書評:『パーソンセンタード・アプローチとオープンダイアローグ―対話・つながり・共に生きる』(本山智敬・永野浩二・村山正治 編/遠見書房刊)|評者:浅井伸彦

浅井伸彦(一般社団法人国際心理支援協会 代表理事)
シンリンラボ 第12号(2024年3月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.12 (2024, Mar.)

本書が刊行されるという情報を知った時,正直「あぁ先を越された!」と思った。しかし,同時にこういうタイトルの書籍刊行に嬉しい気持ちも感じた。私(筆者)が編著者の本山先生と初めてお会いしたのはフィンランドのケロプダス病院視察研修(2016年)だ。あの頃は,このような書籍が執筆されるとは考えもしなかったし,また書評をこうして書かせていただくことも予想しなかった。このように書籍と書評などで対話が続いていくことそれ自体が対話であるように感じられる。

本書はオープンダイアローグ(OD)とパーソンセンタード・アプローチ(PCA),あるいはPCAをはじめとした人間性心理学のアプローチとの交差点を紹介した書籍である。私(筆者)は元々,人間性心理学の強い関西大学の学部出身で,家族療法⇒ODと学んできたことから,PCAとODの相似点について考えてきた。とはいえ,PCAの視点から語るには,私(筆者)は家族療法からの視点の方が強くなってしまった。PCAの視点からODを見た書籍を執筆・編集された本山先生らお三方や,その他分担執筆の方々に敬意を表したい。

本書ではそれらの相似点や相違点について,特に第1部の理論編(第1章〜第5章)において,PCAの立場から詳しく論じられている。第2部の実践編(第6章〜第11章)や第3部の新しいコミュニティ創造の取り組み(第12章〜第20章)では,PCAやPCAGIP(ピカジップ)と呼ばれる事例提供者を傷つけないパーソンセンタードな事例検討法を中心に,ODやAD(アンティシペーション・ダイアローグ)を引き合いに出して,さまざまな執筆者の視点からポリフォニックに(多声的に)語られている。このようなさまざまな観点からの重層的な語りが,ODをはじめとしたダイアローグとPCAの関係性を豊かに彩る。ODもPCAもこのようなさまざまな視点,語りの中で見出されていくものであり,「ODとPCAの関係性はこうだ!」と答えを出さずに,不確実な状態で拡がりを感じさせるのも本書の特徴のように思える。本山が本書内で述べているように,「PCAはカテゴリー化することができない」ものであり,「PCAとPCAでないものとを明確に区別するような,狭義の意味での定義化は,PCAを説明する上では相応しくないのではないか」と思われ(p.15),ODにも同様にいえることだと考えられる。

本山は,ODの7原則や12の基本要素を見ていく上で,「3つの詩学(Seikkula & Olson, 2003)」=「不確実性への耐性・対話主義・ポリフォニー」について特に注目している(pp.35-39)。ODとPCAは,多様性(ダイバーシティ)と共存・共生(インクルージョン)を目指すアプローチという相似点を持ちながら,強調点がこの二者間で異なると述べており(p.45),この両者を行き来することが両者の理解へとつながっていくのではないかと感じた。

もし本書の続編があった場合,しいてリクエストするならば,後半が少々PCAの色が濃いように感じられるので,さらにODの観点からPCAやPCAGIPを眺めてもらいたい。そこにはまた違う視点があるかもしれない。

文  献
  • Seikkula, J. & Olson, M.(2003)The open dialogue approach to acute psychosis : its poetics and micro politics. Family Process, 42(3); 403-418
+ 記事

氏名:浅井伸彦(あさい のぶひこ)
所属・肩書き:一般社団法人国際心理支援協会 代表理事
資格:臨床心理士・公認心理師・オープンダイアローグ国際トレーナー
主な著書:『はじめての家族療法』(共著,北大路書房,2021),『あたらしい日本の心理療法』(共編,遠見書房,2022)

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