私の臨床現場の魅力(11)児童相談所から|有住洋子 

有住洋子(仙台市児童相談所)
シンリンラボ 第11号(2024年2月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.11 (2024, Feb.)

児童福祉法第1条は,すべての児童は「適切な養育をされること,その生活を保障されること,愛され,保護されること,その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること,その他の福祉を等しく保障される権利を有する」ことが謳われている。児童相談所は,その法的理念に基づいて相談援助を行う公的機関である。

児童心理司の仕事

児童相談所=児童虐待というイメージが強くなってきているが,実際には,虐待通告だけではなく,療育手帳の判定や発達障がいに関する相談,養育困難,不登校や非行,家庭や学校での行動上の問題 等,いろいろな子どもの相談を,市町村や関係機関と連携しながら支援する専門機関である。

相談機関ではあるものの,必ずしも子どもや保護者のニーズに添わない,第三者の「通告」から支援がスタートすることも多い。子どもが「困った行動」としてSOSを発している場合もあれば,保護者が「虐待」という形でSOSを出している場合もある。いずれにしても,保護者支援や関係機関との連携を担う児童福祉司と,子どもの支援を行う児童心理司がペアとなって,その行動のもとにある困難さをキャッチし,子どもの権利を守りながら家族を支援することが求められている。

児童心理司の仕事は大きく2つ。ひとつめは,子どもの話を聴き,心理検査を行い,家族や関係機関からの情報も踏まえて心理アセスメントを行うこと。ふたつめは,アセスメントをもとに,子どもや家族の心理支援,関係機関への繋ぎやコンサルテーションを行うことである。

発達特性,不登校,非行,家出,自傷,暴力,虐待によるトラウマ反応,子どもが表す行動の意味を,子ども自身や保護者,関係者と一緒に考え,生活環境を整え,子どもの心理支援を行う。場合によっては,保護者への心理教育やカウンセリングも担う。時間に追われる毎日だが,心理職が多い職場というメリットは大きく,それぞれの得意分野を生かして柔軟に対応している。

一時保護や施設入所して終わり……ではない

児童相談所には「一時保護所」という機能がある。さまざまな事情で家庭にいることが難しくなった子どもたちが,生活の場を整えていく間,一時的に生活する場だが,外出等には一定の制限がある。子どもが虐待を受けている恐れがある場合,当面の「安全」を目的として一時保護することになるが,それだけで「安心」できるわけではない。急激な変化に戸惑い,これからどうなるのか,自分がいない家の中で何が起きているのか,家族はどう思っているのか,学校はどうなるのか,友達は……,さまざまな不安が起きてくる。

不安がつのり,叩かれてもいいから家に帰りたいという子どももいるし,被害を受けた自分の方が家から離れざるをえないことに納得がいかない子どももいる。虐待環境で押さえていた気持ちが,さまざまな症状や怒りの行動として表れてくることも多い。そのような子ども達の不安を軽減し,少しでも安心できるベースを作っていく,それも児童心理司の仕事である。

児童相談所の相談数から見れば,施設や里親宅で生活することになる子どもは少ない。しかし,別々に暮らすことになった親子の縁を,どのように繋いでいくかはとても重要なことである。

たとえ保護者や子ども自身が距離をとることを望んでいるとしても,そこに至る思いはさまざまで,常にオーダーメイドの支援が必要になる。幼い時に実親と別れ,施設や里親の元で長く暮らしている子どもであっても,これまでの自分史や実親への思いを整理していくことは,その後の自立を支える助けになることも多い。

関わる人それぞれの思いや願いがあるからこそ,難しさがある。しかし,心理職として,子どもの真のニーズに寄り添うことを忘れてはならないと思っている。

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有住洋子(ありずみ・ようこ)

仙台市児童相談所
公認心理師・臨床心理士

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