私の臨床現場あるある(4)児童心理治療施設から|橋本江玲奈

橋本江玲奈(児童心理治療施設ひびき)
シンリンラボ 第4号(2023年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.4 (2023, Jul.)

私が勤務する児童心理治療施設(以下,児心施設)とは,児童福祉法に位置付けられた児童福祉施設の一つである注1)。社会的な認知度は高いとはいえないが,全国的に設置が広がっており,児童福祉現場におけるニーズは高まっている側面がある。

その背景として,養育を基本とする施設や家庭的環境だけでは支援しきれない,“治療”を必要とする子どもたちの存在が注目されているということであろうと思う。

注1)入所を主とする施設が多いが,通所部門をもつ施設もある。ひびきは入所のみの受け入れとしており,定員は男女,計50名。対象学齢は,小学1年生から高校3年生まで。入所期間は平均約3年半だが,個々の事情により異なる。退所後は,家族関係調整を経て,家庭復帰となる場合もあるが,児童養護施設や知的障害児者施設など他の施設に移る場合(措置変更),高校卒業後に就職・自立,もしくはグループホームなどを利用する場合もある。

1.“治療”を必要とする子どもたち

児心施設に入所する子どもたちのほとんどは,何らかの養育者からの虐待を経験している。虐待がもたらす影響は量りしれないものがあるが,さまざまなトラウマ症状や,情緒の混乱・不安定さ,愛着関係の歪みなどに繋がっている。加えて,『発達障がい』を抱えている子どもたちも非常に多い。

それらが,どのように生活場面で表れるのか。
例えば,夜,寝ることを極端に怖がる,眠りが浅い,悪夢などの睡眠の問題。

あるいは,感情コントロールが難しく(トラウマ症状とも関連する),些細なきっかけから怒りが爆発,暴言・暴力が出る,もしくは自分を傷つけるなど。当然,子ども同士ではトラブルとなりやすい。大人との関係においても,わざと相手を怒らせるような挑発的な発言や関わりをする,あるいは逆に誰に対してもべったりと甘えるような子どももいる。

学校生活では,学習に集中できず,動き回っている,あるいはボーっとしている,騒がしさに耐えられず別室対応を求める,集団行動ができない,トラブルが多いなど。

これらの問題により,日常生活に支障をきたすレベルにある子どもたちが,“治療”が必要と判断され,児心施設に入所してくるのである。

2.生活を“治療”するということ

そのような子どもたちに対する“治療”とは何なのか。

医療や心理治療(個別セラピー等)が含まれることはもちろんだが,それだけでなく,毎日の生活環境自体が“治療”的である必要がある。それはつまり,多様な専門職が生活の場に入り込み,連携しながら,それぞれの専門性を発揮することで,“治療”的な環境をつくる,という意味である。

児心施設には,いくつかの専門職種が配置されている。中心的な職種としては,生活支援を行う職員(保育士や社会福祉士など),心理士,医師,看護師などである(その他,栄養士や調理員,家庭支援専門員など)。そして,施設内に分教室を設置しており,地域校より教員が派遣されている。

つまり,「生活」「心理」「教育」「医療」などの支援が一施設の中に完結しているのである。そのため,それぞれの専門職種が連動しながら機能的に働くことで,それ自体が“治療”となるという考え方に基づいている。

3.児心施設における心理職の役割――「心理治療」「生活支援」「コーディネート機能」

心理職の主な業務の一つは,いうまでもなく,個別の心理治療である。

ただ,私の施設では,それと同等に大事にしているのが,生活支援を共に行うことである注2)。朝の起床から始まり,夜就寝するまでの,毎日の子どもの生活のお世話である。日々,さまざまな形で表出される子どもの“不安”や“甘え”に寄り添う仕事でもある。ただ,それはとても難しいものでもあり,実際には数多くのトラブルが起こり,その度,仲介や指導も必要となる。子どもの話を聴くのは心理職の専門であろう。しかし,ただ受容的に聴いていれば良い訳ではなく,問題の解決や対処までしなければならない。その点,保育士や教員の,子どもへの諭し方や集団をまとめる力から学ばされるものは大きい。

また,子どもの怪我や病気,不定愁訴(原因がはっきりしない体調不良の訴え)などに対する看護師の考えを聞いたりするのも非常に興味深い。精神科医には,必要な子どもそれぞれへの服薬治療の考え方や,日々の対応について,相談に乗ってもらっている。

逆に,一人の子どもが興奮状態の時や煮詰まった状態の時は,心理職の出番である。そういった,他職種の専門性を間近に見て学べること,互いを尊重し合う関係をつくるということが,子どもを支援するチームにとって非常に重要なのである。そして,生活場面に入り,日常的な様子を見聞きすることができるため,総合的に子どもを見立てることにも大いに役立つ,という側面もある。

さらに,もう一つ,それぞれの専門職を繋ぐ,コーディネート機能もまた,心理職の役割である。チームの中で共に仕事をし,信頼関係を築いていく中で,自然にその役割を担う存在になっていくことを目指す,という感覚だろうか。立場や考え方の異なる専門職同士は,意見がぶつかることもある。話を聴く力のほか,一人の人間としての人柄や,関係調整能力が大いに試されるのである。それもまた,この仕事の魅力であろうと感じている。

注2)個別の心理治療において,治療関係を守る枠組みは必須である。ひびきでは,複数のホームがあるため,心理治療を担当している子どものホームの生活支援には入らないよう,配慮をしている。
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橋本江玲奈(はしもと・えれな)
社会福祉法人 大阪水上隣保館 児童心理治療施設ひびき
資格:公認心理師・臨床心理士・社会福祉士

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