【特集 子どものこころへ,臨床動作法による心理支援】#05 障害児への臨床動作法──知的障害を伴う自閉スペクトラム症児への臨床動作法|阪木啓二

阪木啓二(九州産業大学)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

1.はじめに

臨床動作法は,脳性まひをはじめとした肢体不自由者への動作不自由の改善を目指した動作訓練に端を発している。動作不自由の改善とともに,「表情が明るくなった」,「お着替えなどの日常生活が前向きになってきた」等の多岐にわたる改善や効果も報告されるようになった。その情緒面や日常生活面の改善により,自閉スペクトラム症者をはじめとして臨床動作法の対象は広がりがみられ,効果を上げてきている。

文部科学省(2021)によれば,自閉スペクトラム症は「①他者との社会的関係の形成の困難さ,②言葉の発達の遅れ,③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする発達の障害である」と説明されており,情緒面や対人関係等での問題がみられる。自閉スペクトラム症は知的障害を伴わないタイプもあるが,知的障害を伴うタイプも多い。文部科学省(2021)によれば,知的障害は「『認知や言語などにかかわる知的機能』の発達に遅れが認められ,『他人との意思の交換,日常生活や社会生活,安全,仕事,余暇利用などについての適応能力』も不十分であり,特別な支援や配慮が必要な状態」と説明されており,言語などの理解力や状況に合わせた行動をとることに問題がみられる。そこで,言語などの理解力や状況に合わせた行動をとることに難しさがあり,かつ情緒面や対人関係の難しさがある知的障害を伴う自閉スペクトラム症児(以下,ASD児と略記)の動作の特性について説明しつつ,ASD児との臨床動作法を用いた関わりについて述べていきたい。

2.ASD児にみられる主な動作問題

ASD児にみられる主な動作問題として「慢性緊張がある」,「パターン化した動きを得意とする」,「やり取りに苦手さがある」の3つを取り上げ,その詳細を述べていきたい。

1)慢性緊張がある

ASD児へのイメージとして「自分の心を閉ざす」というものがあげられ,ASD児は周りへ目を向けることなく自らの望むペースで活動をしていると捉えられることがある。しかし,学校をはじめとした生活場面等でASD児に関わってみると,ちょっとした環境の変化や援助者の一挙手一投足に反応を示すなど,その実は非常に繊細であることが分かる。また,感覚の過敏性を有していることが多く,自らを取り巻く環境に安全や安心を感じる体験ができていないことや,DCD(Developmental Coordination Disorder)/発達性協調運動症を伴うなど不器用なことが多く,日常生活において多方面で困り感を有している。これらの不安や興奮により,からだが常日頃から緊張し,慢性的な緊張へと繋がっていると考えられる。

2)パターン化した動きを得意とする

ASD児は特定のことに興味や関心を向けることが多く,そのパターン化された範疇で活動を行っている場合は落ち着いた表情で過ごしていることが多い。生活様式をパターン化することで安定がみられることもあるが,その活動の幅は自ずと限局されたものになる。動作法中のASD児も同様で,動作課題への取り組みがパターン化するところがある。いつものパターンと異なる取り組みを試みようとすると,援助者からするとちょっとした変化でも,ASD児からするとそれまでできていた動作課題が全くできなくなるほどの大きな変化として体験されることもある。

3)やり取りに苦手さがある

言語などの理解の難しさや対人関係の難しさがあるASD児は,日常生活において応答性が乏しいと受け取られる場合が多い。また,表情や雰囲気の読み取りなどの非言語的なメッセージのやり取りの難しさもあり,援助者の意図や機微に応じたやり取りが苦手なことが多い。

ASD児は表情の表出や場に応じた言語表出の乏しさがあり,また,身体接触に過敏さを有することが多い。その表出は些細かつ繊細で,援助者が注意をはらいきれてなかったばかりに,ASD児の癇癪等を引き起こすということも往々にしてみられる。

3.自閉症児への臨床動作法で用いる動作課題

ASD児への臨床動作法で用いる動作課題として「臥位姿勢での課題」,「坐位姿勢での課題」,「膝立ち姿勢での課題」の3つを取り上げ,その詳細を述べていきたい。

1)臥位姿勢での課題

ASD児は感覚の過敏さを有することが多く,安全感や安心感をもって援助者に身を任すことが難しい。不安が生じるために身構えるような緊張を伴うからだの使い方になることが多い。そこで,肩や腰の力を抜き,より実感的にからだと向き合えるように,リラクセーションを目的とした躯幹のひねり課題を行う。

躯幹のひねり課題は動作者が側臥位になり,援助者の合図とともに躯幹部をひねるように動かしながら緊張を弛め,ある程度できたら側臥位の姿勢に戻る課題である。援助者は動作者の側臥位姿勢が崩れないようにからだを支えつつ,動作者がからだをひねっていく動作をする中で,緊張を弛めていけるように援助をする。

動作者は余計な緊張を抜くことで,動作に伴うさまざまな感じを気づくようになる。自分のからだを心地よいものと体験したり,それを導く援助者の存在に気づくようになる。それに伴い,援助者に対し身構えるようなかかわりから快いかかわりの体験の変化へとつながっていく。

2)坐位姿勢での課題

臥位姿勢でリラクセーションを目的とした課題を行うと,からだの緊張に弛みがでてくる。しかし,からだを起こして重力に対してタテの坐位姿勢になると,再び首や肩,腰,股関節といった部位にギュッとした力を入れることが多い。改めて坐位姿勢で肩や腰,背中を弛める課題をしたり,前屈げの課題をしたりする。前屈げの課題では,腰を立てて坐骨で坐り,腰周りから上体を前へ倒すように働きかける。この時,お尻が床から浮き上がったり,股関節が硬く脚が上がろうとするので注意が必要になる。上体を前に屈げた状態から起こして坐位の姿勢に戻しつつ,余計な力を入れずにタテの姿勢を保持できるようにする。

上半身を前に屈げようとすると,動作者は自分の動かしやすい方向へ屈げようとする動きをしてくる。ASD児の場合はこだわり・同一性保持の特性があり,なおのこと自分の動かしやすい同じ動きをしようとする。援助者が適宜サポートをする中で,できた経験を繰り返し,パターンとは異なるからだの向き合い方ができるようになる。そのプロセスにおいて,動作が「不安感」という体験であったものから,「達成感」や「安心感」という体験への変容がみられる。

3)膝立ち姿勢での課題

膝立ち姿勢は坐位姿勢に比べさらに自由度が高い姿勢である。動作者には,坐位姿勢に比べからだのバランスをとったり,からだの軸を意識したコントロールが求められる。うまくタテの力が入るとからだは安定した姿勢を保つことになるが,そうでない時は腰が前に出たり,膝から先の脛や足の甲が床から浮いたりとしてふらつきが見られる。

ASD児においてはなおのこと,首や肩に力が入る,腰が伸びない,股関節が伸びない,膝から脛・足首・足の甲にかけて床を踏めない等の特性がみられる。膝とともに脚・足で踏ん張ることが難しい場合は姿勢を保つことは難しい。最初の段階では他動的援助で安定して踏ん張れるように援助し,徐々に余分な緊張を取り除きながら自分で自分のからだをコントロールできるように援助をする。

4.ASD児へ動作法を実施する場面

1)特別支援学校での臨床動作法

特別支援学校の教育課程には,障害のある子どもの知識・技能・態度および習慣を育て,心身の調和的発達の基盤を培う教育の領域である自立活動がある。自立活動は,「人間として基本的な行動を遂行するために必要な要素」と「障害による学習上または生活上の困難を改善・克服するために必要な要素」で構成され,代表的な要素である27項目を「健康の保持」「心理的な安定」「人間関係の形成」「環境の把握」「身体の動き」「コミュニケーション」の6つの区分に分類・整理している。

自立活動の内容は,個々の幼児児童生徒の実態に応じて必要な項目を選定して取り扱うものである。その中で,例えば区分「3 人間関係の形成」における項目①他者とのかかわりの基礎に関すること,区分「6 コミュニケーション」における項目①コミュニケーションの基礎的能力に関すること,は自立活動の指導として臨床動作法を適用している例としてあげられる。

また,朝の会の時間等のちょっとした時間を活用して,リラクセーションをねらった課題を行ったり,立位姿勢でしっかりと踏み締めるなど臨床動作法を通した課題が行われることもある。

2)療育機関での臨床動作法

小学校就学前の段階では,ASD児には児童発達支援センター等で療育・発達支援が行われる。そこでは,さまざまなねらいをもって療育等が行われているが,不適応行動の改善や適応行動の促進,自己コントロール能力の向上等を目的として臨床動作法が行われている。

3)訓練会での臨床動作法

訓練会は週あるいは月に1回の頻度で,1日あたり2,3回の臨床動作法のセッションが行われることが多い。幼児から特別支援学校の児童生徒や卒業生など幅広い年代の方が動作者として参加している。また,特別支援学校教員や施設職員,教育学や心理学を学ぶ学生など援助者においても多様な参加者がみられる。訓練会は一律ではなく,1日のスケジュールや参加者などそれぞれの訓練会の特性がある。

4)家庭での臨床動作法

訓練会等に参加をしている保護者は,我が子と動作課題をどのように取り組めばいいか助言や実技指導を受ける。その助言や指導をもとに,各家庭で保護者が臨床動作法を行う。保護者の日々の関わりの積み重ねにより,動作不自由をはじめとしたたくさんの改善がみられ,日々の動作訓練が日課となっている家庭もある。

臨床動作法は日本国内のみならず,韓国やカンボジア,タイなど諸外国でも行われている。その中で,タイにおける臨床動作法の取り組みに,筆者はこれまで携わってきている。タイでは障害のある子どもへの教育や福祉が十分には行きわたっておらず,我が子の動作改善を目指して保護者は臨床動作法を学び始める。研鑽を積み,日本リハビリテイション心理学会が認定するトレーナー資格を取得する保護者もいる。さらにはホームスクールを主宰し,臨床動作法等を駆使して自分の子どもだけでなく,自分の周りにいるASD児や脳性まひ児の療育を行っている保護者がいるという報告もある。

5.ASD児への臨床動作法の実際──動画の補足説明──

1)事例の概要
  • 動作者は特別支援学校小学部に通う6年生男児。
  • 3歳の時に知的障害と自閉スペクトラム症が診断される。
  • 4歳の時(幼稚園年中)より,障がい児の保護者サークル(親の会)に参加しはじめる。

この保護者サークルの活動の1つに筆者が参加する臨床動作法の訓練会があり,他の保護者の勧めもあり動作法を始めることとなる。訓練会は月に1回,午前と午後1回ずつ計2回の訓練が行われている。自閉スペクトラム症やダウン症候群などの障害のある者が参加をしている。本児が欠席することは少なく,ほぼ毎回参加をしている。

訓練会の参加当初の保護者からは,「どう関わっていいか分からないので,それを教えてもらいたい」という要望があげられた。援助者からは「臨床動作法を通して,①動作者のからだに不要な緊張の力が入っているので,その緊張を弛められるようになる,②重力に合わせてタテ真っ直ぐな姿勢をとることができるようになる等,自分のからだを意識できるようになる,③援助者の提示する動作課題を受け止め取り組むことができるようになる」等の臨床動作法におけるねらいの説明を行い,動作訓練を行う。訓練会に数回参加した段階で,母親から「名前を呼ばれると振り返ったり,母親の方を向く反応が素早くなってきている」との報告が行われた。

2)ASD児を対象とした臨床動作法事例の各動作課題のねらい

今回の臨床動作法のセッション(50分)は,
①側臥位での課題
②坐位姿勢での課題
③膝立ち姿勢での課題
④片膝立ちでの課題(動画撮影分)
という展開で動作課題を行った。以下に各動作課題のねらいや動作者の様子を記す。なお,今回は片膝立ち課題を実施している場面を動画にて紹介する。

①側臥位での課題

動作者には,腰や脇腹に慢性緊張がみられるので,これらのリラクセーションをねらいとし,躯幹のひねり課題を行った。動作者が自分で弛めながら動かせるように,ゆっくりと課題を行う援助を心がけた。

また動作者の動作課題への取り組みがパターン化しないように,躯幹部をひねる方向に違いをもたせたり,時折ではあるが意図的に緊張のきつい部位の弛めに取り組んだりとした。最初と最後の合図をはっきりと伝え,言語理解の難しい動作者であっても動作課題に取り組めるように心がけた。

②坐位姿勢での課題

腰や股関節の硬さがあり,前屈げをしようすると腰が浮き,前に倒れるような動きがみられた。股関節部位を屈げて上体を前へ動かしていくことを目指しながら行うも,股関節の硬さ・痛さにぶつかるとギュッと力を入れて上体を戻そうとする力が入ったり,勢いよくからだを動かそうとする様子も見られたりした。援助者は坐る感じを動作者が分かるように,できる限りゆっくりとした動きをするように援助したり,時に硬さに向き合う場面を作りつつ,基本的には自分のからだに向き合いやすいような範囲でからだを動かすように気をつけたりとしながら動作課題を行った。

③膝立ちでの課題

股関節に硬さがあったことから股を屈げることが難しかった。また,膝から脛,足の甲という一連の中で踏みしめる感じが乏しく,浮いてしまう状態であった。動作者が床を踏んでいる膝・脚・足の感じを実感できるようにやや腰を落とした位置で援助を行った。踏み締めを感じられるような変化がみられたので,上半身の不要な緊張を減らし膝立ち姿勢を保とうと努力し,能動的にからだを使うという体験ができるような動作課題を行った。

④片膝立ちでの課題(動画参照)

後ろの支え脚側に重心を移し,真っすぐに立つということをねらって動作課題を行った。しかし,支え脚の膝から脛,足の甲を一体的に使って床を踏むことは少ししかできず,後ろの支え脚にうまく乗っている体験にまでなかなか至らなかった。

そのような中,自ら膝に手を置いて支えようとする姿がみられたり,少しずつ自分の動きを感じながらからだの軸をコントロールする姿がみられるようになった。からだの軸のコントロールが難しい状況でも援助者と一緒にからだを動かそうとするなど,援助者を意識して動作課題を行う様子も見られた。

3.ASD児を対象とした臨床動作法事例の振り返り

今回の臨床動作法場面における動作者の特徴は

  • 腰や脇腹に硬さがあり,時に坐位姿勢を保てずに腕をつっかい棒にして支えることがある。
  • こころここにあらずという感じでフワフワっとからだを動かすところがある。

等があげられる。

これらに対し,援助者はリラクセーションをねらった課題や,自分のからだを感じることをねらった課題,さらには相手を意識した活動ができることをねらった課題を設定した。動作者は動作課題の遂行を通してからだの緊張を弛め,自分のからだにより気づくことができるようになったと考える。そのことで,自分への向き合いが可能となり,フワフワっとしていた表情が時折しまった表情になり,脚の踏ん張りも利くような変化が出てきた。また,援助者の合図に自然と応じる場面もみられ,受け身的であった行動が援助者を意識した能動的な行動へと変化が生じたと考える。

今回,臨床動作法を実施してきたことの成果について保護者に質問をすると,

  • 以前は身体接触を嫌がっていたが,触れられることや相手を受け入れるということにかなり融通が利くようになった。
  • 言葉でのやり取りはできないままであるが,動作法を通して子どもとやり取りしている感じが増えてきた。

という回答があった。臨床動作法を行うことでからだをはじめとした自分への向き合い方や援助者との関わりに変化が生じており,それらは日常生活場面における変化にも通じていると考える。

+ 記事

名前:阪木啓二(さかき・けいじ)
所属:九州産業大学人間科学部
資格:臨床心理士,公認心理師,養護学校教諭専修免許状
趣味:何か楽器をはじめようか悩み中

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