私の臨床現場の魅力(10)学生相談から|杉原保史

杉原保史(京都大学学生総合支援機構)
シンリンラボ 第10号(2024年1月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.10 (2024, Jan.)

1.学生相談とは?

学生相談室は,その名の通り,学生(大学生や大学院生)からのさまざまな悩みの相談に応じる大学内の施設である。高等教育機関における学校臨床であり,スクールカウンセラーの大学版と言ったら分かりやすいかもしれない。大学によって,組織の名称やあり方にはかなりの違いがあり,カウンセリングセンターや学生支援センターなどと呼ばれる場合もある。保健管理センターという組織の中に学生相談が組み込まれていることもある。

学生相談という名前から,もっぱら学生からの個別の相談を受けることを業務内容としているものと思われがちだが,実際にはもっと多様な業務に取り組んでいる。

2.学生への心理教育

悩みを抱えて来談する学生の相談に応じることは大事であるし,学生相談における業務の中心ではあるが,専門家に悩みを相談してみようと考える事態になる前に,そもそも悩みがそこまで深刻になるのを防ぐことができるなら,それに越したことはない。たとえば,ストレスについての正しい知識を持ち,リラクセーションやマインドフルネスのスキルを学ぶことで,少々の悩みがあっても,ストレス反応を増幅させてしまわず,レジリエンス(回復力)を高めることができる。また,悩みが深刻になる前に,なるべく早めに相談できるよう,援助希求のスキルを高めることも,悩みの深刻化を防ぐ役にたつ。こうしたことを学生に教えるのも学生相談の業務である。

最も深刻な悩みを抱えている学生の中には,自ら進んで相談室に相談しようとはしない一群がいることが知られている。残念なことに自殺を既遂してしまう学生の多くは,相談機関や医療機関につながっていないことが多いのである。面接室でいくら待っていても,こうした学生に支援を届けることはできない。

3.教職員へのコンサルテーション

学生相談室では,学生とどう関わったら良いのか分からずに困っている教職員からの相談にも応じている。元気がなく,悩みを抱えているように見える学生を見つけたけれども,教職員は,どう声をかけていいのか分からないと感じることがある。また,学生の中には,自らは悩んでいなくて,周りを悩ませる者もいる。たとえば,周りの反応を被害的に受け止めやすく,周りの学生に対して暴力的になるなどである。学生相談室では,こうした学生に対応する教職員からの相談に応じている。コンサルテーションと呼ばれるこうした支援は,教職員への支援であると同時に,学生への間接的な支援でもある。

4.危機管理

学生が突然,亡くなった場合,学生の間には動揺が広がる。学生が自殺で亡くなった場合には,特に,周りの学生の動揺は大きくなりがちである。こうした場合,学生集団に介入しないと,そこからメンタルヘルス上の問題が生じやすくなる。これらの学生と関わるべき立場の教職員も,身近な学生の死にダメージを受け,サポートが必要な状況になることが多い。こうした場合に,学生相談カウンセラーは教員をサポートしながら,学生集団に働きかけ,出来事の衝撃を受け止め,感情を共有し,乗り越えていけるよう支援する。

5.学生相談の魅力

大学というコミュニティにおいて,このように多様な心理支援を総合的に展開できるのが学生相談の魅力である。繊細で瑞々しい感受性に富み,未来への希望と不安に揺れている若者たちと深く語り合うことができるのも魅力であろう。また,個人の中の悪いところを見つけて治療する医療モデルや病理モデルのみならず,肯定的なものに注目する成長モデルや,個人と環境との関係に注目するコミュニティ・モデルなどに立脚した支援を実践できるところも大きな魅力である。

+ 記事

杉原保史(すぎはら やすし)
・京都大学学生総合支援機構
・公認心理師・臨床心理士

■主な著書
『心理療法統合ハンドブック』(共編著,誠信書房,2021年)
『SNSカウンセリング・トレーニングブック』(監修,誠信書房,2022)
『SNSカウンセリング・ケースブック』(監修,誠信書房,2020)
『SNSカウンセリング・ハンドブック』(共編著,誠信書房,2019)
『心理学的支援法』(共編著,北大路書房,2019)
『プロカウンセラーの薬だけに頼らずうつを乗り越える方法』(創元社,2019)
『プロカウンセラーの共感の技術』(創元社,2015)
『技芸(アート)としてのカウンセリング入門』(創元社,2012)
『テキストカウンセリング入門』(誠信書房,2023)
『プロカウンセラーの面接の技術』(創元社,2023)
■主な訳書
『統合的心理療法と関係精神分析の接点』(監訳,Paul L. Wachtel著(2014/2019),金剛出版)
『ポール・ワクテルの心理療法講義』(監訳,Paul L. Wachtel 著(2011/2016),金剛出版)
『心理療法家の言葉の技術』(Paul L. Wachtel 著(2011/2014),金剛出版)
『心理療法の統合を求めて』(Paul L. Wachtel 著(1997/2002),金剛出版)
『説得と治療』(Julia Frank & Jerome Frank(1991/2007),金剛出版)

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