書評:『システムズアプローチのものの見方─「人間関係」を変える心理療法』(吉川 悟 著/遠見書房刊)|評者:田崎みどり

田崎みどり(長崎純心大学人文学部)
シンリンラボ 第14号(2024年5月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.14 (2024, May)

本書は,1993年に出版された『家族療法:システムズアプローチのものの見方』を中心に大幅な加筆・修正が行われた大著である。かつ,著者の博論内容と重なるという。博論提出のわずか半年後(と思われる)2023年9月に書籍化とは! この事実だけでも驚愕であるが,もちろんこれだけではない。評者は,本書によって何度も驚かされ,納得させられ,そして新たな問いを突きつけられた。以下にその一例を示したい。

システムズアプローチ(以下SA)とは「1980年代後半より,欧米から導入された狭義の夫婦・家族療法…(略)…を,日本の『家族関係』や多様な場面の『人間関係』に適合するため,東豊,児島達美,吉川悟などが提唱し,発展させた心理療法」(9頁)である。

SAは「問題は相互作用において生じる」という認識論に基づいているため,「人間関係」が変化することによって問題が解消すると考える。

評者は院生の頃より児島達美先生の指導を受け,一緒にケースも担当した。先生は実践の安易な言語化に否定的であり,自らの出自に言及することもなかった。なんとその先生が,SAの創始者だったとは!

直後に新たな疑問が生じる。児島先生の面接では毎回のように何らかの変化が生じ,「カウンセリングってすごい!」と大いに関心をもった。しかし,評者の体験と吉川先生の著作に描かれている面接の雰囲気はずいぶん異なるのである。

この疑問は,第3章で解消する。SAには基本的治療過程があり,その理解は必須だがすべての治療者が同様の治療過程を経るわけではない。「SAの基本過程という基本的な〈ものの見方〉に基づいて,読者が最も有効であるという新たな治療過程を創造していただけること,そのことの方がSAの発展には有益であり,かつ,治療の実践を行う際の治療者の特性を最も生かすことができることにつながるのではないかと思います」(91頁)。そうか,違っていて当たり前なのかと納得した。本書は,このように読者の内言を活性化する。

質・量ともに読み応えのある本書の全貌に言及することはできないが,最も興味深かったのは,第7章における「治療者の『ことば』の責任性」と「治療者の操作性」に関する論考である(292-297頁)。責任性について「面接全体を俯瞰することを前提として,面接場面の『次のひと言』という繋がりそのものについての責任性がある」,と著者は述べる。しかし「次のひと言」から評者に連想されたのは,治療者ではなくクライエントの「次のひと言」であった。この辺りにSAとナラティヴの異同があるのだろうか。まだ言語化には至らないが,引き続き検討していきたい。

本書はさまざまな読み方ができる。初学者はもちろん,SAの実践家にとっては自らの実践を振り返りながら今後の可能性を広げることに役立つ。臨床系の教員は自らの実践・学生への指導および研究への姿勢を問われることになる。

読み進めるうちに,雪の降る夜に黙々と論文を執筆する吉川先生の背中がイメージされた。本書に著者の個人史は登場しないのだが,なぜか吉川先生の人生に思いを馳せてしまう。そんな魅力を有する著作でもある。

田﨑 みどり(たさき・みどり)
所属:長崎純心大学人文学部
資格:公認心理師・臨床心理士・保健師
主な著書:
『ブリーフセラピー入門:柔軟で効果的なアプローチに向けて』(共著,遠見書房,2020),『ディスコースとしての心理療法:可能性を開く治療的会話』(共著,遠見書房,2016),『不登校・ひきこもりに効くブリーフセラピー』(共著,日本評論社,2016)
趣味:写真,お笑い,フィールドワーク
特技:知らない人に道をきかれること

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