【特集 子どものこころへ,臨床動作法による心理支援】#01 赤ちゃん動作法|藤吉晴美

藤吉晴美(九州産業大学)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

1.赤ちゃんにみられる動作問題

筆者が赤ちゃんの動作に関心をもつようになったのは,乳幼児健康診査(以下,健康診査は健診とする)に心理専門職として従事したことがきかっけである。当初は,育児や発達に関する養育者の悩みや不安に,言語面接で応えていくことが主な仕事であった。

ところが臨床動作法を大人の心理援助で用いるようになってから,赤ちゃんの動作にも目がいくようになった。ゆったり安心しきった様子で養育者に抱かれて健診会場にやってきた赤ちゃんは,仰向けで寝かされると脚を持ち上げたり,グーンと両腕を挙げて思いっきり伸びをしている。しかし中には,からだにぎゅっと縮こまるような力を入れていたり,反り返りの力が強い赤ちゃんがいるのに気付いた。こうした赤ちゃんはあやしても笑い返しがない。何らかの不快・不安を体験し,心理的に困っているのは確かであった。

養育者と心理専門職が話すのも大事であるが,乳幼児健診の主役は赤ちゃんである。赤ちゃんは困りごとを言葉で表現してくれないが,赤ちゃんの動作を見ると,こころのあり様が一目瞭然である。

以下では,筆者が関わってきた4カ月児健診と7カ月児健診での経験に基づきながら,動作に現れた赤ちゃんのこころの問題のとらえ方と,その対応について紹介していく。

2.4カ月児健診でみられる動作問題

1)からだの動きが少ない

4カ月児健診で気になる動作は,からだの動きが極端に少ないという問題である。足を持ち上げない,寝返りをしようとしない,おもちゃを見せても手を伸ばさない,あやしても笑わない,声を出さないなどが挙げられる。この場合,大前提として,栄養摂取が十分であることの確認は必要である(近年,お腹を空かせた赤ちゃん,スリムな赤ちゃんが増えているため,あえて言及しておく)。その確認が済んだところで,赤ちゃんの動作からこころを読み解くと,動作活動が少ないというのは,外界に自らはたらきかける主体活動が弱いことを示している。主体活動が弱いため,こころもまた活性化しにくいという悪循環が生じているといえる。

確かに赤ちゃんの中に,いわゆるおとなしいタイプがいることは確かである。それ以外の環境要因として育児支援の場でたびたび確認されるのは,外の刺激を見聞きするだけで,1日何となく過ごせるといった環境が図らずとも赤ちゃんの周りにあったりする。

いずれにしても動きが少ないということは,こころの活性化も生起しにくい。こうして,受け身的体験様式,非活性的体験様式ができ上がっていく。

乳児期は,からだを動かしながら,自分のからだの感じや,外界を認知し,こころが育っていく時期である。育ち支援として,腕挙げや肘弛め,手首弛め,指弛め,股関節弛めといった動作課題を行いたい。実際にこれらの課題を行ってみると,健診会場や育児支援のその場で,おもちゃに手を伸ばすようになったり,ひとの顔を見て笑い返したり,家に帰った後,頻繁にゴロゴロ寝返りをするようになるなどの変化が確認されている。心理活動の活性化とともに,能動的体験様式や主体的体験様式の展開が見られる。

2)しょっちゅう背を反り返す

赤ちゃんの動作問題で,次に気になるのは,背中の反り返りである。健診会場に,図1に示すような抱き方・抱かれ方で入ってくる。養育者は両肩に力が入り,赤ちゃんを恐る恐る抱っこしていて,赤ちゃんは背を反らせる力を入れている。養育者の不安定な抱き方と,赤ちゃんの反り返りのどちらが先なのかはアセスメントによって明らかとなるが,不安定な抱き・抱かれ動作であることは確かである。

図1 背を反らせている赤ちゃん

そもそも赤ちゃんは不快なことがあると,背を反らせる。例えば,自分のからだが抱いている大人のからだにぴったりフィットしていないと,今にも落ちてしまいそうな不安定さを感じ,ぎゅんと背を反らせる。「私はあなたに身を委ねることはちょっと無理です。怖いです」と動作で伝えてくる。そして安定した抱っこだと感じると,背に入れていた反り返りの力を弛めて,くたんと身を委ねた抱かれ姿勢をとる。快適,安心という赤ちゃんのこころがわかる。

ところが,大人に身を委ねることができにくい状況,つまり触られるのが不快であったり,近くで話しかけられるのが嫌だったり,あるいは抱っこの不安定さを感じていたり,といった不快体験がたびたび続く赤ちゃんは,背に力を入れ,のけ反るという動作が定着してしまう。このような赤ちゃんは,心理師をはじめ,保健師や保育士が全力であやしてみても,あやしを受け容れず,笑い返しがない。

背の反り返りが一時だけのことではなく,頻繁に見られる場合には,そこに赤ちゃんの悩みがみえる。自分のこころを守ろうとして自身で入れた力ではあるが,その力が筋緊張として慢性化してしまい,それが今や不快でどうにもこうにもならないと困り果てている。

赤ちゃん動作法の股関節弛めという課題とともに,背弛め課題を赤ちゃんに実施すると,自分で背に入れた力を自身でいろいろと工夫しながら弛めていく。あー,こうすればいいのかという赤ちゃんの自己解決体験が展開し,背中を楽にしていく。そして反り返るという動作をしなくてよくなると,心身共に楽になり,活気が出て来て,笑いかけたり,声を発したり,おもちゃに手を伸ばしたりするようになる。外界に関心を向け,自らが働きかけていくといった活動が活発になる様子がうかがえる。

赤ちゃんが,背の反り返りの慢性緊張を自己解決する体験は,自分をよりよい方向に変えていく自己活動の体験となり,自己信頼感の基盤を生成していく。

3.7カ月児健診でみられる動作問題

1)坐位姿勢の不安定さ

7カ月児健診で,お坐りの姿勢をとらせても,自分で坐位を保てない赤ちゃんがいる。これは健診のチェック項目なので,小児科医が再検査を指示することになり,養育者の中には不安な気持ちになるひともいる。特に初めての子育てでは,どうしてよいか戸惑うのは当然のことである。

坐位姿勢で安定することは,赤ちゃんが重力にそって自体の軸,つまり体軸をタテに位置付ける大偉業の達成である。「人は重力を基準として初めて安定・確実にからだの緊張と動きをすることができる」と成瀬(2014)がいうように,坐位の安定は,赤ちゃんが今までよりも高い位置で周囲を見渡しながら環境を感知し,手を自由に動かしておもちゃを操作することを可能とする。離乳食を例にとると,スプーンが口元まで運ばれてきたのを見たり,いいタイミングでやや体軸を前傾させ,口をあーんと開けることができたり,さらにはもぐもぐ・ごっくんといったスムーズな咀嚼と嚥下ができるという一連の動作も,坐位の確立が関係している。

自分で自分の軸を感じ,自分の全身でタテを安定的に保つため,坐位タテ直づくりを行う。タテ直になるためには,骨盤を真っ直ぐに立て,腰に力を入れ,お腹で屈がりそうになるところをぐっとこらえて真っ直ぐにする。こうして真っ直ぐにした上体を,坐骨で受け,大地を踏むといった一連の努力活動が必要である。このプロセスにおいて自己努力体験様式や自己コントロール体験様式が引き出される。

安定的なタテの獲得によって,前後左右バランスをとりながら動けるようになり,さらに上体を少しひねって,後ろにいる大人の反応を確かめつつ,その後はちゃんと前に向き直って坐位を保つことができる。目の前に置かれたおもちゃに手を伸ばし,こうするともっと面白いかな,と検討を重ねながら操作したり,ボールのような安定していない対象物も手で捕まえ,タイミングを計ってポンと放す遊びも楽しめるようになる。能動的・現実検討的体験様式への展開が図られ,自己活動が柔軟に広がっていく。

2)手がグーのまま,力を入れて握り込んでいる

7カ月児の指は,親指以外の4本の指を同時に動かしながら,おもちゃが置いてあるテーブルの面をひっかくようにしておもちゃをつかんでいく段階から,親指を真っすぐしたまま人差し指の方に近づけ,4本指と親指とが協調したはさみ持ちへと進んでいく段階にある。

健診会場で,坐位の姿勢の赤ちゃんの前におもちゃを置くと,最初は手がグーであったとしても,徐々に指が開いていき,しばらくすると人差し指と中指の2本だけを使って,おもちゃのローラー部分を回すようになる赤ちゃんがいる。

一方,ずっと手がグーのまま,おもちゃに力強いパンチを続ける赤ちゃんもいる。手や腕から力を弛めるという動作の体験ができないまま,握り込みを続けているといえる。

グーが,簡単に変わりそうにない赤ちゃんには,腕挙げ,肘弛め,手のひら弛め,手首弛め,指弛めなどの課題を通して,自分の腕や手に入れた力を自分で弛める体験をさせるとよい。握り込みの力を弛めることで,指は分化し,使いやすくなる。自分のからだをさらに活用することを通して,前よりもおもちゃを楽しく操作することができたという体験が積まれる。こころが躍る体験による心身の活性化と共に,自己効力感の生成が確認される。

4.赤ちゃん動作法で用いる動作課題とその目的

1)動作課題

赤ちゃん動作法で用いる動作課題は,背弛め,腕挙げ,肘弛め,手のひら弛め,手首弛め,指弛め,股関節弛め,坐位前屈げによるタテ直づくり,などがある。股関節弛めについては,仰臥位で膝と股関節を折り,M字開脚で弛めていくため,赤ちゃん特有の姿位で行う課題である。

2)目的

赤ちゃん動作法の目的は,より安定的で自由な動作を赤ちゃん自身が創出していくことであり,育ちの支援である。不要な力を入れているがゆえに,自由な動きが出てきにくい場合は,その力を弛めるための支援をすることで,こころが活性化し,能動的な心身活動が展開する。からだを支えるタテの軸を,赤ちゃんが獲得するよう支援することで,こころは安定し,手の活用性が広がっていく。赤ちゃんが,自分のからだと向き合いながら課題に取り組むことは,自らがひとつ先の発達のステージへ上がることになり,育ち支援の現場には,とても有用な援助技法といえる。

5.赤ちゃん動作法の特殊性

1).動作援助は,援助者のからだを使う

言葉が使える年代の動作援助は,まず課題の説明において,言葉と動作モデルの両方を用いることが多い。幼児に対しては,「今からはね,こうして腕を先生と一緒に上まで挙げていくというのをやるんだよ」と説明しつつ,動作モデルを援助者が幼児の前で実際に動いて示す。そして課題に取り組む中で,例えば援助者が停まって弛める必要があると感じたら,「停まりましょう。ここが楽になるといいなあ」といった言葉かけをする。これに対して赤ちゃん動作法では,すべて援助者のからだを使ってこれらを伝えていく。

例えば,腕挙げ課題では,体側に沿って真っすぐに上まで挙げるというコースが決まっている。そこから外れそうになったら,動きを援助者が停める。コース外れは,肩関節部位や背中に慢性緊張があって動きにくいため,動かしやすい外側に外れたことを意味する。援助者は,動きにくさに直面させながら,「ここ,弛めるんだよ。大丈夫,怖くないよ」と伝えながら停めておく。すると,赤ちゃんは,「どっちだ,どっちだ。あー,こっちか」と修正して正しいコースに戻る。コースに戻りながら,ちゃんと自分で緊張を弛めていく。

また,急にビュンとした腕の動かし方をする事もある。その場合は,一度,元のところまで戻す。再出発では,援助者の手で少しブレーキをかけるようにすると,赤ちゃんは,「これくらいの速さかな」と,ゆっくりとした動きで応じてくる。

課題を言葉で説明しなくても,赤ちゃんは,援助者の要請を読み取り,それに応えて自体コントロールの努力をしていく。援助者が,「それでいいよ。その調子。上手だね」と言葉をかけながら動作で伝えると,そのメッセージを読み取り,安心して自己活動を展開する。

2)言葉かけはコミュニケーションの積極的補助手段

援助者は,そのからだを使って赤ちゃん動作法を実施していると述べたが,だからといって無言でやり続けるわけではない。援助者の「そう,それでいいよ」や,「こっちだよ」「上手だね」といった言葉かけは,動作コミュニケーションの補助としての積極的な役割をもっており,その言葉が発せられる時のノンバーバルなメッセージを,赤ちゃんはちゃんと理解している。

3)1回あるいは数分の援助で変わることがある

赤ちゃんの中には,わずか1回の,あるいはたったの数分の動作援助で,びっくりするような変化を起こす子がいる。ゆえに乳児健診の場で,赤ちゃんに動作変容を支援し,体験様式も変化させることが可能である。反らせていた背を弛めるよう援助し,弛め課題をやり遂げた赤ちゃんを養育者の元に返すと,「あ,抱きやすい。ぴったりくる」などと,養育者は変化をその場で実感できる。赤ちゃん自身が反り返りを自分で修正し,ご機嫌なからだに変えたことで,安定した抱き・抱かれ動作となる。これは,赤ちゃんと養育者の不安定な関係性が,互いに信頼できる関係性へと変容したことを意味する。

4)動作変容までに時間がかかる赤ちゃんは,丁寧な育ち支援が必要

赤ちゃんの中には,動作援助をなかなか受け容れられない子もいる。「背を弛めましょう」と丸く抱っこしようものなら,援助者がよろけるくらいの強さで反り返りの力をさらにパワーアップする赤ちゃんや,坐位前屈げによるタテ直づくりをするが,タテ直の軸がすぐに崩れてしまう赤ちゃんもいる。藤吉(2015)は,動作の問題が改善しにくい4カ月乳児は,3歳にASDと診断される割合が高いことを示している。動作援助の効果が現れにくい場合には,育ち支援の早期開始が必要であり,丁寧な関わりが求められる。

5)泣かせたらアウト

赤ちゃんの多くは,NoやNGの時に泣く。泣いている赤ちゃんは,外に向かって,「だれか,どうにかしてください」と訴えているわけで,力を弛めることはもちろん,スピードのコントロール,コースの修正といった,自己の内側にじっくり気持ちを向ける活動はでき難い。ゆえに赤ちゃん動作法を実施するにあたっては,泣かせないというのが絶対的な前提条件である。

赤ちゃん動作法を実施しようとしたその瞬間から,そして実施している最中も,赤ちゃんは支援に真剣評価を下す。受け容れがたい援助とからだで判断したら,率直に,何の遠慮もなく,NGを出す。

ゆえに援助する側は,赤ちゃんの動作と自分の動作を共鳴させるために,こころとからだを研ぎ澄ませ,赤ちゃんがNGを出す直前に入れてくる緊張をとらえる必要がある。「おっと,これはだめですね。ごめん,ごめん。やり直します」と,即座に場面を切り替え,あやしかけをしながら,気持ちの立て直しを図る。

6.赤ちゃん動作法を実施する場と,開始までの流れ

赤ちゃん動作法が,どのような場で実施されているかについて,筆者の経験と,関東の乳幼児動作法研究会のメンバーらの報告をもとに列挙してみた。実施状況の多い順に並べると表1の通りである。

 表1 赤ちゃん動作法の実施場所

① 乳児健診
 (4カ月児健診・7カ月児健診) 
② 育児相談
③ 乳児家庭全戸訪問
④ 保育園巡回相談
⑤ 新生児科・小児科
⑥ 乳児院

いずれも,赤ちゃんの動作に関わる問題について,養育者が相談してきた場合には,目的を説明した上で実施する。例えば,「結構,反ることが多いんです」との相談に対しては,「背弛めという方法がいいかもしれません。無理に背を丸くするようなことはしません。実際,ちょっとやってみていいですか。気になることがあれば,すぐに言ってくださいね」と了解をとる。そして,赤ちゃんを後ろから抱き抱えながら,「今,何をやっているのかと言えば,私の胸と腕で,赤ちゃんに背中を丸くするんですよと伝えています。こちらがからだでメッセージを送ると,赤ちゃんはそれをわかってくれて,ちゃんと自分で背に入れた反り返りの力,今,少しずつ弛めていってます」といったように,援助者が今,何をしていて,赤ちゃんがどういう努力の仕方で応じているのか,を実況解説していく。

一方,養育者が赤ちゃんの事に関して,何を心配すればいいのか,何が問題なのかわからないというケースも多い。初めての子育てで,周囲にママ友もいなかったりすると,何が普通なのかわからない,というのが悩みだったりする。

養育者から特に相談がなされない場合でも,専門家が育ち支援の必要性を感じたとしたら,「ここまで元気に育ってきましたね。次はね,おもちゃに手を伸ばし,両手でつかむようになれますよ。そのための関わりをちょっとやってみてもいいですか」や,「寝返り。こちら側は上手にできていますね。次は反対側もできるようになると,全身を使うことになりますね。ちょっとやってみましょうか」と,次なる発達のステージを示しながら,赤ちゃん動作法を開始する。決して,「○○ができていないようです」や,「ここが○○なのが心配なところですね」といったネガティヴなアセスメントは伝えない。

7.赤ちゃん動作法の実際

赤ちゃん動作法の撮影に応じてくれた赤ちゃんたちは,動作援助の実際と,その効果を示すためにご協力いただいた。相談ごとがあったり,支援が必要という赤ちゃん達ではない。それぞれの赤ちゃんの,次なる発達のステージへの支援をサンプル的に示している。このことをご理解の上,ダイジェスト版としてご覧いただきたい。

【動画1】坐位タテ直づくり

(音声なし)

9カ月の赤ちゃんである。動画冒頭にママと遊んでいるところを見てわかるように,すでにお坐りはできている赤ちゃんである。坐り方を見ると,お尻を少し後傾させて坐っていたので,さらなるランクアップを目指し「坐位タテ直づくり」をしてみた。

股関節を十分に屈げた後,上体を起こしてくる時に骨盤を立て,坐骨で大地を踏む援助をした。坐骨で踏んだと手ごたえで感じた瞬間に援助の手を離すと,赤ちゃんはいったんタテ直を感じた後,ぴょんぴょんと飛び跳ねた。坐骨でタテ直の力を受け,安定の実感を確認しているように見えた。坐位タテ直のお手本といえるきれいな姿勢である。

坐位タテ直の安定に伴って,腕から余分な力が弛み,指づかいは5本の指が分化した滑らかな動きとなった。

【動画2】腕挙げ

9カ月の赤ちゃんである。おもちゃをじっと見ているので,興味はあった。一瞬,わずかに手を動かしたものの,おもちゃに伸ばすことはなかった。

そこで「腕挙げ」を実施。援助者が手で示すコースをすぐに理解し,援助者に目をやりながらも,自体感に集中し,動きのスピードもコントロールをしながら挙げている。途中,肩周りの硬さのため,真っすぐのコースから外れ,外へ開くコースをとろうとした。援助者がそれを止めると,「こうかな。あー,こっちか」と戻しながら,真上まで挙げていった。

腕挙げを左右1回ずつ行った後,おもちゃを見せると,スッと手を伸ばし,おもちゃを手で操作することができた。前傾しながらのおもちゃの操作からは,前向きな興味・関心の高まりと,能動的な体験様式がみてとれた。また,援助者に「これでいいよね」とのごとく,反応を確認する様子からは,対人対応活動の活発化と共同活動の体験様式が確認された。

【動画3】指弛め 

*顔のモザイクは保護者の意向にそって入れている。

5カ月の赤ちゃんである。ボールにスッと手を伸ばすが,左手が得意なようであった。「右手はどうかな」と誘うが,使う気配がない。「左手が届かないなあ。もういいか……」とでも言っているようにボールから目を逸らした。そこで「手首弛め・手のひら弛め・指弛め」を実施。赤ちゃんが握りこむように入れている力を弛めるよう,援助者の手を使って援助する。何度か繰り返すと,指に入れていた力をほどよく弛ませ,指をにぎにぎとしながら動作感を自分で確かめた。「あー,なるほどね」といった声が聞こえてきそう。

再び坐位でボールを見せると,すっと右手を伸ばし,指を開いてつかんだ。ママと援助者が同時に,「おっ!」と感動の一言をもらした。その後,左手でもボールを持ち,左右に持ったボールをカチカチと合わせ,音を出した。両手を協調的に使って,2つの対象物を操作し,音を出すという新たな活動の創出が見られた。

8.まとめ

赤ちゃん動作法をそばで見ていたひとりのパパが,終了後,我が子に向かって,こう言った。「結果を出す男」。そして我が子の努力を,優しい笑顔とともに褒め称えた。

動画を見てわかるように,3人とも支援のその場で結果を出した。

つまり赤ちゃんは,自分のからだの感じに集中する力をこれほどまでに持っていて,その力を基盤として支援に沿って結果を出す。つまり,次の発達のステージへ自分で創意工夫し,努力して,進んでいく力を持っている。

今回は,順調に発達している赤ちゃん達であったが,発達や適応に関して支援を必要としている赤ちゃんがいることは確かである。しかし,現在の育児支援の現場で乳児期は,「経過観察」でやり過ごされていることがほとんどといってよい。赤ちゃんが主役として焦点を当てられ,動作で語っている困りごとを拾い上げてもらえるような「観察」へと変わり,さらにそこから,赤ちゃんのもっている育ちの力を精いっぱい発揮できるよう,育ち支援が展開していくことを期待している。

(イラスト作成 九州産業大学芸術学部ビジュアルデザイン学科イラストレーション専攻 

            真島研究室 小野塚日菜)

文  献
  • 藤吉晴美・鎌田容子(2019)赤ちゃん動作テストによる自閉スペクトラム症のスクリーニング.心理臨床学研究,37(2),178-183.
  • 成瀬悟策(2016)臨床動作法-心理療法,動作訓練,教育,健康,スポーツ,高齢者,災害に活かす動作法.誠信書房.
  • 藤吉晴美(2015)自閉症スペクトラム障害の早期発見指標としての動作テストの有効性―4か月健診の追跡調査を通して.臨床心理学,15(6),772-783.
  • 藤吉晴美(2012)乳幼児健診における心理支援 福岡県直方市における4カ月乳児への心理支援.臨床心理学,12(3),329-336.
+ 記事

名前 藤吉晴美(ふじよし・はるみ)
所属 九州産業大学
資格 博士(臨床心理学)・公認心理師‧臨床心理士・臨床動作学講師
主な著書 『目で見る動作法』(共著,金剛出版,2013年),『動作療法の治療過程』(共著,金剛出版,2019年)

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