坐位で坐り,上体を前に屈げていく課題である。

図1 胡坐坐位・前屈げ

鶴 光代「心の発達を動作法でサポート――幼児動作法」『 3 ・ 4 ・ 5 歳児の保育』小学館,2006年.

幼児に限らず成人でも同じなのであるが,大地に対して真っ直ぐに坐れない要因は,脚の付け根である股関節部位の動きにある。股関節部位をうまく動かせないと,坐った時腰が後傾し背を丸めた坐り方になる。股関節部位が動かない要因は,股関節部位と腹部も含めた腰周りの硬さにある。硬さは筋の慢性緊張のせいである。それは腰を後傾させ背を丸めて坐わり続けることで蓄積された筋の緊張である。なぜ,筋緊張が蓄積したのか。そういう坐り方を続けたから,そういう坐り方しかできなかったからである。そこで,今,適切な坐り方を体得し直さなければならない。

幼児の場合は,動画1「坐位動作」に見られるように,まずは胡坐坐位で坐り,上体を前に屈げる動作をしていくのであるが,その時に,もっぱら注意をすることは,①大地の上に臀部の坐骨(図2)を立てて坐ることと,②大腿部と腰(骨盤部位)とのなす角度が鋭角になるように上体を屈げていくことである。

動画1

図2 坐骨を大地に立てて坐る

まずは,子どもに上体を自分で前に屈げていく動作をさせるのであるが,その時,援助者は常に,坐骨で坐れるように,股関節部位を鋭角に屈げていくように,他動的にしっかり援助する。胡坐際に坐った子どもに,からだ(上体)を前に動かすように伝えると,いつものように腰を後傾させてウエスト部位を屈げて上体を動かそうとしていく。しかし,援助者によって腰が後傾方向に動くことを止めれているので,上体を思うように動かせなくて右往左往する。嫌がって逃げようとする子もいる。「ここを(ウエスト部位を)屈げるのではなく,ここを(股関節部位を)屈げようね」ということを,動作援助で,ことばで伝えていく。

動画1「胡坐坐位・前屈げ」に見られるように,援助者の手掌で骨盤部位を持って,股関節部位を屈げやすいように,骨盤部位が前傾していきやすいように導き,子どもが無意識的な自動の動きを生み出しやすいように手伝う。

援助者の手からの援助は動作のこころに向けてなされており,動作のこころは無意識レベルでそれを受け取り,「この方向に動かそうね」という誘導に乗るようなかたちで自分のからだに働きかけ,援助者からの他動的援助を活用しながら動かしていく。

この間,子どもはやる気がなかったり,もがいたり,手遊びをしたり,周りに声をかけたりしているのであるが,動作のこころは援助者の手から伝わってくる要請に呼応し対応してくるのである。動作中,子どもをなだめたり励ましたりはするが,子どもがやる気にならないと動作援助はできないということではなく,手を通して子どもの動作のこころとやり取りができれば,子どもは新しい動作を無意識的に体得していく。この動作が意識的にも認識できるようになると,動作への注意集中は高まり,援助者との意識的協同作業となり,自分で動かしていくようになる。

股関節部位を動かせるようになると,坐骨で坐れるようになり,腰・上体を大地に直に位置づけて坐れるようになる。

図3 2歳9カ月の子ども

図4 3歳7カ月の子ども

7.直に坐る動作の体得で展開する子どもの発達

うまく坐れない子どもの新しい坐り方体得プロセスでは,下記のような体験が展開している。

  1. 新しい坐り方の提案・要請には,興味も関心もなく,避けようとする。
    仕方なく,胡坐坐位に坐らされて,援助者からからだを動かすよう要請される。いつもであれば,嫌がったり,逃げたりすることで,拒否に成功するが,援助者からの要請は続く。嫌々ながら表面的には受け入れる(ここで,子どもは,いつもと違う体験をしている。避けられないので消極的に受け入れる体験)。
  2. 腰を屈げていきましょうという要請には対応できないので,何時ものように無視したり,拒否したりする。
  3. しかし,援助者の手から動作のこころに呼びかける要請には,動作のこころは応答する(動作のこころは動作を介しての呼びかけには応じやすいという性質を持っている)。
    股関節部位を動かすという課題を受け入れるが,どうしてよいかわからず右往左往する。援助者からの後押しである他動的援助を受け入れ動かせなかったところを動かす体験をする(右往左往は,他動的援助の受け入れに繋がり,未熟ではあるが現実検討的体験となっている。援助の受け入れは協同体験となる。わずかでも,股関節部位を動かせたことは,新しい動作を創出していく体験となっている)。
  4. 動作のこころの活動で生み出された自動的な腰の動きを子どもが意識的に認識できるようになると,こどもは,意識的な注意集中・現実的検討を行うようになり,からだの動きをコントロールしながらバランスをとって胡坐坐位前屈げ動作を確実にしていく(ここでは,自体・自己コントロール体験バランス感覚意欲的・達成的体験が展開する)。
  5. 胡坐坐位前屈げ動作がうまくできるようになると,腰・上体をタテ真っ直ぐに立てて楽に坐ることができるようになる。そうした体験は,自己・自体の確実感安定感安心感自信を生み,自立心を養う。

上記の1から5の体験(下線部)をした子どもは,保護者や保育士から見て,驚くような成長を見せる。報告によると,まずは,坐り方が変わる。腰を立てて背を伸ばして安定的に坐る。ウロウロ歩きは無くなり,目的的行動になる。元気になる。意欲的になり,今までできなかったことに自らチャレンジする。友達と遊ぶ。自信が出てきて楽しそう。質問や注文が増える。自律心が出てきたなどがみられている。

今回,坐位姿勢の問題に焦点を当てて臨床動作法を説明してきたが,こうした問題のみではなく,不安感や恐怖感,パニックに悩む子ども,発達障害がみられる子ども,登園が難しくなっている子どもたちにも適用され,効果を上げている。またの機会に,お伝えできたらと思う。

文  献

  • 鶴光代(2007)臨床動作法への招待.金剛出版.
  • 鶴光代編(2008)発達障害児への心理的援助.金剛出版
  • 鶴光代(2010)こころを支援する.In:臨床心理学,発達障害の理解と支援を考える,増刊第2号,pp.122-127.
  • 鶴光代(2011)子供の不安を癒す心理療法.In:教育と医学,700,pp.122-127.
  • 鶴光代(2014)特集 子どもの理解と問題解消に向けて 臨床動作法.In:子育て支援と心理臨床,8.
+ 記事

名前:鶴 光代(つる・みつよ)
所属:淑徳大学 東京キャンパス 人文学部 人間科学科 客員教授
資格:臨床心理士・臨床動作学講師・指導催眠士
主な著書:『臨床動作法への招待』(単著,金剛出版,2007),『発達障害児への心理的援助』(編著,金剛出版,2008),『心理臨床を学ぶDVD VOL.6 臨床動作法(動作療法)(健康・保健シリーズ)』,(医学映像教育センター,2012),『シナリオで学ぶ心理専門職の連携・協働:領域別にみる多職種との業務の実際』(共編,誠信書房,2018),『催眠心理面接法』 (共編,金剛出版,2020)

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