私の臨床現場の魅力(8)総合病院臨床心理センターから|梨谷竜也

梨谷竜也(社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 臨床心理センター)
シンリンラボ 第8号(2023年11月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.8 (2023, Nov.)

私の所属する馬場記念病院は,脳神経外科に特に力を入れている急性期を中心とした総合病院である。法人としては馬場記念病院を中心に,グループ内の関連病院や事業所などと合わせて,地域の救命救急から慢性期までの医療,介護,福祉事業までを担っている。心理職は馬場記念病院内の臨床心理センターに常勤8名が所属している。

当院の心理職の最大の特徴は,業務の幅広さである。これは,法人が地域のさまざまな分野に事業の幅を拡げていることと,それらの新事業に心理職がコミットしていくことを法人から求められていることによるものである。元々は,急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟での心理検査(主として神経心理検査)と心理相談,神経内科外来の心理検査がほぼ業務のすべてであったが,現在,院内においては,それらに加えて,緩和ケアチームや認知症ケアチームへも参画し,職員の心理ケア(内部EAP)を担い,さらに,グループ内の老人保健施設や特別養護老人ホーム,関連病院,診療所,グループ内の社会福祉法人が運営する認可保育所,看護学校などにも関与している。また,保育所等訪問支援の相談員として,地域の幼稚園,保育園,小学校等を訪問したり,企業向けにストレスチェック支援サービスを展開し,ストレスチェックの実施だけでなく営業や研修で企業に出向いたり,近隣自治体での研修,講演講師なども引き受けたりと,法人の外にも業務が拡がっている。

まったく違う領域の臨床現場が突然降って湧いてくるため,知識,技術を習得するのが大変ではあるものの,いささか飽きっぽさのある私にはちょうどいいし(他の心理スタッフがどう思っているかはさておき),違う分野に触れることで,既存の業務でも新たな気付きが得られ,それがよりよい支援につながっているように私は感じている。

もうひとつ特徴として挙げられるのは,仕事のやり方の自由度が高いことである。独立した部署であるため,支援方法や,心理検査の種類など,基本的に自分たちで決めることができ,「必要性が低いのに決められているから仕方なくやる」といったことはほとんどおこらない。もちろん主治医がいる患者に対しての支援は,医師の指示を受けているが,中身の細々したことは自分たちで判断することが認められている。また部署内でも,心理検査については,ある程度統一したバッテリーにしているが,心理療法については,各人が自身のオリエンテーションに従って自由に行うことになっている。

これらの業務は,その多くが多職種連携の枠組みで行っているものになるが,ほぼ臨床心理センターだけで完結している業務もある。それが外来心理相談である。こちらは自費で来談していただいているものであり,当院は精神科を標榜していないので,当院の医師が関わっていることもほとんどない(まれに,当院の身体科に通院中で心理相談を利用されている方もいるが,その主治医が心理相談に関与することはない)。いわゆる“昔ながらの”心理療法を粛々と行う枠組みである。病院としては,心理職に期待している業務ではないのだが,自分の腕が直接問われることになるこの業務は,多職種連携を含めた他の業務にとっても基本となる力を身につけさせてくれるものとして,我々心理職にとっては,なくてはならないものだと考えている。

さて,振り返るとこの病院に来て20年が過ぎたが,今の職場環境も行っている業務も,入職時にはまったく想像だにしなかったものとなっている。数年後はもしかしたらまた全然違ったものとなっているかもしれない。それは正直落ち着かない部分もあるのだが,同時にワクワク感もある。それが私の臨床現場の魅力と言える。

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梨谷竜也(なしたに・たつや)
社会医療法人ペガサス 馬場記念病院 臨床心理センター センター長
資格:公認心理師,臨床心理士

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