私の臨床現場あるある(3)医療領域から|熊谷真人

熊谷真人(合同会社カウンセリングルームさくら)
シンリンラボ 第3号(2023年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.3 (2023, Jun.)

「私の臨床現場あるある」の連載も3回目となり,テーマは医療領域である。医療領域はさまざまな領域とのつながりがあり,他の領域で支援を受けている方で医療機関を併せて利用している方も多い。また支援の中で医療機関の受診を勧めることもあり,医療の活用はどの領域においても切っても切れないものではないかと考える。

医療領域の特徴の1つとして,どの領域にも言えることではあるが,さまざまな病態の方と関わっていくことが挙げられる。職場でうまくいかず体調不良になった,強迫症状があり日常生活に支障が出ている,発達障害ではないかと思い検査を希望するなど,多種多様な悩みを抱えている方が来院する。また業務内容も,心理療法や心理検査など直接的に患者と関わるものから,コンサルテーションといったチームの一員として間接的に患者と関わるものなど幅広く存在する。ひとえに医療領域の心理業務と言っても,その対象や業務内容は広範囲に及び,職場環境によっても求められるものが異なってくる。

私自身は,2023年3月末まで3年ほど心療内科クリニックで働いていた。そこでは,医師の診察前の予診,心理療法や心理検査などの業務を行っていた。医療機関の心理業務は基本的に「医師の指示の下」で行われるもので,連携や情報共有が重要である。また,医師の診察の中で掬い切れない情報をくみ取ることも大切である。限られた診察時間内では,自身の状態を全て話すことが難しく,自身の心身の不調など診察内で話し切れないことを心理療法の中で口にする方もいた。そういった医師が把握し切れない情報を聴き,医師と共有していくことで,診察の一助となりより良い支援につながっていくと考える。

もちろん医師以外の他業種との関わりも重要である。私の勤めていたクリニックでは,支援職として看護師,精神保健福祉士が在籍しており,緊急対応や福祉的支援を連携・相談することがあった。医療機関に来る方々は症状的な困りごとだけでなく,働くことが難しい,家から出ることが難しいなど生活上の問題を抱えている方もいる。そういった方には,心理的な支援もそうだが,生きていくための生活支援も必要となってくる。関わっている方の状況により求められるものが異なるため,患者の状態・環境などさまざまな観点から見立てを行いその方に合った対応をしていくことが大切である。

これまで私自身,不安障害やうつ病で悩んでいる,対人関係や家族関係がストレスで不調をきたしている,生きづらさを感じて自分の状態を知りたいなどさまざまな悩みごとを抱える方と関わってきた。また精神科・心療内科受診のハードルを高いと感じる方も依然として一定数存在し,不安を抱えつつも現状をなんとかしたいと思い,決死の思いで来院する方もいる。まず大切なのはこれまでの辛さや思い,どう良くなっていきたいかをしっかりと受け止めることである。医療機関はある種,日常から離れた場であり,普段の生活では話せないことを話せる場として機能することが多々あった。そういった悩みを受け止め,そこから得た情報から多角的にアセスメントを実施し,支援を行っていくことが重要であると実感した。

医療領域では,多種多様な悩みを持つ方と出会い,関わっていく。さまざまな悩みを持つ方と向き合い,その改善の一助となることはかけがえのない体験である。また医療領域は,他業種の支援者と協同で患者と関わっていくことが大切である。そのため,心理職としての土台を大切にし,広い視野を持ち支援を行っていくことが重要である。

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熊谷真人(くまがい・まこと)
合同会社カウンセリングルームさくら
資格:公認心理師,臨床心理士

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